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反撃

 友兼が混乱を巻き起こしている間に、後ろをついて走っていた移動販売車2台が通路をふさぐような形で車を止める。トラックから逃れた兵士が、その様子に気づき慌てだすが、近づく前に車を降りた警官が、火をつけた火炎瓶をガソリンの入ったポリタンクに投げつける。


 ボン!


 炎上というより、爆発が巻き起こり、火炎瓶を投げつけた警官だけでなく、近づこうとした兵士さえ吹き飛ばす。


 追いかけてきた車から、警官が飛び出し、吹き飛ばされて動かなくなった警官を引きずり車に乗せる。


「しばらく、時間は稼げそうかな?」


 燃え上がり、通路をふさぐ車と、その先で右往左往する槍の動きを見ながら、安藤が誰に聞かせるともなく声を正す。


「代議士……代議士の死は無駄にしないっす」


 本気なのか、冗談なのか、よくわからない口調。


「次の候補者選び、大変そうだな……」


 独り言ちながら、安藤はとてとてと広場の店舗に向けて走り出す。




「局長! クルー貸してください!」


 笹見は、テレビ局に戻ると、大騒ぎになっている報道局フロアで大声を上げている男のもとへ一直線に向かう。

 預かっていた女の子は、知り合いのADに預けて、避難所に連れて行ってもらっている。


「それどころじゃねぇんだよ!」


 電話を片手に、壮年の男が怒鳴る。


「わかってますよ!」


「じゃあ、大人しくしてろ!」


「大人しくしてられるわけないでしょ! 今、そこで人が死んでるんですよ!」


「だから、大騒ぎになってんだよ!」


「局長!」


 男は、笹見をしっしと追い払らうように手を上下させ、電話を耳に押してあてる。


「……ええ、それは聞い……」


「すぐそこの広場で戦闘が起こってるんです!」


「ええ、はい、ちょっとお待ちください……わかってるよ! 行きたきゃ、一人で、カメラ持ってけ!」


 一度受話器を離すと、それだけ大声で伝え、局長は背を向ける。


「こんのセクハラオヤジ!」


 吐き捨てると、笹見は机を蹴り上げ、フロアを出ていく。

 急いで次に向かったのは、情報スポーツ局と書かれた部屋。

 報道局より静かで、人が少ない。他部署に応援に出ているのか、すでに避難しているせいか。

 笹見は、まっすぐ目的のデスクに行き、スチールデスクの下を見る。

 無精ひげの男が、アイマスクをつけて、机の下に枕を置いていびきをかいている。


「石橋!」


 容赦なく、笹見は、男の腹を蹴りつけた。


「ぐほ! がっ! ご!?」


 ぐしゃ、ごん、がががん!


 蹴られたショックで、跳ね起きこした頭をデスクの裏にぶつけ、痛みに伸ばした足が椅子を蹴飛ばしてしまう。


「な、何すんねん!」


 アイマスクを慌てて外しながら、石橋は、机の下からクマのひどい顔をのぞかせる。


「あ、ふり……痛ってぇぇ!!」


 ついポロっと”不倫”と言いかけ、笹見の踵落としを頭に食らう。


「本人に向かって言っていいことと悪いことが……って、いいわ。ちょっと、取材行くわよ。人集めて!」


「あん? なんだよ」


「なんだよって、あんた、状況分かってないの?」


「はあ? 俺、朝までドッキリの編集してて、お前に、起こされたとこやろが?」


 石橋は、ボリボリ腹をかきながら起き上がり、机の上の飲みかけで置いたままだったコーヒーを手に取る。


「もう! 説明はおいおいするから、早く行くわよ!」


「行くって、どこに?」


 面倒くさそうにあくぴをする石橋に向けて、笹見は、ビシッと窓を指さす。


「ピュリッツァー賞をとりに!」


 そんな彼女のどや顔に、石橋は心底つまらなそうにため息をつく。


「うっぜぇー」


 呟きが耳に入り、笹見は一発石橋の頭を殴りつけると、力づくで、彼の身体を窓際まで連れていく。


「だから痛ぇって! ……て、なんだこれ?」


 窓からは、燃え盛る炎、走り回ると騎馬、戦う警察官たちの様子が見て取れた。




 広場では、警察方が、騎馬の騎士たちを相手に優勢に戦いを進めていた。

 友兼の指示通り、動かせる車でクラクションを鳴らしながら、時には車をぶつけて、騎士や従者を追い立てる。分断したところを、数人がかりで、馬から引きずり下ろし、押し倒し、手錠をかけてゆく。

 人数的には、最初は騎士側が分散しているとはいえ多かったが、火炎瓶で混乱を生じていたところに、突撃を加えられ、各個撃破されていった。さらには、大阪城ホールから、次々と増援が現れた。しかも、全国大会に出場するような剣道と薙刀の達人たちが加わっている。更には、車という騎士たちにとっては見たこともない荷車に追いかけられ、油断すれば火炎瓶をぶつけられる。

