本の中の異世界
異世界に行ける本__それを開けばあっという間に異世界へ___そして少年は、その本を手にする
友達は上から目線で大げさに言った。
「オレ、異世界いけるんだぜぇ?」
「は?ごめん私異世界そんなに好きじゃない」
男の友達はなぜが心の底から驚いて、ガックシとわざとらしく声を出す。
「あ~あ。もったいねぇ奴。この本開けばすぐいけるんだぜぇ?」
「は?いつも通り頭が逝ってるか…残念残念……ん?」
わざとらしく身振り手振りをつけて馬鹿にする私。だが、
「…お前。どこ行ったんだよ……?」
暗晦の風に包まれ、友達はその美しい夜景に吸い込まれるように姿を消していた。
「………おい。お前。隠れて誤魔化すとか…小学生かよ。」
はぁ。とため息をつくようにして呆れる私。だが、返事はなく、冬風がガタガタと窓を揺らすだけ。
…ここは私の家だぞ。いいこと教えてやるって言われたから家に入れたけど…。
一通り隠れそうな場所を探すが、どこにも見つからない。人の家で隠れるなんて…さすがに常識知らずだ。あいつあほだけど。
この変な本だけ置いて行かれても困るし、こいつの家に持って帰るか…。…面倒な奴め。」
分厚いコートの上にぐるりとマフラーをかける。毛糸のかわいらしい(?)手袋と耳当てを装着し、いざ出発。
がちゃ…と風の影響で少し重い扉をあけ、家を出ると。
「あ。ちょぉ~っとだけ失礼します。お時間いいですか?」
「ぎゃあっ?誰っ?」
しゅっと一瞬で素早く現れたのは、スーツ姿の眼鏡男だ。…一言で言うと、怪しい。
「……なんですか。セールスはお断りですよ。さっさと帰ってください。邪魔です。」
友達が勝手に消えた苛立ちもあり、つい他人にきつくしゃべってしまった私。
だがその男性は諦めることなく、逆に攻め込んできた。
「あのぉ…お嬢さんがお持ちのその本。よかったら譲っていただきたいのですがぁ…?」
明らかに、怪しい。いやもう確定だな。
「えっと…この本は友達のなんです。勝手に私がお譲りしてしまっては、少々__っ?!」
喋ってる途中なのに、男性は私に近づいて、手に持ってる本を___
『__バーニング__!』
「ぎゃあっ…!?」
その瞬間、本の隙間からひょいっと手が伸び出て、男の手を指さし___
男の手が、燃えた。
「「ぎゃああああああ!?」」
男と私の声が重なり、静かな住宅街に叫び声が響く。
ついでに私のマフラーにも火が付き、大慌てで首から外す。
「ぎゃああああ!ま、ままま。マフラァァァ!?」
ぽいっと投げ捨てたマフラーはどんどん火が広がっていき、次第には、跡形もなく消えてしまった。
「ああぁ……!江連さんからもらったマフラー?!」
シガンシナ国でしか売っていない貴重なマフラーが……!
