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HELIOSはおひとり様  作者: HELIOS
11/24

第十一話 プライベートサウナ

 デトックス効果があるというサウナ。熱気がすごい熱い部屋。

 そこで見る普段見ないテレビが地味に面白かったりする。人々の世間話も聞こえ、裸の人間が一室に。日常感と謎の一体感がある。

 それが心地よいときもあれば、騒がしく嫌なときもある。


 サウナブームで「サ活」という言葉も生まれている。あの熱と水風呂。HELIOSはすこーし苦手である。

 でも、入る。温泉ついでに入ってしまう。長く入ることはできないし、水風呂に肩まで浸かるのには勇気がいる。

 サウナより岩盤浴が好き。

 なのに今宵挑戦するのはプライベートサウナだ。

 ソロ活のドラマで紹介されており、寝ころべるサウナに興味が湧いたのだ。狙うは完全個室。調べると行けそうな日があるではないか。


 仕事を終え、晩御飯に魯肉飯を食べ、早速お店に向かった。事前予約はしていない。到着時間が不明だったのだ。予約いっぱいなら次回にしよう。

 地図を頼りに歩いているとお店が急に現れた。看板によると、今日は空いているらしい。いけそうだな。

 店に入ると男性店員さんが慌てたように迎えてくれた。

「えっ、あ。初めてですか?」

「初めてです」

「ご、ご予約は……」

「していません」

 予約が無かったから、突然の来客に驚いているようだ。

「お近くにお住まいですか?」

「え?」

 普通に遠いですけれど。

「……仕事ついでに寄らせていただいたんです」

 なんだこの質問。

「えっと。何時からご利用しますか?」

「何時からいけますか?」

 落ち着きない様子で電子機器を操作する店員さん。すっかりサウナ気分だが、予約空いているだろうか。あまり遅い時間になるならば諦めねばならない。ドキドキ不安。

「準備するので三十分後の十八時半で……」

 ああ、だから近くに住んでいるか聞いたのか。今日は空いているようだし、サウナを温める時間がいるのだろう。

 ん? 現在時刻は十九時前。一時間まるっと時間を勘違いしているようだ。だが、わざわざ突っ込むこともないだろう。

「お部屋はどちらにしましょう?」

 下調べはしたが、部屋の名前は覚えていない。

 店員さんがファイルを開いて見せてくれる。

 テレビモニター付きの白い部屋。水風呂付きの黒い部屋。利用希望は黒い部屋だ。指をさしてお願いする。

「ご利用時間は?」

「三十分で」

 初心者なもので、短時間をセレクト。

「では、十八時半にお待……あっ。十九時半にお待ちしております」

「よろしくお願いします」

 時間を潰すべく、その辺をブラブラ歩いた。次回からは予約だな。



 時間ピッタリにお店に戻ってきた。入るとスリッパが用意されている。準備万端ってことですね。

「こちらにおすわりください」

 椅子に座るとバインダーとペンを渡された。利用規約だ。そりゃ脱水症状による事故もあるだろう。注意事項を読み、氏名と住所を書き込んだ。

「オプションが、ございまして。なにか、ご利用されますか?」

 話しにくそうな話し方をする。緊張しているのか、吃音症のけがあるのか。HELIOSもたまに吃音症ぽくなる。気持ちは分かる。気にしないぞ。ゆっくりやりたまえ。HELIOSの表情筋は死んでいるが心は仏だ。

