第十話 盛岡冷麺専門店
本日のランチにかけられる時間三十分。コンビニ飯……は気分上がらない。近くですぐ食べられるもの……麺? ラーメン、駅そばとか。
人に言われて気がついたのだが麺好きである。麺というか麺状のもの。もずく、ところてん、葛切りとか。すすりたいわけではない。なんか好き。
というか日本人って麺好きじゃない?
何か麺食べたーい!
そんな時に見つけたのは「盛岡冷麺専門店」だ。これは気分が上がる。
冷麺が好きなのだ。焼肉とコリアンタウンで有名な鶴橋で、大分旅行の晩御飯に冷麺をセレクトするくらいだ。
特に夏は求めてしまう。自販機で冷麺のスープが販売されたときも探して買った。スープだけでも欲が落ち着くと知り、スープだけ買って飲んだりもした。しかし、冬になると最寄りのスーパーから冷麺が消える。冷麺に飢えていたので、是非とも食べたい。
初めて入るビル。存在は知っていたが飲食店が多い。夜は飲み屋として賑やかになりそうだ。少し歩き回ると、お店を見つけた。最近オープンしたのだろうか。他店と比べて綺麗である。混んではいないようだ。ラッキー。
扉が無いので、暖簾を潜ると……おっと、これは。
「いらっしゃいませー!」
貸切だ。すぐに調理してもらえるので急ぎの身としては助かるが緊張する。店員三人の視線が集まる。ギャア。
お店は厨房が中央にあり、ぐるりと席が囲む。体格のいい大将だ。
「お荷物こちらにどうぞぉ」
美人なお姉さんが荷物置きを持ってくれた。
「ハンガーは後ろにあります」
探す前にお声がけッ。
「ありがとうございます」
めっちゃ親切じゃないか?
お優しい。陽のパワーを感じる。午前の仕事を終えた精神に染みる。
「ご注文お決まりになりましたらお声がけください」
椅子に座ってメニューを見る。盛岡冷麺は細麺、太麺が選べるらしい。暖かい冷麺もある。温麺ってやつだ。大分旅行のときに存在を知ったが食べたことはない。うーん、今の気分は……。
「麻辣冷麺ください」
また辛いの頼んじゃったよ。違うんですよ。花山椒に惹かれたわけ! 山椒好きだから。……誰に言い訳してるのか。
普通の盛岡冷麺も、今度食べに来たいなぁ。スープの旨味がたまらなく好き。水キムチ最高。キムチとお酢との相性も抜群にいい。健康にいいから、美味しいからと、いつも多めに酢入れる。
料理の待ち時間で次の現場への道を調べる。残り二十分だ。間に合いそう。
「はいっ、どうぞ」
目の前なのに大将から店員さんへ、そして私へと運ばれる。丁寧だぁ。好き。
お盆に乗って運ばれてきた麻辣冷麺。ネギが立体的に乗っている。白髪ネギと青ネギ。しまった。生ネギは頭痛くなるのに。冷麺に浮かれすぎていた。悪いが残しつつ食べよう。
そして、ゆで卵と胡瓜。その上から赤い麻辣ソースか何かがかかっている。さすが専門店。綺麗なビジュ。
「具が細かいので、穴あきレンゲをお使いください」
普通のレンゲと共に、コーンラーメンとかで見るレンゲが用意されている。
「こちらは島とうがらしです。相当辛いのでお気をつけください」
お盆の上には小瓶。辛さ調節できるのは嬉しい。おすすめの薬味は試したい派なので、後ほど絶対に入れよう。
「いただきます」
普通のレンゲを持つ。銀色なのが韓国っぽい。盛岡冷麺だけど。
まずはスープから……ラーメンみたいな飲み方になる。
「うん」
冷たい。程よい辛さ。山椒の香りがいい。スープの旨味を引き立てている。当たりだったようだ。
トッピングのネギを倒すと、トマトの角切りと牛そぼろを見つける。だから穴あきレンゲなのだろう。辛さ×トマトいいね。牛そぼろもタンパク質がとれて嬉しい。
お楽しみの麺にいこう。箸を割って麺を掴む。おお〜、縮れ麺。白く、少し透き通っている。美しい。細麺と書いていたが、十分太くないか? 引っ張ると少し伸びる。弾力がある。
期待に胸を弾ませ、麺を食べる。プルトゥルもきゅもきゅ。この噛みごたえが好きなのだ。すごくいい。理想な噛み心地。苦手な人はゴムのようで食べられないと言いそうな弾力。
盛岡冷麺うまい! 盛岡冷麺は小麦を使って作られるらしい。うどんのコシとは全然違う。
蕎麦粉で作られる韓国冷麺も好きだ。こんにゃく色の麺である。盛岡冷麺より細いイメージだ。
あー、時間があればゆっくりもきゅもきゅしとくのに。急ぎなのである程度噛んで飲み込む。そしてスープ。トマトと牛そぼろも食べ、胡瓜でサッパリと。
美味しいな。空いているのが不思議なくらい。宣伝したい。
本場の盛岡冷麺はもっと美味しいのだろうか。それとも現地の味を再現できているのか。
韓国冷麺は韓国で食べたことがあるけれど。空港内で食べたからなのか微妙であった。観光客向けといったところ。漬物が最高に不味い。びっくりした。
ちなみに空港内は化粧品臭。帰国時の日本は醤油の香りは分からなかった。
半分まで食べ進めると女性客が来た。良かった。ここ美味しいので食べてください!
