自滅への近道sheet1:猫とエルフと人間と
とある街の小さなスナック『エンター』。
何故かIT絡みの難事件が舞い込むが、馴染み客と結成したチーム『エクセレンター』が華麗に解決。
【登場人物】
アキラ:『エンター』の店主。性別不詳で通している。ショートヘアで丹精な顔立ち、Tシャツにレザージャケットが定番のスタイル。
客はマスターかママか分からないので、「アキラさん」と呼ぶようになる。
エル:『エンター』唯一の従業員。自称異世界から転移してきたエルフ。尖った耳がユニークな北欧系美人。魔法は使えないがPC、特にエクセルに精通している。"エル"はアキラの付けた愛称。
川口:チーム『エクセレンター』発起人。通称"グッさん"。ダジャレとオヤジギャグを好む会社経営者。
育美:『エクセレンター』命名者。サブカル好きな20代OL。マニアックな知識が問題解決の糸口になったりする。アキラとエルのカップリング推し。
薔薇筆:20代後半の技術系会社員。店のサイトにクイズを送り付けて来た。"薔薇筆"はその際のハンドルネーム。理数系が得意な事から『エクセレンター』のメンバーに加わる。現在育美と交際中。
とある街の小さなスナック『エンター』。
性別不詳の店主アキラと自称エルフの従業員エルが仲睦まじく切り盛りしている。
人物は若干風変わりだが店自体はごく普通…というか、令和の現代からするとややレトロといっても良いかも知れない。
今日も常連のカップル、育美と薔薇筆が開店早々やって来た。
もう一人の常連、年配の男性である川口の五人で『エクセレンター』を名乗るチームを結成していて、公私構わずIT関連の困り事の相談に乗っている。
今日はチームミーティングという体になっているので、川口もそろそろ来るはずだ。
「なるほど、ユーザーネームですか。次のクイズに使えそうだな」
先日相談のあったエクセルファイル改竄事件のあらましを聞いた薔薇筆は、『エンター』のサイトでやっている「最初の一杯無料クイズ」のネタに使えそうだと思った。
毎回薔薇筆がメインになってエクセルに関連したクイズを出題をしている。
店がオフィス街に近いこともあり、エクセルのクイズに関心を持つ者は少なからず居る様だ。
回答で得られる無料の一杯を求めて来店する者の数は決して多くはないものの、次の問題が出されるタイミングで前問の正解が出されるとそのページのアクセス数があがるので、人気の程がうかがい知れた。
「ねぇ、それで猫のオムちゃん。会いたいなぁ〜。見たいな〜。ねぇエルさん、アキラさ〜ん」
育美がおねだりモードで頼んでくる。
普段のキャラとは違う雰囲気に若干気おされ気味の二人。
「ごめんね育美さん。店には下ろさないって決めてるんで、上へ見に行ってくれる?エル、案内してあげて」
エルとアキラのカップリング推しな育美。
二人が共同生活している部屋へ行ける!
期待で顔を紅潮させまくって
「では行って参ります!」
と彼氏の薔薇筆に敬礼し、エルに連れられて二階へ通じる奥へ消えた。
「何かすいません」
薔薇筆はアキラに詫びた。
「どうぞー入って」
エルが扉を開けた先にワンフロアの居住空間があった。
「ここがエルさんとアキラさんの…愛の巣…」
妄想を必死でおさえる育美。
エルは"アイノス"って古代ギリシャの都市だっけか、後で調べようと思った。
「オムー、お客さんだよー」
エルの呼びかけにソファの影に隠れていたオムがちょこんと顔を覗かせる。
「こんにちは、オム。おいでー」
言いながら育美はセカンドバッグからスティック状の猫用ペーストフードを取り出した。
「これあげてもいい?」
エルに了承を得た育美は猫の目線の高さにペーストフードを持っていった。
察しの良いオムはすぐさま飛んできた。
あっという間の陥落。
後で成り行きを聞いたアキラは、ペーストフードまで用意していた育美さんに感服した。
恐らく店では見られない事、部屋の方へ見に行ける可能性までちゃんと想定していたのだ。
「薔薇筆さん…」
あなた凄い策士とお付き合いしてますよ、と言おうとしたが止めておいた。
彼が無言で小さく頷く素振りで全てを悟っているのが分かったからだ。
似たもの同士だなとあらためて感心するアキラだった。