第三十二話 立ち寄り名駅
二日間の泊まり込み出張を終え、駅に着くと電光掲示板には、落雷により運転見合わせの文字。確かにゴロゴロ鳴っていたな。
ただの遅延なら良かったのだが、終日運転見合わせらしい。
まずいぞ。明日は九時前には仕事場にいなければならない。始発で向かうには持ち物が足りない。
うーむ。せめて近くまで、行ける所まで帰ろうか。ホテル取れずともカラオケとかで。
電車乗換案内アプリを起動する。お?
普段は遠回りで、値段も高くなるため避けていたが名古屋駅経由で帰れるではないか。
これはチャンスである! テンション急に上がる。
名古屋メシ食べよう! 晩御飯はまだである。
次の電車は五分後発。ICカードをピッ。
はい、行きましょう。時間ないぞ!
いつか名古屋駅経由で帰ってみようと思っていたが、まさか今日だったとは。
余裕のある車内。席に座り、検索を始める。急な事だったため、なんの情報も得ていない。
名古屋……というか愛知県の観光は少ししかしていない。車移動で水族館と、顎が痛くなるくらいのメンマ山盛りラーメンを食べた。なので、駅の雰囲気も知らないのである。
晩御飯は居酒屋で名古屋メシ食べたいな。Instagram、YouTube、Googleで調べてみる。
到着は二十時過ぎ予定。閉店時間の店もあるので、候補は出しておきたい。
YouTubeの料理研究家の食レポ好きだな。この店気になる……。なんて調べているが、困った。地理が分からなすぎて、どこか分からん!
ていうか、「名古屋駅」で調べているのに「名駅」って何?
察しはつくが、ほら、名古屋駅初心者だからね。検索検索……。
ふむ。名古屋駅のこと。地元では略して名駅。一つ名古屋に詳しくなれた。
ということは、名古屋駅とは違う駅だとスルーしていた名駅でオススメの店を探し……。
『次は名古屋〜』
あっれ。検索しているとあっという間である。
下調べの結果、新幹線乗り場の近くに居酒屋が沢山あるようだ。そこを目指す。
名古屋駅の改札を出た。
「おお」
都会だな。東京、大阪ほどではないが混んでいる。
これなら、飲食店も多いだろう。何かしら美味しいものが食べられそう。
新幹線乗り場を見つけ、地図アプリにも頼りつつ外に出る。
あ! 納得!
本当に駅の目の前。一つのビルに何個居酒屋が入っているんだ? ビッカビカのひと目で居酒屋と分かる看板。
満席でも、どこかしら入れる安心感。
できるだけサッと楽しんで帰りたいからね。良さげな店選ぶぞー!
「居酒屋いかがですか〜?」
そこに見える居酒屋ビルのアルバイト達だろう。同じ黒い制服。四人くらいいるのだが、多くないか? どこの店かは分からないが。
スルーして、店名から名古屋メシをいただけそな店に行くと決めたのだよ。
スーツケース持ちには嬉しいエレベーターを降りると目の前に目的地。落ち着く照明だ。
チラッ。よし、混んでいない。
ガラッ。失礼します。
受付らしき場所に男性店員三名。
ホッ。すぐ案内してもらえそー。
「…………」
ん?
すり抜けるように視線が合わない。んな馬鹿な!
いつもの気配なくて気付かれないやつ。仕事の疲労で元気もないし、薄暗さに溶け込んでいるのかな。
「あのっ」
ぴょこっと覗く。一番奥の店員が気がついてくれ、全員の視線が集まる。ひぃー。
「一人です」
プルプル。視線集中やめろぃ。一人でいいんじゃあ。
「ご案内しますね。お荷物お預かりしましょうか?」
観光地は手馴れているから助かる。スーツケースを渡し、カウンター奥に通された。
「こちらにどうぞ」
ほう! 木の温もりがあっていいじゃないか。それこそ味噌色。
「ご注文はQRコードからお願いします」
おひとり様に優しいやつ。
QRコードを読み取った。さーて? 何を飲もうか……。地酒とか……。
金しゃちビール? とな? 名古屋じゃん。
飲み物が決まった。青ラベル、赤ラベルがある。勘で青ラベルにする。
赤味噌ラガーも気になったが体験済である。フワッと味噌の香りがする美味いやつ。また今度出会った時にね。
おつまみは何がいいだろうか。本日のおすすめ蛸の刺身。いいねー名古屋らしくはないがー。
む? なんだこれ? 真っ黒なおでん。そうか、味噌おでんだな! お酒にあいそう。盛り合わせではなく、単品注文しよう。
もう一つくらい……どて串カツ。美味しそう。二本から頼めるの嬉しい。
ポチポチ送信っと。
「あ」
味噌×味噌じゃないか。まあいいか。そうです、名古屋メシ食べに来たんですよっと。
裏で味噌好きの観光客と思われていませんように。ヨカッター赤味噌ラガー頼まなくて。
「お待たせしました」
すぐに瓶の金しゃちビールが届いた。茶色の瓶に青いラベル。金のシャチホコの絵がいい。
自分で栓を開けるらしい。おっちょこちょいなのだが、零しませんように。オリャ。
グラスにビールを注ぐ。泡が溢れそうだ。泡が多いって? ふふ、計画通りなのだよ!
