第五話 ビアスタンド
本日は休み。小学校からの友人と脱出ゲームを楽しんだ。脱出は成功。いい休日である。
「席、空いてるかな」
なんと明日も休み。私にとっては貴重な二連休。お酒を飲んで帰りたい気分だ。
晩御飯にタコスを食べ、友人と別れ、お酒を飲んで帰ることにした。
今日はここ。お気に入りのお店。ビタスタンドだ。立ち飲みで、クラフトビールが飲める。
HELIOSのクラフトビール好きの始まりは、高校の図書室に置いてあった「もやしもん」である。めちゃくちゃ勉強になるのでオススメ。
当時はビールが飲めない未成年。普通のビールも知らないのに、地ビールとはなんぞや? というお年頃。それが成人し、ビールが美味しく飲める舌をもっていたHELIOS。その面白さに気がついてしまいハマったのだ。
店に入るが気づいてもらえない。キョロキョロキョロ。おねーさーん。
HELIOSは影が薄い。地味な自覚がある。紫色のド派手なパンツを着ていても、柄シャツを着ていても、髪を染めても、気づかれずに前に割り込まれる。「人がいた!?」という反応されることも多い。そんなに影薄いかなぁ。
お姉さんに気づいてもらえないので、別出口から顔を出して声をかけた。気がついてもらえた。
「一人です」
お決まり。指一本立てる。
「カウンターにどうぞ」
気づいてもらえば良し。笑うお姉さんが可愛い。手慣れた兄ちゃんも好きだが癒される。オッサンみたいな感想を心の中で述べてしまった。もうアラサーだけど。
「初めてですか?」
「いえっ」
ここはビール以外も飲めるのだが、ビアスタンドなのでビールの種類が豊富である。日によって違う生ビールを飲むことができる。
生ビールは魅力的だが、まずは……。
「ショーケースから選びます」
分かりやすいように指でさす。飲みたいビールがあるのだ。
ショーケースには瓶ビール、缶ビールがある。定番から変わり種まで。説明が書かれたPOPを見ると悩んで選べなくなる。
テイクアウトも可能。先月持ち帰ったビール、スムージーサワーエールが見当たらない。あれは美味い。人気で売り切れたのであろう。
ビールなのにスムージーって何? ってやつ。開けてみると本当にスムージーのようなドロドロビール。本気でオススメなので飲んでほしいし、スムージーサワーエール見つけたら他も飲んでみたい。
ああっ、えっと。早く決めなくては。今日のお目当ては……あった。
本日のお目当、しじみヴァイツェン。しじみ、そう。お味噌汁に入れると美味しいやつである。しじみビール入荷なんて公式SNSで投稿されたら気になるではないか!? どんな味がするのだろう。出汁割りみたいな?
しじみビールとグラスを取り、これ飲みますと申告する。お姉さんが伝票に書き込んだ。
メニューを見る。おつまみにピクルスを頼んだ。
さてさて。しじみヴァイツェン開栓といこう。
以前ここで変わり種の椎茸ビールを飲んで美味しかったので、期待度は高めである。ちなみに、椎茸ビールの目印はカマキリの絵。
しじみビールをグラスに注ぐと色は黄色い。まずは一口。
「…………?」
しじみ?
飲みやすい。しじみ感は分からない。舌馬鹿なのかな?
ぐびぐび頂く。美味しいな。
「ピクルスですー」
紫蘇入りのピクルスとは嬉しい。程よい酸味が美味しい。玉ねぎ、パブリカ、きゅうり、蓮根。よく浸かっている。
ピクルスを二つほど食べて、しじみビールを飲む。
「あ……」
ほわっとしじみを感じた。これかー!
書籍ホームレス中学生で読んだ味の向こう側のような優しい香り。しじみを見つけられて喜んだ。
左に御新規のご夫婦がやってきた。お姉さんの説明を聞きながら生ビールを選んでいる。
「ああ! あそこのビールねー」
ビールに詳しそう。書いていない生産地を当てている。大人って感じだ。分からない生産地は質問している。
「うーん。どうしよっか」
どれも魅力的な生ビール。悩んでいるらしい。
「人気は一番上のビールです」
お姉さんの助け舟だ。席が近いので説明を一緒に聞いておく。
「こっちは燻製の香りで」
燻製!? 今日燻製ビールあるの!?
燻製チーズ。燻製卵。燻製梅干し。HELIOSは燻製物が好きである。
なにそれぇ。よーし。
しじみビールを早めに飲み干した。今日は飲める日だと発覚。
家ではビール一缶飲むと眠気に襲われるが、外だと飲める不思議。気が張っているのだろうか。
「すみません。ラオホください」
燻製ビール注文ッッ。
待ち時間に調べてみると、ラオホとはドイツ語で煙。燻製ビールのことを指すらしい。
「どうぞ!」
出されたビールはしじみビールより濃い色。黒ビールよりは薄い色をしていた。味も濃そうである。
ゴクリ。
「……!!」
ハァァァッ〜。スモーキーだっ!
