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マイフェアレディ  作者: 松尾うい
SIDE A
2/18

2

「さてと…まずはその汚らしい体をきれいにしなくちゃね。」


魔法でそのまま浮游させながら家に運んだため、

少年はまだまだ夢見心地で気持ちよさそうに寝息を立てている。

先程まで彼を蝕んでいた死の気配は、嘘のようになりをひそめていた。


「全く起きないし…このまま落としてもいいわよね…。」


部屋を汚されたくないため、(もちろん魔法ですぐに綺麗にはなるが)

そのまま浴場まで運び、お湯をためた湯舟に一気に落とすことにする。


人差し指を軽くふり、魔力を発動させる。

浴場から、お湯が溢れ出る音がするのを聞いてから、

そのまま少年をふわふわと運んでいく。


(服は…とりあえずそのままでいいか。)


そして少年は、そのまま湯舟に叩き落とされた。



「!!!!?????」



湯船から大量のお湯が、飛沫(しぶき)をあげて流れ出る。

少年が、自分の身に何が起きたのかわからず、湯の中でもがくのを見ながら、優しく声をかけた。


「おはよう。気分はいかが?体に不具合はない?」


声がかかった瞬間、なんとか足が立つことを確認し、落ち着いた少年の体がビクリと跳ねる。


「誰だ!!!!!!!?????」


すごい形相で睨まれた。


「あら、威勢のいいこと。命の恩人よ。お話は綺麗になってからにしましょう。」


優しくにっこりと微笑んで、人差し指に魔力をこめた。



*



まだ理解が追いついていないのか、茫然としたままの少年を席につかせ、その正面に腰掛ける。

隅々まで洗い、シンプルだが洗い立てで綺麗な服を着せて、何なら髪も少し整えてやった。

抵抗は多少されたが、魔法の前では当然無力である。


「あらおまえ、割と綺麗な顔をしているのね。」


見違えた少年をまじまじと観察する。

短く切りそろえられた暗緑色の髪は、しっとりと輝きがあり、見開かれた灰色の瞳は大きい。

目鼻立ちがくっきりしており、中々の美形だ。

年のころは13歳くらいだろうか。


「ここは…どこだ?お前は…誰だ……?なんで俺はここにいる…?」


じろじろと注がれる視線におびえながらも、少年はゆっくりと口を開いた。


「声もいいわね。将来が楽しみだわ♪…まぁ当然の疑問よね。何をしていたか覚えているの?」

「……街で…、探し物をしていた。」

「??それはおかしいわね。あなたがいた場所には、街なんてなかったわよ?」


少年の瞳が一瞬揺れる。


「俺の記憶では…、街だった。探していたら、大きな音がして…、たくさんの瓦礫が降ってきたんだ。」

「ふーん。まぁよくわからないけど、どうでもいいわ。ここにいる理由は簡単よ。

 私がおまえの命を救って連れてきたの。今日からおまえは私のものよ。」


何のことだと叫ばれるだろうか。

モノじゃないと反抗されるだろうか。

少年の反応をにやにやしながら見守っていた私の考えは、見事に打ち砕かれた。


「わかった。」


少年はそう一言だけ言うと、納得したように頷き、視線を私から部屋にうつし観察を始めた。

予想外の返答に少し驚き、少年を見つめてしまう。

少し大人びているが、特に変わったところのない普通の少年に見えるが、そうでもないのだろうか。

気を取り直して再び話しかける。


「やけにあっさりしてるのね。てっきりきゃんきゃん噛みつかれるのかと

 思ったけれど。まぁ賢い子は好きよ。

 私は魔女のエレイン。おまえの主人であり、命の責任者よ。」


エレインの言葉に少年は視線を戻した。


灰色の瞳にうつる私は、少年にとってどんな風なのだろう。



「おまえに望むことはただ一つ、私を退屈させないでちょうだい。

 毎日毎日同じことの繰り返しでいい加減飽き飽きしていたの。

 楽しみにしているわ。」


嘲笑うように、試すように言葉を落とす。

いまいち想像していた反応とは異なるが、まぁ所詮は人間。

そのうちおびえ、恐れ慄いて解放してくれと叫ぶだろう。


「わかった。具体的にはどうすればいい?」

「それは自分で考えて頂戴。私が指示したことをしてもらっても、何一つ面白くもおかしくもないもの。

 あぁそうだ。おまえ、家族はいるの?」


家族がいるなら、最後に一度会わせてやってもいい。

ただでさえ辛い別離だ。なんの準備もしないのは辛すぎる。そう思っての言葉だったのだが。


「家族はいない。…いや、正確にはいるが、どこにいるのかもう知らない。」


返ってきた言葉は、また予想とは異なるものだった。

が、詳しく聞く気もないので、次の質問へとうつる。


「あら、そうなの。じゃぁ、魔女についてはどのくらいご存じ?」

「…人間を騙し、喰らい、あらゆる天災を起こし、国に災いをもたらす存在とだけ。

 幼いころに読み聞かされた絵本なんかの知識しかない。」

「この国については?」

「王様が納めている、ということだけ。」


他にも二、三この国について聞いてみたが、あまり詳しい回答は得られなかった。

どうやら教養はそこまでないらしい。


「わかったわ。とりあえず、まずはお勉強ね。」


私のそばに侍るのだから、賢くいてもらわなくては困る。


これからどう育てていくか想像しながら、エレインはにんまりと笑みをこぼした。


楽しんでいただければ幸いです。

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