こんな身近にテロリスト?
しばらくして、気持ちを落ち着かせた友兼は、本部長たちへと向き直る。
「ダイナマイトとか、手りゅう弾とかありません? パイプ爆弾とかでも」
「はあ?」
物騒な質問に、本気なのか冗談なのかと戸惑い、幹部たちが返答に窮する。
「特殊部隊の装備とか?」
「……閃光弾ならありますが、そういった、攻撃的なものは……」
総務部長が、装備品などを思い起こしながら応じる。
「あ、押収品とかでもいいですよ?」
「たしか……無かった、と思います」
「じゃあ、タンクローリーとかは? ガソリン積んでるのであれば勿論、軽油でも、ケロシンでも、液化窒素でもいいです」
通常時であれば、決して警察署内で警察幹部に聞くような事ではないことを大真面目に質問している姿に、見ていた雛菊が、ついおかしくなって噴き出している。
「せんせぇ、またトレーラーで突っ込む気なん? 暴走&突撃好きやねぇ~」
「また?」
「暴走?」
「……テロ?」
後ろで聞いていた雛菊の発言に、周囲がざわめき、友兼に奇異の視線が向けられる。
「……い、いや、署には無いですね」
「そうですか……じゃあ、毒ガスは? ……あるわけないか。材料は、無いか」
総務部長の答えに、周囲がざわついているのに気づいていない友兼は、残念そうに独り言をつぶやき、更に周りを騒然とさせる。もう一人、その場の雰囲気に気づいていない総務部長は、一つ思い出したように言葉を継ぐ。
「タンクローリーか……明日なら、給油に来てたんですけどね」
「給油?」
「ええ、地下の燃料貯蔵タンクに。パトカー用の給油施設があるので、定期的に来るんです」
「へえ~……でも、今回も火炎瓶っていうのも芸が無い。車にタンク詰むか?」
「今回も?」
発言に、周囲がまたざわつく。
周りの見る目が変わってきているのに気づいていない友兼は、肩の上のクリストへ問いかける。
「……そういえば、クリストさん?」
『うん?』
友兼は、いくつかの疑問をクリストに聞いてみた。
どうすれば、自衛隊が来るまでの時間を作り、被害を抑える事ができるか?
その手段を見出すために。
考えるようにクリストの話を聞いていた友兼。その寄せられていた眉根が、視線の先にあるモニターの映像によって、開かれる。
「来たか」
「ヘリだ!」
「自衛隊が来た!」
同時に、幾人かが叫ぶ。
画面には、黒い点のような映像が、急速にズームアップされていく。拡大された画像には、自衛隊ヘリのスマートな機影が映し出されている。
AH-1S コブラ。対戦車ヘリ。それが、16機。
その接近に気づいたのだろう。自由に遊弋していた聖王国の竜たちが、東の空に注意を向ける。
「頼むぞ!」
「やれ! 自衛隊!」
モニターに向けて、歓声が飛ぶ。
「先生、ヘリコプターによる援護はあるのでしょうか?」
その中で、指揮をとる幹部の一人が友兼に尋ねる。
「まず目的は、制空権の確保ですね。空を飛んでいる竜騎士や 空騎士の排除を行います。その後、援護に入る予定です……が」
「が?」
「あくまで正当防衛が基本ですので、最初から、ヘリによる攻撃は期待できません」
「それは確かに」
「いきなり機関銃やロケット弾を放っては、後々問題となるか」
「どこでカメラの回っているかわからない時代ですからね。犯罪者集団とはいえ、バルカン砲で撃たれている映像が流れた日には……」
「ああ……」
友兼の回答に、幹部たちも首を縦に振り、それぞれ寒気がする感想を口にする。
「ええ。あと、敵の魔法が、どれだけの威力を持つかわかりませんので、その点も注意しながらの援護体制となります」
敵の魔法による攻撃については、散発的にしか行われていないが、友兼は、バサラや誠、雛菊からの魔法についての情報を伝え、政府と自衛隊に注意は促している。
「魔法の場合……そういえば、神使に、コブラを攻撃されたら困るな」
言いながら、友兼は、先ほどまで見ていた画面に視線を戻す。神使は、変わらず空に浮かんだままだ。
「葵ちゃん。さっき、神使の魔法しばらく無理って言ってたけど、ヘリを攻撃するのも無理?」
「うん? 力の込め具合に寄るよ~。あの大きな氷の塊やったら、あと数発。ちっこいのやったら、かなり使えると思うよ~」
「数発撃てるのかよ。やばいな」
「やばいね~」
緊張感の無い女子高生の返答。友兼は気にした様子はないが、聞いていた幹部たちの方がつい眉を顰めてしまう。
「対策はある?」
「う~ん……クリスト卿、出番」
『ふむ。氷雪の神使の魔法は、直接的な力の使用が多い。氷塊を落とす。飛ばす。ぶつける。そして、凍らせる。
対策としては、一つは、乱戦に持ち込む。
間に障害物を入れるのもいい。
人数がいるのなら、互いに距離を取り、囮に攻撃を集中させている間に、本命が目的を果たす。
遠距離から、不意を打つ、などかの?
あ……距離があるのなら、逃げるのが一番じゃぞ』
「……という事やよ」
雛菊が、自分が説明したかのような調子で言葉を繋ぐ。
「わかった。ありがとう。下島さん、中部方面航空隊本部へ連絡してください。あの空に浮かんでいる神使というのが、魔法を使う可能性があります。先ほどの氷塊を放った存在です。数発の先ほどのサイズ、もしくは、威力を落とせば数十発以上発射できるとのこと。指令を出す者のそばを離れられないので、その者の視界に入らないか、直線的な場所には入らない、間に障害を入れるよう考慮すべきです。指令を出す者は、神使の直下にいる敵司令官です。以上、友兼からの情報として伝えておいてください」
「承知しました。それに対して、対処法など、何か指示はありますか?」
「対応は自衛隊の方で考えてくれます。彼らは戦闘の専門家ですから。任せます」
下島は、了解の意思を伝え、すぐに電話機に向かう。
「こっちは、別の策を練ろう」
友兼は、雛菊に向き直る。
「腹黒いことの専門家やから?」
「誰がだよ!」
「国会議員さん言うたら、そんなイメージやよ」
「悲しくなるわ! ……て、そんな場合じゃないから。葵ちゃん、ミシェルさんを呼んできてくれる?」
「ええけど、なんで?」
「ちょっと、いくつか悪だくみが思いついた」
「……やっぱり黒い」
「いや、この場をできるだけ被害出さずに収めたいだけだからね」
「えー」
雛菊にジト目で見られ、焦りながらも、悪だくみについて説明する。
……。
……。
「と、まあ、クリストさんの協力も必要だけどね」
『……ふむ。まあ、よかろう。被害が少ないのは、今後の聖王国のためにもなる。あとはバサラ次第か』
「うん、わかったぁ。ミシェル呼びに行ってくる」
友兼の説明を聞き終え、雛菊は、すぐに動き出す。
「あとは、バサラさんとミシェルさんが了解してくれるかな?」
友兼は、携帯を取り出すと真宮寺に預けてある自分のスマフォにコールした。
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……
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