第二十八話 兵庫津
名前は聞いたことがあった、おそらくマイナーなミュージアム。
御先祖様に縁があるということで親も行ったミュージアム。
天皇陛下が訪れたというミュージアム。
以前、仕事で「初めてだぁ」と降りたこの駅にミュージアムへの案内表示があった。
「兵庫津ミュージアム……? ここかよッ!」
地理に疎くて気が付かなかった。その日は閉館時間を過ぎるため見送ったが、今日は行ける!
再びお呼ばれしたお仕事は午前で終わる。ええ、午後に仕事入れなかったのだよ!
前日から一生懸命ランチを調べていた。近くに市場があるため、美味しい魚介類を食べられるだろうと期待が膨らむ。
結局、仕事が長引き十四時。下調べ虚しく空いていたお店へ。閉店時間十五時。滑り込みで、海鮮丼のお店に入った。
わりと普通なお味であったが、胃は膨れた。
本日の目的はグルメではない! ミュージアムへ行こうではないか!
さて。ランチの場所から近いらしいが、それらしい建物は見えない。
テクテク……おっ、急に現れた。大きな建物だ。建物は二つあり、先にひょうごはじまり館から見ることにした。
自動ドアに入口、出口と表示がある。受付は入口突き当たり、と案内がある。初来場者には分かりやすい。
入口から入ると広さに驚いた。天井から船の飾りが吊るされている。海が近いから? ポヤン。
そう。何が見たいとかで来たわけではない。自分と縁があるから来ただけなのだ。
受付……どこ。広くてバグる。速攻迷子になりそう。ああ、そうだ。突き当たり。案内ありがとう。
受付の人と目が合う。立ち上がって受付の準備をしてくれるではないか。そこですね! お座り下さい!
入口から受付までが長い。一人なので、今か今かと待たれている緊張感。
……お待たせしました。
料金表を出してくれる。大人三百円とお手頃だ。
百円硬貨三枚を出し、パンフレットを貰う。
「……あの、どう回ったらいいですか?」
広くて分からん。
「そちらから。初代県庁館へは建物を出て回ってください」
さされた方に順路の看板。恥ずかし。出入口さえ分かりやすく書かれているのだから順路表示があるのも当然だ。同じように困る人が多いのだろうな。
内心顔を真っ赤にしながら順路の方へ進む。
誰もいない。
入って右手の展示で立ち止まると、放送が始まる。センサーでもあるのだろうな。
斜め下を見ると地形の模型。そこにプロジェクションマッピング。正面には巨大なモニター。
落ち着いた男性の声が流れる。有名な御三方。伊藤博文、平清盛、足利義満が対談している。ライブ配信しているという設定らしく、コメント欄まであるじゃないか。
工楽……高田屋……縄文人……。縄文人!? な、なるほど、御三方の未来にいるのが現代人で過去は代表に縄文人。面白い。
あ。御先祖様の名前もある。思いっきりニヤける。写真をパシャリ。
説明と共にプロジェクションマッピングにより今の地形ができた経緯が話される。六甲山、和田岬ができた話。六甲山は分かるのだけど、和田岬ってどこ? 現地の人なら分かるのだろうか。予備知識がないから関心が薄い。
しかし、船が停泊しやすい環境ができ、栄えたということはよく分かった。
兵庫津の一部が和田岬ってことでいいのかな? うむ、展示の工夫で初っ端から楽しいかも。
地理も歴史も一般より疎い気がする。今日は少し知識をつけて帰ろう。
先に進むと太い声が流れた。平清盛の夢が語られている。数百年前の人の夢が現代にまで語り継がれているのは凄いものだ。
「ここ、兵庫津は」
「ん?」
「兵庫津」
待て待て。一つ目の展示から気にはなっていたが、それは当時の呼び方だよね?
パンフレットなどを見て確認する。衝撃。
ずっと「ひょうごつ」って読んでいた! 「明日、兵庫津ミュージアム行ってくる」って言っちゃったし、紹介者も兵庫津言ってたのに!
