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クリストの人体実験

「あ、誰だろ?」


 安藤は携帯を取り出すと、登録されていない番号にいぶかりながらも、通話ボタンを押す。


「おお、代議士! 生きてたんですね!」


 その発言に、周りにいた警官たちが、おーとどよめく。短い時間とはいえ、一緒に戦い、自分たちの為に犠牲になったかもと心配していた戦友の無事を喜ぶ。


「ええ、こっちは無事です……え?

 防衛副大臣になった? なんですか、その展開? まあ、無事生き残れたら、いろんな意味でパーティーですね?」


「……え?」


「え、はあ? でもすぐに辞任しないといけない? 議員もやめないといけないかも?

 ……

 はああ!? ちょ、おま、何し……ごほんごほん、ええーと、どういうことか意味不明ですよ。代議士?」


 安藤の大声に、周りの警官たちの視線が集まる。


「はあ……、勇者と聖女……、敵の将軍と交渉……、アンデッドの王とたたかう……、総理から直接……。

 ……。

 代議士いつからハリウッド映画の俳優志望に……?」


「……何の話だ?」


「ラノベか?」


「こんなときに?」


 漏れ聞こえる通話内容に、周りの警官たちは首をひねる。


「え、自衛隊がもうすぐ来る? ようやくですね……あ、事務所にも電話しといてくださいよ!

 メールで代議士どうなったか、すっごい聞かれてますから!」


 安藤が通話を終えたのを見て、警官たちを代表して、年長の西川が尋ねる。


「友兼先生からですか?」


「はい。命冥加にも生き残ったらしいです。

 それで、みなさん、代議士から伝言です。

 この事態収まったらバーベキューしようね、って言ってました。エエ肉仕入れときます」


「おお~」


「だから、みなさん、市民をたくさん救って。大活躍して。

 そして、無事生きて帰りましょう。

 ━━ですって」




「……事務所か。……怒られそうだから、後にしよう」


 友兼は、事務所の職員や秘書が怒っているさまを想像し、そっと電話を置いた。


「先生、うちのうちの電話番号分かってんて。電話借りてええ?」


 雛菊が座っている友兼の後ろから顔を出し、携帯を指さす。


「どうぞ~」


 手渡すと、雛菊は、にこにこしながら頭を下げ、部屋の隅に駆けていく。


「どれくらいぶりの電話なんだろう?」


 彼女の背中を目で追いながら、どのくらい勇者と聖女は、異世界で暮らしていたのか聞いていなかったことに気づいた。


「ま、カレーひとつで、被ってた猫が吹っ飛ぶくらいは居たんだろうね」


 クリストとの戦闘くらいから、おっとりした聖女のイメージは変わってきているけれど。




 しばらくして、コーヒーが運ばれてきた。


『なぜ食事などにこだわるか、わからぬ』


 クリストは、友兼の肩に座り、未だ名残惜しそうにカレー皿に残るルーを指ですくい取ろうとする兵士たちを眺める。


「食欲と睡眠は、大切ですよ」


 食後のコーヒーに口を付ける。


「あと、性欲ぅ」


 隣に座る雛菊の発言に、思わず口に含んだコーヒーを噴出してしまう。


「あぁ、もう、キチャないな~」


 それを見て、彼女は愉快そうに頬笑んでいる。イタズラっぼい目で。


「高校生に弄ばれている」


 思わず、友兼は、テーブルに突っ伏しそうになる。


『ほう、それが嫌なら、我と同じ階梯に進むがよい。感情に惑わされることも、性欲も、食欲も、睡眠欲も不要ぞ』


 弟子にすることを諦めていなかったようだ。


『とはいえ、今はまだよい。それよりも気になるのは、そなたの身体だ』


「うちの身体が目的!?」


 雛菊が、パッと両手で胸元から肩を覆って隠す。


「そういうネタ好きだねぇ……」


 出会った時のおっとりした感じから、かなりイメージが変わったなと友兼はため息が出る。


『出会った時よりも、魔力の内蔵量が増えておる。そして、先ほど魔力を肉体機能や防御力に転換できるとの話であったな』


 雛菊のネタを無視し、クリストは語り続ける。


(あ、葵ちゃんがスルーされて不満そう)


