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マイフェアレディ  作者: 松尾うい
SIDE A
8/18

8

魔女の宴は延々と続き、お開きとなり解散するころには、

エレインは出来上がりすぎてふらふらだった。


母様や姉妹たちに名残惜しくも別れを告げ、怪しげな足取りで帰路につく。

外は日が傾き、夕闇に染まり始めた空を穏やかに飛ぶ。

家に着くころにはすっかり日が暮れ、辺りは真っ暗だった。


「たらいまーーーーーー!!」


上機嫌で門戸を開けたエレインは青年の姿を探す。

すると2階の方から走ってくる足音がし、

勢いよく青年が飛びだしてきた。


「無事か!!!????」

「へ?????」


開口一番に安否を確認され、更に抱き着かれた。


「一週間連絡も何もないから、そろそろ探しにいこうかと準備していたところだ。

 無事でよかった!!」


…どうやらかなりの間はしゃいでいたらしい。

フラフラになるわけである。

母様がつくりあげた空間は一切変化がないため、時の経過に鈍感になる。


「ごめーん。楽しくて楽しくて!それはそうともう夕飯は食べて?」


さりげなく抱き着かれた腕から逃れながら、話題をそらす。


「あぁすませた…酒臭いな。……でも本当に無事でよかった。」

「!!!!」


しかし青年は逃れようとするエレインの腕をつかんだかと思うと、再び引き寄せしっかりと抱きしめ、エレインの髪に顔をうずめた。


「ま、魔女らもの、だいじょうぶよ!それじゃぁ疲れたしわらしはもう寝」

「今日は一緒に寝たい。」

「!!!!!!!!!!!!!」


動揺を隠すように視線をそらしたまま再び青年の腕の中から逃れようとした瞬間。

それを許すまいと力がこもった青年の腕と、

かぶせ気味に発せられた突然の発言に全身の血液が沸騰し、一気に酔いが冷める。


「へっっ?!!寝?????え????ちょっ」


混乱し間抜けな音を出している間に、抱きかかえられ、二階にある自分の寝室へと連れていかれる。


「今日ばかりは逃がしてあげられない。」


ゆっくりとベッドに降ろされたかと思うと、

同じベッドに入ってきた青年にそう囁かれる。


「ちょっ!!!待って!!!!」

「待たない。」


抵抗も虚しくあっさりと組み敷かれ、

青年の口づけがエレインの額に落ちる。

存在を確かめるように優しく触れられ、頬に、胸に、肩に、優しく口づけられる。


(きゃ、きゃぁぁぁーーーー!!!!!!なにこれーーーー!!!!!)


いきなりの展開に全くついていけず、混乱を極めた叫びが脳内に響く。

想像もしていなかった事態に陥り、身動きが取れずなすがままになる。

そうこうしている間にも青年の口づけはやまず、終いにはエレインの顔に唇が近づいてきた。

な、なんとかしなければ!!!!!


「お、落ち着いてーー!ちょっと話し合いましょう!!!まだ私たちそんな関係でもないし、心の準備も何もできてないし、お風呂入ってないから臭いし汚いし酒臭いしとにかくちょっと待ってーーーーー!!!!!」


思いつく限りのお粗末な言葉を並べ立て、覆いかぶさる青年の胸に手をついて押しのけようとした瞬間。

視界を覆っていた青年の体は横に崩れ落ちた。

しっかりとエレインの体を抱きしめたまま。


「え?あれ???え?????……寝てるの????」


恐る恐る隣を確認すると、穏やかに寝息をたてる青年の顔がすぐそばにあった。


「な、なんなのよ!!!!!!もーーーー!!!!!!」


いっきに体の緊張がほぐれ、ため息が漏れる。

早鐘のように鳴る心臓がうるさい。

何度か深呼吸し、動悸が治まるのを待つ。

ようやく落ち着きはじめ、他のことを考える余裕ができたところで、寝ている青年の顔をまじまじと見つめる。

目の下には濃いクマがあった。そんなに心配させてしまったのだろうか。


(それにしても…逃げてるってばれてたのね…。)


深い深い眠りに落ちた青年の顔を見つめ、自分の心から湧き上がる感情を確かめるように、青年の頬に触れる。


この気持ちは知っている。

かつて自分が彼に抱き、もう二度と抱くまいと蓋をした感情。


誰かを、『愛しい』と思うこと。


またか。と、学習しない自分に吐き気がする。

あんなに痛い目をみたのに、また繰り返すのか。


けれど、かつてとは決定的に違うことがある。


青年はもうすでに人間ではない。


エレインはゆっくりと目を閉じ、思考する。

少年は青年へと成長し、今がまさに彼の絶頂期だろう。これ以上老いることは、恐らくない。


告げるべきときがきたのだ。

ちょうど明後日は、かつて私たちが出会った日、青年の誕生日だ。

当初思い描いた、解放してくれと希われるような状況にはならなかった。

けれどそれは、告げる機会が先延ばしになっただけだ。

かつての自分が恐れ、為し得なかったこと。


ちょうどいい。

浮かれた自分を正気に戻し、言い聞かせる。

何のために少年を拾ったのか。あんな思いは二度とごめんだ。

そうならないために。二度と人間に淡い思いなど抱かぬように。


かつての感情を思い返しながら、呪詛のように心の中でつぶやき、エレインは静かに眠りについた。


楽しんでいただけたら幸いです。

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