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第15話 深まる謎

「仕掛ける、ねえ?」

 クスリと笑みを漏らす僕は、九重の真意を探るように目線を投げ掛ける。

「だから……それは……」

 九重にしては珍しく、言いづらそうに口籠る。

「なあ、九重……お前はよく知っているだろ。鬼祓いの儀、大儺」

「ああ、まあな……」

「成介さんが言っていたんだ。僕たちのこの現状に関わっている事だってさ……」

「……」

 九重は言葉を返さなかったが、思い返しているその表情に、やはり大きく関わっていたものだと、僕は改めて納得した。

 僕は九重の表情を、横目にぼんやりと映しながら言葉を続ける。


「大儺は追儺と名を変える。鬼を祓う方相氏、侲子は大儺、小儺と名を変え、儺を持つ者は鬼を祓う者ではなく、鬼そのものと変わっていった。鬼を追い祓う者が鬼として追われる事になる……だけどそれは自然な流れだったのかもしれないな。お前だってそう思わないか?」

 そう言って僕は、静かに苦笑を漏らした。

「……白間」

「だってそうだろ。身を脅かす異形の存在は、異形無くしては対抗出来ない。人に害を与えるとなったら尚更だ。人じゃダメなんだよ……人では対抗出来ない。より強く、より恐怖を与える存在が、鬼を追い遣る役割を担う……人から見ればそれもまた異形だ。鬼に鬼が対抗し、残った鬼は人から敬遠される……それは、人が鬼に対抗出来るという流れを作ったんだと、僕はそう思う。そう考えれば、お前が四方を潰して回ったっていうのも、なんだか理解出来るんだよな……追儺と名を変えたって事が、そう理解させる。まあ……僕はともかく、成介さんや麻緋、伏見司令官の力は強大だしな。だから追儺……それに准えられるよ」

「白間……やっぱりお前、卑屈だよ」

「僕が取り戻せたものはないからな……彼らに並ぶのは早いだろ」

「お前だってあるだろ、取り戻せたもの」

 即座に答えた九重に、僕はふっと笑みを漏らした。


「……呪符がなくても術が使える呪力、か」

「ああ」

「まあ……それでもどれ程の呪力を発揮出来るかは、これから次第だろうけどな……話を戻すが、追い祓うべき本当の鬼は、それ以前に西に追い遣られていたんじゃないのか。そしてそれが渾沌……鬼だ」

 そもそも、他と比べても、僕の住んでいた西方だけが被害が大きく及んでいた。

 住人が命を落とす程の惨状だったんだ。

 そして……今ではゴーストタウンだ。

 あの地だけは、いまだに住人がいない。

「そして悪神であるはずの渾沌が、力を得られていた理由……渾沌を神として崇拝していた地がある。それは……」

 僕は、真っ直ぐに九重をじっと見つめながら言った。


「『南』」


 そう言った瞬間、同時に目線が互いを見て重なった。


「佐伯 成介……彼がいた地であった事は、当然知っているだろ、九重。悠緋が言っていた巫女は、成介さんの妹だったんだしな」

「……ああ、知ってたよ……あの時からな……」

「悠緋が再度、お前に助けを求めたのは、既に桜が命を落とした後だろ……桜の呪力を求めに向かったんじゃなくて、取り戻しに向かったんだろ? お前の中で見た過去は、お前が自分の力にすると……その力で悠緋の力になると言い始めた」

「……ああ、だろうな。それで力になっていたら、今の状況どころじゃなかった。渾沌が中心に立てば、その力が全てを支配する。俺たち全員、あの場で消えただろうな。本当に……よく気づいてくれたよ」

「禁忌を犯して力を得た……そう感じさせている割りには、上回るものがなかったんでね……逆にお前は呪力を制限していた……そう考えるのが自然だった。この際だから聞いていいか、九重」

「なんだよ?」

「お前が放った……麻緋が受けた呪いの事だ」

「……その話」

 九重は、気まずそうにも俯いたが、僕は構わず言葉を続けた。


「あれは……悠緋の望みだったんだろ。桜が自分の所為で命を落としたと思ってるから。罪の意識に苛まれ、絶望していたんだ。僕は……その思いは分かっているつもりだよ……」


 もう何も見たくはない……あの時の心情を忘れた訳じゃない。

 成介さんが僕に言った言葉も、胸に響き続けている。


『君を死なせてあげた方が、君の為となるのでしょう?』


「そんな悠緋の気持ちを止められるのは麻緋だと……同時に九重、お前を止める事が出来るのも麻緋だと、お前は麻緋に賭けたんじゃないのか」

「はは……博打は好きじゃないって言ってた割りに、そんな発言かよ」

「勝ちの見えない賭けはしないと言ったのはお前だぞ、それならそう思えるのも自然な事だろーが」


 九重と話をする中、ドアがノックされ、ドアが開く。

「入りますよ」

 部屋に来たのは成介さんだった。

「お二人、お話の最中でしたか。間を割いて申し訳ありません」

「いや……別に大丈夫だけど……この時間に珍しいね、成介さん」

「塔夜の部屋を訪ねたらいなかったもので……」

「俺に用……?」

「ええ」

 成介さんは、九重をじっと見つめて言った。


 ……どうしてこんな直ぐに……?


「今宵、僕と任務に就いて頂きます」

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