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マイフェアレディ  作者: 松尾うい
SIDE A
7/18

7

名前を呼ばれた魔女は、磔にされたままで破顔し喋り始めた。


「エレイン久しぶりーーーーーーーー!!お??なんだか元気になった??」

「?そうですか?」

「うん!前のしけた(ツラ)じゃなくなってるー!!

 あのときの顔といったらもう…。ほんとにひどかった!!!!!!!」


そんなにひどい顔をしていたのだろうか。

思わず自分の顔に手をあててしまう。

と、魔法を行使したままのウラニアがにっこりと微笑みながら口を開いた。


「仲良くお話し中ごめんなさいね。でも母様がお待ちよ。

 エレインは早くエレベーターで降りて頂戴。

 アイトネは…分かっているわよね?」


ウラニアの笑顔の裏に隠れた殺気に、アイトネの顔色がみるみる青白くなる。


「?アイトネ姉さまも一緒に降りればいいのでは?」

「いいえ。アイトネとは少し話があるので、エレインだけ先に降りて頂戴。」

「わ、わかりました。」


それ以上の追及は不要とばかりにぴしゃりと言い放たれ、

エレインは慌ててエレベーターに魔力を注ぎ作動させる。

対峙する二人を残して、エレベーターはみるみる地下に降りて行った。



エレインが降りて行ったことを確認し、ウラニアはアイトネを拘束する魔法を解き、じろりとねめつける。


「アイトネ、招集状に集合時間と忠告は書かれていたわよね?」

「ごめんなさい、ウラニア姉さま。皆に会えるのが久しぶりで嬉しくて…。

 招集状を見たらいてもたってもいられなくなっちゃって。」

「仕様のない子ね。まぁエレインは降りたから大丈夫でしょう。

 じきに他の子たちも来ると思うから、用意した部屋でお待ちなさいな。」


そういってウラニアは、近くの扉を指さした。


「はーい。」

「大好きなジンジャークッキーもあるわよ。」

「やったーーーー!!!ウラニア姉さま大好き!!!」


そういうが早いか、アイトネは部屋に駆け込んでいった。


*


エレベーターで最下層まで降りると、小さな魔法の灯篭が徐々に灯り始め、進むべき道を照らす。

辺り一面は真っ暗で、照らされる道以外は漆黒の闇のみだった。


ここを最後に訪れたのは…。

彼を亡くしたあの日だ。

当時はその日を思っただけで、心も体も引き裂かれそうなくらいの悲しみと絶望が押し寄せ、

とてもじゃないが正気ではいられなかった。


自分の心は確かに回復している。

受け入れ始めている。

そうすることができるようになった原因は、間違いなく一つだ。


そんなことをぼんやりと考えながら歩をすすめると、

暗がりの中に東屋のような建物が見えてきた。

その中に配置された椅子に腰かけ、ぼんやりと遠くを見つめる一人の少女の姿を確認すると、

エレインは面をさげ胸に片手をあて片膝をおり跪く。


「親愛なるハジマリの魔女、エオニオティタ様、お久しゅうございます。

 水の国が魔女エレイン、参りました。」


恭しく挨拶をした。


()こう。」


エオニオティタと呼ばれた少女は視線を動かすことなく一言だけつぶやく。

決して大きくはないのに、どこまでも響くような声。


エレインはゆっくりと立ち上がり、東屋のなかへ入っていく。

少女の前に立つとにっこりと微笑み少女に問いかけた。


「お久しぶりです、母様。本日はどういった御用でしょう?」


エオニオティタはエレインへと視線をうつすと、

表情を変えぬまま話し始めた。


「久しいな。変わりないか、水の子よ。」

「はい。母様もお変わりなく?」

「あぁ。突然すまぬな。…魔力を(わか)ったのだな。」

「はい。人間に与えました。」

「仔細を聞いてもよいか。」

「もちろんです。」


エレインは穏やかに答え、青年との成り行きを話し始めた。

話を聞き終えたエオニオティタの表情が一瞬、ほんの一瞬哀愁を帯びたように歪む。


「やらねばならぬことはわかっているな?」

「…はい。」

「そうか。ならよい。」

「?」


用というのはこれだけだろうか。

呼ばれたのは自分だけだろうか。

姉さまや妹たちの姿はなく、戸惑いの視線を母様にむけると、

母様はゆっくりと微笑み、一度頷いた。


「天の子よ、もうよいぞ。」


まだ疑問符を残したままのエレインが振り返ると、

エレベータがゆっくりと降りてくるのが見え、姉さまや妹たちが乗っていた。


「久方ぶりの会合じゃ。みな、たくさん話を聞かせておくれ。」


母様のその一言で、真っ暗だった世界は一瞬にしてまばゆい花々が咲き誇る庭園へと姿を変えた。

目の前には大きなテーブルとたくさんの料理、人数分の椅子が置かれている。


談笑しながらエレベーターから降りてきた姉妹達は、

エレインの姿を見るなり嬉しそうに声をかける。


魔女の宴の始まりである。


楽しんでいただけたら幸いです。

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