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警察本部前 攻防戦2

「タバコ吸いてぇ」


 ポツリと一人が目の前の光景を見ながら、つぶやく。

 先ほどまでは、中世ヨーロッパ風軍隊の鎧を着た兵士が陣を張り、盾を並べ、隊伍を組んでいるさまが見て取れた。今は、白い煙が濃く漂い、ぼんやりと見られる程度。


「禁煙中だろ」


「なんか煙見てるとな……」


 機動隊員たちは、防毒マスクごしに、テロリストの動きを見守っている。

 警察本部前から、谷町筋にかけて東西に放置された自動車と、警察の放水車、装甲車を並べてバリケードが築かれている。その内側で、ライオットシールドを構えた機動隊を中心に、銃器対策部隊やSAT等の特殊部隊がサポートに入れるよう陣形を組んでいる。

 煙越しに防毒マスクを持たない敵兵たちの激しくせき込む音や、鎧をガチャガチャ鳴らして走る音が聞こえていた。

 その音が、徐々に小さくなっている。


「来るな」


「ああ」


 咳をする音は聞こえる。それも、先ほどと比べると小さくなっている。煙の量は変わらない。テロリストどもは逆に増えている。咳やくしゃみが少なくなっているのは、緊張感が絶頂を迎え、交感神経が副交感神経を抑圧しているのだろう。


「警戒!」


 上司の叫びが響いた。

 瞬間、敵陣が白く発光する。

 直後、目の前の車の側面で、爆発が巻き起こる。車が跳ね、衝撃が広がる。風が肌を叩き、ほこりをまき散らす。


『ウラァァァァ!!!』


「放水! 放水!」


「持ち堪えろ!」


「発砲!」


 放水車から、人が飛ばされるほどの勢いの高圧力で放水が行われ、騎士や兵士を地面に転がす。弓兵による矢が放たれ、警察官たちの頭上に降り注ぐ。機動隊員の発砲により、兵士が膝を折り、騎馬が横倒しになる。


『ウラァァァァ!!!』


 騎士が一団となって突っ込んでくる。


『ウラァァァァ!!!』


 それに倍する兵士が後に続いて駆けてくる。

 パラパララララララ

 SATの構えた自動小銃が乾いた音を立て、兵士の命を狩りとっていく。


『グラァァァ!』


 バリケードを踏み越え、テロリストが剣を片手に機動隊員に躍りかかる。剣が振り下ろされ、隊員のヘルメットをかち割る。


「この野郎!」


 近くの隊員が、警棒で、その兵士の後頭部を殴りつける。

 その背に向けて、次々とバリケードを越えた兵士が迫る。

 自動小銃がその兵士たちを薙ぎ払う。

 血が飛び、地面が血の赤と脂肪の黄色で染められていく。


「自衛隊……友兼先生……はやく、頼みます……」


 指令本部で、流れる映像と轟く無線の叫びを聞きながら、誰もが救いを求めた。




「チッ、時間稼げなかった!」


 思わず、舌打ちをし、雛菊は椅子を蹴倒すように立ち上がった。と同時に駆けだす。

 右手が、左のたもとに差し入れられ、テープでとめていた特殊警棒を握りしめる。取り出す動作のまま、下向きに振り下ろすと、15センチほどの長さだった警棒が3倍ほどに伸びる。