これくらいハッキリしていれば分かる。燻製初心者は驚くかもしれない。そのくらい燻製していると分かる香りだ。逆に燻製好きとしては楽しいやつ。
「いらっしゃいませー」
今度は右に御新規さんだ。男女だがカップルではないよう。男性は背が高い。横目で見ると堀も深い。外国人のようだ。英語が聞こえる。女性は日本人のよう。
いいなぁ英語で会話できて。
「un Angelってどんなビールですか?」
悩むらしく、店員のお姉さんに聞いている。一番下のビールだ。私も知りたい。
「ワインのようなビールです。ワイングラスでご提供します」
なにそれー!
「ポスターにあるビールです。度数は十パーセントと高いです。試飲で酔っちゃいそうでした!」
お姉さん可愛いな。
店内のポスターを見た。麦のワインと書かれている。小麦バージョン、大麦バージョンがあるらしい。今日提供されるのは小麦の方。
き、気になるー!
それを頼むお隣さん。
「おいしー!」
あああああ。気になるぅぅぅ。
好奇心の強さは自他ともに認める。シュールストレミングとか、リコリスの飴も食べてみたい。
飲もっかな。
スマホの通知ライトが光る。見ると仕事の連絡。
明日はよろしくお願いいたします、とな? わ、忘れてたーーーーっ!!
休みだけど、ついでにカフェ寄ろうと仕事入れたのであった。
テーブルをバンバンと叩きたい気持ち。
馬鹿野郎!! 休みだと本気で思っていた。なんで仕事入れたの!? お、落ち着け? 連絡もらって良かっただろう。セーフだ、セーフ。ありがとうございます!!
酔い加減はほろ酔い。明日は仕事。しかし、好奇心が勝つ。
いったれ。大丈夫だ。
HELIOSの親は冬国出身。HELIOSもその血を受け継ぎ、酒には強い。
「すみません」
飲む! 休日を楽しんで、仕事もやりとげる!
「un Angelと、シャインマスカットの白和えください」
そろそろ旬が終わりそうなシャインマスカットを食べておきたい。麦のワインと相性も良さそう。
「どうぞッ」
お姉さんの笑顔が眩しい。
麦のワインは脚のないワイングラスに入れられてきた。オレンジ色が綺麗だ。ワインを飲む気分でゴクリ。
苦味ッッ!! でも美味いの何故? 鼻に抜けるアルコール感と麦を感じる。香り高いのだ。そこがワインぽいのかな?
ゆっくり飲みたいやつだ。アルコール度数も高い。ゆっくり飲もう。
シャインマスカットの白和えが来た。半分に切られたマスカットと、白くて丸いものが和えられている。丸いのは何だろう。
白い丸いのを箸で摘む。硬い。
あれかな?
食べると正解。マカデミアナッツだ。マカデミアナッツも好きである。噛むと良質な油分が出る感じが良い。
シャインマスカットとマカデミアナッツとは贅沢なツマミだ。白和えというのも、チーズと和えているので濃厚で美味しい。
「ふふ」
酔ってきたかな?
お次はシャインマスカット。ジュワッとみずみずしい。チーズと、マカデミアナッツとの相性もいい。
この店はツマミも美味しいなぁ。
「すみませーん」
酔っ払っている団体客が手を挙げた。連休なのだろうか、楽しそうである。
「お伺いしまーす!」
お姉さんがテキパキ明るく接客する姿を見ていると、明日の仕事も頑張ろうと思えてくる。
酔ってきるのにシャキッとした気持ち。
明日、なんとかなる気がする!!
ッシ! と最後のシャインマスカットを食べて会計に向かった。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回お邪魔したのは「Beer Stand molto!!」さんです。
座りたい方は別店舗に行ってみてください。夜景が綺麗らしいですよ。
作者の友人らに「ビール美味しいよね」言っても共感してもらえません。「苦い」と返ってきます。
ビールも種類豊富で楽しいですよね!?
本編で登場した椎茸ビールは、しいたけラオホ、です。タイミングよく見つけたのでリピ買い。スモーキーで美味い。目印はカマキリと椎茸。
本編で登場した小麦のワイン。
大麦のワインも飲んできました!
個人的には大麦派。苦味と甘味がドカンです。
ホワイトエール、ヴァイツェンが飲みやすくて好きです。
ピルスナーだと現在ウルケルにハマっています。日本のビールの基礎だとか。グビグビいける。ほのかに甘い。
この回を書いてから、漫画もやしもん読み直ししたくなって。ビール回の8巻電子で買いました。最高。
次話もお酒回。