第三十一話 麻婆麺
定期的に辛いものが食べたい、ということがある。疲労なのかストレスなのか。
そんな時に流れてきた激辛ラーメンを食べるショート動画。笑顔で美味しそうに食べるではないか。
自分はマグマのように赤い麺は食べられないが食欲が湧く。こんにゃく麺の存在も初めて知った。
残念ながら、こんにゃく麺を食べられる店が近くにない。だが、辛い麺が食べたい。
ああ、そうだ。あそこに行こう。都合上、なかなか仕事帰りに行けない店。
人が多くて帰りたくなる道を進み、お店の前に着いた。並んでる!? えー? 暑いし帰ろうかー……。なんだ? 店内はガラガラだ。
どうやら順番に通されてはいるらしい。開店時間すぐだからな。
席数を見るに、一巡目で入れるぞ。ならば、並ぶか。
汗が垂れる。列の途中には麦茶が入ったタンクと紙コップがあった。優しい気遣いである。飲むほど待たされないか。
お店の前に夏季限定メニューが貼られていた。冷やし坦々麺。痺れがきいて美味しいらしい。これもいいな。暑いし。
「お客様、店内でお待ちください」
お。なんだ、もう入れる。
店内に入った瞬間スパイシーな香りがブワァァッ。急にお腹が空く。この香りは坦々麺なのでしょうか?
いいや! 今日は食べる麺決めているから!
券売機で【麻婆麺】を選択した。トッピングにチーズ。あと半ライス。
実は二回目の来店。前回、友人がライスを頼んで美味しいと言っていたのだ。
辛さは薄辛の一辛、普辛の二辛、倍辛の四辛。卓上調味料で辛さマシにできるので普辛の二辛にした。
席に案内される。水、紙エプロン、箱ティッシュ、卓上扇風機。
扇風機! ありがたいね。ポチッ。風に乗ってスパイスの香りがする。これだけで白米食べれそうだ。そのくらい素晴らしい香り。
「満席です」
開店後十五分で席が埋まった。入れて良かったな。
「お待たせしました」
まずは右隣のおひとり様の男性がニ辛の麻婆麺大盛りを食べ始めた。美味しそうな香りが! 麻婆麺にして良かった。
ああ、早く食べたいと食欲を思う存分底上げしておく。
「お待たせしましたぁ」
来た! 待ってました! もう食べる準備整っています!
目の前に置かれた麻婆麺。湯気。香りが。はぁぁ! 素晴らしい! 流石、ミシュランに選出されただけある。レベルが違うんだ。
今日はライトグレーの服を着ている。赤い汁を飛ばさない自信がない。紙エプロン着用。
右隣の男性は料理が来る前に着けていたが、料理と対峙してからの、食べる前のこの時間を楽しみたくて、あえて着丼してから着ける。
水も飲みまして。
いただきまぁす!
まずはスープといきたいところだが、今回は麻婆麺。麻婆豆腐からいただきましょう。
とろみがしっかり。豆腐をすくう。 プルプル。絹ごしだ。
ぱくっ。トゥル。
ああ、美味い。旨辛!
麻婆豆腐としてもいい。ベースが美味しすぎる。
さあ、麺だ。餡に隠れた麺を引っ張り出す。
あまり出てこない。猫舌だし、少量とにかくひと口。かぷっ。
「…………!」
一口で分かる、美味いやつ。柔らかな麺が麻婆豆腐によく絡む。そりゃそうだが、これは麺のために作られた麻婆豆腐!
パクパク。引っ張り出せない麺が食べたくて、切れても良いから食べる。
あー! 旨味がすごい。辛さは肉の旨味を引き立てるという。
ああ、既に美味しすぎて忘れるところだった。表面にスライスチーズが二枚溶けている。黄色い。チェダーかな。チーズを麺に乗せ食べる。
うむ。間違いない美味しさ。辛味にクリーミーさは王道ではなかろうか。
「お待たせしました」
左隣の男性……というか男の子に着丼。同じくニ辛の麻婆麺らしい。身体は細いのに白米も頼んでいる。よく食べれるなぁ。……人のことは言えない。同じものを頼んでいるくせに。
両隣の男性は麻婆麺をすすり始めた。手が痛くなるくらい重たいのに!? 餡が麺に纏わり、綺麗に引っ張り出すことは難しい。すごいな。食べ慣れているのだろうか。
というか、麺をすするのって。スープと一緒に口へ運ぶのと、香りを楽しむためだよね? この麻婆麺にすする行為いらなくない?
最高の絡みつき。べっこう色の麺。ゆっくり持ち上げて食べても美味しい!
何口か食べると山椒がガツンときた。一気に舌が痺れる。山椒ゾーン掘り当てた?
心地よい痺れ。ここで水をのむ。
友人が発見した、痺れているところに水で炭酸水。シワシワシワ……。微炭酸である。
口の中をリセットしてからの麻婆麺は美味しー!
