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Truth ~RIP~  作者: 牛蒡
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Knocker’s #1「鎌なしの死神」

「武器を持たない死神、ね…」

古い友人は呆れた顔で僕を睨みつけた。僕に出来ることと言えばただ一つ。

「はは…あはは…」

「こらっ笑って誤魔化すなっ!」

マグノリアが身を乗り出すと、彼の髪に結ってある木のビーズが激しくぶつかり合った。

三日前まで使っていた僕の鎌は冥土からのありがたい借り物。何人もの死神の手を転々とし、もう何千年も使われていた鎌だ。

…壊れてほしくなかったな。朝起きると、鎌は大きなグレーのネズミに姿を変えていた。

「いいか、ベス。俺とお前の契約を忘れたとは言わせねぇぞ!俺にとっても死活問題なんだよ!」

「…あ!僕が死神ってことと、死活問題をかけてるんだね、うまい…いたたたたた!!」

力加減なくひねり上げられる僕のほっぺた。懐かしいな、小さい頃父さんによくこうされて叱られたなぁ。

「お前が死者の魂を鎌で捕まえて俺へ寄越す!俺は死者の魂を三途の川まで持って行ってじいちゃんに渡す!そこで俺がカロンとしての修行をする!お前は冥土から報酬がもらえて、俺はじいちゃんから報酬がもらえる!だから契約したんだろうが、『役立たずの息子』のお前と!」

マグノリアの祖父の仕事は世にも珍しい「三途の川の船頭せんどう・カロン」だ。後継者であるマグノリアは将来立派なカロンになる為、死者の魂を三途の川の向こうまで運ぶ修行をしている。

が、勿論その修行に死者の魂は必要不可欠。

そこを補うのが死神見習いの僕、ってわけだ。

「むっ…僕の父さんは『役立たず』なんかじゃない!向いてなかっただけだ!」

彼の手を払いのけ、むきになって言い返してしまった。マグノリアは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに「巷ではそう呼ばれてただろうが」とふんぞり返る。

咳ばらいを一つすると、グラスで口元を隠しながら僕を品定めした。

「まぁ、俺とお前の仲だ。友達をやめるにはまだ早いよな。新しい仕事道具が手に入るまで、しばらく待ってやるよ。じいちゃんの機嫌を損ねるまで時間が立ったら、すぐに別の死神と契約しなおすからな」

「そんな…そんな簡単に適合する鎌、冥土でも作れるかわからないよ…」

魂を導く鎌は、その働きの代償として魂を一つ犠牲にする。その魂が死神に合うかどうかは未知数で、人間の魂を使った鎌が合う場合もあれば、僕のように動物の魂でも適合する死神もいる。

鎌を作っても、僕に適合しなかった鎌は冥土に保管され、適合する死神が現れるまで、死ぬことも生きることもできずに永遠に縛り付けられるんだ。

「仕方ないやつだな。俺が冥土にコンタクト取ってやるよ。お前に合う鎌の注文しといてやるから」

「…僕が次に使う鎌は、何の罪もないのに鎌に作り替えられた人間の可能性もあるんだよね?」

「そりゃそうだ。運が良ければ、冥土に保管されている鎌と適合するかもしれねぇな。そうしたら作る手間も省けて、じいちゃんの機嫌も損ねずに済むな」

マグノリアは簡単にそう言ってのけ、頭の後ろで手を組む。生え際に出来てしまったにきびを気にしているみたいだ。

「…くじ引きのみたいな実験に多くの魂を犠牲にするなんて、僕にはとても耐えられない」

「お前ってホント人間クサいよな」

部屋の隅に置かれた古い電話がじりじりと喧しく鳴り響いた。彼は小さく舌打ちすると、困った顔をして僕を見つめる。

「…俺のじいちゃんをあんまり困らせないでくれよ。とにかく、明日までに案内を使わすから待っててくれ。逃げるなよ」







僕の父さんは『役立たずの死神』として有名だった。

死とは、生きとし生ける全ての存在に必ず訪れる。運命的であり、必然的である。僕の姉さんはそう言っていた。

ここで一つ問題が出てくる。生前の未練から、魂が行かねばならない場所へ行けなくなることだ。悪霊としてこの世で悪さを働くこと。

生きている人間が、死んでいる人間に劣るはずはない。だけど抗う方法を知らない。悪霊を信じない人だっているんだ。

そんな魂を慰め、行くべき場所へ導くのが死神の務め。

父さんはそれを怠った。

僕は帰路を急ぎながら、父さんについて思い出せることを思い出していた。

僕を人間のように育てた父さん。楽しい事や悲しい事、面白い事面白くない事。たくさんの本を貸してくれた。ほとんどが物語や小説で、本の中の登場人物になったような気分で幼少期を過ごしたことを覚えている。

ネズミの鎌で魂を導いていた時もずっと違和感を感じていた。どの魂にだって、本で読んだような壮大な人生があったはずだ。あんなに素晴らしい、最悪な、普遍的な人生を送っていれば、未練の一つや二つあるだろうに。

僕は何を、どこへ導いているんだろう?

困ったことやわからない事は全部父さんが解決してくれていた。

だからこそ、自分の不甲斐なさに腹が立つ。

自宅についても一人だ。父さんは死んだ。姉さんは、父さんを思い出すのが辛くて出て行った。

父さんが『役立たず』だったのは、僕と同じ気持ちだったからだろうか?

じゃあ、どうして僕をこんな風に育てたんだろうか?






答えは出ないまま朝日を拝むことになってしまった。

実際、馬鹿げていることなんだ。真実がわからなければもやもやしてしまう性格とわかっていて、死人の考えを探るなんてさ。

僕は取り急ぎ、マグノリアに会う前に姉に会いに行くことにした。

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