表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/52

大量経験値ゲット?

 大手高校は、大阪府庁の西側に道を挟んで立っている。大阪府庁は、大阪城公園のすぐ西隣にある。

 その校舎の三階で、稲垣希は、春休みにかかわらず行われる特別授業に参加していた。

 もともと授業にやる気はなかった。進学校の高校で、稲垣はほどほどの成績を保っていたが、それほど勉強熱心なわけでもない。授業があるので仕方なく参加しているだけだ。

 だから、大阪城公園の方から、人のざわめきが聞こえてくるのが気になった。

 先生の授業の声を聴くふりだけして、外の音に耳を澄ましていると、徐々にざわめきが人の喚き声、悲鳴、泣き叫ぶ声だとはっきりしてくる。それに混じるのは、金属音と獣の唸りのような喊声。

 そのころには、他の生徒たちも外の音が気になりだしていた。


「え!?」


 そんな中、窓際で肘をつきながら外を眺めていた生徒が、我知らず驚きの声を上げる。


「うん? え、なんだぁ?」


 その声に、別の窓際の生徒も窓の下に広がる光景に声を上げる。

 稲垣も、思わず立ち上がり、窓際に駆け寄る。


「おい! 稲垣!」


 教師の注意の声にも無視し、窓から顔を出す。

 校舎に隣接する道路。車一台分ほどの狭い道路を、昔のヨーロッパで見られるような板金鎧で全身を包んだ者たちの群れ。数十人の騎士が馬に拍車を入れて、走らせている。


「なんだよ、これ? コスプレ」


「って、人刺してんじゃね!?」


「異世界来たか?」


「ダンジョン誕生系? 世界崩壊系?」


「うおお、オレの時代かー!」


 教室中の生徒が、わっと窓際に押し寄せ、口々に喚きだす。


「お前ら静かにしろ!」


 教師が、生徒たちをかき分け窓の外を覗くと、サッと顔色を変える。


「お前たち、じっとしてろよ! 職員室行ってくるから! 放送が入ったら、それに従えよ!」


 教師は怒鳴ると、あわてて教室を出ていく。

 そのころには、騎馬たちは走りすぎ、教室の下の道路には人はもういない。


「何、起こってるんやろ?」


「世界の終わり?」


「魔法使えるようになるんかな~」


「ガチャねーの、ガチャ?」


「ステータス! ステータスオープン! 機能表示!」


 わいわいがやがや言いながら生徒たちは、教室で騒ぎなから待っていた。しばらくして、スピーカーから体育館へ避難するように放送が流れる。

 多くの生徒は放送に従い、ぶつぶつ言いながらも教室を出ていく。

 残ったのは、稲垣他数名。彼らは、三階の窓から下を眺め、外の騒ぎを聞いている。

 北と南の方では、騒ぎの音は大きくなっているが、教室の下の道路は誰も通らず静かなままだ。


「静かやね~」


「ああ……って、なんだあれ?」


 静かだった通路の北側に、白い集団が現れる。

 カチャカチャ、ガチガチと軋みを立てながら、ひどくゆっくりとした歩みで迫ってくる集団。


「がいこつ?」


「スケルトンやな」


 小首をかしげる女の子の言葉に、さっきステータスオープンと叫んでいたメガネの男子生徒が補足する。

 窓の下で、スケルトンたちは、片手に錆ついた剣や槍を持ち、逆の手に木の楯を構えつつ、関節から乾いた音を響かながら体を動かす。


「騎士やらスケルトンは出るのに、ステータス出ないなんて、クソゲーやな」


「さっき『ステータス!』って、何叫んでるのかと思うたよ~」


「異世界抽選トラックに当たる以外に、こんな日が来るとは思わんかった」


「スキルもらえんのかな? こんなん相手に、チート何も無しとか、神さんちゃんと働けよ」


 死を目の当たりにしていないせいか、現実感が無いのか、それとも、こんな世界を望んでいた子たちが残っているのか、のんびりとした会話が続く。


「筋肉無いのに、なんで動けるんやろな?」


「魔法ちゃうか~」


「にしても、ゆっくり過ぎね?」


 スケルトンにキビキビ動く印象はなかったが、それにしても、動きが鈍い。さび付いたロボットのような歩みだ。ただ数だけは多い。すでに道路いっぱいを白い骨たちが埋め、道路の先からはまだまだ続いて来る気配がある。


「なあ、倒したら、経験値とか入るんかな?」


「そしたら、ステータス見れるようになるかも?」


「スキルも手に入るかも?」


「経験値蓄積方式か!」


 顔を見合わせ、盛り上がる。そして、うなずき合うと、ガタガタと机を窓際に寄せる。


「い、行くぞ?」


 メガネが、他のメンバーに問う。


「もちろん、ゴー」


 稲垣の宣言と共に、狙いを定めて机を投げ落とす。


 ゴン!


 机がスケルトンの頭蓋骨を砕き、地面で跳ねる。それでも、他のスケルトンたちは、それを無視して進み続ける。

 落とした瞬間は、窓の下に身を潜めた生徒たちだったが、そっーと顔を出し、スケルトンの反応が無いことを確認すると、改めてうなずき合い、追加で二つ机を投げ落とす。


 ゴン! ゴン!


 一体のスケルトンが直撃して全身が砕け、別の一体には肩付近に当たったせいで、片腕がもげただけで終わる。片腕を失ったスケルトンはそれでも速度を変えずに歩き続ける。


「頭を壊せば、体も壊れるみたいやな」


「ほんま、どういう仕組みなんやろ?」


「まあ、ええやん。壊そ壊そ!」


「経験値来~い」


「スキル来~い」


 にぎやかに生徒たちは机を落とし続けた。

 調子に乗って教室の机をすべて投げ落としてしまうと、狭い道路に机が散乱し、最初は机を乗り越え行進を続けていたスケルトンたちも、さすがに行軍が渋滞を起こしてしまう。

 そして、スケルトンたちの歩みが止まる。

 全体の動きが止まり、スケルトンたちは置物のように動かなくなる。

 ふと、急に。


 グルリン!


 一斉に、首だけがぐるりと動き、暗く穴だけの眼窩を稲垣たちに向ける。


「ひえっ!」


「うわっ!」


 予想外の動きと、骨たちに見つめられた事に、思わず、怯えの声が出る。

 再び、骨たちが動き出す。先ほどまでとは違い、動きがスムーズになっている。

 しかも、道路を歩むのではなく、道に落ちた机にのぼり、校舎に隣接するコンクリート塀に群がりだす。


「や、やばくね?」


「お、おう……」


 見ている間に、スケルトンたちは、塀に取り付き、その塀に群がった仲間を即席の足場にする。骨たちが、互いを足掛かりとして、壁を越え、学校内へと入ってくる。それも、稲垣たちの真下だけでなく、南北に続く道路沿いの壁全体で。


「やっべぇー!」


「ああーもー、余計な事せんかったら良かったのにー」


「今さら言うなぁー」


「に、逃げるぞ」


 稲垣たちは、後悔の念に苛まれながらも、とりあえず教室から飛び出した。


裏タイトル:クラス召喚だと、外れスキルで追放されるタイプ?

で、しぶとく生き残る系?


友兼が生死不明の間の街での出来事です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