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警察本部前 攻防戦1

 整えられた天幕の中で、ローベルトは折り畳み式の腰掛に座ると、そばに立つ男を招き寄せる。


『ルドルフ』


『は、閣下』


『魔法使いは使い物になるか?』


『おそらく、1、2度の術行使ならば。その後、卒倒してしまいますが』


『よかろう。準備が整い次第、攻撃を開始せよ』


『かしこまりました』


『それと、万一、我に何かあった場合は、お前が指揮をれ』


 聞いていた天幕内の側近の視線が、ローベルトに集まる。


『皆も、アステル子爵の動きを注視せよ。忠誠を誓うままなら良し。バサラについておるならば、始末せん……ただし、我に万が一のときには、ルドルフの指揮に従え』


 命じ、睥睨へいげいする。


『承知いたしました。閣下』


 代表して、副将の男が一歩前に出て、承知の意を示す。


『閣下、では私は、蛮族ども駆逐して参ります』


『行け。アーリンゲ家の家門に恥じぬ戦いを期待しておる』


 ルドルフは、一度深く頭を下げると、マントをひるがえし、テントを出ていく。


『聖女様、アステル男爵家ミシェル様、ご来着にございます』


 入れ替わりに、従者が、ミシェルと聖女の到着を告げる。

 ローベルトの側近が、3人ずつ、左右に並ぶ。その一人が、ローベルトの耳元に口を近づける。


『裏に兵士を控えさせております』


 顎を引いて応え、従者に声をかける。


『よし通せ!』





 後ろから、絶え間なく、ポン、ポンと催涙弾の撃ち出される音を聞きながら、友兼たちは、聖王国陣中を進む。白いもやの中、案内に従いついて行く。兵士たちが咳き込み、むせび、涙を流す中、友兼と雛菊にガスの影響はない。ミシェルだけが、マスクのおかげで呼吸は少しましだが、目の痛みに涙がこぼれる。それがガラス状の膜を越えると、白い煙の無い空間になる。

 ガラス状の膜、友兼は、不思議に思い手を伸ばそうとするが、光沢だけで、手はするりとすり抜ける。


『結界やよ。うちの使うんとは、違うけど』


 小声で、雛菊が説明してくれる。

 ここまで案内してくれた兵士が、膜の内側の兵士に伝言し、しばらく待たされる。

 従者が、結界の奥の方に見える天幕へと走る。

 天幕から出てきた高級将校が、入れ替わりに友兼たちのそばを通り、ミシェルを一瞥いちべつする。ミシェルは、何も言わず、膝をつく。雛菊は、軽く頭を下げるだけ。


『ローベルトの従弟やよ』


 男が通り過ぎたあと、雛菊がポツリとつぶやく。

 すぐに、従者が戻り、ローベルトが待っている旨を伝え、天幕へと案内してくれる。

 天幕の前では、ミシェルと友兼が腰の剣を、雛菊が錫杖を兵士に預けさせられた。


『ようこそおいで下された、聖女様!』


 ローベルトが椅子を立ち、大げさな身振りで歓迎の意を示す。そして、雛菊にだけ、簡易の椅子が用意される。

 ミシェルと友兼は、膝を地面につけ、こうべを垂れる。

 その一瞬の間に、天幕の様子を頭に刻む。


(正面のカイゼル髭がローベルト。その左右に3人ずつ。後ろの入り口そばに兵士が2人。そして、ローベルトの真後ろに━━モニターで見たあの子が神使か)


