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第19話 祀ろわぬ神

 麻緋は、面で半分顔を隠しながらクスリと笑みを見せる。

「おい……麻緋……」

 僕は、呆れた顔を見せ、溜息をついた。

「手にしなけりゃよかったって言う割りに、なんか楽しそうだな」

「なにを言っている。お楽しみはこれからだろーが」

「は?」

「来……お前、神舞出来るか?」

「出来る訳ねえだろ」

 なにを言うのかと思えば……。

 即答した僕に、半分だけ見せる顔が少し困った顔を見せる。


「なんだよ? 麻緋。はっきり言えよ、面倒くせえな」

「じゃあ、言うぞ」

「? ……ああ」

 なんなんだ。麻緋にしては随分と間が多いな。


「面に触れたら、神舞やらねえとここから出られねえ」


 …………。

 一瞬、言葉に詰まったが。

 感情に休みはない。


「麻緋っ! お前ーっ!! それ、初めから分かってたよなっ? 分かっていて手にしたんだよなっ? 僕に触れるなって、何かあるような事を言っておいてそれかよっ!!」


「相変わらずうるせえな。仕方ねえだろ、触っちまったし」

「わざとだろ、お前、絶対」

「来……人聞きが悪いぞ」

「人聞きも何も、誰も聞いてねえし、そもそも顔が笑ってんだよ、お前……なに考えてやがる。で? 麻緋こそどうなんだよ? 舞えんのか? 舞えねえよな」

 ったく……。

 ふざけんのも大概にしろってんだよ。

 大体、神職者である成介さんや九重じゃあるまいし、そんな機会なかっただろ。

 麻緋だって舞える訳が……。

 まったく、なにを言い出すんだと呆れる僕に、麻緋が答える。


「舞える」


「な? だろ? 舞える訳がねえって……うん? え? 今、舞えるって言ったか? え? 嘘だろっ。マジかよっ!」

「マジ」

 麻緋は、得意げな顔で僕をじっと見る。


 ……想像出来ねえ……。

 麻緋が……神舞?

 麻緋が??

 だって、麻緋だぞ。


「なんだよ、来、その顔」

「だって……麻緋だぞ?」

 思った事をそのまま口にした僕を、麻緋はじっと見る。

「お前……それ、どういう意味だよ?」

 半分しか顔が見えなくても表情ってのは、感情がはっきり分かるもんだな。不機嫌極まりないって顔だ。

「あ……いや。素直にそう思っただけ」

「お前……少しは言い訳しろよ」

「言い訳したところで、言った事実は覆らないだろ」

「じゃあ、そんな来にもう一つ言っておくよ」

「……なんだよ」


 なんか……もう嫌な予感しかしねえ。


 ニヤリと口元を歪めて笑うと、麻緋は言った。


「神舞をやった場合、結界が破られる」


 …………。

 僕はまた、言葉に詰まった。

 麻緋の言葉は(ことごと)く予想を上回ってくる。


「……は? お前、なに言ってんの?」

「だから、面に触れちまったから神舞をやらないとここから出られねえし、神舞をやれば結界が破られるって事だ。お前だって分かるだろ? 神舞ってのがなんであるかってな」

「そんな事は分かってるんだよっ!! 神舞って言うくらいだしな! 僕が言ってるのはそういう事じゃねえんだよ!」

「いちいち大声出すな。じゃあ、なんだよ?」

「麻緋……なんだよってお前……」

 呆れと腹立だしさが入り混じるが、やはり怒りが上回る。


「僕たちに利点ねえよな? それ」


 睨みながら言った僕にも、麻緋は平然とした態度で答える。


「利点? 分かってないな、来。よく考えてみろよ」

「どう考えたってそうだろーが」

「いや……違うな」

 麻緋は、ふっと笑みを漏らすと、顔を面で全て隠した。

「おい……麻緋……」

 面を被った麻緋に僕は、腹立だしさを忘れ、不安を覚える。


 麻緋の手がスッと動いた。

 やはり、舞うつもりか。


「麻緋……!」

 やめろという声を飲み込んだのは、ここから出る事だけを考えたからか。


 ……いや……そうじゃない。

 それはここから逃げるだけの話で、ここに来た事が罪悪感に繋がるだけだ。


 麻緋には何か考えがある。

 それなら僕は、麻緋を信じよう。


『俺は……神に守られる相手が本当に守られるべき存在であるのか……その見極めが出来ない神は神じゃない』


 面を被り、麻緋が……舞い始める。

 力強くも繊細に。その動きに目を奪われる。

 半壊した社殿を照らす月が、麻緋の舞いに視線を向けているようだ。


 麻緋が舞い続ければ続ける程に、月の光が強くなっていくみたいだ。


 神が……舞い降りる……。


 そんな思いが浮かんでしまう程に。

 だけど……これは……。

 桜花の言葉が頭の中に流れる中、僕の目線が地の中の渾沌へと動いた。


『わたくしも……守られている事と仕わされている事の違いにお気づきにならない、本当の『生贄』を野放しにする気はありませんので』


 ……生贄……。

 まさか……成介さん……。


 舞い終えると麻緋は、面を外す。

「麻緋……お前……初めからこのつもりで……」

「ああ……だから気を抜くなよ、来」

 麻緋は、クスリと小さく笑みを漏らした。

「……分かっている」

「それならいい」

 降り注がれる月明かりの色が変わり始める。


 闇色が混ざる……深く、赤黒い色だ。

 麻緋は面を放り投げ、ふっと笑うと呟くように言う。

「神の降臨だ。それも……」

 降り落ちるその光の色を身に纏わせられる僕たちは、天を仰いだ。



「祀ろわぬ神の……な」

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