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ロボホンRoBoHoN

 指令センターのメインスクリーンには、聖王国軍が府警本部から西側、府庁を越えて、谷町通りにも新たな戦力を投入し、陣形の厚く広がっていくさまが刻々と映し出されている。

 職員たちは、作業をこなしながらも、敵の攻撃が近いことを感じているのだろう。喧騒が静寂に変わりつつある。


「自衛隊は、北側からあと25分で梅田から大川沿いへ、南は、大阪城のすぐ南、難波宮跡公園へ30分で到着」


 友兼の声に、じっと座っている本部長が大きくうなずく。


「ただ、相手の陣地がこれだけ厚いと、展開、即攻撃とも行きにくいでしょうし……クリストさん、あとどれくらいで攻めてくるか予想つきます?」


『すぐ、じゃろうの。ローベルトの性格からして』


 問われたミニチュア骸骨が、カタカタと聞きなれぬ言語を発する。見ていた職員が興味深そうに、同僚に「あれ、なんだろう?」と囁きあっている。


『長くても四半刻かかるまい』


「うちがバリア張っとこか? どんだけ魔力持つか、知らんけど」


 雛菊の言葉に、先ほどから、骸骨以上になぜここにいるのか不思議に思っていた職員が、怪訝そうに少女を見ている。


「それか、せんせぇ一人で突撃して倒したらエエやん!」


 名案とばかりに、雛菊は手の平をあわせる。


「う~ん……やだ、怖い」


「先生、この子は?」


 適当な事を言う雛菊を見ながら、副本部長が恐る恐る尋ねる。


「先ほど電話番号を調べて頂いた際に説明した聖女さんです。向こうの世界に勇者と一緒に召喚されていたという子です」


「はじめまして、聖女やらせてもうとります。葵と申しますぅ」


 雛菊は周りを見渡すと、軽くスカートの裾を摘まんで礼をする。


「ああ、やはり……」


 友兼の説明に、不承不承うなずきながらも、副本部長はじめ職員たちは、扱いに困ったように雛菊を見る。


『そして、わしが死の王にして、死霊を束ねる魔道の真髄を研究……』


「で、これが最新のロボットホンです」


 聞かれてもいないのに、肩の上にすくっと立ち上がり自己紹介を始めるクリストを、友兼は適当にあしらう。


「はあ、ロボット……?」


「今は開発された国の言語ベラルーシ語しか話しませんが、そのうち、日本語も対応して、喋れるようになると思います」


『誰がからくり人形じゃ……いや、この体は、それ用か? うん? この体は、輸送専用のからくりじゃし、間違ってはおらぬのか?』


 怒って友兼の耳を引っ張りかけたクリストは、途中から、なぜか納得して大人しくなる。


「本体ちゃう言うてたもんね……でも、せんせぇ、その説明やと変なロボット肩に乗せてる頭わいてる人にならへん?」


「おおっふぅ!? しくじった!」


『失礼な奴らじゃのう』


 わいのわいのと言っている友兼と少女の様子は、今まさに攻撃せんと敵が進んでいる緊張感の中にいる職員にとっては、理解しがたいことだ。

 そんな周りの様子を察し、友兼は、ひとつ咳払いをしてから画面を見据える。

 その友兼に向けて、女性の職員がお盆にコーヒーを載せて近づいてくる。


「先生……どうぞ、宜しければ」


 テーブルへ置かれようとするコーヒーカップ。その陶器の器が、ソーサーの上でカチカチと音を鳴らす。指が小刻みに揺れ、机に置く前に、黒い液体がこぼれてしまっている。


「す、すみません」


 声もまた震えている。見れば、女性はおこりにかかったように体を震わせている。


「いいよ。ありがとうね」


 そんな彼女に、友兼は、目一杯やさしく笑い、礼を口にする。

 逃げるように背を向ける女性の他にも、怯えを隠せない様子の者は、この指令センター内にも何人もいる。


「……そりゃ、怖いわな」


 いろいろありすぎて、恐怖のリミッターが外れてしまっている自分を自覚する。

 目を閉じ、フーと細く長い吐息をつく。


「せんせぇ、困ってたら言うてや」


「うん?」


 目を開けると、至近距離で目線を合わせると雛菊がいた。


「バリア張れ言うんやったら張るし。ちょっと聖王国の軍の中行って時間稼いで来い、言うんやったら行くからね」


 明るくて、気遣いも出来ていい子だ。自分にこんな娘がいたら、毎日楽しいだろうなと思う。


(毎日、からかわれたり、怒られてそうだけど)


「バリアはどのくらい張れるの?」


「30分くらいかな?」


(……なら、ギリギリ、どうにかなるだろうか?)


『ただし、相手が何もしなければ、という但し書きはつくじゃろうがの』


 横からクリストが口をはさむ。


「どういう意味?」


『相手も聖女がいると知れば、聖女の魔力を削ぐべく動くじゃろうて?』


「なるほど……」


 クリストの差し出で口に、雛菊も首に縦に振りながらも、別の案を出す。


「それやったら、ちょっと聖王国の陣に行ってくるよ」


『何をする気じゃ?』


「戦わんといてぇーってお願いしに行ってもいいし、勝敗占うから待ってーとか。あと暴れよか? 