新規来店のくせに偉そうである。
「盛岡冷麺、太麺で」
太麺……。食べている細麺を見る。これ以上太いってどんなの? 噛み切れる? もっと、もきゅもきゅできる? 次ここで食べるときは盛岡冷麺の太麺にすると決めた。
暇だからだろう。店員さんが表に立って客呼びをするらしい。
おっかしいなぁ。HELIOS招き猫体質なのに。
気になる人はいるようだが去っていく。知らないと入りにくい気持ちは分かるけどね。「美味しいですよ!」なんて心の中で呼びかけておいた。
そろそろ味変しよう。島とうがらし。小瓶の蓋を開けると、小さなスプーン。入れすぎ防止だろう。レンゲを使った後だと妖精のスプーンを使う気持ちだ。一杯だけ入れて混ぜる。スープを飲むと……確かに一気に辛くなる。島とうがらしすごい。まだ平気なのでもう一杯いれた。スープの旨味がグンと引き立つ気がする。薬味に島とうがらし選ぶのナイス。コーレーグースも好きだが、このスープの邪魔をしないのは島とうがらしだろう。
「〜〜しといてくれる?」
大将が店員さんに指示を出した。
「〜〜で、いいですか?」
「センスは任せるわ!」
明るい会話。大将もいい人そう。一度入れば来やすい店だな。あまり使わない駅なのが残念。
麺を食べ尽くした。もっともきゅもきゅしたかった! どうしてこんなに早く食べてしまったんだ! 急いでいるからだ! 美味しかったからだ! 謎の後悔。
ううっ、と穴あきレンゲで底をすくう。トマトと牛そぼろがすくえた。たくさん沈んでいることに喜びつつ食べる。このチマチマ感がおいちい。スープも完食した。
三十分でここまで満足できるなんて神。
「ごちそうさまでした」
お会計をして、「大将美味しかったでっっす!」と心の中で感謝した。一人だと基本無表情のHELIOS。こんなに喜んでいたとは知られないであろう。だからこそ、ちゃんと「ごちそうさま」と伝えてから店を去るのだ。
店の外に出ると、昼から飲んでいる人も多い。〆に盛岡冷麺どうですか? と機嫌良さそうに歩いてみせた。
お読みいただきありがとうございました!
今回お邪魔したのは「CHILLRI ちるり」さんです。
最近インスタグラマーが紹介していて嬉しくなりました。
鶴橋のお店は「冷麺館」です。
皆さんはお気に入りの冷麺ありますでしょうか。
作者お気に入りは「サン 冷麺スープ」で、麺は別売り。このスープ酢があうんです。
冬も食べたいのに最寄りのスーパーから姿を消してしまいます。早く暖かくなれ。
こちらも韓国ですが「ふるる冷麺」も細麺で量もあって好きです。
自販機で売られていのはこちらのスープ。考えた人どんな方でしょうね。冷麺好きとしては握手したいくらい嬉しかったんです。
ドリンクとして飲みやすいよう薄めに作られており、夏の塩分補給にちょうどいい。スポドリもいいんですけれど、旨味と一緒に味わえるのがいい。
どうか今年もお目にかかりたい。買うので。
次話、蒸される話。