第一話 ヤムウンセン
今夜は晩御飯を食べて帰ると決めていた。出張先近くに本格タイ料理を見つけたからだ。
「ヤムウンセン〜」
なんて言いながら店に直行。誇張じゃなく、本当に声出しました。恥ずかしい。言ってから背後確認したよね。
そう、お目当てはカオマンガイでもトムヤムクンでもない。ヤムウンセン。ご存知だろうか。甘辛い酸味のある春雨サラダだ。ずっと食べてみたかった!
知ったのは激辛グルメドラマ。むせ返るほど辛いサラダとはなんだ!? という興味。タイミングが合えば食べようと狙っていたのだ。ようやくその日が来た。今日は寒いから帰ろう、なんて考えは無い! お腹空いた!!
マップを頼りにお店に着いた。タイの国旗が掲げられている。二階らしい。ここからではお店の中が見えない。よく知らない土地。一人で入るには勇気がいる。
一階には看板とメニュー表が置いてあった。チラリ。
「ここにする」
おひとり様ディナーセットがあるではないか! 色々食べたいHELIOSにとっては嬉しい。何よりヤムウンセンがセットに含まれている!!
というわけで入店。うわぁぁ、貸切だ。
お店の人に指を一本立てる。カウンターに案内された。
店内にはアジアンな音楽が流れている。歌詞の意味は分からないけれど明るい曲。いい感じだ。
メニューを手にとる。下で見たけれど、もう一度じっくり確認。サラダ、スープ、メイン料理、ドリンクで、ディナーセット千五百円。かなりいい。
サラダは二種類から選べる。ソムタム━━青パパイヤサラダも好きなのだが、絶対ヤムウンセン。
スープは定番トムヤムクンにする。酸っぱ辛いエビのスープ。世界三大スープの一つである。
メイン料理も定番カオマンガイにした。辛いサラダ、辛いスープなので優しいものを選んだ。
ドリンクは仕事終わりの生ビールに惹かれつつ、スイカソーダを選ぶ。グァバジュース、ティーソーダと迷ったが……。スイカジュースは飲んだことがあっても、スイカソーダは知らない。飲んでみよう。
メニューが決まった。女性店員さんが近くにいたので声をかけずとも来てくれる。店員さんが伝票に注文を書き込む。
「ヤムウンセン、トムヤムクンの辛さどうされますか? 普通ですか?」
フフン、そこは下調べ済みだ。辛さは三段階。しかし、普通とは?
「普通はどのくらいですか?」
何段階目? 二かな?
「辛さは一〜五で、普通は一です」
普通が一!! しかも五段階!? 増えてるじゃん!
下調べとは。
トムヤムクンなんて頼んでいるが、HELIOSは辛さ耐性に自信が無い。そのくせ本場の味を求める。一が普通ならば……。
目的を思い出そう。食べたいのはドラマでの激辛ヤムウンセン。
「ヤムウンセンが三。トムヤムクンは二でお願いします」
ひよったか? いやいや。タイ人の辛さ耐性を考えたまでよ。二と三でも十分辛いはず。
以前タイ料理屋で、友人の目の前でグリーンカレーに苦しんだことがある。味を楽しむ余裕なぞない辛さだった。
今日は辛い料理二品だぞ。安全にいこう。
「パクチーはお入れしても大丈夫ですか?」
おお、そこまで聞いてくれるのか。好きなのでコクンと頷いた。
パクチー苦手な人多いよね。実はHELIOSも食べられなかった時期がある。嫌いな食べ物代表としてパクチーをあげたくらいだ。嫌いなのに台湾旅行に行ってパクチートラップにかかりまくった。あれにもパクチー、これにもパクチー。アイスにもパクチーは驚愕したな。
食べられるようになったキッカケは「パクチーは爽やかな香り」という紹介を見たこと。爽やかとは? と食べていたら爽やかさが分かって好きな香りとなった。辛いものにパクチーはベストマッチ。
パクチーが食べられると、香辛料が効いたエスニック料理は全般に美味しく頂ける。
外の景色を見ながら空腹を感じる。そういえば、お昼食べ損ねたのだった。
少ない時間でも駅蕎麦なら食べられるかと思ったが、慣れない地域の電車乗り換え。思いっきり反対のホームにいた。
何も食べないよりは、と自販機を見るとコーンポタージュ。トロミが程よく腹を満たしてくれた。
お昼ご飯コンポタの私は空腹であった。
お料理を待っていると来客があった。ご夫婦だろうか。
「〜〜〜〜?」
「〜〜〜〜!」
聞こえたのは外国語だ。タイ人っぽい! 現地の人が食べに来る店! これはもう当たりだろう。期待アップ。
「スイカソーダです」
ドリンクが運ばれてきた。イタリアンソーダか!
