第十五話 リベンジわらび餅と
再び訪れたこのチャンス。逃すまい。リベンジじゃ。
二十分かけてバス停まで歩き、それを逃せば明日までバスがない恐怖を乗り越え、仕事帰りに温泉街にやってきました!
目的は甘味! プルンプルンのわらび餅!
前回は営業時間三十分前で閉店だったが、今日は一時間前に到着だ! 絶対に行けるッッ!
バスを降り、重たい仕事道具はロッカーへ。早く、早くとサクサクと坂を登る。観光客をどんどん抜かす。
おっと、忘れてた。生炭酸せんべい。本日は終了したらしい。よかろう! わらび餅さえ食べられたらいいわい!
店の前に着くと甘味の看板が出ていた。やったぁぁぁ〜勝ち確だ。安心して看板前で足を止める。
「わらび餅おいしそー」
背後から男性グループの声。看板を見つけたくらいで喜んでいる場合ではない。席に着くまでは安心できない。
オラァと急いで入店した。
「いらっしゃいませ〜。お好きなお席にどうぞ」
空いている。座れる!
入口の戸を閉めようとするが、風が強く暖簾が入り込んで閉めるのを邪魔する。手でエイエイ押し込む。店員さんに見られたの恥ずかしい。
もちろん一人で来たのだが、空いている席は四人席。遠慮気味に座らせてもらった。
横を見ると男性が一人。良かった。おひとり様が他にもいる。心強い。
「ご来店ありがとうございます」
お姉さんからメニューを渡された。お茶と和菓子のセットもいいなぁ。まだ3月。寒い日のぜんざい最高。でも……やっぱり。
「わらび餅ください」
抹茶味もあったが、プレーンを頼んだ。事前調べでは黒胡麻わらび餅もあったが季節限定らしい。
店内は高級感のある和テイスト。クラシック音楽が流れている不思議。
「ん?」
カウンターからタプタプと音が聞こえる。お姉さんが卵をとくような仕草をしている。わらび餅は注文がはいってから練りあげられるという。タプタプタプタプ。おお〜。練ってくれているのだね。お姉さん、腕しんどくないですか?? 火傷しないでね。
友人がわらび餅を作ったとき力仕事だし火傷したと聞いたので心配になる。まぁ、友人は授業で作ったので量が違うのだけれど。
「お待たせしました」
怪我なくわらび餅が練りあがったらしい。
うおぉぉ。
氷水が張られた器に七つのできたてわらび餅。セットのほうじ茶。きな粉と黒蜜。
「わらび餅は甘さがついており、そのまはまでも美味しく召し上がっていただけます。お好みできな粉と黒蜜をおかけください」
承知しました。テンション爆上がりです。
ほうじ茶を飲んで落ち着こう。ふむ、個人的にはもう少し香ばしい方が好みだ。
さて、動画の用意。カメラ起動。
このわらび餅を知ったのはお客様の投稿。同じように動画を撮ってみようじゃないか。
氷水に浸かったわらび餅を小さな網ですくう。このフルフル感。湯豆腐を連想する。
撮影中のわらび餅がキラキラ光る。クッ。本当に光る。天井の証明を反射している。ば、映えぇ〜。プルンプルン。
すくえ……ない。ちょ、おお。動画撮りながらだから難しい。よいしょ。すくい上げ小皿に落とす。素敵。
この見た目……何かに似ている。台湾で食べたバーワンだ。あれも美味しいんだよね。当時はパクチー嫌いで美味しいのに苦しんだ。パクチーを克服した今、もう一度食べたいッッ。
脳内映像から目の前の甘味に意識を戻す。
いかんと邪念を消すして箸を持つ。細い木の箸だ。こういうのもいいな。意外と使いやすい。マイ箸選びの参考になりま……思考うるさいぞ。
簡単に深呼吸。
まずはそのまま。口に含む。一口サイズだが丁寧に食べたい。半分で噛み切る。
柔らかい。これが、できたての柔らかさ。
和三盆の優しい甘み。涼やかで素晴らしい食感。あれ、夏来た? 川のせせらぎが聞こえるよう。
モチモチ。確かにこのままでいける。だが、出されたきな粉と黒蜜を試さず帰れまい。
二個目は簡単にすくえた。きな粉を少しだけかける。ハムッ。ふむ、香ばしさが合う。わらび餅がきな粉まぶされて売られていることに納得する。
「ぜんざい美味しかった?」
隣の女性組の声が聞こえてくる。質問した彼女はわらび餅を食べたらしい。聞こえるので感想を聞いておく。
「甘いの食べたから、お茶漬け食べたーい」
ぜんざい食べると塩気がほしくなるよね。分かる。昆布、漬物が添えられていたときの嬉しさよ。