それか、司令官のクビちぎって持って帰ってきてもいいし」


 雛菊は、今日の帰り道にどこに寄り道するかを相談するように、何気ない様子で提案する。


「そのコーヒーが温かいうちに戻って来るよ」


「どこの関羽だよ?」


 ついツッコんでしまったけど、雛菊は、「どこ?」と疑問を口にし、首を傾げている。


「うん、気にしないで。……にしても、勇気あるね」


「聖女やからね~。人死ぬの好きちゃうし」


 気負いもなく、自然に雛菊は言う。


「確かに、人が死ぬのは見たくない」


 友兼も、そんな雛菊の様子に、改めて細く長い息を吐き、一つうなずく。


「義を見てせざるは勇無きなり」


 友兼は覚悟を決める。


「ぎおん見て? セガール? ……料亭?」


「政治家だからって、料亭ばっかり行ってないからね!

 ……ボクの座右の銘。

 出来ることはやらないとね、ってこと」


「ふ~ん」


 通じているのかどうかわからないが、雛菊は、うんうんと頷いている。

 決意を固めた友兼は、モニター画面を見る。

 視線を送ったモニターには、雛菊とクリストの要望があり、上空に浮かぶ白い襤褸ぼろをまとった人影が映し出されている。


「神使か……葵ちゃん、さっき奥の手を使った(・・・)って言ってたけど、あれは人なの?それとも兵器?」


「うーん、シロちゃんは完全に使役されてるからなぁ」


『拘束具によって、意思は封じられておるからの』


 雛菊とクリストが同時に答えを返す。


「使役? 誰か使い手がいて、そいつを倒せば、あの攻撃は無くなる?」


「……?」


 友兼の問いに、雛菊は首を捻りながら、クリストを見る。


『ふむ。神使の力をどのように使っているかによるのじゃが。

 まず、神使の力は、王家の血筋により引き出すことが可能じゃが、自ら王家に力を貸す神使は、その意思で力をふるう。この場合は、使い手を倒しても無意味。

 しかし、氷雪の神使は、自らの意志では従っておらぬ。

 支配の王杓おうしゃくと、拘束具により従わせておる。じゃから、その2つの破壊、もしくは、王杓の奪取と拘束具の解除により、神使は解放されるの』


 雛菊の視線を受けて、クリストは知識を語りだす。


「解放?」


『うむ、ただし、王杓が手元にない場合、解放された神使がどのような行動に出るかは知らぬがの』


「というと?」


『そのまま天界に戻ってくれればよいが。はてさて、今までの支配に対する怒りに任せて、力を解き放ち、吹雪が荒れ狂うか、地上を氷河に埋もれさせるか……』


「相当ひどいことをしてそうだね」


『……仕える身ゆえなんとも言えぬの』


 クリストは、息も出ないのに、大きくため息をつくような仕草で応える。


「王家か……」


 友兼は、あごに手をやり少し考える。


「それで、王杓の効果範囲とかはある?」


『およそ300めーとるじゃ。あの高さからして真下に、ローベルトめはおるじゃろうの』


「ああ、実質指揮官って人。……って、そんなえらいさんが、使役するの?」


『王家の、しかも選ばれた者にしか使えぬからの。ローベルトは、性格はなん(・・)じゃが、一流の魔術師ゆえ』


「この世界でも、魔法を使えるくらいの?」


『3回か4回かの。わしほどの力は無い』


 言いつつ、骸骨は、小さな体なのに胸を張る仕草をしているように見える。


「……混乱させて王杓奪えるか? 100メートル以上引き離すか? まずは、自衛隊が来るまで時間を稼ぐ……ボク一人で突撃しても時間稼ぎになるか? 切られても大丈夫そうだけど……あかん。怖い……」


 唇に指をあて、友兼は、ぶつぶつ言いながら考え込む。


「クリストさん、透明マントとか持ってませんか?」


『うん? あるぞ』


 そんな都合のいいものは無いだろうと思って聞いたので、思わず、首を捻って肩の骸骨を見やる。


「あるんだ! それ貸してください」


『ふむ、屋敷まで取りに戻らんといかんが良いか?』


「……それって時間かかりますよね?」


『1日あれば戻って来るぞ』


 聞いた自分がバカだったとばかり、頭を抱える。


(透明になって王杓奪うか。指揮官ヤっちゃえば、混乱すると思ったんだけど)


 何もしなければ、敵は陣を整え、警察本部に対する攻撃を始める。バリケードを守る機動隊員、建物内の警察官、避難している人々に被害が出るだろう。


「ねえ、クリスト、葵ちゃん」


「うん?」


『うむ?』


「今のボクだと、あそこに飛び込んでも死なないかな?」


「大丈夫ちゃう? 知らんけど」


『わしの力を弾けるのじゃから魔法は心配あるまい。身体も先ほどの様子じゃと頑丈じゃの。死にはせんじゃろ……捕まるかは知れんがの』


(……恐ろしいことを言う)


『ま、バサラクラスの腕前の者がいれば、腕の一本か二本か程度の覚悟をしておけば良い』


「良くないよ!」


 更に恐ろしいことを言われ、つい突っ込んでしまう。


「せんせぇ、心配せんでも、バサラみたいな強いんは例外やから」


 雛菊は、落ち着かせるように、友兼の腕をポンポンと叩く。


「そう、本当に?」


「うん。国でも30人おらんよ」


『ローランドの陣中に2、3人かの?』


「あかんやん!?」


 つい大声が出た。


ロボホンRoBoHoN を知らない方のために、念のため。


シャープから発売されている、モバイル型ロボットというらしいです。電話やメール、カメラ以外にも、「お留守番」や家電連携など、生活に役立つ各種機能があるらしいです。知らんけど。


体重や歩数などを伝えると、運動のアドバイスをしてくれたり、聴きたい歌をリクエストすると、ロボホンが伴奏つきで歌ってくれるサービスがあるらしいです。

最高機能タイプで、メーカー希望小売価格18万円!

これはお安い!

……うん?

( ,,`・ ω´・)ンンン?

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