第二十七話 いちご狩り
美味しい新鮮な苺が食べたい。スーパーで買う苺では駄目だ。いちご狩りに行かねばならない。
何故なら、いちご狩りで食べるものは別格だからだ!
苺好きの友人とバスツアーを探した。コロナ禍を乗り越え、去年、今年、両方中止。全体の予約数が足りなかったのだろう。
こ、こうなれば近場で! と、思ったが遠い。車が無ければ行けぬ。
免許は持っているがペーパーなので運転する気はない。
駅から歩いて行けるところ! 見つけましたとも!
電車で一時間半。仕事で来たことはあるが、歩かない道を案内される。
天気がいい。寝不足に効く。
少し歩くと、案内看板が見えた。確かに駅から近い。ビニールハウスがたくさん見える。
先に友人と行ってきたという親のアドバイスを聞き、時間に余裕をもって到着した。事前説明があるためである。
入口らしき場所を見つける。
「ここ?」
ドアが閉まっている。ドアの前に案内表示。十分前になったら案内されるらしい。早く着く必要なかったじゃん。広めのベンチに座って待つ。
待っていると、他のお客さん達がやってきた。四人組、三人組、そして一人の自分。さみしー。年齢層も自分だけ違う。
「お待たせしましたー!」
優しそうなおばちゃんがドアを開けてくれた。三人組が入口に近かったので先に入る。
おひとり様なので、最後で良いですー。縮こまりながら四人組が通り過ぎるのを待っていると、目の前に手が差し出された。
「どうぞ」
おお、優しい。断るわけにはいかんな。
会釈をし、先に入らせてもらう。気を使わせたかもな。
受付でお金を支払う。
「HELIOS様ですね」
うわぁ。何も言ってないのに特定。おひとり様、私だけなんだろうな。
「はい」
受
ひひ付を済ませ、右隣でハサミとバケツを貰う。黄緑色のハサミとバケツだ。みどりみどり。
「あっ、バケツ四色ありますよ」
他の色も出してくれたが、手に取ってしまった。
「これで」
特に好きな色も拘りもないしな。いいじゃないか緑。
ロッカーに手荷物を預けようとした。三人組が鞄から練乳を出す。持参!?
「練乳、チョコも販売しています〜。持ち込みOKです〜」
下調べ不足! 昨日予約したからなぁ。
ま! 苺そのままの美味しさを堪能しよう。必要なら買えばいい。
全員の会計が終わり、おばちゃんによる噂の事前説明が始まる。
「どんな苺が好きですか?」
どんな……品種名は詳しくない! 苺好きの友人は品種も覚えていたなぁ。
「柔らかい。固め。酸味があるもの、少ないもの」
そゆことね! 一般人に専門知識は聞きませんよね。
「甘くて柔らかいやつが好きです!」
答えてくれる人がいるの助かる。
「十一月から苗を植えまして……」
簡単に説明してくれる。勉強になるなぁ。
「美味しい苺の見分け方をお教えしますね」
いちご農家さん直伝! それは一番知りたいやつ!
「こちら章姫という品種です」
収穫された苺が出された。細長い。
「UFOみたいに、葉が取れかかっているのが分かるでしょうか?」
表現適切か!
簡単に葉が取れそうなのが目視でも分かる。
「完熟した苺の葉はこうなります。食べてみてください。甘いですよ」
と、左隣の女性に苺を渡す。
「甘いです!」
ナイスリアクション。
「大きいものが甘いと思われがちですが、小さいのも甘いです。どうぞ」
別の女性に苺が渡される。ホッ。
「ふふ、甘いです」
自分に渡されたらリアクションできる自信がない。
「皆さんが普段切り取られるヘタの部分。身と葉の付け根に栄養が集中しています」
苺の断面写真を見せてくれる。
「苺の先の方は甘みと水分。根元の方に栄養が八割です」
すげぇ!
「ビタミンC、アントシアニン。シミ予防になります」
こういう説明すれば、先っぽだけ食べて捨てる人減るのでは? いいね! 説明ありってのも。
「どうぞ、中へ。ビニールハウス内は暑くなっております」
お勉強が終わり、ビニールハウスへ入る。暖かい。上着を脱いで正解だった。
別のおばちゃんの誘導により、全員がハウスに入った。収穫の説明をしてくれるらしい。
「苺は紅ほっぺ、章姫、かおり野があります」
このハウスは紅ほっぺメインで、一列ずつ章姫とかおり野がある。全種類いただきたい。
「収穫の際は茎を切って、ヘタは手でとってお召し上がりください。体温で痛むため、食べる分の苺にだけ触れてくださいね」
ラジャっ。もちろん。
「スーパーで売られている苺は三角形です。完熟した苺は菱形です」
事前説明で見せてもらった苺は菱形だったな。ヘタが上に突き出たやつ。
「皆様、一度奥まで進まれてからお召し上がりください」
誘導上手いな。全員が食べられる。はーい。
いざ! いちご狩り。
五列あるが、目の前の列に入り真ん中まで進む。赤い苺が沢山だ。
皆食べ始めている。では、自分も。一個目ってワクワクする。
とりあえず、小さめの菱形苺をチョッキン、パクリン。
確かに、小さくても甘い!
