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第21話 シングルエンド

「鬼を倒す事が可能……それでいいだろう?」


 僕たちの周りを回っていた影蛇が、勢いを増して空へと向かった。

 バチバチと弾け飛ぶ小石が、雨のように降り落ちる。

 その瞬間、バンッと強い圧力に押され、影蛇が地面に叩きつけられた。

「チッ……!」

 舌打ちする麻緋は、次の手へと動き出す。

 麻緋が大きく腕を振ると、影蛇が地へと潜り込んだ。

 ゴゴッと地鳴りが足に震動を伝え、地に紋様が広がり始める。


 既に赤く染まった空間に、麻緋の紋様が黒く浮かび、結界を張った。

 僕たちへと向かって降り落ちる小石は結界に弾かれ、周囲に飛び散る。

 次の瞬間、霧雨が辺りを白く染め、結界の中まで入り込んで来る。

 厄介な相手だと、麻緋がまた舌打ちした。

「結界の隙間を狙ってきやがった。浸透するって訳かよ……中々やりやがる」


 ビュッと僕たちの近くを多方向から擦り抜ける気配を感じ、その姿を探すようにその場であちこち目線を向ける。

 霧雨は次第に濃い霧となり、あちこちに向けた目線で動いた体は、いつの間にか方向を見失っていた。

「クソッ……! 視界が取れない……麻緋! 無事か?」

「心配するな、ここにいる」

 確かに側にいる事は分かったが、体が今、どの方向を向いているかまでは分からなかった。


 桜が嵌ったのは……こういう事か。


『その雨は、家路を辿る事も許しませんでした……そして、強さを増す雨に方向が分からなくなったのです』


 方向感覚を取り戻さなければ、この地で迷う。それは僕たちにとっては致命的だ。

 術を放ったとしても、効力が得られない。

 どの方向で何が起こるか、待ち受けているか。進路を断たれるも同然だからだ。

 先読み出来なければ攻撃を仕掛けても当たらず、逆に攻撃を喰らう事になる。



「陽は東に(いで)て西に沈み、昼は明るく夜は暗い。(けん)()を以て知り、(こん)(かん)を以て(あた)う」


 麻緋の声が流れると、白く染まった中で青い線が矢印のように伸びていく。

「向こうが東だ、来。常に方向を示し続ける。見失ったらあれを見ろ」

「了解。じゃあ、二手に分かれて広い範囲から仕掛けられるって訳だな。こう一箇所に纏められたなら、一発でアウトだ」

「俺たちが出られなくなったのも分かるだろ?」

「ああ。供犠を逃す訳にはいかないだろうからな。まあ……どっちにしても逃げれば追って来るって訳だ。麻緋、二手に分かれる前に聞いておく」

「なんだ?」

「『名代』は誰だ?」

 僕の問いに、麻緋がクスリと笑う。


「塔夜だ」


「成程。だからあの時の任務で気づいたって訳か」

「あいつがタダでお前に過去を見せるかよ」

「ふん……食えねえ奴。あれが九重の術でもあったって訳か」

「そういう事。あいつは自分の術に誘導させて、発動する為の引き金を誘導した相手に引かせる」

「はっ。だから例え九重が呪いを掛けようと、発動させるのが相手なら失敗しようとも自分には返ってこないって訳か」

 あの時、別の幻影が混ざり始めた事に気づき、僕はそれ以上先には進まなかった。

 もしもあのまま最後まで見ていたなら、この主導権は渾沌に渡った事だろう。そしてそれは直ぐに、あの場で発動した。

 それで追い遣られるのは、また僕たちだ。


「塔夜には見えてんだよ。なにせ『中心』だからな」

「じゃあ……あの面を置いたのって……」

「当然、塔夜だろ」

「ったく……いつの間に。マジで食えねえ奴だな」

「そう言うなよ。そうでなけりゃ加われねえだろ、この……鬼祓いの儀式にな」

「鬼は四方に追い遣られ、四方に追い遣られた鬼は四方を潰し、最終的に西に留まった……だから西にはいまだに住人がいない。ふん……償いのつもりかよ……」

「受け入れてやるか?」

「言っただろ、回避は疾うに捨てているって。受け入れてやるよ、引き受けた」

「そうか。じゃあ……行くぞ」

「ああ」

 麻緋が僕から離れて走り出す。外円から仕掛け、逃がさないつもりだろう。

 僕は、向い来る風圧に対抗するように手を翳した。

 地に描かれた麻緋の紋様が金色に輝き出し、反射するように天に浮かび上がる。


 まったく……九重のヤロー。

 この状況になる事を狙っていたとは……。


『どうにかしてくれよ、白間センセ?』


 九重の笑っている顔が目に浮かぶ僕は、思わず笑みが漏れた。


「僕を……『中心』に引き込むとはな」


 僕は、天に浮かび上がった紋様を、掻き混ぜるように手を動かした。

 カッと弾ける光が渦を巻き、一瞬で霧を吹き飛ばす。

 見上げる空に大きく広がる角を持った龍蛇が、睨むように僕を見下ろしている。


 目が……四つ。そういう事か。


 誘うように、僕は龍蛇に手を向けた。

「僕を目掛けて降りて来いよ……その目ならよく見えるだろ……? 僕が『名代』だ」

 龍蛇が大きく口を開け、耳を貫くような雷鳴を轟かせた。

 バリバリと半壊していた社殿が吹き飛び、木々が薙ぎ倒されていく。

 あの時よりも強大な力だ。

 龍蛇が僕に向かって降りて来る。


 僕は、平然とした態度で龍蛇を見つめ、ふっと笑うと言った。



「最後まで相手してやるよ……シングルエンドだ」

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