魔法使いの火炎魔法(魔法要素無し) 裏タイトル:道程ですけど何か?
40歳になって、友兼は魔法使いになった。
童貞だったけど、30歳ではなく、その10年後に魔法を使えるようになってしまった。
と言っても、手品代わりに使えるような簡単な術式だけ。
例えば、小さなものを出したり消したり(異空間への収納らしい)。指先から少量の水を出したり、小さな炎を灯したり。もし、タバコを吸うのなら便利だったかもしれない。
きっかけは、前々世の記憶を思い出したこと。
前々世で、友兼は大魔法使いだったらしい。300年の人生を生き、獣を狩ったり、野盗の集団と格闘したり、魔物と闘ったり、魔人を締め落としたりしていた。
(……あれ? 魔法使ってるイメージ少ないぞ)
定番の勇者や聖女とともに魔王と決戦もしており、その世界では、すごい存在だったらしい。
但し、現世では、大気中の魔力・魔素が存在しない関係から、しょぼい魔法しか使えない。けれど、自分の中のオーラを全身に循環させ、体の強靭さを増したり、筋力アップ、短時間睡眠でも眠気がとれるという力は手に入れた。
もし、流行りの転生することになっても、魔法を使って生きていけるな~、とは思っていたのだが……今は、今日生き残れるかどうかが不安。
(前世の記憶の一部を思い出したのが20歳の頃だったので、次は、60の還暦で前々々世の記憶を思い出すのかな?
前世の記憶で思い出せたのは、ごくわずかだ。17~18世紀くらいのヨーロッパ風の世界で、科学者というか錬金術師というべき存在だった。その世界では、魔石という魔力の塊を動力源にした魔道具と呼ばれるものが流通していた。照明器具、調理器具、遠距離の通話道具といった物が一般的だが、結構高価だったはずだ。で、当時のボクは、魔道具の研究発明を本業としながら、昔亡くなった恋人を蘇らせるための研究に没頭していた。
……マッドサイエンティストじゃん。
当時の事なので、家格に応じて独身はありえない。蘇らせようとした恋人以外に、奥さんは居た。奥さんも昔からの知り合いで、ボクの事を好きだったらしい。
が、心は昔の恋人だけを見ていた。
で、いつしか精神を病んだ奥さんは、研究が完成する直前に、ボクを刺して屋敷に火を放って一緒に死のうとした。ボクは、刺されただけでは死なず、瀕死の中で恋人を復活させる。けれど、蘇った恋人は、昔の彼女ではなく、燃え盛る炎の中でボクを絞め殺すのだった。
……嫌な昼ドラだ。
そして、今でも殺される瞬間&刺される瞬間、映像としてはっきりと呼び起こされる。
トラウマになった。
ああ、ボクが女性に近づくと蕁麻疹が出たり、吐き気がしたり、頭が痛くなるのは、そのせいなのかと納得できた。
おかげで、恥ずかしながら童貞を守り切ったおかげで、魔法使いになれた。……のだろうか? ならば、この事態に至れば、感謝すべきなのかもしれない)
(とはいえ、大魔法使い時代の攻撃魔法が使えれば、この状態も簡単に乗り切れただろうに、この場を乗り切れるような魔法は……無い。使えない)
(でも、体内エネルギー所謂オーラを循環させるという、魔法使い時代の技術を使える。今なら、オリンピックにも出られるだろう運動能力を手に入れた)
(飛んでくる槍を、軽々と掴み取るなんて言う技は、それ以前では考えられなかった)
(そして、一番重要なのは、そんな超常の力を得たことにより、内心は別としても非常事態でも冷静で居られることだ)
(さあて、上手くいってくれるかな?)