大きいのも食べたいよね。写真も撮りたい。熟れていそうなものを……。
立派な紅ほっぺが撮れた。写真越しで見ると赤が際立つ。フィルターもかけていないのに。
もぐっ。大きいのは一口では食べられない。頬張る喜び。こちらも甘い。
ブーン、と苺の白い花に蜂が止まる。葉の緑、苺の赤、花の白、蜂の黄。いいわぁ〜。
一生懸命お仕事している蜂さんだな。
次は章姫が食べたい。空いている時を狙って、「章姫が食べられるレーン」へ来た。
紅ほっぺと形が違う。長い。栽培レーン数が少ないため、食べどき苺を探す難易度があがる。
まずは小さいやつ。もぐっ。
好きかもー。
控えめな酸味。酸味苦手な自分に合う。果肉も柔らかくていい。
紅ほっぺを交えつつ、章姫を堪能していると、おばちゃんの声が聞こえてきた。
「ここが爆発しているのが美味しいんです」
なんだって? 物騒。
よくよく盗み聞きしていると、どうやら葉の付け根に亀裂がある物が美味しいようだ。
そういえば、何個か見かけたな? 意識して探してみようではないか。
合間に美味しそうな赤い実を見つけて食べておく。
「あっ」
これだ。亀裂あり。
やったぜ。期待。もぐっ。確かに美味しいかも?
ついにきた。「かおり野レーン」が空いたぞ。
一番人気であろうレーン。何故かというと、理想的だからだ。
一レーンは二段ある。下部は全て紅ほっぺ。
左手上部に章姫。右手上部かおり野。右手下部に紅ほっぺという三種が楽しめるのだよ。食べ比べしやすいのだ。
左手下部は構造上食べられません。
紅ほっぺ、章姫は食べたから、まずはかおり野を……無い?
熟れた実がないわけではない。実が少ない。
オーケー、オーケー。手前は食べられちゃったんだな? もう少し進んでみましょうっと。
「…………。あった!」
宝探しが気分だ。小さな完熟かおり野をパクリ。あまり分からない。本当に小さいもの。野いちごのよう。
もう一つ探す。あった。パクッ。
美味しいのは食べられてしまっている可能性あり。いや、美味しいんですよ。味を伝えられるほどの実が残っていない! 章姫よりマイルドな気がする。
紅ほっぺ、章姫を食べる。うむ。個人的に章姫が好きである。
混んでいなかった紅ほっぺを食べていると、何やらおばちゃんにロックオンされたらしい。
なんだ、なんだと心構えていると、一粒の赤い苺を差し出された。
「こうなっている苺は甘さで爆発していて美味しいんですよ」
あ! あの説明してくれた! ほうほう。こういう見た目ね。あってたわ。
「今日はなかなか見つからなくて。はいっ、食べてみて」
「えっ」
なかなか見つからない言っているのに!?
「ありがとうございます」
すでに何個か見つけて食べてるけれど、皆さんも教えてもらいましたよね? いただきますね?
「甘いです」
別のことも言えん。
おばちゃんは次の爆発苺を探しに行った。いい人だ。
紅ほっぺ、章姫、かおり野をもう一巡した頃、時間が来た。
何個食べたのだろう。ミニバケツのヘタを見る。数える気にならないくらい食べた。
皆満足、幸せオーラが場を包んでいる。
ヘタはゴミ箱に捨て、ミニバケツとハサミを洗って返却する。客にさせるの効率いい。
次は何処に行くなど話しているのが聞こえる。近くに他の収穫体験があるらしい。気になるが本日は満足だ。
一人で駅へと歩き出す。
うん、満足した。したがな?
初めて行ったいちご狩りの記憶。バスツアーで得た感動には遠く及ばぬ。
一緒に行った友人に今日のこと、あの日食べた苺が素晴らしく美味しかったとメッセージを送ってみる。
初めてだったから特別美味しく食べれたのかもしれない。
「あのぉ、すみません」
前から歩いてきた、登山者らしき男性。
「はい?」
尋ね人か?
「登山口はあっちでしょうか?」
分かんないよ! 現地民じゃないんだもの! 地元民だとしても山は分かっても登山口は知らないと思う! 山によっては何ヶ所もあるし!
キュピーン。いちご園の近く、振り返ればまだ見える数メートルの所。農作業をする明らかな現地民達。
「すみません、私この辺の人間じゃなくて。あそこの人達なら分かると思います」
投げました。登山口ならスマホで調べて曖昧な返答をするより、現地民の答えの方がいいはず。
会釈をし別れた。
ふーむ、登山できる山が近くにあるのか。男性に聞かれなければ知りえなかった。また調べてみよう。
帰りの電車で友人から返事が届く。
友人は毎年いちご狩りに行き、いちごビュッフェを堪能する人間である。
「やっぱり」
そんな友人がバスツアーでの苺が格別美味しかったのだと教えてくれた。
和歌山のいちご狩り……。
大きくて甘い甘い苺。いくらでも食べられるジューシーさ。
あの美味さは季節なのか、品種なのか。
また行って確かめねば。
今日は苺の勉強もでき、昨日までの私より苺に詳しくなっている。
来年は和歌山のバスツアーでいちごを食べに行こうと誘っておいた。より美味しい苺を判別できそうである。
お読みいただきありがとうございました!
本当は苺の時期に投稿したかったいちご狩りでした。
一人で行くのは勇気がいりましたね。相当苺が好きな人間と思われたかもしれません。
好きな果物は桃、梨、シャインマスカット、ブルーベリー、グアバ……でしょうか? 台湾で食べたライチも好きでした。
今月頭に初めてのブルーベリー狩りにも行きました。一人で行くつもりが家族も便乗しまして、書くことはありません。
十種類くらい食べ比べしました。ビューフォートという品種が清涼感があって好みです。
家族は酸味があるものを好んでおり、おひとり様では分からない好みの違いを感じました。
次話、マイナーだと思われるミュージアムへ。




