第二話 生豆焙煎珈琲
仕事が早く終わった。行きしに見かけた喫茶店に寄ろう。
「営業時間外……」
残念。夜営業らしい。近くに別のカフェはないだろうか。とりあえず駅を目指して歩く。駅の近くならばカフェの一つくらいあるだろう。
「ラララ〜」
驚いた。少年が塀にもたれかかって、気持ちよさそうに歌っていた。首まで振ってノリノリじゃないか。なかなか綺麗な高音。何の曲だろう。
フッと笑って通り過ぎようとしたとき、香ばしい香りが歌声とともにHELIOSに届いた。この近くに珈琲屋があったような。それか。
珈琲は家で飲むより外で飲みたい派。最後に飲んだのはいつだろう。
スマホで地図を確認する。よし、行こう。
お店はすぐに分かった。デカデカと三文字。暖簾に「まめや」と書かれていたからだ。
暖簾の迫力に入りにくいが行くしかないだろう。少し重たい扉をスライドさせた。
外でも十分香っていたが、店内は最高に濃い。好き! 帰る頃には珈琲の香りが衣服に染み付いていそうだ。
店主はおっちゃん。勝手に座っていいのだろうか。ビクビク。
「一人です……」
「はい、どうぞ」
あ、座っていいのね。店内を見るとテーブルが二つ。ベンチもあるが、指定がないのでテーブルを使わせてもらおう。
テーブルにお品書きがあった。本日の珈琲、ブレンド珈琲、アイス珈琲。三種類!? こだわりを感じる。ケーキ的なものはないらしい。まぁ、いいや。
おっちゃんが水を持ってきてくれた。
「ブレンド珈琲でお願いします」
「はい、ブレンド」
ちょっと無愛想だが、いい人そう。
待っている間、座ったまま店内を見てみる。豆がズラッと並んでおり、色は焦げ茶ではなく白い。生豆というやつだ。さっきから機械音が聞こえる。お店で焙煎してくれるのだろう。匂いが濃いわけだ。
「こんにちはー」
常連っぽいおば様が来店。
「いつもの。ゆっくりでいいですよ」
やっぱり常連さん。豆を買いに来たらしい。おっちゃんも聞き返すことなく珈琲を準備している。
ここの豆は「豆」だけだろうか。「粉」にもしてくれるのだろうか。一時期は豆を買って家でガリガリ粉砕していたHELIOS。アウトドア用のお手軽な珈琲ミルを持っている。地味に握力が必要だが、一人分淹れるのに便利だ。
豆ほしー。けどなー。
お茶ストックを思い出して諦める。引き出しにパンパンである。
「お待たせしました」
ブレンド珈琲がきた。テーブルには砂糖。ソーサにはポーションタイプのコーヒーミルク。
普段HELIOSは珈琲に少量の砂糖を入れるのだが、このままブラックで飲もう。美味しい珈琲は砂糖がなくとも美味しいのだ。
今日は白いニットを着ている。しかも、新品! 絶対にこぼしてはならない。地味にドジっ子なので、カップは両手持ちでいく。いい香りだぁ。猫舌なのでやけどしないよう少しだけ飲む。
うんうん。砂糖いらないやつ。
程よい酸味。苦すぎない絶妙なライン。考えられたブレンド。この店の味。
美味しいので、もう一口。カップを置いて、香りの余韻に浸った。この美味しさで三百円は凄すぎる。
安いのに美味しい珈琲が飲める店。他に店舗はあるのだろうか。この辺りは通過するばかりで降りることは少ない。
スマホで検索。意外と店舗がある。
珈琲が猫舌にも優しい温度になった。
窓の外を見ると、人通りは多いのに誰も店には来ない。外からの暖色の光と店内の茶色。この空間を独り占め。
画面の左端を見ると時刻は十四時。え、十四時? 暖色の光で夕方の気分だった。日が落ちるの早すぎる。
グラスに入った水を飲む。一度リセットしよう。カフェインの利尿作用もあるし。
再び珈琲を飲みながら、店内の生豆を見る。十種類以上はある。生豆の香りってどんなのだろう。匂いしなさそう。
半分まで珈琲を飲んだ。ここで砂糖を入れる。いつもの飲み方。砂糖は少なめで。
珈琲好きの知人が言っていた。「珈琲は少し砂糖を入れると美味い」と。HELIOSもまろやかになるので好きなのだ。
うん、これも美味しい。きっとミルクを入れても美味しいのだろうが、今日はこのまま飲み干そう。
カップを持って飲んでいると、おっちゃんと目が合う。ゆっくり飲みすぎだろうか。すみません。
あ、おっちゃん端っこに行っちゃった。目が合わないポジション。気を遣わせたかもしれない。では、ゆっくり堪能させてもらおう。
疑問なのだが、生豆を扱う利点ってなんだろう。焙煎する手間があるだろう。焙煎したてが美味しいのだろうか。ガスがどうのこうの聞く。
スマホ登場。気になったことは忘れないうちに調べるべし。
ほう。生豆呼びでもいいのか。えっと、利点は……。長期保存が可能。常温保存ができる。なるほど!
店内の生豆を見た。常温保存だから、そのまま置いてある。
勉強になったなぁ。
最後の一口を飲み終えた。余韻に浸ってからレジへ向かう。ついでに生豆を見た。原産国が書かれている。自分はどこの国の豆が好きなのだろう。いつか言えるようになりたいものだ。
お会計を済ませ外に出ると、入れ違いでおじいちゃんが入店した。タイミングすごい。来るべくして来た気がするな。
おじいちゃん、美味しい珈琲を飲みたまえ。お先に失礼。
お読みいただきありがとうございました。
歌っていた少年。作り話ではありませんꉂ(ˊᗜˋ*)
いいことがあったのでしょうね。
今回お邪魔したしたのは「まめや総本店」さんです。
ちなみに、当時のHELIOSが珈琲豆を買っていたのはKALDIさん。
どんな豆か説明が書いてあるので初心者でも選びやすいです。豆のままでも、お店で挽いてもらうこともできるのが嬉しい。なにより店員さんが優しい。
あー。KALDIのグリューワイン飲みたいなぁ。
次話はほっこり面白い体験談を。