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バサラ・バサラ・バサラ

『……よって、爾後、帝国の到着を待ち、その軍勢の協力を以って反転攻勢を行う所存に御座います』


 大阪城天守閣において、ローベルトは、王国討伐遠征軍総指揮官アンネリースへ戦況と今後の行動指針を述べて、退室した。


『ふう……』


 ローベルトとの問答は、ネイガウスに任せ、ただ聞くだけだったアンネリースは、彼が部屋を出ていくと大きくため息をついた。

 自分に軍事の事はわからない。

 おかしいと思うことはあるが、聖王国を立つ折に、父王からも軍事については、ローベルトに任せるよう言いつけられている。

 アンネリースは、天守閣のテラスに出た。


『あ……』


 身を降ろすと、直下の広場に赤い鎧の軍勢が集まっている。その先頭に、美しい羽根飾りを背負った豪奢な鎧の騎士。


『バサラ将軍』


 名を呼ぶだけで、頬が熱くなる。


『……え』


 けれど、その光景にアンネリースの普段変化の少ない顔の筋肉が驚きに動く。鎧姿のままで、アンネリースが駆けだす。金色の鎧は、付与された風の魔法により重さを打ち消されている。アンネリースは、身軽に天守閣の八層の階段を駆け下りた。


『姫様!?』


 背後であがる侍女たちの叫びを無視して駆けた。





 ローベルトは、アンネリースとの会談を終え、階段を降りると1階フロアに出た。

 1階に控えていた側近たちが、周りを囲む。


『外が不穏にございます。ご注意を、若』


 老騎士の耳打ちに、顎を引き、外に出る。

 天守閣の右手、南側から、赤い鎧の騎士団が馬を進めてくる。


『ちっ、バサラめか』


 先頭で馬を進めるのは、ほほえみを浮かべた美丈夫。

 隣には、勇者の姿もある。


『奴め、アンネリース様に何用だ』


『どのような理由があろうと、持ち場を離れるとはいただけませんな』


『そうじゃな』


 幕僚の言葉にうなずきつつ、天守閣の前の階段を下る。

 少し距離を置いて、バサラは、馬を降りようとしている。

 ローベルトは、側近を引き連れ、彼のもとへと歩みを進める。


如何いかがした、バサラ? 持ち場を離れるような事態が起きたか?』


 馬を降りたバサラが、片膝をつき、こうべを垂れる。隣に勇者が、その後ろにバサラの側近たちが同様に頭を下げる。


『恐れながら、ローベルト閣下の危急の時と聞き、馳せ参じました』


『……ほう』


 バサラの目前にまで歩み寄り、ローベルトは、髭に手をやる。


『日本国の攻撃により、神使を奪われたと聞き及びましたゆえ』


『な!』


 なぜ、それを! と言いかけて、口をつぐむ。

 はっと側近たちを振り返るが、いずれの者も驚いた顔をしている。


『な、何のことだ!』


 つくろおうとしたが、居るべき神使の姿が無い時点でおかしな話だ。


『事、ここに至りましては、本来の目的を外れた二ホン国への攻撃を諦め。詫びを以って、二ホン国と講和に向けて真摯に向き合うべきかと進言申し上げます』


 ローベルトが誤魔化そうとするのを無視し、バサラは提言を行う。


『……お、お前の意見は聞いて! ……ふむ』


 怒鳴りかけて、心を落ち着ける。


『……一考はしよう。だが、今は持ち場に戻るが良い』


 バサラが顔を上げる。口元に微笑を絶やさない。いつもの表情ではある。けれど、その目が自分をあざけっているようにローベルトには感じられる。


 不快さに、目をそらす。


『左様でございますか』


 いつもと変わらぬバサラの声音。


『では仕方ございませんわ。かしこまりました』


 バサラは立ち上がると、マントを翻して背を向ける。そして、勇者と部下たちに立つように手で促す。


『あ、そういえば、閣下』


 バサラが背を向けたまま、横顔を向ける。その礼を欠く態度に、腹の虫の居所が悪くなりそうだが、抑える。


『なんだ、バサラ』


 バサラが、顔をローベルトに向けるべく、身体を指揮官の方へ動かしかける。


『お別れでございますわ』


『?』


 ローベルトへと身体を回転させていた勢いが、一気に増し、バサラの握った剣が半円の軌跡を描く。

 まばたきの間に抜かれた剣。

 煌めくバサラの魔剣が、勢いよくローベルトの首元に叩きつけられた。





「隊長!」


 騎馬の一団が、後方で起こる爆発にも構わず、駆けてくる。その数、500騎ほど。先ほどまでの騎士と違い、馬にまで鱗状の鎧が着せられ、馬上の騎士のプレート鎧も薄っすらと輝きを発している。

