警察本部到着
ローファンタジー部門、日間73位(→夜に56位)に滑り込ませて頂きました。
皆様のお力のおかげです。
本当に、ありがとうございます。
これからも頑張りますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。
(2020/05/24)
先導の騎士により、この陣の指揮官のもとに案内された友兼達一行は、指揮官に命令書を渡した後、大阪城の大手門を通り、兵の密集した陣地に案内された。
最前列に大盾を構えた兵士、槍兵、弓兵が南北に長い陣を敷いている。そのすぐ目の前には、木立ちを境にして南北に通る4車線道路にパトカーや警察の装甲車が列を為し、バリケードを形作っている。その後ろにそびえ立つ建物が、大阪府警本部。
異世界の軍が出現しているトンネルが大阪城の中心部なので、警察としては、公園の中心、城跡の部分に敵を閉じ込めておきたいところだろう。この南西の大手門、北西の京橋口、南東の玉造口、それに青屋門の4カ所を抑えれば、城跡に閉じ込められる。
まずは、この大手門を抑えるべく警察は攻勢をかけたのだろう。制服姿の警官の死体と聖王国の兵士の死体やけが人が、そこかしこに見受けられる。
『これ以上近づくと、蛮族どもが勢いだけは強い水の魔法を使う』
指揮官によって案内を任された士官が、説明しながら、放水車を指さす。
『先ほどまでは、奴らの使う煙玉の臭いがひどくてな。目や鼻に沁みて仕方がなかったのだが、クリスト卿より、アンデッドの援護が無いため無理をするなとの指示があり、今はこのように均衡を保っている』
チラッと雛菊の視線が、友兼の肩の上に向けられる。
『何より問題は、蛮族どもの武器だ。見えぬ矢らしいのだが、音が響いたと思うと、矢に貫かれている。しかも、威力がなかなか有る。騎士の鎧さえ貫いてくるのだ。盾も役に立たん。返す返すも、アンデッドの援護が無いのが悔やまれる』
今も、どこかを撃ち抜かれたのだろう騎士が、後方に運ばれていく様子が見られる。
『それにしても、バサラ将軍は、どうやって蛮族どもと連絡を取ったのだ? 言葉も通じぬ奴らだぞ?』
『ここは、勇者さまや聖女さまの生まれた地でございますので』
『そうなのか。であれば、勇者どのらを召喚できるフランク公爵家ならば、なにか伝手もあるのか』
『詳しくは存じませんが。おそらくは』
ミシェルは士官の言葉に適当に話を合わせる。
『では、行ってまいります。ご案内、ありがとうございました』
ミシェルが頭を下げると、士官は、姿勢を正す。
『武運をお祈り申し上げる』
ただでさえ危険な使者。それも蛮族と思っている相手への使者ということで、士官は心から労りを込めた礼をし、部下に道をあけるように指示を出す。
聖王国兵に動きがあるのを見て、車によるバリケードの内側では一瞬緊張が走る。それも、ミシェルが部下に、白い旗を掲げながら近づいてくるのを見るまで。
警察側にも連絡が行っているらしく、バリケードを構成しているパトカーの一部が動き、通路ができる。
『行くぞ』
「行くでー、やって」
ミシェルが部下たちに声をかけるのを、雛菊が訳して、歩き出す。
前後に、3メートルに近い漆黒の鎧の騎士。しかも、骨に皮膚だけを張り付けたような金属光沢のある黒い肌には、鼓動するように所々が脈打つように動く。眼窩に揺れる赤い炎。命の無い異様な存在。
「うおっ!?」
「なんだあれ?」
デスメイルを見た、バリケードの陰で戦闘態勢を解かずにいた機動隊員の口から思わず、驚きの声が漏れる。
透明な盾を構えた機動隊員たちが、友兼たちを招くために開けたバリケードの隙間から、警察本部の入り口へと固まって立っている。
「と、友兼先生は、いらっしゃいますか?」
建物入口の脇に立っている数名の制服警官から声がかかる。
先頭を行く、デスメイルに顔をひきつらせたひょろっとした中年の男性が、おどおどしながら一歩前に出る。
「はーい、この人ですよー」
雛菊が、友兼を大きな動作で指さす。友兼は、同行の兵士に手伝ってもらい、兜を外している。
「お待ちしておりました。指揮本部までご案内させていただきます」
「ありがとうございます。この方たちに、どこか待機して頂ける部屋は?」
「はい、ご用意してあります、が、こちらの方は……」
案内係の目が、屹立するデスメイルに向かう。
「そういえば、彼らって誰の命令聞いてるんだろう?」
「この骸骨ちゃううん?」
(雛菊のクリストに対する扱いがひどくなる一方)
『お主じゃぞ。命令権限を、弟子であるお主に移譲しておる』
肩の上に居ついてるクリスト人形が疑問に答える。
「いや、弟子になった覚えは……」
「へえ、そうなんや~。あれやね、変なポーズとらせてSNSに投稿したらバズリそう」
(……ボケにツッコミが追い付かんな)
友兼は、諦めて、デスメイルに隅っこの邪魔にならない場所に集まってもらうことにする。禍々しいオーラをまとった巨大な騎士が、(雛菊のお願いで)体育座りで壁際に並ぶ。
「とりあえず、葵ちゃんは、みんなと一緒に居て。通訳できるのが、君しかいないし。
ただ、葵ちゃんは、後から呼ぶかもしれないので、そのつもりで頼むね」
「りょ」
「ついでに、クリストさんも持って行って」
言って、友兼は、骸骨の頭をつまむと、雛菊の肩に乗せる。
「えーーー」
そこまでイヤか? と聞きたくなりそうな顔をする雛菊だったが、振り払うのようなことは我慢した。
『ワシも行きたいのじゃがの』
「今は、そちらの国と戦争中ですからね。無闇に情報をもらせません」
(それに、変なマスコットキャラを身に着けるようになったな~とか思われたくない)
『残念じゃ』
「いってらっしゃーい」
ミシェルと兵士たちにお礼を告げて、友兼たちは建物の中に入っていった。
「そういえば、葵ちゃん、向こうの世界で、スライムとか、白い犬とかに懐かれるとかあった?」
「うん、あるよ。白くてモコモコの狼っぽい子。すっごい懐いてくれてる子」
「(あ、察し)フェンリルとか?」
「うん、それ! でも、まだ子供やから小っこくてカワエエよ」
「真宮寺くんには?」
「あいつは、卵拾って、いつのまにか小さい竜が孵化してたんやて。で、ずっーと傍にいてる」
「竜、いいな……」
「ご飯も、お風呂も、寝るのも一緒なんやけど。この前起きたら、その子が小っこい女の子になっててんて。笑うわ~」
(うっわああ、マスコットキャラっぽい~
それに引き換え……)
『うん? なぜ、わしを見る?』
「……別に……」