レンゲを使い、そぼろ肉をすくう。茶色い肉餡。パクッ。辛さで旨味が倍増しているので、少量の肉で満足感すごい。
ああ、辛味より痺れが強い。喉の奥もシビシビしてきた。楽しい。
半分以上食べきった。そろそろ薬味を足したいところだ。
左隣の男性は白米に麻婆豆腐を乗せ、ぶどう山椒オイルをかけている。痺れ足し。
テーブルには味変として、唐辛子、ぶどう山椒オイル、ブレンド酢がある。
足したいのは山々だが、自分の席からは距離がある。両隣の男性の目の前に手を伸ばさねばならない。
チビチビ。慣れた人は気にせず取ればいいって思うでしょう。そうはいかないのがHELIOSだ。
ガタッ。
ちょうどよく、右隣の男性が食事を終えた。
いっ、今だー!!
唐辛子、山椒オイルを丼に適当に落とす。
良かった! 良かった!
せっかく置いてくださっている薬味を足さないのは残念すぎたからな!
少し混ぜて、麺を食べる。
山椒の香りがいい。このオイルは優秀だ。販売されているのも分かる。
唐辛子のほうは僅かに苦い。だが、香りもいい。香りが飛んでいないのは嬉しいものだ。
左隣の男性も食事を立ち上がる。早いッスね。
右隣には御新規、女の子のおひとり様。今どきの動画見ながら食事スタイルだ。
この店はおひとり様に好かれているな。来やすい。次回は冷やし坦々麺だな……。
麺を食べ尽くした。まだ食べたいくらいの旨味だった。
ふー! 鼻が。ティッシュ有難い。少し休憩。
左隣に新しい男性のおひとり様。スーツだ。仕事帰りですね。
鼻と腹が少し落ち着いてからご飯を手に取った。
「む……」
手が止まる。この米どうしたら?
普段は胃の許容量の問題でご飯を注文しない。ダイブ飯が存在するのだから、この米は丼に入れるべきなのか? それとも、お茶碗に麻婆豆腐を入れるべきなのか?
わ、分からん。先程の男の子は茶碗派だったが。
スープ……麻婆餡を見る。結構残っている。ダイブさせるには多い。
この場合は! 茶碗に麻婆を入れるが正解だろう!!
レンゲですくう。最初より餡がサラサラしている。
そういえば、唾液で分解されてそうなるってラーメン動画でも説明されていたなぁ……。あと、あれね。薬屋のひとりごとで猫猫が重たい葛湯を舐めた匙で混ぜて緩めるやつ。
ハッ!
タイムリーである。右の女性がみているのは薬屋のひとりごとアニメ! この偶然は面白いなあ。
よしっ。具はほとんど乗せた。麻婆丼のできあがり。おお〜! なんて豪華。
レンゲですくって食べる。
ンッ! スイスイ食べれてしまうぞ米。
うまい! うまい!
美味しさで調子に乗るとシビシビパラダイス。
「左から失礼します」
左の男性、着丼。
「麻婆麺、倍辛です」
四辛! お兄さん手練ですね!?
タイミングを狙って器を覗く。普辛より確かに赤い。二倍だもんな。私には難しそう……。
男性はスムーズに食べ進めている。
わ! 倍辛だけでも驚いたのに、追加辛味足すのお早い! 快感を感じているのか、はたまた戦っているのか。
「ご馳走様でした」
満足である。腹はいっぱいだが、まだ食べられる気がする。味に飽きず最後まで楽しめた。
喉が乾かないように水はしっかり飲んで退店する。外にはまだ列ができている。
美味しかったです。お先に。
電車に乗る頃。何故か気管に違和感を感じた。咳をしてみると、痰がでた。
「……?」
風邪でも、喉を痛めているわけでもない。もしや?
調べると、辛味成分の刺激で出ることがあるらしい。
おやおや、なんとまあ。
自分は美味しくて嬉しかったのに、身体は刺激が強いと言う。自分の身体なのに疎通ができない面白さだ。
かなり美味しかったんだ、許せ。
機嫌よく電車に乗りこんだ。
お読みいただきありがとうございました。
今回お邪魔したのは「SHIBIRE-NOODLES蝋燭屋」さんです。
この夏に三回。今月一回行くことが決まっています。
そんなに行ったの? と思うかもしれません。ちょっと聞いてくださいな。
二回目(計三回目の来店)
冷やし坦々麺を食べに行きました。
食券間違って汁なし坦々麺を買いました。
お皿触って暖かいな? 洗いたて? と思いつつ食べたら暖かくて間違いを知りました。
美味しかったです!
三回目……の前に四回目が決定。
初回に行った友人らと行くことが決定。その日に冷やし坦々麺リベンジと考えておりました。
が、仕事関係の人に誘われて行くことに。今度は冷やし坦々麺を注文。
クリーミで美味しかったです。
四回目
麻婆豆腐リピート予定です。
夏に四回目行っても飽きないお店です。
次話、名古屋めし。




