※ただしイケメンに限る
とある朝。
「ううっ、」
とある少年が目を覚ました。
少年の名は、大池 守雄。
名前もさることながら、高校2年になった今日まで、一度もラブレターももらったことがなければ、本命チョコももらったことがない。
まあ、要は、イケメンではないと…自分では思いたくないが…。
さて、そんな世の中に大量に居て、下手すると、グレて、某秋葉原アイドルに走ったり、X-Y平面で表されている少女に恋したりする人もいるかもしれない種族である、キモイ男子、普通の男子のひとりである大池に、その日は辛かった。
「ごはんができたわよ…。」
「は~い、今行く。」
そう大池が言って、部屋を飛び出して、食卓のある一階に向かった。
食卓では、父がテレビのニュースを見ながら、先に食事をしていた。
いつもは、父の見ているニュースなどにあまり興味がない大池だったが、大池をテレビに釘付けにするほどのビックニュースが流れたのは、パンをかじり始めた時だった。
「…今日から、女装子やキモオタクから被害を守るため、イケメン専用車の運行が開始されました。」
「ほう…。女性専用車両が拡大って、ええー。」
大池はパンを思わず口から落としてしまった…。
「ちょっとまてよ。いったいどういうことだ!!」
大池の反応に父親が言った。
「どういうことって、目の保養とか、痴漢防止とかのためだろ。イケメン専用車。しかも、1号車から6号車までらしいなあ…。イケメン専用車。」
「ちょっと、じゃあ、3両しか、一般車がないのか?」
大池は顔が真っ青になって、父親に聞いた。
「いや、あとの3両は、ウーマン・リーマン専用車だとか。」
「ええ、それって、イケメンじゃない学生は乗るなということか…。」
「そういうことじゃね。でも、俺の息子なんだから、イケメンだろ。」
「おいおい、父さんだって、イケメンじゃないじゃん。」
「そうか、これでも、昔はチョコ貰っていたぞ。」
「それは、義理チョコでしょ。」
大池は、大急ぎで朝食を食べると、学校にいくために駅に向かった。
駅の改札口をくぐって、下りホームにたった。
そして、すぐに電車が接近してきた。
「まもなく、1番線に、各駅停車、荻窪ゆきがまいります。ホームドアから離れてお待ちください。この電車の1号車から6号車は、イケメン専用車、7号車から9号車まで、リーマン専用車、10号車は女性専用車となっています。」
その放送を聞いて、大池は愕然とした。
「これじゃあ、俺、学校通えねーじゃん。」
電車のドアが開いても、大池は、乗ろうともせず、ひとり、ホームの上で立っていた。
電車が行くとすぐに次の電車がやってきた。
しかし、また、さっきの電車と同様、大池に乗るスペースはなかった。
『くそっ、このままじゃ、遅刻してしまう。別に、自分がイケメンじゃなくても、自称なら、乗っても大丈夫なんじゃないか?』
そう思った大池は、乗車位置にたった。
電車のドアが開いて、大池が乗り込もうとした。
『俺は、イケメンだ。つけ麺じゃない。』
そう心の中で叫んでいた。
しかし、世の中は、そう甘くはなかった。
ドアをくぐろうとした瞬間、冷めた視線が目の前に広がった。
乗客のすべての痛い目線が、大池の心を貫通しようとしていた。
それに大池は耐えられず、ドアから一歩も先に行けなかった。
そして、また電車は行ってしまった。
大池は、ホームに立っているしか方法はなくなってしまった。
『くそっ、なんで、イケメン専用車なんか作られたんだよ。べつに、今までにチョコを貰ったことがなかろうが、ラブレターをもらったこがなかったり、複数、女を股にかけていなくたって、悪いことなんか一つもないじゃないか。』
大池はずっとそれを考え込んでいた。
そして、ようやく朝のラッシュ帯が終わろうとしていた…。
女性専用車のように、朝しかイケメン専用車は設置されないのだ。ただし、リーマン専用車は一日中設置されているらしい…。
ようやく、大池は電車に乗り、学校の最寄駅についた。
『ようやく、学校の近くまでこれた。でも、みんな多分、遅れてくるよな…。』
そんなことを思いながら、学校のほうへ歩いていく。
しかし、おかしなことに、学校に近づいていっても、誰も同級生を見かけなかった。
それどころか、大池の学校の生徒はひとりも歩いていなかったのである。
『ええっ、ちょっと待てよ…。なんで、誰も歩いていないんだ…。魚沼だって、俺から見ると、ブサメンにしか見えないし、それ以外だっているだろ…。』
大池は思った。そんなことを考えていると学校の正門前に来た。
しかし、電車に乗れないで遅刻したのは大池ひとりだったのだ。
大池はクラスに入ると、すぐに魚沼に殴りかかるように聞いた。
「なんで、お前、学校に来れているんだよ。」
「だって、俺、静子に告白されたし…。」
その時、大池にショックの第二波が襲った…。
「まじかよ…。」
大池は、ふと、自分が夢の中でイケメン専用車の夢をみていたことに気づいた…。
「大丈夫??」
守雄の声を聞いて、母親が部屋に上がってきた。
守雄は、とてつもなく恥ずかしかった…。