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第一話 魔王の血脈

 古来より陰鬼オニと呼ばれ忌み嫌われている種族がいる。

 それは遠き異界から、突如としてこの日本に現れたとされる、忌まわしき魔王の血族の総称とされていた。人ならざる膂力と法術を駆使し、暴虐の限りを尽くす彼らに人間が対抗することは容易ではなかった。

 そしてかつてこの日本を亡国の一歩手前まで追い込んだその魔王の名を、人々は恐れをこめてこう呼んだ。

―――――第六天魔王と。

 魔王が歴史上初めて日本に姿を現したのは、隠岐の島に幽閉され、呪詛祈祷に明け暮れていた祟徳上皇のもとであったと伝承は語る。

 史上かつてないほどに禍々しく強大な力をもったその魔王は、たちまちのうちに恨みに身を委ねた祟徳の魂を乗っ取り、この世に地獄を現出した。

 源平の争乱を煽り、日本史上で始めての全国間戦争を引き起こしただけでは飽き足らず、それが終息してしまったあとには東北に封印されていた土着神アラハバキを復活させて、日本に古来からくすぶる天津神と国津神の対立を煽って、再び破綻の一歩手前まで追い込んだのである。

 もしもその目論見が成功していたならば、東国では奥州藤原氏が、西国では平家の残党が勢力を盛り返し、未曾有の戦乱が終わりの見えぬまま、未来永劫に続くことになるはずであった。

 特に荒神アラハバキの地盤である東北地方での戦いは、血で血を洗う凄惨な悲劇を極めることになったであろう。

 異界の魔王の跳梁を阻止すべく、裏の世界を支配する陰陽師や法力僧の最精鋭術士を組織化した退魔集団――御防人みさきもり―― が誕生したのはこのときである。

 俊証を中心とした高野山の裏法力僧と、安倍氏と賀茂氏を中心とした陰陽寮の陰陽師の精鋭たちは、一年以上に及ぶ非情な闘争の末、全軍の九割以上を失うという空恐ろしい犠牲のもとに、なんとか魔王を葬り去ることに成功した。

 ―――――結果的に魔王を倒すことに成功したとはいえ、その内容たるや惨憺たるものであった。

 日本でも指折りの法力僧たちの力が、魔王には全く役に立たなかった。

 強大な力を持つ陰陽師の式神も、秘剣鬼切を携えた源氏の古強者も、魔王を前にしては蟷螂の斧に等しかったのだ。

 そんな中で魔王に対するもっとも有効な攻撃手段を担ったのは、日本古来の神に仕える伊勢と熊野、そして奈良の神人じにんたちである。

 彼らはその命と引き換えに、天津神でもっとも強力な武神、建御雷神タケミカヅチノカミを召喚することに成功した。

 鹿島神宮や春日大社などで祀られる彼の神は、諏訪大社の祭神である建御名方神タケミナカタノカミを力比べのすえその両手をもぎ取ったと伝えられる、天津神の中でも、もっとも強大な力を誇る神であった。。

 その強力な神の力をもってしてもなお、魔王の霊的防御を破ることは至難の業であったと伝えられる。

 魔王の圧倒的な力量の前にあわや、御防人も壊滅かと思われたそのとき、神器、布都御魂剣ふつのみたまのつるぎの一撃はまるで運命に吸い込まれるように魔王の心臓を貫いていた。

 術者や神の個人的な力ではない。日本ヒノモトという土地そのものが不可視の力を貸したような、そんな奇跡的な僥倖の一撃だった。

 決して実力で勝利したわけではないことを、戦いに参加した全ての術者は骨の髄まで熟知していた。

 ほんのわずかでも運が魔王に傾いていれば、御防人は一人残らず全滅して果てたであろう。 ただ死戦の果てに神の御加護があった。それだけのことであった。

 しかしそれは限りなく偶然に近いものなのだ。

 そして敗れた魔王の最後に残した言葉を、彼らは確かにその耳で聞いた。

 「ふん、碌に力が出せぬとはいえ、この余が、まさかこんな世界の三流術士風情に遅れをとるとは、な……」

 という本気とも、負け惜しみともとれる一言を。

 今となっては魔王がその力を存分に振るえなかったというのが、本当に事実なのかどうかはわからない。

 しかしほとんど全滅に近い損害を受けた御防人の術士たちが、この言葉に感じた戦慄と脅威は並大抵のものではありえなかった。

 そして彼らにとって最悪なことに、一年を超える死闘の間に、魔王の種子はすでにあまたの人の中に、妖の中にと、日本国中にばら撒かれていたのである。

 その事実を認識した彼らは魂の底から恐慌に震えた。魔王の子孫とも言える彼らのその血の中に眠る最強の魔王の復活を、御防人はほとんど発狂せんばかりに恐れた。

 たった一体にしてこれほどの被害を出した魔王が複数生まれたりしたら、今度こそ間違いなく日本は滅ぶ。

 その日以降、御防人にとってもっとも重要な任務は、魔王の血脈の抹殺となったのである。

 魔王の恐怖から日本を救うためには、地獄の獄卒すら顔をしかめそうな手段も厭うことなく、彼らは老いも若きも全て、ひたすらに魔王の血族を殺し続けた。

 魔王の血族とわずかでも関わりをもった罪のない一般人すら迷わず抹殺する彼らは、まさに彼らが忌み嫌った陰鬼そのもののように思われた。

 それから千年近い月日が経った現代でも、彼らの血に塗れた使命はいささかも揺らぐことなく継承されていたのである。

同時進行で


「辺境に追放された第五王子ですが、なぜか兄たちの未亡人がおしかけてきます」


「幕末最強の剣士が仲間に裏切られて異世界に転生したら、人類は竜の侵略で滅亡しかけてました」


 を連載しています。

 ストックがなくなった時点で評価のもっとも高い作品を優先して更新していく予定ですので、

お気に入りの作品がございましたら評価いただけますと幸いです。

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