 実物を見ると、小さく、やせこけた身体で、ただの子供にしか見えない。小さな女の子にしか見えないだけに、その咎人とがびとのような姿はより異様に映る。


『失礼いたします』


 ゆっくりとした動作で、雛菊は席につくと、たもとを整えて膝の上で手を重ねる。


『久しいな、ミシェル!』


 雛菊が着席するのを見て、ローベルトも腰を落ち着ける。


久闊きゅうかつ、お詫び申し上げます。閣下』


『構わぬさ。バサラのもとで忙しかろうてな。お前が息災であれば、余に望むことは無い』


 ローベルトは、左の手で髭の先を弄ぶと、片頬だけを上げる。


『……にしても、変わった口覆くちおおいをしておるの』


 その目が、ミシェルと雛菊のマスクに留まる。慌てた様子でマスクをとるミシェルとそのままの雛菊。


『失礼いたしました』


『良い。さて、魔道通信では、の者の裏切りがナントカという話だったか?』


『はい、バサラ将軍が二ホン国と密約を結びました。その証拠を入手して参りました』


『ほう』


 ローベルトは、じっとミシェルを見つめたまま、目を細める。


『我が見込んだだけのことはある。さて、その証拠とは?』


『その前に、宜しいでしょうか?』


 話を進めようとしたところで、雛菊が手を上げる。


『もちろんでございます、聖女様。どのような事でございましょう?』


 ローベルトの視線が、ミシェルから自分に移るのを確認し、雛菊は深く頭を下げる。


『私と、勇者は、この国の生まれでございます』


『ほう』


『はい。そのため、出来ましたら、戦いにならないことを望んでいます。聖王国も、日本国も、私にとっては大切な国ですので』


『左様でございましょうな』


『そこで、戦争を止めて頂きたく、お願い申し上げます』


『ふむ……』


 雛菊の願いに、ローベルトは難しい顔をして、眉をひそめる。


『もともとこの遠征軍の目的は、王国。日本国ではございません。それに、日本の武器は強いです。聖王国の兵に多くの被害をもたらします』


『ほほう』


 「日本の武器は強い」と言ったところで、反応を示したが、それについては何も言わず、ローベルトは芝居じみた溜息を吐く。


『聖女様のお気持ちは深く、このローベルトめの心に染み入りまする』


『では……』


『されど━━』


 ローベルトは、雛菊の言葉を強引に遮る。


『されど、帝国は戦さを止めますまい。

 彼奴きゃつらの目的は、戦うことそのものでございます。王国であれ、日本国であれ、相手はどちらでも構わぬのでございます。闘い、血を流し、犯し、奪い、喰らう。その為ならば、敵は関係ありませぬ。

 ならば、帝国に襲われるくらいならば!

 先に聖王国がこの地を治めた方が、結果的には、この国の為になるかと存じますが如何いかがでございましょう?』


『……』


 期待はしていなかったし、理由として述べる事も想像がついていた。それでも、一縷いちるの望みを託した雛菊の提案だった。

 予想通り、無駄だった。

 雛菊は、深くため息を吐くと、悲しそうにミシェルを見て、首を振る。

 その様子に、ミシェルは頭を下げ、ローベルトに向き直る。


『では、閣下。バサラ将軍が二ホン国と密約を結びました証拠でございますが……』


『そうじゃな。見せよ』


 ローベルトは、雛菊と話していた時の沈痛な面持ちをあっさり消し去り、ミシェルに軽い笑みを見せる。


『出せ』


 ミシェルに命じられ、友兼は手にした布のカバンから、青い箱と卒業証書のような2つ折りの証書ファイルを取り出す。

 証書ファイルをミシェルは手に取り、青い箱については、友兼に開けるように促す。箱は、B5サイズの薄い箱。その外側はビロード生地で覆われている。箱を開けると、中には、勲章が収められている。中身は、警察本部に保管されていた瑞宝章の勲章。


『ほう。近こう……ミシェルも寄れ』


 手招きされ、二人は数歩、前に出る。友兼は、ローベルトの2メートルほど手前で、勲章の入ったケースを掲げるように持つ。

 着座するローベルの下半身が、友兼の視界に入る。腰の左に宝石飾りのついた剣をき、右に長さ30cmほどの水晶の柄に、拳より大きな透明の宝玉が付いてるワンド。王杓という名だが、見た目は太く短い杖。