「ひゃぁぁ~、まじか、こりゃ!」
橋を渡り、広場に近づいてきたスーツの一団は、広場に広がる凄惨な光景に息をのみ、足をすくませる。
「安藤、電話で伝えたものは?」
「買ってきました! あと、他の先生方の秘書さんたちにも手伝ってもらってます。先生方も、たくさん大阪城ホールの中に取り残されているそうです」
荷物の詰め込まれたコンビニ袋を降ろしながら、安藤と呼ばれた男は、額に噴きだした汗をタオルでせっせと拭う。多くの国会議員や府会議員も開会式に招待され、時間通りに着いていた議員たちは大阪城ホールに閉じ込められているのだろう。
「みなさん、ありがとうございます」
「友兼先生! な、何が起こってるんですか!?」
「ニュースで、テロって話ですが! なんだよ、これ……」
「何が起こってんだよ!!」
礼を言う友兼に、目の前の惨状を信じられない秘書の数人が声を荒げ、ほぼ全員が顔を青ざめさせる。
「わかんない。でも、やれることをやるよ。協力できる人、手伝ってね」
友兼が言ったのと時を同じくして、喊声と喚声が上がる。
「ウラァーー」
「応戦! 応戦!」
「右に回り込め!」
「馬の後ろに立つな!」
防御陣を組んでいた警察官の列へ、人馬のバリケードを飛び越え騎士が一騎、飛び込んできていた。
「撃て!」
中条部長の指示が飛び、即座に対応した警官が発砲する。
板金鎧に弾かれた弾丸もあったが、数発が鎧を貫くと、騎士の身体から力が抜けていくのがわかる。
「確保! 確保!」
その隙を逃さず、警官が騎士を引きずり下ろし、数人がかりで馬乗りになって手錠をかける。
「よし! あっちは、警察の方々に任せ、こっちは火炎瓶の用意をするよ~」
パン!と、一つ大きな音を立てて手を打ち、友兼はのんびりとした声音で呼びかける。
「さあ、工作の時間だよ~」
「……」
一人緊張感の欠ける声に、周りはあっけにとられ、言葉が出てこない。
「ビール瓶にガソリンをつめて火炎瓶にする。栓はしっかりしてね。ガソリンはビンの外にこぼさないように入れてね……
安藤、ビニール袋とハサミ。
ありがと。
ほらよっと。たぶん、こんな風に、ビニール袋の下を切って、切った先を瓶に半分くらい差し込んで……っと、誰か、袋持っといて。そう、そんな感じで。で、君、ガソリン注いでみて」
下側に穴をあけたビニール袋をビール瓶の先に入れ、一人に袋を持たせ、携行缶を持ったままだった一人にガソリンを入れさせる。
「うん、ゆっくりとこぼさないようにね。投げる前に火が燃え移るとか、笑い話にもならいなから」
「せ、先生……火炎瓶作成は、法律違反です」
ついさっき数メートル先で戦いを見、その先には、戦場と化しているのに、誰かが法律の話をする。
「そうだね。まあ、緊急避難だよ。もしもの時は、責任取るから、気にせずに作ってみよう!」
内心、この非常事態に意識する話かと怒鳴りたくなるが、おくびにも出さず、作業を促す。
「でも、裁判になったら、緊急事態、緊急避難と正当防衛の証人になってね。ちょっと過剰防衛っぽいけど」
友兼としては、緊張を解く意味でふざけてみた。
「はい、もちろんです!」
警官たちの列から、数名、強い返事が返ってくる。
思わず、笑いが漏れ、空気が少し弛緩する。
「では、作業は6名で行って、残りは、ガソリンと瓶の補充。あと、そこのホテルや近くの人たちに協力を呼び掛けて。それ以外の人には、逃げるよう伝えてほしい」
(さあて、それ以外で、何かできることは無いかな?)
友兼は、戸惑いながら作業を始める秘書たちを眺めつつ、腕組みしながら思案を巡らせる。
道程
僕の前に道はない僕の後ろに獣道は出来る
ああ、自然の山の中よ……
え、これだと、遭難してるって?
あ、友兼くん、42才で童貞なのをいじりたかっただけです。
ちなみに、男が好きとかではありません。前世のトラウマなので、そのトラウマが解消されればハーレム一直線かな? タグにハーレムって書いてあるし。
ご覧いただき、ありがとうございます。
本日は、これまでとさせて頂き、また明日、4~5話投稿させていただく予定としております。
宜しければ、お付き合い頂ければ、舞い踊って喜びます。
おやすみなさい。