 炎には、馬も騎士も根源的な恐怖を呼び起こされる。

 騎士にとっては、『これが騎士の戦いか!』と叫びたかったが、蛮族どもに通じる訳もないと諦め、目の前の敵を打ち倒すしかなかった。


「あいつの後ろに回って!」


 上坂栞は、運転している同僚に叫んだ。自分の乗った軽トラの荷台から、運転席の窓越しに同僚の肩を叩き、一人の警官を切りつけた騎士を指さす。


「了解!」


 先ほどまでは、騎士に近づいては、軽トラの荷台から火炎瓶を投げつけていたのだが、火炎瓶は最後の一つを使い切ったところだった。

 殺された人々、命がけで戦う仲間たち、自ら死地に飛び込んでいった政治家を見れば、死の恐怖は頭から消えていた。ただ、目の前の理不尽な暴力をねじ伏せたかった。

 トラックが騎士の後ろから迫る。車体に手をかけ、栞は勢いをつけて、飛び出した。


「しゃーあ!」


 叫んで、騎士の横から体当たりをかける。激しくぶつかり、騎士はバランスを崩すが、栞の軽い体重では落馬までには至らなかった。けれど、身軽に騎士の右腕にとりつく。騎士が反射的に入れる力も利用して、蹴り上げるように騎士の腕に足を絡め、肘の関節を決める。絵にかいたような飛びつき腕ひしぎ逆十字固めに、騎士がうめき声と共に剣を取り落とす。

 騎士は、苦痛にうめきながら、振り払おうと左手で栞の身体を殴りつける。


「痛てぇんだよ!」


 叫ぶとゴキッ、という嫌な音と共に関節が逆方向にねじ曲がる。


『グオォォゥゥゥ』


 騎士の身体が揺れ、栞の体重と鎧の重さに、馬から転げ落ちる。栞は、猫のような身軽さで騎士から離れて、両足で着地すると、すかさず左腕の関節を固める


「柔道バカなめんな!」


 2度目の低い悲鳴が轟いた。




「うっわあ、あの子、カワイイって思ってたのに、怖っわ……」


 安藤は、広場の店舗のうち、騎士たちを排除できたところから、店の中に避難していた人々を逃げるよう誘導している所だった。


「あんなの見たら、代議士が女嫌いになのもわかるな~」


 足をくじいたというお年寄りに手を貸しながら、安藤はしみじみと述懐した。




 広場の店舗に隠れていた人たちや、大阪城ホールに居た警官以外の観客たちは、友兼たちが守っていた橋を通り、北へと逃げていく。

 橋の上で、中条は、本部からの無線で様子を確認している。

 上空に到達した警察ヘリによると、広場の南側、友兼が突っ込んでいった方向には、槍や弓を携えた中世風の鎧を身に着けた兵士たちが3~4000人以上がおり、その半数は西側に移動中。だが、残り半数は広場に向けて移動しているとの情報が入ってきた。

 広場の戦いは、警官たちが優勢に騎士たちを駆逐している。けれど、燃え盛る移動販売車のバリケードの向こうの歩兵たちが到達すれば、一挙に形勢は逆転するだろう。

 けれど、警察側も、もうすぐ機動隊が到着する。機動隊が到着すれば、この場を橋頭保に防衛線を張る。その間に、少しでもこの橋の北側の市民たちを避難させる必要があった。

 大阪城の西側、谷町筋にかけても、歩兵4000人以上が騎兵の後を追うように現れているらしい。そのため、一時押していた警察側も押し返されている。大阪城公園を中心に、南及び南西(警察本部を中心に)から西にかけては防衛線がかろうじて存在し、住之江区からの第二機動隊本部からも救援が駆けつける。北は、この場で耐えている。第一機動隊本部の隊員たちが着けば、互角以上に戦えるだろう。

 けれど、すでに北西側では、市街地に敵兵が次々と広がっているとの事だ。

 東側については不明。


「これは、封じ込めではなく、市民の避難誘導を優先すべきだな」


 そう決断し、本部へ伝えたところで、ヘリから悲鳴のような連絡が聞こえた。

 その内容に、中条は眉を顰める。


「な、なにをバカな……スケルトンにゾンビの集団だと……?」


裏タイトル:48kg以下級。祖母は赤帯。


栞ちゃんカワイイ!

好き!


設定としては、柔道一家ながら、身体が弱いのと兄弟の柔道バカぶりを見てて、柔道嫌い。祖母に習って、お茶やお花に精を出し、小中学校の頃は小説を読み漁る。

柔道を本格的に始めたのは高校から。それなのに、天賦の才を発揮し、インターハイ出場。


え?

笹見アナの設定?

特に無いです……

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