荒い泡が潰れて消えるのを待つ。二度注ぎにするのさー。誰に説明しているのやら。小説誇張ではないです、ええ。
「お通しです」
ありがとうございます。この人、ビール注いだのに飲まないとか思われてませんか?
お通しは大根おろしにシラス。求めていたよサッパリ系。今日はサラダの代わりだね。
いい感じにビールの泡が消えてきた頃、味噌料理も届いた。食欲をそそる茶色さだな。
美味さに期待しつつ、ビールを注ぎ足し、モコモコの泡を作り上げた。グラスから二センチは飛び出している。いいビジュアルだ。
モコモコ泡が消える前に、まずはビール飲みますか。
お疲れ自分! 一口目は泡だけ。ミルコみたいで美味しい。続けて二口目。程よい苦味の液。飲みやすいッ!
これは濃い味噌にあうんじゃない?
味噌おでんから食べてみよう。選んだ具材は定番大根と、名古屋コーチンつくね。
大根なのか疑うシミシミ茶色。箸で割ると中心の方は知っている色味。この色の差がたまりませんな。表面の味噌濃さが視覚で分かる。
ハグッ。もぐもぐ。濃い。仕事終わりの体に塩分が染みるぅ。味噌美味しい。
おでん皿の中にはオマケなのか、豚モツらしき物も入っている。色が濃くて分からなかったよ。こういうの誤算は嬉しい。
ビールを飲む。舌に残る塩味を流してくれる。
鶏つくねを半分に割る。断面に茶色の汁を纏わせて食べる。じゅっーぅ。うむ。ゴクゴク。酒が進むわい。味濃いから名古屋コーチン感は分からないけど美味い。
串カツを食べよう。熱々鉄板にどて焼き。その上に串カツが二本。
いっぱい付けよー。串カツを回して浸す。見た目ただのソース。実際味噌ソースみたいなものか? 合わないわけないよね。めちゃうまー。
合間にビール。ふーぅ。満足度高いな?
料理二品に、お酒一瓶だけなのに。追加注文する気が起きない。この完璧さに余計なものいらないんじゃ? 箸休めのシラスおろしは別だけれど。
なんだか……いい晩酌タイム。店の雰囲気もあるのだろう。飲みすぎす。食べすぎず。
値段を見る。二千円代。私がこれで抑えられるとはな。
具材を食べ切ると、用意されていたレンゲを持つ。汁飲みたい。汁のみも楽しみたい。ティースプーンにも満たない量をすくって飲んだ。
白米……!
メニューを見るが無い。これ〆に白米だろ……。汁は残すのが正解なのか? くぅー。
汁を全部飲むと干からびてしまうので、もう二すくいだけ。
残しておいたビールを飲みきりフィニッシュだ。
お会計を済ませる。
「ありがとうございました!」
……おっ。言わねば。
「荷物を預けていまして」
両手人差し指を荷物があるであろう場所に向ける。何故にあざとめジェスチャー。
「はい、お荷物ですね」
お兄さんについて行くと暖簾の奥に見慣れたスーツケースがあった。自転車のワイヤーロックで防犯対策されてるー! ありがてぇ。安心!
さすが観光地……。鍵を伝票と一緒に保管していれば、取り間違え防止にもなるのだろう。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
スーツケースを受け取ろうとしたが、出口まで持っていってくれるそうだ。お兄さんは自動ドアのボタンまで押してくれる。
足元の自動ドアの段差に引っかからないよう、姿勢低く中腰のまま、お兄さんはスーツケースを片手で持った。
「っ……?」
重かったらしい。アハハ!
「ああ、すみません」
お兄さんから荷物を受け取る。
「……重いですね?」
デスヨネー。
「仕事道具が入っておりまして」
着替えなどの宿泊の用意と仕事道具。できるだけスーツケースに詰めている。すみません。
面白さの感謝もありペコペコしてエレベーターに乗った。
時間を見る。乗りたい新幹線の時間まで三十分はある。
お腹すいてないけど……次回来たとき困らないよう少し散策して……きしめん食べて帰ろ!
──この後、めちゃくちゃ喉が渇くのであった。
お読みいただきありがとうございました。
今回立ち寄ったのは名古屋駅前の居酒屋さんです。店名は……投稿前に調べようとしたのですが居酒屋の数多すぎて諦めました。
メンマモリモリラーメンは「好陽軒」さんです。切る前のメンマも見せてくださいました。人柄を表すような優しいお味のスープです。
数ヶ月後、岐阜にて黒味噌おでん食しました。大根、こも豆腐、玉こんにゃくをセレクト。
名古屋でも味わったシミシミ感に感動しました。色の力ですね。
個人的に玉こんにゃくが柔らかくて美味しかったです。
次話、再び鼻をいじめます。