『勲章か?』


『左様でございます。協力の証として、バサラ将軍へ贈られましたものでございます』


『ふむ』


 宝鏡を中心に連珠をつないだ勲章については、特に、ローベルトの興味は引かなかったようだ。すぐに、ミシェルの手にした書類に目を移す。

 視線を察し、ミシェルは証書ファイルを開き、中に収められた金箔飾りのついた賞状を見せる。


『ほうほう』


 見たことの無い文字。滑らかな光沢を放ち、金で飾られた紙と、材質の良くわからないその入れ物に目を輝かせる。


『もっと近こう寄れ』


 ミシェルが、ローベルトのすぐ前まで歩み寄る。


『あ……』


 ローベルトの手が、ミシェルの腰にのび、抱き寄せるように小柄なミシェルを自分の膝の上に座らせる。


『ちゃんとこちらに向けよ』


 膝の上に座らせたまま、ローベルトは証書を自分の方へと向けさせる。


『なんと美しい紙。華麗な筆致……なんと書いてある?』


 ひげの先を握る指先に力がこもる。


『バサラ将軍への協力の感謝と、謝礼の内容について書かれております』


『ふむ……美しい』


 つぶやくと、ミシェルの腰を抱いていた右手をゆっくり下ろす。そして、目は、証書を見つめたまま、下ろした手でミシェルの尻を撫でまわし始める。


「きもいきもいきもいきもいきもいきもい……」


 呪文のような声が雛菊の口から紡がれる。


(怖い、怖いよ。葵ちゃん……)


『読めぬのが残念だの。それで、ミシェル。バサラは、どのような協力を約束した?』


『二ホン国と呼応し、聖王国軍の背後から攻める約束でございます』


『ふむ……嘘か?』


 ビクッとミシェルが震えるのが、頭を下げたままの友兼にも分かった。


(ミシェルさん……正直者すぎる)


『ロ、ローベルトさま、くすぐったい……です』


(お、ゴマかした)


 ミシェルの反応に、ローベルトは喉の奥で、クックッと笑う。


『昔から敏感な奴だ……』


 更に、撫でる手に力を入れる。


「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ……」


(葵ちゃんの呟きが、呪文から呪いに変わっている気がする)


『皆が疑っておるのだ』


 ローベルトは、左右に立つ側近を振り返る。


『バサラに取り込まれたのではないか、とな。我は昔から可愛がってきたお前の事を信じたい。アステル家の後継ぎとして、名誉回復を図り、その身さえ捧げたお前の事を。信じたい。

 バサラはな、お前が亡命の為に二ホン国へニホン人捕虜を連れて逃げたと言いおった。なのに、お前は、バサラの裏切った証拠を持って戻ってきたと言う。


 さて考えよう。


 1つ。お前が、我らを裏切り、バサラの側に立ったのなら、二ホン国へバサラがつながったことは明らか。ならば、ここへ来たのも、バサラの指示だ。

 2つ。お前が我らを裏切っておらぬ場合。バサラは、二ホン国につながった。だが、その状況で、バサラにとっての裏切り者のお前をなぜ生かしておる?

 3つ。お前自身の亡命の意志で、二ホン国へ行ったのであれば、戻ってくる必要はない。であれば、なぜここに戻ってきた? ここにお前がいる時点で、亡命の意思はない、ということだ。バサラは嘘をついたことになる。そうなれば、お前はバサラの意志で動いていることにならぬか?

 ……ふむ、どうやら、お前はバサラの指示で動いておる結論になるな』


 ローベルトの頬は笑っているが、その目は冷ややかにミシェルを見つめる。

 ゴクリとノドが鳴る音が友兼の耳にも届く。

 一度、唇を舐めて湿らせると、改めてミシェルは口を開く。


『……亡命の意思があり、かつ、閣下を裏切っていない場合は?』


『ふむ?』


『私自身は、二ホン国へ亡命いたします。ただ、それだけでは、アステル家に迷惑が生じます。また大恩あるローベルト様への限りない不忠。

 バサラ将軍の裏切りの証拠を手土産に、亡命を認めて頂きたく存じます』


 ミシェルは、間近で嫌味な笑みを頬に張り付かせたままのローベルトの目を、しっかり見つめながら、想定問答集通りの答えを返す。


『お前が、そのような政治を行うようになるとはな。ひょろひょろのガキだったお前がな……』


 指揮官が感嘆の息を吐くの同時だった。

 天幕の外で、ドンドンドンという腹に響く爆発音と喚声が上がったのは。


『ウラァァァァ!!!』


 兵士の雄叫おたけびが、背後で広がる。


「チッ、時間稼げなかった!」


 思わず、舌打ちをし、雛菊は椅子から立ち上がった。


(せっかく疑われた時の為に、色々考えたのにね……)


ローベルト、何を言うてるの?

よくわかんない。

場合分けが合ってるのか、合ってないのか?

頭が痛くなってきた……

指摘は聞かな~~~い

あ~~~(∩゜д゜)アーアーきこえなーい


あと攻防(・・)してなくない?

というご意見も

(∩゜д゜)アーアーきこえなーい


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