 オプションの紙に視線を落とす。

「ほうじ茶ロウリュウってなんですか?」

「お湯ではなく、ほうじ茶を石にかけていただくとッ。ほうじ茶の、香りがッ」

 言葉が出にくいのだろう。ボディーランゲージで蒸気を現している。面白いし、仕草が可愛いな。

 ほうじ茶の香り好きだけど……。

「アロマがいいです」

 ロウリュウ用の水に香り付けができる。六種類の香りから選べるらしいのだ。

 戸棚を開ける店員さん。サンプルがあるらしい。小さなボトルを渡された。

「これがユーカリです」

 うんうん。

「こちらシトラス」

 渡されたボトルには【スパイス】と書かれていた。ウィンタースパイスと間違えたのだろう。突っ込まないぞ。分かればいいのだ。

「こちら、シトラス」

 あはは、本物が来た。

「こちらが……アークティックパイン」

 聞きなれない名前。ほう、意外と好きな香りだ。これにしよう。

「あと、LINE登録していただきますと」

「登録済みです」

 事前にしておいた。クーポンが届いているので見せる。追加オプションが可能だ。サウナハット、ポンチョ、ちょっといいドライヤーなどが選べる。

「ポンチョがいいです」

「何色がいいですか?」

 店員さんが手にしているのはサウナハット。

「ポンチョ……を」

「え? ああ! すみません」

 面白い。

 タオルセットを貰い、利用方法を教えてもらい、黒い部屋に案内された。ドアの鍵を閉め、いよいよサウナタイムが始まる。


 黒基調の脱衣所。大きな鏡と洗面所。個室トイレもある。

 ガラスの戸の先にサウナ室、水風呂、サウナチェア。

 撮影に使えそうなくらいオシャンだ。無駄がない。

「いいね、いいね」

 テンション上がってきた。

 服をハンガーにかけ、衣服を脱ごうとした。洗面台に機械が置いてある。

「これって……」

 やり方が書いていそうなファイルを見つけた。

「これはッ!? 好きな音楽を流せるってやつぅぅ」

 やりたい。リラクゼーション向きの音楽を流したい。この洗礼された空間。悪くいえば殺人事件が起こりそうな静けさがあるのだ。ドラマの冒頭遺体発見シーンに使われるやつ。

 説明書通りに操作した。

「…………ん?」

 できん、できんぞ。スイッチを入れて手順通りに進めるが……おにーさーん!?

 内線で聞くことはできる。が! 時間が勿体ない!! 諦めろ!

「三十分で足りるか心配になってきた」

 服を脱ぎ、ポンチョを着る。ビニール素材かと思ったが、固めの汗をかきやすそうな素材。

「あっ」

 サウナ前にシャワー浴びなくちゃ!

 オルゥラァァと急いでポンチョを脱いだ。初心者だもの、ミスはある。

 水などの荷物を持ち、照明を暗めに調節してガラスの戸を開けた。

「おっ」

 ここにも変な丸い機械が二つ。荷物を置いて機械を確認する。

 こちらはサーキュレーター。突風ではなく優しい風の演出を希望する。

 もう一つは? 星のマークがある。

「プラネタリウムじゃ!? わーい」

 ……点かねぇ。何故。

 機械に嫌われる体質だからかなぁ。親いわく近くにいると電波が悪くなったり、電子機器が壊れやすいらしい。最近はマシだったのに。

「星を見ながら整いたい……」

 ボタンを全部押していくと、自然音が流れ始めた。

「音楽これでいいじゃん」

 やったぜ。好きな音を選んだ。リラックスできそうだ。

 シャワーを浴びる前に、こぼしそうなのでサウナ用の水桶にアロマを入れた。アロマ水の爆誕である。

 サウナ室で使うので、中に入れることにする。

「おお」

 熱くないサウナ室。檜のいい香り〜。

 そういえば、サウナ室が乾燥しているから二杯くらい石に水をかけるよう言われていた。先にかけておこう。

 部屋の隅に機械があり、上部に丸っこい石が乗っている。風呂屋のと比べてコンパクトだ。

 柄杓を使い、石にアロマ水をかけた。ジュワァァッ、と蒸気が上がる。

「わぁ〜」

 一気に熱くなった。石はもう乾いている。

「これは期待」

 もう一杯かけてサウナ室を出た。


 シャワーで体を洗い、体の水気をタオルで拭く。拭くと汗をかきやすくなるらしい。

 再びポンチョを着て、水分補給!

 っし、行くぜ!!