フレーバーシロップを炭酸水で割った飲み物。
スイカ果汁に炭酸を想像していた。お馬鹿さんめ。
シュワシュワ炭酸水が入っているグラスの底に、かき氷のイチゴシロップのような赤。綺麗だ。イタリアンソーダ好きだし、スイカ味は初めてなのでナイスセレクト。
「よく混ぜてくださいね」
心の中で返事をし、ストローで赤いトロトロを混ぜる。綺麗で勿体ないが、美味しく飲むには混ぜなくてはいけない。粘度が高め。うーん、混ざらない。オラオラオラ。
完璧に混ぜる必要もないので、ストローの先を底から二センチほど浮かせて飲んでみる。
「おいしー」
好んでスイカを選んでこなかった人生だが、今夜は選んで良かったな。
「お待たせしました」
お料理早い! 感謝!
目の前に置かれたトムヤムクン、カオマンガイ。そして……ヤムウンセン! わぁ〜!
「こちらのソースもお使いください」
四種のソースも置いていかれた。おお。こちらは下調べ通りだ。
えへ。さて。箸を割り、いただきます! ヤムウンセン!
まずは見た目を楽しむ。細い春雨にパクチー。大きめカットのイカ。ミニトマト。ビジュアルがいい。ドラマでも言っていた。
どれ、と箸で一掴み。おっと、柔らかい。え? もしかして……。ヤムウンセンって温かいサラダなのか!? 知らなかったー。勝手にヒンヤリ系だと思っていた。
驚きはしたが、むしろ期待値は上がる。念願の一口目パクリ。
「これだぁ〜!」
甘辛い。ナッツも入っていて香ばしい。イカの旨み。パクチーの爽やかさ。良いねこれ。……あれ? 意外と辛くないぞ‼️
ドラマのようにゴッホゴホならない。これは五でもいけただろう。でも、美味しいから初回はこれで良いのだ。パクパク頂ける。
ヤムウンセンを食べ尽くす前にトムヤムクンへ移動する。辛さは二段階目。こちらも辛さ足りずか……?
レンゲでスープをすくう。大きな海老が入っていた。嬉しい。キノコが多めだ。季節を意識?
キノコと真っ赤なスープを一緒に飲んでみた。
ピリ辛で美味しい〜! 辛さベスト!
辛いヤムウンセンが食べたかっただけなので、トムヤムクンはこれでいい。
メインに参ろう。カオマンガイ。
盛られたお米の上に蒸し鶏。そこに茶色のタレがかかっている。キュウリとゆで卵付きだ。
まずは薄く茶色がかった米だけいただく。鶏ガラスープで炊かれたお米は優しい味。正直このままお米だけ食べていられる。作りたい欲求すら湧き出るではないか。
まぁ、お米だけ食べて蒸し鶏を食べないわけにもいなない。一緒に食べると美味しいと知っているのだ。食べますとも。
スプーンに上手くお米とタレがかかった蒸し鶏を乗せ、一緒に口へ運ぶ。
はい、美味しい! 知ってた!
ここで満足するなかれ。四種のソースがあることをお忘れか。無くてもいいソースだが、提供されたからには試したい。しかも、お店で手作りだぞ。
ソースはオリジナル、定番、ベーシック、スイートチリ。説明文をよく読む。オリジナルはお店の味。定番はタイで人気の味。ベーシックは辛くない。スイートチリソースは甘さと辛さがプラスされるという。
順番にかけてみた。どれも美味しい。個人的に定番がカオマンガイに合うな。
このソース達。生春巻きを頼んでも楽しめそうだ。
スイカソーダでお口をリセット。付け合せを食べ忘れていたのでキュウリを一つ食べる。
「んっ!?」
スイカを強く感じた。
あ、そうか!
もう一度スイカソーダを飲んで、キュウリを食べる。同じウリ科。スイカの皮の辺りをムシャムシャしている気分だ。
スイカの漬物好きなんだよなぁ、なんて考えながら美味しく食べた。
「ごちそうさまでした」
おなかいっぱいになった! 美味しかった!
念願のむせ返るヤムウンセンではなかったが、好きな味付けだと知れた。次は辛いのを食べてみよう。
お会計を済ませる。
「足元の段差お気をつけください」
ドアを開けてくれる女将さん。お優しい。
頭を下げて退店した。
唐辛子の効果か、お腹がポカポカ温かい。
明日の仕事も大変だ。美味しいものを食べるためにも頑張るぞー!
お読みいただきありがとうございました!
今回お邪魔したのは大阪「Thai Kichens」さんでした。
本編に出ていた激辛グルメドラマは「ゲキカラドウ」です。見ていると辛いものが食べたくなります。絶対に食べられないのに( ゜∀゜)アカーイ
もう一つオススメドラマがあります。「ソロ活女子のススメ」です。一人行動が好きなHELIOS。これやってみたーい! と参考になります。
ドラマのソロ活とはレベルが違いますが、楽しく書かせていただけたらと思います。
ソロ活を書こうというよりは日記。自己満ですね。
投稿遅いHELIOSですが、二話目は書き終わっています。よろしければお付き合いくださいね!