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火炎乱舞

 城の北東でも、戦線は膠着こうちゃくしている。

 中条警務部長は、手すりから身を乗り出すようにして、敵兵の動きに注意を配る。

 大阪城公園北側のビル上に上がり、大阪城ホール付近に展開する敵兵の動向を探り、時に、敵兵の突撃を察知し、部下に指示を下す。

 中条の指示のもと、車を利用してバリケードを築くことで道を塞ぎ、敵兵士の進出を抑えている。最初はバリケードを設けても、矢が降り注いでいたが、今はもう飛んでこない。数に限りがあるのだろう。敵に、飛び道具が少ないのが救いだ。

 時間は味方だ。時が経てば、他県の機動隊が到着するし、自衛隊が現れると期待している。

 スケルトンやゾンビの出現には驚かされたが、対処できない脅威では無かった。戦士としての質なら敵兵士の方が高く、これ以上増えなければ、いずれ包囲網を狭めていけるだろう。


「いくらなんでも、テロリストどもも、これ以上増えることは無いだろう」


 すでに報告では、万単位のテロリストが出現している。国家規模の兵力だ。どうやって入国したのかが不思議なほどの人数。


「ぶ、部長!」


 部下の一人が、大阪城の方向を指さしている。

 顔色が青ざめている。


「大丈夫か?」


 部下の様子に、不安を覚えつつも、指さす方へ視線を向ける。


「な、なんだ……あれは?」


 空を飛ぶ怪異がいる。古代の翼竜に似ているだろうか?

 人を背中に乗せているようだ。

 空を飛んでいたヘリコプターに近づいていく。

 ヘリと竜が激突した。別のヘリが、火を噴かれた。

 一機、また一機と、ヘリが墜落していく。


「い、いったい、何が……?」


 理解が追い付かない。

 見てる間に、一尾の翼竜が、中条たちのいるビルの屋上に接近してくる。

 翼竜というよりは、西洋ファンタジーの竜に近いのだろうか。


(部下に、こういうのが詳しいのが居たな……。誰だったか?)


 他の竜よりも2、3周り大きく赤い竜だ。

 その赤い竜がよだれにまみれた口を大きく開くと、ちらりと赤い光がほとばしった。


「に、逃げ……」


 叫びは、奔流のようにほとばしる火炎に包まれた。

 ビルの屋上を炎が埋め尽くした。




「シールドバッシュ!」


 筒井が、叫んで盾ごと身体を兵士にぶつかっていく。


「刀の錆にぃ……うっひょー!?」


 メガネが、剣で兵士に切りつけようとして逆に相手にはじき返されている。


「当たれ!!」


 メガネの戦う相手に、稲垣が引き絞ったパチンコで、パチンコ玉を発射する。


「ぐおぉぉぉぉ」


 パチンコ玉が額を割り、思わずのけぞる兵士をメガネが切りつける。殺傷力が、武器としてのスリングショットに達している。

 周りでは、同様のスリングショットで、10人ほどの兵士の集団に打ち込み、剣や斧、バールなどで殴りつける。1対1では、鍛えられた兵士たちに敵わないが、人数が多いために倒すことが出来そうだ。

 稲垣たちは、集団で学校を脱出し、西へ進んでいた。途中見つけたホームセンターに立ち寄り、逃げ疲れていたこともあり、仲間たちとともに隠れた。同じことを考えていた者たちが、次々集まり、ケガをしたり、動けない人たちを休ませた。ホームセンターという事で武器になる物も多く、食料もあることで、一時的な拠点となっていた。

 ゾンビやスケルトンは、慣れてくると、被害をそれほど出さずに倒せるようになっていた。次に、武装した兵士たちには苦戦したが、この場所まで来ると10名ほどの小集団で偵察しているらしく、今のところ、囲んで逃げ場所を無くし、手作りしたスリングショットで痛めつけ、集団で殴り倒すことで何とかなっている。


「早く死体を片付けて!」


 稲垣は、指示を出しながら、倒れた一人の兵士を建物の中に運び込む。

 数時間前までは、普通に授業を受けていただけの高校生だったのに、今では、死体に触れることはもちろん、人を殺めることもためらわなくなっている。


(最初に、スケルトンとかと戦って、ハードル下がったんだろうな)


 加えて、死体に見慣れたせいだろう。ここに至るまでに、数々の死を見、転がっている遺体にも無感情になってしまっている。


「お疲れ様~」


 同級生の女子生徒にスポーツ飲料を差し出される。


「ありがと、白石さん」


「ええよ、これくらい。それで、レベルアップとかした?」


「わかんね、何も反応ない」


「そうなんや。筒井は、そろそろ盾で弾くん上手なってるみたいやけどね」


 稲垣も、筒井のシールドバッシュはスキルなのかもしれないと思うくらい上達している。


「重心低くして、相手のバランスを崩してるよな~。あと思いっきりがいい」


「主人公補正かかってるって思いこんでんねんて」


「やばい奴……」


 そこにホームセンターに置いてある作業服に鉄板などを取り付けた自家製鎧姿のメガネと筒井が、買い物かご片手にやってくる。


「おお、ここに居たか」


 買い物かごから固形栄養バーを取り出し、稲垣に投げる。


「おう、さんきゅ」


「とりあえず、日が暮れるまでは、ここで様子を見ようってことだ」


「まだ逃げてくる人もいるしな」


 メガネと筒井は、稲垣の前に座り込む。


「けど、いつでも逃げられる用意はしとこう」


「ああ、とりあえず、みんなで水と食料、武器になる物を集めとこう。携帯トイレも、ここなら有るな」


「あとは、包帯や薬か?」


「パワストーンとかあったら、それも集めとこう!」


「なんで?」


「異世界だと、大抵きれいに丸い磨かれた貴石とか、ガラスとかがすっごい高く売れるってのが定番。何かの時に、ワイロとかに使えるかも、だ」


「あ、じゃあ、ビー玉と腕時計とかも良さそう」


 学校で見ていた普段の何事に対してもやる気のなさが嘘のように生き生きしているな、と稲垣は感じる。


(『危機に即してこそ、男は真価を発揮するのさ』、とか言いそうだから言わないけど)


「おい、稲垣、行くぞ」


 メガネに促され、稲垣は慌てて立ち上がる。


 真宮寺誠は勇者である。

 聖王国と帝国の長年の戦争の中で、聖王国の切り札として召喚され、帝国の恐るべき魔獣、怪物たちを相手に戦ってきた。

 剣を持てば悩むことなく、敵を打倒してきた。

 その彼が、今悩んでいた。


「出番がない……」


 まだ一度も戦っていない。それどころか、もう何ページ登場していないだろう。


「勇者って普通、もっと出番多くね?」

 おかしい。何か出来ることは無いのか?


「そうか。今の俺に出来る事があった!」


 真宮寺は立ち上がると、カッと目を見開く。


「さあ、皆さん、オレの出番と作者のモチベ維持のために、是非とも……『は~い、次の話行くわよ~。あら、どうしたの? 変な顔して?』

「べーつーにー」

 彼の活躍は、まだまだ先のようだ。


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