 場所は、警察本部東側。車両用の出入り口の前の道路を、重装の騎馬が疾走する。

 隊員たちが、小銃から5.56ミリの弾丸を放つ。

 鎧を穿つ弾丸と、甲高い音を立て弾かれる弾丸の音が混じる。


「く……」


 バタバタと馬が倒れ、騎士たちが力を失い落馬するが、勢いが止まらない。


「硬いな」


『ウララァァァァ!!!』


 次々と落伍者を出しながらも、重装の騎馬軍団は、上町筋を自衛隊目掛けて駆け下る。

 必死の勢いで突っ込んできた騎士のランスが、隊員の胸を抉り、宙に舞いあげられる。その光景に、別の隊員の腰が浮く。


『援護する』


 無線から冷静な声が流れた。

 狙撃銃の7.62ミリの弾丸が、先頭を走る士官の頭を貫いた。

 続けて、機関銃から12.7ミリの弾丸が、騎馬隊の先頭目掛けて打ち込まれる。先ほどまでの弾をはじいていた鎧が、紙のように切り裂かれ、騎士の身体がはじけ飛ぶ。

 その援護に、自衛隊員たちも、車の後ろから騎士たちを屠ってゆく。


『閣下、申し訳ございません……』


 シュミット伯爵は、崩壊する重装騎馬の群れの中で撃たれた胸を抑えつつ、呻く。天を仰ぎ、そのまま馬の背から崩れ落ちた。





 キン!

 甲高い音ともに、バサラの剣が跳ね上げられる。

 剣を下から打ち付けた老騎士は、ローベルトを守るように前に出……


『真宮寺!』


 バサラの声より早く、ローベルトの前に出ようとした老騎士に、剣が叩きつけられる。老騎士は、剣の峰で受け流そうとするが、受け流しきれず、身体ごと飛ばされる。それを追うように、一陣の風となった真宮寺が走る。

 バサラは、老騎士シューベルト卿を真宮寺に任せ、剣をローベルトに向ける。


『セルジュ・バサラ・フランク、思うところありて二ホン国にお味方いたしますわ!』


 その声に、後ろに控えていた赤い鎧の群れが駆け出し、ローベルトや彼の兵らを取り囲むべく動き出す。


『き、気でも狂ったか!』


 バサラには、ローベルトも用心していた。それは、異常なくらいに。

 いつか、聖王国を裏切ることも考えていた。

 二ホン国へ寝返ることも考慮に入れている。


(だがしかし、今、聖王国を裏切ったところで、相手である二ホン国が受けて入れてくれるのか?)


(交渉の暇など無かったはずだ)


(確かに、ミシェルは裏切った)


(あの裏切りが、バサラの指示であった可能性はある)


(だが、数時間だ)


(ミシェル個人が亡命するのと、バサラが軍として寝返るのとでは話が違う。規模が違う。そのような交渉が出来ているはずがない。この場を乗り切ったとしても、国に戻ることはできない。裏切った後で交渉するのか? 馬鹿な、そんな不確実な事をするはずが無い。文化も、思想も、法律もわからぬ相手に赤手空拳せきしゅくうけんで身をゆだねるなど……)


『閣下!』


 部下に背を押された瞬間、バサラの剣先が目の前を横切った。代わりに切られた部下の血が宙を舞う。


『見くびるな!』


 魔力を引出し、右手を突き出す。百を超える氷の矢が中空に出現する。


『さすが』


 バサラのいつもの口調に、からかわれている気持ちになり、怒りが湧き出る。


『死ね!』


 氷の矢が、光となってバサラに降り注ぐ。

 バサラが右手をグルリと回すと、彼の前に、巨大な炎の壁が立ち上がり、氷の矢をことごとく受け止める。


『バサラ! バサラ! バサラ!』


 防がれたのは不愉快だが、その隙に、ローベルトは後ろに下がる。

 見渡せば、護衛の兵士たちが、赤い鎧の騎士たちに次々に討ち取られている。老騎士、シューベルト卿も、勇者相手に善戦しているが、血まみれで片腕を失っている。


『閣下ぁ!!』


 後ろから、部下の断末魔のような叫び。


『さようなら』


 上から、バサラの高い声。

 見上げれば、上空から降下しながら剣を振り下ろす、化粧をした将軍の姿がある。腰から力が抜け、尻が地面に落ちる。


(こいつに殺されるとはな……)


 ローベルトは、諦観とともに目を閉じた。


『我、思うところありて×××にお味方いた~す!』

と突然、味方を裏切る婆娑羅大名。


バサラ→ばさら者(傾奇者みたいなの)。

佐々木道誉がイメージのもと。

けっして、「オレの歌を聞け~」の人ではない。


この場面を書けたので、だいぶ満足。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ローベルト、聖王国の更なる犠牲を減らすべく誅され・・・・ 戦略目標過誤から即座に情報収集と防御態勢に移行してれば神使を奪われず、命も無くすことなかったのだが・・・・ 未…
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