 一直線に、ローベルトへ向けて跳ぶ。


『な!?』


 ためらいの無い雛菊の動きに、一瞬、聖王国軍首脳部の動きが止まる。


「キモイねん!!」


 力いっぱい、水平に警棒が振るわれ、ローベルトの側頭部を穿つ。

 グイィーン……と、低い音が響く。

 殴られた頭だけが先を飛ぶように、ローベルトの身体が宙を舞う。

膝の上に座らされていたミシェルは、猫のような身軽さで跳ね、1回転して着地する。しかも、その手に、それぞれ王杓とローベルトの剣が握られている。


『トモカネ!』


 自分に向けて、ミシェルが王杓を差し出すのを見て、受け取りながら友兼も走り出す。未だ、じっと動かない神使に向けて。


『閣下!』


 転がるローベルトに側近の一人が駆け寄り、側頭部に手を当て、呪文を唱える。


『このれ者が!』


 地面を転がるローベルトへと、雛菊は、第二撃を見舞うべく跳ぶ。側近の一人が、雛菊に剣を向けようとして、簡単に吹き飛ばされる。


「もろた!」


 一足飛びに近づいた雛菊が、警棒を振り上げる。手当をしていた側近が腰を抜かし、ぼんやりと開かれたローベルトの目が、鬼気迫る聖女の姿に、見開かれる。

 音速の半分近い速さで振り下ろされる特殊警棒。

 その軌道を剣が遮る。

 ただ受けただけならば、剣が砕けるはずのその勢いを逃がすように、受け流される。振り下ろした勢いをすかされ、雛菊が思わずたたらを踏む。


『若、お気を確かに!』


 雛菊の警棒を受け流した老騎士が、油断なく、ローベルトへの行く手を塞ぐ。


「チッ!」


 舌打ちし、横薙ぎに警棒を振り切る。それを老騎士は、難なく受け流す。

 ただ、その隙をついて、二人の頭上を影が飛びこえる。ミシェルが、空を舞い、ローベルトに向けて急降下しながら、剣先を突き出す。


『死ね!』


 必殺の突きを繰り出す。


『ぐ!』


 そのミシェルの小さな体が、老騎士の後ろ蹴りにより、跳ね飛ばされた。


『閣下!』


 外から兵士が駆け込んでくる。それを見て、雛菊は、顔をしかめながら、特殊警棒の先を地面につける。

 虹色の壁が雛菊を中心に生まれ、天幕の中を隔離するようにドームが出現する。

 雛菊の隣に、荒い息のミシェルが立つ。

 天幕の中には、ローベルトと側近6名。そのうち一人と、別にミシェルが護衛の兵士二人は始末した。追加の兵士は、ドームで遮られ侵入できない。

 ただし……


『あいつ、厄介やね』


 ローベルを守るように立つ老騎士。

 軽装の身軽な鎧に、細い剣。力は強くない。けれど、防御魔法と力技(怪力)が持ち味の雛菊とは相性が悪い技巧を持つ。


『ふぅ……容赦が無いな、聖女……』


 倒れていたローベルトが半身を起こした。

 側頭部から血を流しているが、大きな傷ではない。


『神に近い”ばけもの”の防御魔法を打ち破るとは、やはりお前たちも化け物だな……』


 雛菊を見る目が憎悪に染まっていた。





 難波宮跡公園には、陸上自衛隊第37普通科連隊の車両が次々に停められていく。兵員輸送車やトラックから、自衛隊員たちが駆け下り、各隊指揮官を中心に隊伍を組む。


「点呼! ……よし、装備のチェックを怠るな」


 佐々木二等陸尉は、自らの率いる小隊が集まり、装備を確認する様子を見ながら、大きくうなずく。最初話を聞いた時には、どこの怪獣映画かパニックムービーへの出演かと疑った。それも、説明する上官の真摯さと、ダメ押しのニュース映像で現実と知った。


「敵は国籍不明のテロリスト。ただし、異世界の軍隊との事だ。更に、この後、モンスターなどの襲撃もあると想像される」


 自分で言いながら、想像じゃなくて創造ではないのかとの疑いは晴れない。


「現在、大阪府警本部が、テロリストどもの包囲に遭い、その攻撃も近いと予想される。我々の目的は、大阪府警本部付近の敵対象集団の排除。並びに、警察と協力し、市民の安全確保と治安維持を行う。武器の使用については……」


 言いかけたところで、北の方から、雄叫びや喚声が聞こえ始める。

 振り返ると、すぐ北側、府警本部付近から爆発音も響いてくる。


「始まりやがったか……」


『連隊本部より各位、敵対象集団より攻撃が開始されたと連絡が大阪府警本部より入った。総員、急ぎ、所定の位置へつき、任務の開始を急がれたし……』


 無線からも、危急を知らせる連絡が入ってくる。


「隊長、総員準備整いました」


「わかった。第3小隊出撃だ」


 伊吹陸曹の報告に、うなずき、佐々木は進発を指示した。


「行くぞ!」





 クリストは、白い靄の中をトコトコと歩いている。出かけに友兼に渡されたコンパス機能のついた腕時計。それを紐で結んで首からかけ、ブツブツ言いながら歩いている。


『まったく、我が弟子も、聖女も人使いの荒い……』


 時々、踏みつぶされそうになりながら、器用に人々のブーツをよけ、トコトコと歩き回る。


『死の王と呼ばれ、魔王にまで恐れられる存在ぞ! あいつらは、師に、目上の者に、年寄りに対する礼儀を知らぬ……』


 ぶつくさ言いながらも、クリストは律義に、交わした約束を守るため歩く速度を速める。


『……にしても、あやつは、神使相手にうまくやっておるかの。あやつの力であれば、神使の莫大な魔力も無効化し、受け流せよう。さすれば、魔力の塊である神使、その魔力を使い切れば、元のチリへと帰ろうて……そうしてやるのが、あの子のためには良い……はずじゃがの』


 喧騒の中、小さな骸骨の呟きに気づく者は誰も無かった。


いつも、お読みいただき、ありがとうございます。

平日1話にて、お届けさせていただきます。

……ストックが……もう……

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― 新着の感想 ―
[良い点] どれもこれもキャラがいい。 [気になる点] 友兼が何をしたかったか、いまいちわからん。 完全に脇役に徹してるけど、やっぱ主役は動かして欲しいと思った。 [一言] ごめん、二回も感想書いて…
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