大量経験値ゲット?
大手高校は、大阪府庁の西側に道を挟んで立っている。大阪府庁は、大阪城公園のすぐ西隣にある。
その校舎の三階で、稲垣希は、春休みにかかわらず行われる特別授業に参加していた。
もともと授業にやる気はなかった。進学校の高校で、稲垣はほどほどの成績を保っていたが、それほど勉強熱心なわけでもない。授業があるので仕方なく参加しているだけだ。
だから、大阪城公園の方から、人のざわめきが聞こえてくるのが気になった。
先生の授業の声を聴くふりだけして、外の音に耳を澄ましていると、徐々にざわめきが人の喚き声、悲鳴、泣き叫ぶ声だとはっきりしてくる。それに混じるのは、金属音と獣の唸りのような喊声。
そのころには、他の生徒たちも外の音が気になりだしていた。
「え!?」
そんな中、窓際で肘をつきながら外を眺めていた生徒が、我知らず驚きの声を上げる。
「うん? え、なんだぁ?」
その声に、別の窓際の生徒も窓の下に広がる光景に声を上げる。
稲垣も、思わず立ち上がり、窓際に駆け寄る。
「おい! 稲垣!」
教師の注意の声にも無視し、窓から顔を出す。
校舎に隣接する道路。車一台分ほどの狭い道路を、昔のヨーロッパで見られるような板金鎧で全身を包んだ者たちの群れ。数十人の騎士が馬に拍車を入れて、走らせている。
「なんだよ、これ? コスプレ」
「って、人刺してんじゃね!?」
「異世界来たか?」
「ダンジョン誕生系? 世界崩壊系?」
「うおお、オレの時代かー!」
教室中の生徒が、わっと窓際に押し寄せ、口々に喚きだす。
「お前ら静かにしろ!」
教師が、生徒たちをかき分け窓の外を覗くと、サッと顔色を変える。
「お前たち、じっとしてろよ! 職員室行ってくるから! 放送が入ったら、それに従えよ!」
教師は怒鳴ると、あわてて教室を出ていく。
そのころには、騎馬たちは走りすぎ、教室の下の道路には人はもういない。
「何、起こってるんやろ?」
「世界の終わり?」
「魔法使えるようになるんかな~」
「ガチャねーの、ガチャ?」
「ステータス! ステータスオープン! 機能表示!」
わいわいがやがや言いながら生徒たちは、教室で騒ぎなから待っていた。しばらくして、スピーカーから体育館へ避難するように放送が流れる。
多くの生徒は放送に従い、ぶつぶつ言いながらも教室を出ていく。
残ったのは、稲垣他数名。彼らは、三階の窓から下を眺め、外の騒ぎを聞いている。
北と南の方では、騒ぎの音は大きくなっているが、教室の下の道路は誰も通らず静かなままだ。
「静かやね~」
「ああ……って、なんだあれ?」
静かだった通路の北側に、白い集団が現れる。
カチャカチャ、ガチガチと軋みを立てながら、ひどくゆっくりとした歩みで迫ってくる集団。
「がいこつ?」
「スケルトンやな」
小首をかしげる女の子の言葉に、さっきステータスオープンと叫んでいたメガネの男子生徒が補足する。
窓の下で、スケルトンたちは、片手に錆ついた剣や槍を持ち、逆の手に木の楯を構えつつ、関節から乾いた音を響かながら体を動かす。
「騎士やらスケルトンは出るのに、ステータス出ないなんて、クソゲーやな」
「さっき『ステータス!』って、何叫んでるのかと思うたよ~」
「異世界抽選トラックに当たる以外に、こんな日が来るとは思わんかった」
「スキルもらえんのかな? こんなん相手に、チート何も無しとか、神さんちゃんと働けよ」
死を目の当たりにしていないせいか、現実感が無いのか、それとも、こんな世界を望んでいた子たちが残っているのか、のんびりとした会話が続く。
「筋肉無いのに、なんで動けるんやろな?」
「魔法ちゃうか~」
「にしても、ゆっくり過ぎね?」
スケルトンにキビキビ動く印象はなかったが、それにしても、動きが鈍い。さび付いたロボットのような歩みだ。ただ数だけは多い。すでに道路いっぱいを白い骨たちが埋め、道路の先からはまだまだ続いて来る気配がある。
「なあ、倒したら、経験値とか入るんかな?」
「そしたら、ステータス見れるようになるかも?」
「スキルも手に入るかも?」
「経験値蓄積方式か!」
顔を見合わせ、盛り上がる。そして、うなずき合うと、ガタガタと机を窓際に寄せる。
「い、行くぞ?」
メガネが、他のメンバーに問う。
「もちろん、ゴー」
稲垣の宣言と共に、狙いを定めて机を投げ落とす。
ゴン!
机がスケルトンの頭蓋骨を砕き、地面で跳ねる。それでも、他のスケルトンたちは、それを無視して進み続ける。
落とした瞬間は、窓の下に身を潜めた生徒たちだったが、そっーと顔を出し、スケルトンの反応が無いことを確認すると、改めてうなずき合い、追加で二つ机を投げ落とす。
ゴン! ゴン!
一体のスケルトンが直撃して全身が砕け、別の一体には肩付近に当たったせいで、片腕がもげただけで終わる。片腕を失ったスケルトンはそれでも速度を変えずに歩き続ける。
「頭を壊せば、体も壊れるみたいやな」
「ほんま、どういう仕組みなんやろ?」
「まあ、ええやん。壊そ壊そ!」
「経験値来~い」
「スキル来~い」
にぎやかに生徒たちは机を落とし続けた。
調子に乗って教室の机をすべて投げ落としてしまうと、狭い道路に机が散乱し、最初は机を乗り越え行進を続けていたスケルトンたちも、さすがに行軍が渋滞を起こしてしまう。
そして、スケルトンたちの歩みが止まる。
全体の動きが止まり、スケルトンたちは置物のように動かなくなる。
ふと、急に。
グルリン!
一斉に、首だけがぐるりと動き、暗く穴だけの眼窩を稲垣たちに向ける。
「ひえっ!」
「うわっ!」
予想外の動きと、骨たちに見つめられた事に、思わず、怯えの声が出る。
再び、骨たちが動き出す。先ほどまでとは違い、動きがスムーズになっている。
しかも、道路を歩むのではなく、道に落ちた机にのぼり、校舎に隣接するコンクリート塀に群がりだす。
「や、やばくね?」
「お、おう……」
見ている間に、スケルトンたちは、塀に取り付き、その塀に群がった仲間を即席の足場にする。骨たちが、互いを足掛かりとして、壁を越え、学校内へと入ってくる。それも、稲垣たちの真下だけでなく、南北に続く道路沿いの壁全体で。
「やっべぇー!」
「ああーもー、余計な事せんかったら良かったのにー」
「今さら言うなぁー」
「に、逃げるぞ」
稲垣たちは、後悔の念に苛まれながらも、とりあえず教室から飛び出した。
裏タイトル:クラス召喚だと、外れスキルで追放されるタイプ?
で、しぶとく生き残る系?
友兼が生死不明の間の街での出来事です。