悲しみしかなく、うなだれる私、そこへ
「__!あの女だ!」
「ひゃいっ?!……私?」
と反応した時には__男3人がまたまた、私の本を狙って走ってきた。
「うわああああああっ」
必死に家から離れ、道路に出る私。キキーと音を出す車よ避け、無意識のうちに道路の向こう側のコンビニへと入る私。
その時__
『おーい。聞こえるぅ?』
「…っ!その声…!お前どこにいるんだよ!」
『どこって?異世界。あ。現実世界ではね。本の中だよぉ。今ね。鍛冶屋に行って武器の調整をしよ……』
がっしゃああん!と窓ガラスを割って侵入してきた男たち。
「なんでそんなにものんびりしてるのよ!こっちは大変なんだから…っ!」
男の大きな腕に引っ掛かりそうになり、バランスを崩してしまう私。
「__やばっ」
商品棚がギシッと軋む音を出す。そして、前方_私がいる方向へ倒れ始める。
逃げ道はない。しゃがんで隙間にうまく隠れるように___。
『__ストーム!__』
その時、私の手から本が離れた。…暴風をまき散らしながら。
倒れてくる棚だけでなく、店内のすべてのものが風によって吹き飛ばされる。……店員含む…。
おかげで棚はぐらっと傾きを変え、男3人の方へ__
その時には本を抱えて走り出している私だった。
「……っ……っう……はぁ。なんなのいきなり。めっちゃびっくりしたんだけど。」
本の中(恐らく。まだ信じきっていない)の友達に向かって叫ぶ。
『いやぁ。ごめんね。出る方法が難しくてさ。入る方法は楽なのにねー』
「どうでもいいわ!なんでそんなのんびり口調なんだよ!こっちは焦ってんのに」
『ごめんねー(棒読み)。あ。敵さん来たみたいだよ。』
「適当なこと言わずに…?!」
だが友達の言う通り、なぜか人数が倍になった男たちが、私たちに向かって襲い掛かる。
「__っ!」
ぎりぎり回避し、ついでに一蹴り攻撃してからまた走り始める。
「やばいよっ?!どうすれば…?!」
『んー。見えないけど、コンビニ近かったら、学校行けば?』
「行けば? じゃねーよ!お前は余裕があっていいねぇ!」
そんな会話をしながらも、ちゃんと男たちから距離を置く。
「……大丈夫かな…。……ああもうっ!」
校門の柵を越え、校舎へと走る私。
男たちの動きは早く、さっきの動作で差が縮まってしまう。
「…!やべぇ。今日土日か。学校空いてるかな?」
『職員玄関ならまだしも。ないんじゃない?』
「……あーー!!!こうなったらしょうがねぇ…!」
私はすぐ目の前のガラスの扉を__ぶち破った
『きゃあ。音やばい。』
これで男たちとも差をつけれたハズ。
とにかく、どこかへかくれないと__!
たたたっ、と素早く階段を駆け上り、1つの教室へと飛び込んだ。
「教室にきてみたものの…あっ。教卓の下に隠れようっ!」
『まぁ、教室の中に入られたら最悪だけど、廊下からなら見えないでしょー』
「うぐ…でも仕方あるまい。」
…ちょっと汚いし、ほこりっぽいなぁ……
すっぽり体が入り、なんとか落ち着くことができた。
「ふぅ…一安心。…この間に。アンタ。なんで勝手に消えたのよ」
『消えたじゃなくて移動しただよ』
「変わらないの!」
『えー…。お前に事実を見せたかっただけだしー』
「…ふーん。ま。実際事実だったけどね。で、なんで私たちはこんなにも追われているの?」
その質問に本の中の友達は、『あー』と少し焦った声を出す。
『…う。この本…。高値で売買されてて…それをうちの父ちゃんが盗んだわけ』
「盗む必要あったの?」
『だってこの本…億がつくほどの価値だよ?』
「え…この本…やばい…雑に扱ってしまった。」
『だから、盗んだことがばれて、追われてるって感じ。』
「…じゃあそれうちに持ってくんなよ!」
『許してよぉ…この話信じてくれる人…誰もいないんだよ…』
「そりゃあ、夢みたいな話だもんな。夢じゃないけど。……で。この本から出る方法は?」
『出る方法?えーとねぇ。なんかー出るときは本からしゅしゅしゅーってでるから…本の上にスペースがあればいい!』
「わかりにくっ…。つまり、周りとの距離が離れてればいいのね」
『そんな感じー』
「もー。いつまでものんびり……っ!」
がらっ。 教室の扉が開く音だった。
やばっ…!?声が大きすぎたのかな…。
こつ…こつ…と静かに響く足音。
そして。教卓の真ん前で止まる足音。
ああ……。しまったばれた。
そう思った時にはもう、教卓が真後ろへ吹き飛んでいた。
「っ!?」
姿が見えてしまった私たち。目の前に立つ大男。力がこめられる手。目をギュッと閉じる私。でも__
『__アクア!__』
ばしゃっ。大男に、バケツ一杯分の水がかけられた。その隙に__
「__っ。よし!本ゲット!」
水の発生源の本をがしっとつかみとり、教室から脱出する私。
「……あっぶなかったー!ありがと。」
『こちらこそ。えへへ。』
「ほんとだよ。」
『え?』
その会話が終わった時、別方向からの足音が聞こえた。
うわぁ…これ、校舎の中で逃げ回るのはさすがに厳しい…!