 蒸気で満たされたサウナ室に入った。あっちー!

 室温は八十度ほど。申請すると百度まで上げられるらしい。初心者は八十度で十分です。

 座る場所は二段になっており、上部では寝転ぶことができる。和細工の枕があるので、タオルを敷いて寝転がった。これがやりたかった!

 身長高い人は足伸ばしきれないのでは? 足を曲げて寝転ぶのだろうか。HELIOSはゆとりがあって伸び伸びできる。

「いいねぇ〜」

 肉まんのように蒸されている!

「あれ?」

 首がモコモコする。このポンチョ、フード付きではないか! サウナハットいらない。嬉しい。

 フードを被って、もう一杯アロマ水を石にかけた。合計三杯もかけると蒸気がすごい。

 寝転ぶ。あっつー。調子乗りすぎたかな。足の指まで蒸気が降りてきて熱い。次に顔も熱くなって、フードを目の辺りまで引っ張った。口元にタオルをかける。

「熱いけど楽しいかも〜」

 自由に声を出せるのいい。ウハハハ笑っても大丈夫。

 熱さに慣れたので、タオルを回して上部に溜まった蒸気を部屋中に行き渡らせる。セルフロウリュウだ。

 昔、ロウリュウのイベントに参加したことがある。タオルを振る人を熱波師という。自在にタオルを操る姿はカッコイイ。あれは真似できはしないが、一人なら適当に振り回すだけで十分だ。

「あちち。はは、あつーい」

 サウナを飛び出たいくらい熱い。でも気持ちいいのが不思議。もう汗をかいている。

「はー」

 目を瞑る。

 ん? アークティックパインの香りするか?

 アロマ水を石にかける。

「んー?」

 檜の香りに負けているというか、一体となっているというか。結果いい香りだから良し!


 サウナを満喫していると、脱衣所の電話が鳴った。残り時間十分の合図だ。

 いかん、水風呂に入らねば!

 サウナ室から出て、水風呂を見た。はられた水がなんとも綺麗だ。冷たいのが見ただけで分かる。

 冷ためのシャワーで汗を流し、水風呂に手をつけた。

「冷た!」

 え? 冷たすぎない? 氷入れて冷やしてます? これは無理だ。

 サ活する人は、これくらい冷たいと嬉しいのだろうか。

 底に座るための段差がある。この温度で肩まで浸かれと?

 ちいかわちゃんを思い出して頑張ろうと両足を入れてみた。痛い。足で水をかき混ぜる。どんどん体温が奪われる。そりゃタイタニック沈没後の生存者少ないわけだ。これは泳げない。もっと冷たいだろうに。死ぬ。

「うん、無理だわ」

 ヒートショック起きても怖いし止めておこう! 適度に冷えたしな!

「おっと、座ってみないと」

 サウナチェアに座って深呼吸をした。三十分で満喫できるものだ。

 とろんとしてきた目をかっぴらく。急げ、急げとサーキュレーターと音楽を消した。

 着替えて、爆速で髪の毛をドライヤーで乾かしていると退出時間を知らせる電話が鳴る。退出時間になんとか間に合った。

 スッキリして笑いそうな顔を、恥ずかしいので引き締める。キャッシュレスなので、お会計はスマホ決済にした。完全キャッシュレスなのも、働く側としてはいいだろう。

「ありがとうございました」

 いい蒸気でした。

「お気をつけて」

 外に出ると優しい夜風が吹いている。これいい感じ。ととのうー。

 電車での帰り道。もう眠たくて。サウナ効果だろうか。その日はよく眠ることができた。

 お読みいただきありがとうございました!

 今回利用させていただいたのは、兵庫県三田「プライベートサウナ RE:NOLLA」さんでした。


 不思議なんですけれど、サウナの脱衣所で爪が割れに割れました。

 サウナに負けるくらい爪が弱すぎる?


 先日、全話で登場した盛岡冷麺専門店にて太麺を食べてまいりました。

 美味しかったです!


 次話は美術鑑賞。

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