恥ずかしーっ。訂正しておこう。兵庫津だね。
音声のおかげで知ることもある。
体験型の展示もあるのか。【宋銭百枚の重さを体験してみよう】と巾着が置いてある。
銭……きり丸。アヒャアヒャ。
持ってみる。これでお米十五キロ買えるらしい。持ち歩くのは不便であろう。振り回せば鈍器になりそうな重み。
体験型は他にもあり、双六に、デジタル生簀。子供達が喜びそうである。学校の遠足に選ばれそうだ。
壁には詳しく歴史が書かれている。文字で覚えられる人にはいいよね。
学生時代は図書室貸し出しランキングに載るくらいだったのだが、社会人になってから本を読む機会が減った。
仕事の後だし、目が滑るなぁ。目に止まった所だけ読む。
へぇ。足利義満って兵庫津に来ていたのか。
京都から兵庫。同じ関西圏。今は電車で簡単に移動できるが、昔であれば大変な距離である。何時間くらいかかるのか。
難しいところは飛ばしつつ壁を読んでいく。
「これは」
ジャンプ漫画で題材にされている足利尊氏と楠木正成ではないか。史実を元にしている漫画なので、ここでネタバレを食らう人もいるだろう。
知っているキャラ……というか人物が紹介されているのテンション上がる。
楠木正成に関してはお墓も参ったことがある。なんなら、子孫の人とお会いしたこともある。
その漫画について聞いてみると、子孫の会で話題にあがるだろうと言っていた。どんな話が飛び交うか気になってしまう。
さらに進んでいくと、我が先祖の紹介もされていた。ああ、凄いなぁ。
この人は一般的に知られてはいない。人のために動ける人で、目立つつもりがなかったようだ。なので、資料も少ない。嫌いなものを好きだと紹介されてしまうほど。煎茶が好きなんだよねー。
ただ、死後認められ。今は神様として我ら子孫を助けてくれているらしい。
助力があっても、残念なことに自分はここまで立派になれる気はしないのだが。
神になりたきゃ徳を積めって感じかな。
伊藤博文さんって、若い頃は結構イカつい顔してたんだな。最初見たとき誰かと思ったよ。
展示を最後まで見ると、入口から団体客が入ってきた。ウォォォ!? 年配の人が多い。観光?
先にゆっくり見れて良かった。見ている時は五人しかいなかった。
「映像は二十五分間あるので、お手洗いどうぞ!」
なんだなんだ?
どうやら、ミュージカル風に歴史の紹介があるらしい。気になるが……団体客と一人は嫌だな。
諦めて、隣の初代県庁館へ向かうことにした。
建物が違うため、チケットを入口で見せて県庁館へ足を踏み入れた。上を見上げれば青空だ。
ここは百五十年前にあった建物を復元したものらしい。中にも入れる。
なんというか使われている木材が新しく、古風な迷路というか、夏祭り会場のような雰囲気だ。
他にお客さん一人しかいないようなので、適当に歩き回ることにした。
松と足元の砂利。音が心地いい。侵入者ですよー。
取次役所を再現した建物はカフェとして利用できるらしい。今はお客さんいなさそう。
カフェの横には井戸。中を除くと復元なので偽物である。ちょっと期待した。
カフェを通り過ぎる時「トンッ」と音がした。
振り返る。カフェの障子出できた窓。障子を指で叩いたような音だった。
何の音だ? 気になる。
海が近いから風が強い。風で障子が揺れたのかもしれないが……。それにしては音が違う。
もしや? ニヤッ。
別の子孫がこの地を訪れたとき、強く壁を叩くような音がしたらしい。視える子孫だったので、先祖の仕業。ポルターガイストだと分かった。
『ポルターガイスト起こしてほしい』
計画時から宙に向かって言っておいたので、もしや。
少し戻り、障子に向かって先祖の名を呼んでみる。「トンッ」と同じように音がした。
これは……どうなのだろう。
表現するならばまるで、恋心を募らせ相手を思うがあまり障子に指を当ててしまったような音!
……いや? 視える人曰く、御先祖様に溺愛されているというHELIOS。この表現は正しいのかもしれない。
風の可能性もあるが、ポルターガイストと思っていた方が楽しいか。やったぜ。
さっくり見終わり、兵庫津ミュージアムを去る。
近くのショッピングモールに入った。百円ショップで、仕事道具を買うついでにお店を見て帰ろう。
一階では地域の食材が売られていた。傍を通るだけで苺の甘酸っぱい香りがする。
市場が近いので鮮魚がお得。ワカメも百円以下! お寿司も美味しそうだ。ここでお昼ご飯を買って食べた方が良かったかもしれない。
同じエリアに寿司と海鮮丼が食べられる店があった。次回のランチはここだな。
いい食材が揃うのは地形と、偉人たちが努力。繋げてくれた今なのだなぁと歴史を感じ、帰ることにした。
お読みいただきありがとうございました!
今回お邪魔したのは「兵庫津ミュージアム」でした。思いのほか面白く、しかし人に勧めにくいと思いました。歴史好きは楽しいと思います。
HELIOSは霊を見るのも聞くのもできません。
でも、御先祖様にトントン背中を叩かれたり、1度だけ袴の裾を見せてもらったことがあります。
本当に見守ってくれているのだと体感しました。
スピリチュアル苦手な人はすみません。
行った時は半年前の冬で、ショッピングモールで売られていた白子とアンコウが美味しそうで!
買って帰りたかったです。
次話、日本茶。