「…っ!」
きゅっとスニーカーを鳴らし、曲がり角を曲がる私。
『次はどこに行くの?』
「川」
『はっ?』
階段を大きくジャンプし、出口へ向かう。
「__いたぞ!こっちだ!」
『ばれてるじゃんっ!』
またまた見つかってしまうが…!増援が呼ばれる前に、男の横をするりと通り抜ける。
「__っ!出口!」
先ほど通りにガラスを割ろうと突っ走る私。だが…
「__!痛っっっっっ__!?」
かなり分厚い窓だった。
くらっと体制を崩しつつも、無事に脱出できた私と本。
近くの川まで目指すが……
「……うっ…。頭いてぇ…。」
『あーあ。大丈夫?出血は?』
「…少し」
力が少し抜けるのを感じ、走る速度が遅くなる私。
後ろからは数人が追いかけてきている。マズイ。
川の近くに到着し、川ギリギリの柵に乗る。
『何考えてるの?!逃げないと…?!』
「…あんただけが頼り。…現実世界でも魔法(?)って使える?」
私の言葉に、友達は一瞬考える。
『…多分できる。』
「わかった。信じるよ」
『ええっ…!』
友達はまるで感動しているかのような声を出し、そこから集中モードに入るらしい。
…さっすが異世界経験者。鋭いな。
そして__敵が近づき、本を奪おうとしたとき____
「やああああっ!」
思いっきり、本を上に投げた。
「男たちは一瞬戸惑ったが、空中にある本をキャッチしようと大慌て。その本から__
『てりゃあっ!」
私の友達が、空中で現れるのだった。
「___フラッシュ!__」
ぴかっ 一際まぶしく、友達の手が光った。
思わず私も目を閉じてしまう。
光を真に受けた男たちはその場で倒れ、目を抑えている。その時私は___
「__シュン!早く!」
友達__初めて名前で呼ぶ友達に手を差し伸べるのだった。
「___っ。今日は最っ高の日だよ。」
そして、シュンは私の手を取った。
感動のシーン…ではなく。
「おっつどりゃああ!!」
「え」
どぼん。と音をたて、私はシュンを川に落とす。
そして、落ちた本を拾い、私も川へ飛び込む
「……っぷはぁっ!スイミング習っててよかった。」
「その歳で?」
シュンのジョーク(?)にツッコミを入れ、私は、本と向き合う。
__本をめぐって争うぐらいなら。
「……いっそ…」
「えっ…?」
「沈んじまええっ!」
ドボン!
勢いよく落ちた本は川の流れに乗り、私たちより先に川を流れ__姿を消した。
「ええええええええ?!リン!それは……っ!」
シュンは慌てて口を押えるがもう遅い。
「…初めて名前で呼んでくれたね」
「…うん」
二人はしばらく黙ったが、先に私__リンが動き始める。
「…厄介事になるまえに、早くかえりましょ。…寒いし。」
「そうだね。帰ろう。…凍っちゃうよ。」
二人はバシャバシャと荒く泳ぎ、マジで凍るレベルの川から脱出する。
「…本。ごめんね。」
「いいよ別に。父さんも許してくれる。」
「あーあ…。今考えてみれば、異世界…。行ってみたかったなぁ」
私はそうやって空を見上げる。
何にもない日のとてつもなくやばい出来事。
命掛けだったが…なんとなく、楽しかったなぁ。
~シガンシナ国~
緩やかに流れる海にどすん、となにやら重そうなものが流れ着く。
名前は異世界への招待状。日本の少年少女からここまで、流れ着いたのだった。
「ん?…なんだろ。これ…うわ。本だ」
それを拾い上げる少女。
その少女の物語は、また別の機会に_______
流れ着いた本。__そして物語は永遠に続く。 この本がこの世にある限り。