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たまにお仕事する友兼

 本部指令センター室に入ると、先ほど以上に室内は混乱していた。

 色分けされたビブスを付けた職員たちが走り回り、奥の席では、上席が部下に叫ぶように指示している。

 室内にいくつも設置されたモニターに映し出されているのは、巨大な白い壁と遠くに舞う土ぼこり。


「なんだ、これ!?」


 モニターを見た友兼が驚愕の声を上げ、雛菊は、目を見開きながら口元を押さえる。


『ほほう、遠見の水晶の応用か? ……ローベルトめ、神使の力を最初からこれほどに使うか』


 クリストが、友兼の肩の上で顎を揺らす。


「友兼先生!」


 声を掛けられた方を見ると、情報班と書かれた緑のビブスを着た男が駆け寄ってきている。


「友兼先生の補佐をするように仰せつかりました。下島です」


 そばに立つと、男は切れの良い敬礼をし、肩の上でカタカタ音を鳴らしているクリストにギョッとしながらも、握手を求める。


「よろしくお願いします。それで、状況を教えてもらってもよろしいですか?」


「は! 現状、突如として、大阪城を起点として巨大な壁が東西方向に発生。氷の壁と見られ、テロリストの攻撃と思われます。しかしながら、原因は不明です。

 その後、巨大な氷の塊が、大阪湾を含む大阪府、兵庫県、奈良県に落下。多大な損害を引き起こした模様です」


 続けて、巨大な氷壁や落下してきた氷塊の規模、損害状況など現時点で判明していることを下島は報告する。


「葵ちゃん、これって魔法?」


 説明を聞きながら、隣の雛菊にも問いかける。


「魔法やけど、あいつら、奥の手使こうてきたね」


「奥の手?」


 雛菊が、モニターを見ながら唇を歪める。


「なんだあれは……?」


「ど、どうやって浮かんで……」


 誰かが、モニターに映し出された人影に呻きのような声を漏らす。

 襤褸ぼろから白い肌をのぞかせる少女のような姿かたちのモノが、空に浮かんでいる。目と口をふさがれ、腕は二重に拘束され、足がちぎれそうなほどの重そうな鉄球のついた足かせ。少女が白く長い髪を風にはらませながら、空に浮かんでいる。


『神使じゃ』


「神使……」


 口を挟んできたクリストの言葉を、友兼が鸚鵡オウム返しに口にする。雛菊が友兼を見上げて、納得したようにうなずく。


「神使、か……エエ言い方やね。うちらは、天使の成り損ないとか、天使やないけど天使、神さまのお使い、みたいな言い方してたけど」


 異世界の言語を勝手に翻訳してくれる友兼の魔法では、『神使』と日本語では訳されたようだ。


「あの子が、氷塊やら氷壁やらを?」


「見た目で騙されたらあかんよ」


「あんなのバンバン撃ち込まれたら、防げないだろ?」


「いやあ、ここまでやってもうたら、しばらく無理やと思う」


『そうじゃな、この世界では魔素が薄い故、この威力の魔法は何度も行使できんじゃろうの』


 それならば、少しは安心できるだろうか。けれど、今出ている被害だけで甚大なものだ。どこかで、臨海部の府庁の対策本部が建物ごと壊滅したとの叫びも聞こえてきている。


「自衛隊から連絡は?」


「は! 伊丹駐屯地より第36普通科連隊。信太山駐屯地より第37普通科連隊。日下防衛大臣代行の命令のもと出撃済みです!」


「了解です」


「それで、防衛省より連絡なんですが……」


「?」


 下島の言いにくそうな様子に、友兼は首をかしげる。


「お渡しした携帯の電源が切れていて、連絡が取れないと矢の催促が……」


「あ!?」


 慌てて携帯を取り出す。先ほど府警本部から渡された非常通信帯域使用の携帯を見れば、電源が切れている。


「あ……まずっ」


「こんな非常事態にぃ……あ、さっき貸してもろた時、うち切ってもうたかも~?」


 のんびりとした口調で言いながら、雛菊は、コツンと自分の頭を叩き、てへぺろっと舌を出す。

 あざとい姿に、一言なにか言いたかったが、友兼は、電源を入れた携帯で、まずは防衛省の担当職員に謝り倒した。




 友兼は、一つテーブルを与えられ、防衛省や自衛隊から送られてきたFAXやメールをプリントアウトしたものを見ながら、携帯と卓上の電話機を駆使して、対応している。


「ええ、訓示の内容は見ています。概ね、これで結構ですが、以下の追加をお願いします。

『隊員諸兄に置かれては、異世界の軍隊、騎士。また竜、ゴブリンやオークといったモンスターの襲来と言っても、にわかに信じられないでしょう。

 当然です。

 ですが、物語や映画の中でしか現れないと思っていた者たちが出現しています。

 そして、それらに襲われている人々が現実に存在します。

 今まさに、自衛隊で無ければ、助けられない人々がいます。

 助けを求めています。

 モンスターがどのような戦い方をするのかは、未知です。

 繰り返しになりますが、刑法第35条の正当行為にて、法令又は正当な業務による行為は罰しないとあります。武器の使用をためらう必要はありません。

 私は、市民とあなたち自衛隊員の安全を最優先と考えています。

 この戦いを生きて、そして、勝ち抜きましょう』

 と、こんな感じで、あとの責任は、私や総理やエライさんがとるからね~!って感じで、お願いします。

 ……ええ、はい、原稿できたら、後ほど音声データにして送りますね、はい」


 友兼は、携帯を切ると、耳に当てたままだった受話器を取り直す。


「すみません、お待たせしました。赤城一佐。

 ええ、隊員と指揮官たちに、一佐からも、くれぐれも躊躇しないように伝えてください。

 ━━で話はもどりますが、八尾空港近くに先ほどの大質量投下物が、状態……ええ、駐屯の、中部方面航空隊は、ああ、残念です……被害は……第5対戦車ヘリコプター隊は明野駐屯地で無事、出撃……」


 話しながらも、目は手元の書類を追い、何か書き込んだりしている。

 その様子と、モニターを交互に眺めながら、雛菊は肘をついた手の上に顎を載せている。


「忙しそうやね~」


『ちゃんと仕事もするんじゃの~』


 クリストは、雛菊の肘のそばに座り、友兼が聞いたら怒りそうなことを言う。


『さてさて、外の様子は?』


 先ほど遠隔を見通せるシステムに感動していたクリストは、モニターをじっくり眺めてみる。


「本隊が、どんどん集まってるね」


『ここを騎士団本部と見定めたかの?』


 モニターの中では、北から進軍してきた兵士たちが、もともとその場にいた兵士たちと入れ替わるように陣を敷いていくさまが見てとれる。


『神使の力、使えて一回程度だろうが、用心しておけよ。聖女』


「うちらに味方すんの?」


『なに、ローベルトどもよりは、弟子の命の方が大事じゃ』


「弟子にすんの諦めへんねんね~」


『このような面白い素材、諦められるか』


(面白いうえに、素材って……)


 友兼は、仕事に集中できないので、こいつら、もっと遠くで話してほしい、と心の中で嘆いていた。


短編宣伝【勇者は帰ってきた!】


https://ncode.syosetu.com/n2776gg/


読了時間:約14分(6,519文字)



こんな感じです。お暇なら、いかがですか?

本文中より


「ヒーリングとか使えますが?」


「医師法違反になるね」


「ポーション作れるんですが・・・」


「薬事法違反」


「不老長寿の実験体とか?」


「すでに開発されているね」


・・・世知辛い世の中だ・・・

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