『ゆえに試してみたい。

 誰か、剣を持て……おぬし、こちらへ来い。ほれ、トモカネも立て』


 何のことかわからないものの、言われるままに友兼が立ち上がると、興味を惹かれて、呼ばれた兵士もやってくる。


『こいつの肩を切りつけてみよ』


「え!?」


『お主は、ちゃんと身体を守るように力を循環させよ。よしやれ!』


『クリスト様、よろしいのですか?』


 驚く友兼に一言言い置き、クリストは兵士に指示を与える。


『ほら許しが出たから、骸骨ごと叩き潰しまおう!』


 雛菊が、ビシッと右肩の骸骨を指さす。


「おおい!」『うおおい!』


 師と弟子(仮)の声がハモる。

 雛菊の追加の指示に、兵士が困ったように、ミシェルを見る。


『クリストさまと逆の肩、左肩を切りつけてみなさい』


「ま、マジですか……」


 友兼は顔を青ざめさせながらも、指令を受けた兵士が困りながらも剣を鞘から抜くのを見て、即座に、身体の中のオーラを循環させ、魔力を体表にまとわりつかせるイメージを形成する。それとは別に力も入れ過ぎて、身体が強張こわばる。


『参ります』


 剣を構える兵士の言葉に、覚悟を決めて目を閉じた友兼がうなずく。

 同意を受け、上段に振り上げた剣を友兼の肩に叩きつける。


 キン!


 革鎧の金属プレート部分に当たり、硬い金属音が響く。


「こっわーー」


 驚きで高鳴る胸を、鎧の上から押さえつつ、友兼は自分の左肩を見る。


『ふむ、キズも無いの』


 クリストが、右肩から左肩に移り、鎧の様子を確かめる。


『次は、トモカネ、手のひらで受けよ』


「えー!!」


『なあに、大丈夫じゃ。もし、手が砕けようと、腕がちぎれようと、聖女ならば完治させられるわ』


 話題を振られた雛菊は、黙ってVサインをしてみせる。


「えぇぇ?」


「あ、なんか信じられてへん? ちょいムカ。『ミシェルちゃん、力いっぱいやったって~』」


『うむ、ミシェル。この中では、お主が一番の使い手じゃの。全力でれ!』


「えーーー!!!」


『仕方ありませんね』


 仕方ないと言いつつ、ミシェルが張り切って前に出て来る。


『勇者と同じ力。耳にした時から、試してみたいと思っておりました』


「あ、あかん、あかん人の目やよ。ちょっと、葵ちゃん!」


 右手を掲げ、助けを求めるように雛菊へ伸ばそうとする。


「あーめーん」


『覚悟!』


(覚悟なんてないわ!)


 心の中で叫んだが、ミシェルは先ほどの兵士以上の剣速とキレで剣を振り下ろす。


 ガシっ! 思わず、剣先が触れた瞬間、掴み取ってしまう。


「痛い……」


 剣を手放し、手のひらを見る。剣の痕が赤く線になり、少し血がにじんでいる。けれど、それも、すぐにふさがっていく。


『ほほう。治癒力も高いの』


「ボク、人間やめた感が……」


(……いろいろ、おかしな身体になってきてる)


『前世、魔法使いであったことに感謝かの?』


 雛菊が慌てて走り寄り、友兼の手を取る。手のひら、手の甲とひっくり返し、キズが治っているのを確認する。


「痛ぁなかったん?」


「うん、あんまり」


『これは……次は、勇者に切らせてみたいの』


「それやったら、代わりに、うちが魔力込めて殴ってみよか?」


「やめて……心臓が死ぬ……。次、動物実験反対の法案が国会に出たら賛成する……。実験動物の気分が分かった……」


 へたり込みそうな友兼の様子に、唇をアヒルのような形にして雛菊が微笑む。


「しゃあないね~」


『いや、やってみよう。聖女の攻撃に耐えられるなら、この戦場に出てもよほど相手でなければ、死ぬまい……まあ、死んでも生き返らせるがの……それも良いの』


「色々怖いこと言わないでぇ! 特に最後、ボソッと怖いこと言ったー!!」


「せんせぇ……ちょっとカワイイ」


 錯乱し始める友兼に、妖しく目を光らせるクリストと雛菊。戸惑うべきなのか、笑っていいのか、周りのミシェルたちには、どうすべきかわからないカオスな状態、

 その空気を打ち破ったのは、下から突き上げるような大きな振動だった。


はあ、日間ランキングから脱落。

2日間の短く、儚い夢でした。

……でも、いいんです。読んでくれる人が、5倍弱になったから!

瞬間風速だけど。


お気軽にブックマークお願いいたします。料金もかかりませんので。壺も売りに行ったりしませんので。


ありがとうございました!

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