三つ目をすくう。今度は黒蜜を。
この黒蜜、色が薄い。メープルシロップより明るい色。和三盆の黒蜜なのだろうか。
黒蜜はわらび餅を包む。わらび餅の表面がツヤツヤなので、できるだけ蜜が落ちないように食べる。
やっさし! わらび餅の美味しさを殺さない優しさ。
日本人ってこういう食べ物好きだよね。わらび餅、くず餅、くずきり。日本人で良かった。好みにドンピシャなのだよ。
似た食べ物、他国だと何があったか? 台湾の仙草ゼリーか? あれも美味しいよね。
疲れているのか思考の飛びが酷い。
四つ目はきな粉と黒蜜。両方かけても美味しい。
ほうじ茶でリセットしつつ、あっという間に七つの餅を堪能しきった。時期によってかき氷もあるようだ。
カウンターの茶臼を見る。抹茶で鮮やかな緑色。夏また来れたらいいな。今のところ依頼ないけど。絶対美味しいよなぁ。
店を出ると、練り物の天ぷら屋が賑わっていた。観光に来た中国人か、韓国人か。気になるなぁ。京都で食べたやつも美味しかった。甘味を食べたあとの塩味は最高である。まだ腹も減っている。温泉前にもう少し食べよう。
メニューを見る。チーズ。じゃがバター。エビ。どれも気になる。悩むのでフィーリングで決めよう。
「いかあげ一つください」
レジ横で蒸気がモクモクしている。これがいい。蒸したては食べたくなるのだ。蒸気の中から取り出される一本。手渡しでいただいた。
店前のベンチが空いたので座る。記念写真を撮ってパクリ。
熱い。プリプリ食感柔らかくて美味しい。旨みたっぷりだ。赤紫蘇を混ぜたような色。沢山いかを使っているのだろう。
食べる価値あり。他の味も気になる美味しさ。
子供の頃は興味なかったが、大人になって天ぷらの美味しさを知った。
練り物バンザイ。土井先生、美味しいから食べてくれ。
さっくり温泉に入って晩御飯を探す。お客様が投稿していたカレーうどん屋に行ってみよう。
店の中を覗くとBARのような雰囲気。男性客がカウンターで一人ビールを飲んでいるではないか。
おお……いけるのか? 行ってみよう。
「いらっしゃいませ」
カウンターに座らせてもらう。荷物はどこに置けば……隣の席でいいだろうか。混んできたら退けよう。
「こちらビールメニューです」
ガタイのいい店主だ。ベルギービールの品揃えがいいらしい。メニューを見るだけで時間がかかる。一杯二千五百円って何!? 楽しい。
なんとなく飲みたいビールを見つけた。
「オルヴァルください」
後に、家の近くで売っていることを知った。
料理メニューを見る。うどんが無い。どうやら昼のメニューだったようだ。であれば何かツマミを頼もう。
カウンターの向こうでビールが丁寧に注がれている。
「お待たせしました」
モコッとした泡。専用のグラスに注がれたビールが出された。高級感あるぅ〜。これで千円ならいいや。
飲んでみる。細かな泡。適度な苦味。フルーティーでもある。ゆっくり味わいたいビールだ。美味いっす。
ツマミに刺激の優しい葉わさびを食べていると急に混んできた。常連さん達らしい。
これは……荷物を動かさねば。
「荷物の移動お願いできますか?」
先に言われてしまった!
「はいっ」
勿論退けるとも!
「どうしたら……?」
荷物カゴもフックもない。椅子にかけると通行の邪魔だ。
「奥に置いてください」
「奥?」
ポカーンとしていると常連さんが案内してくれた。各種ビールグラスがズラリと並ぶ棚の前に置いた。
荷物を置き席へと戻る。
「ありがとうねぇ」
常連さんに会釈されたので、こちらも返す。こういう所で出会うオッチャンってら優しいよね。
食べやすいサイズの焼き鳥が来る頃には満席になった。
「お代はつけといてもらおうかなぁ?」
「今日は奥さん来ないんですか?」
ご新規が飲むには場違い感もあるが、こういうの会話を聞けるのは楽しい。お邪魔させてもらっている感はあるが、常連さんがいる店というのは美味い。間違いない。だって、焼き鳥美味しいもの。
この日は楽しみきったと言えるであろう。わらび餅を食べ、温泉も入った。リベンジ成功である。
お読みいただきありがとうございました!
今回お邪魔させていただいたのは「猪名野茶房」「汸臼庵」「ミソノ」です。
帰りの待ち時間で焼酎BARにもお邪魔しました。
次話、鼻をいじめます。




