休憩中 恋バナ?
「代議士、生きてるのかな……」
コーヒー缶を片手に、安藤は、細い煙が立ち上る南の空を見る。
「きっと無事です」
近くにいた小柄な女性警察官が、言い聞かせるようにうなずく。その声に、何人かの同僚も同じように首を縦に振る。
まさか、ホラー映画でもないのに、友兼が骸骨に肩を掴まれているとは想像だにしていない。
上坂栞たち、広場で戦闘を繰り広げた警官たちは、その後、市民を北へと誘導した。
橋の北側で兵士たちと対峙する役目は、到着した機動隊に任せ、市民の避難誘導をこなし、付近の路上には人影が無い。その頃になって、一緒に誘導を手伝ってくれていた安藤が、ノドが渇いたと言いだしたことをきっかけに、自動販売機の前で水分を補給しているところだ。
「惚れた?」
栞の鼻先に、マイクが突き出される。
「な、なに言ってるんですか!」
慌てた様子で、ほっぺたを赤くした栞はマイクを手で遮る。そのマイクを握っているのは、うすら笑いを浮かべる笹見アナ。後ろには、カメラマンや音声などのスタッフを引き連れている。
「命がけでトラックで突っ込んで行ったって? 生きてんの?
どこのアクションヒーローよ、って。ま、惚れても仕方ない」
「……あたしは別に」
栞は、困ったようにうつむく。
彼女らは、最初、橋の周辺での戦闘に突撃してカメラを回していたのだが、兵士たちが対陣して矢を射かける段階になったところで、警察から退去を命じられてしまった。そこで仕方なく、目についた避難誘導をしていた栞たちと合流し、その様子を取材している。
「いいんじゃない。あの先生、独身だし。……そうだよね?」
最後の一言は、秘書の安藤への問いかけ。
「独身ですし、浮いた話ひとつ無いですよ」
「おお、いいね。テロが生んだ、禁断の愛! 年も離れてるし、ワイドショー的にはいいネタかも!」
応じたのは、芸能バラエティーが本来専門の石橋ディレクター。
「この子カワイイし!」
石橋が、カメラマンにむけて手を振り、カメラを向けるように指示をする。栞は、びっくりしたように、カメラから身を隠そうと同僚たちの列に紛れようとする。
「そんな目的であれば、同行はお断りしますよ。本当は、できればあなた方にも避難していただきたいんです」
部隊の指揮を執る巡査部長が、苦い顔をして、一歩前に進み出る。
「すみませんね……」
その様子に、巡査部長に頭を下げつつ、笹見がカメラの前に立って遮る。
「やめなさいよ。そんな陳腐なワイドショーネタなんて」
「ああ、目指せ、ピーボディ賞だっけ。そんなに、報道戻りたいんか?」
「当たり前でしょ! そうじゃなくても、フリーになる前に一発名前上げて、局の奴ら見返してやるんだから!」
胸を張りながら、遠くに見える自分の会社であるテレビ局の建物をにらみつける。
「笹見に恨み買うと怖いね。クワバラクワバラっと」
石橋は、おどけた様子を取りながらも、カメラにこっそり笹見の様子を写させている。笹見は、チラッとカメラを視線でとらえると、姿勢を正し、作った表情で巡査部長に向き直る。
「それで、橋の様子に変化はありますか?」
「今のところ、停滞しているようです」
「この後はどうされる予定ですか?」
「これから、周囲の建物に退避の呼びかけと逃げ遅れた人がいないか確認していきます」
「ありがとうございます。
皆様、私たちも、この勇敢な警察の方々とともに、この場で何が起こっているのか、確かめるため同行したいと思います」
きりっとした顔でカメラに向かい、一息つくと、表情を一転させて石橋のもとに近づいてくる。
「で、ついてく? それとも、橋に戻るんなら、撮り直すけど?」
石橋は、スマホをいじりながら、少し考えている。
「うん……そうだな、局で監視させてる奴のAINEによると、広場に特に動きはないらしい。とりあえず、ついてこう」
「まだ戦闘起こんないか……なんかあったら、すぐ行くわよ」
「命知らずだねぇ」
「ここで命賭けなきゃ、いつ賭けるのよ!」
言って、笹見は、石橋の背中を力いっぱい平手で張り飛ばした。
短めでした。
本日中に、もう一話投稿できるように頑張ります。
長めの予定です(本文もあとがきも)。