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暴走と覚醒  裏タイトル:国会でもこんだけ活躍しろよ

 うら若い女性に、心の中で不気味に思われているのも知らず、友兼は背中にぐっしょり汗をかいていた。


(ちょっと待て! ちょっと待て! なんやこれは! 人死んでるぞ。テロか!)


(でも、騎士がランスで突撃。剣振り回して槍投げとる、とか。中世かよ!)


(異世界転生したのかと思ったら、今、現代だよ?

 それに異世界転生なんて、もう2~30年前に起こってくれよ! 

 学生時代に頼むよ~!)


(いやいや、異世界転生はどうでもええ。今をどうするかや!)


(うわ~、ど、動悸が……つい女の子抱きしめてもうた!! 冷や汗出るし、頭痛てぇ……)


(なんで、こうなった……)


(やっぱり、あれかな? 前世、いや、前々世の記憶が蘇ったことと関係あるのかな?)


(でも、前世、思い出した時は何も起こらんかったし)


(あ、やっぱり女の子苦手だ。胃が、あ、気持ち悪ぃ)


 心の中は千々に乱れつつも、仕事がら養った内心を表にださないスキルを発揮し、うっすら浮かべた微笑みを保つ。そして、携帯電話で自分の秘書へコールし、いくつか指示を与えつつ、広場の現状を確認する。


「あ!」


 その仮面が保てなくなったのは、座り込んだまま、泣きじゃくる小さな子を見つけた瞬間。

 気がつけば、友兼は駆けだしていた。

 運動不足気味だというのに、身体か軽い。

 馬が走り回り、槍が突き立てられ、騎士の従者が剣やメイスを振るう中を走り抜ける。


(うっわああああ、何してんねん、ボクは!!)


 頭の上を剣先がかすめ、馬上突撃が正面から来るのを見た時は、身体がすくみ、漏らしそうになった。


(怖い怖い怖い怖い! ボクのあほぉぉぉ!)


 涙が目じりに浮かぶ。

 心の中では衝動的な行動に、自分を呪いたくなる。


「ママぁぁぁ!! ママぁぁぁ!!」


 幼い女の子が、いくつもの死体が転がる血だまりの中で泣き喚いている。水色のワンピースと白い靴下と足が赤く染まっている。

 それを見て、奥歯を噛みしめる。


「義を見てせざるは勇無きなりぃぃぃ!」


 友兼は、女の子を抱きかかえる。


「ふぇっ!?」


 泣きながら、女の子が友兼を見上げる。


「こんにちは? 大丈夫?」


 友兼は、心に仮面をかぶせて、優しく笑いかける。


「ちょっとだけ我慢してね」


 穏やかに語りかけ、走り出す。


「ヒャッ!?」


 振り向き走り出すと、遠く思えた距離も20メートルも走っていない。ただ、その間にも、転がる死体が増している。

 今も目の前で、逃げる男の背中に騎馬上から剣が叩きつけられる。


「クオォォォォ!?」


 男は、目の前を走っていた女性にぶつかるようして、もつれるように地面に倒れた。男は、悲鳴を上げながら地をのたうつ。


「痛てぇ! 痛てぇぇよ!!」


「痛い痛い痛い! な、なんなの! どいて!!」


 喚く男の下で、転倒に巻き込まれたらしき女性が叫んでいる。


「大丈夫か!?」


 片手で少女を抱いたまま、友兼は駆け寄る。男性に手を貸し仰向けにすると、男の体から解放された女性も起き上ろうとする。


「立てるか?」


「あ、ありが……あぶな!!!」


 礼を言い、立ち上がりかけた女が、友兼の背後を凝視する。


「ぐぇ!?」


 ヒュっと風を切る音が耳元をかすめ、カエルが潰されたような声が下から聞こえ、液体が飛び散った。


「ママー!!」


 血を浴びて、女の子が泣きながら友兼にしがみつく。

 助け起こそうとしていた男の胸に、叩きつけられた鉄の塊がうずもれている。

 鉄の塊に続く柄を握るのは、赤茶けた髪に緑の目、赤銅色に焼けた肌をハードレザーの胸甲鎧で覆った男。背には、革袋と短い槍を何本も背負っている。

 男の目が、立ち上がりかけて、再び腰が抜けたように尻もちをついている女性を舐めるように見る。


「な、な、な……」


 女性は目を見開き言葉にならない声を上げ。

 男が、にちゃりと音をさせるように口を笑みの形に歪め、乱杭歯を唇からのぞかせる。

 鉄の塊、メイスが命を失った男の胸から血の糸を引きながら、抜かれていく。

 一瞬、女性を狙うように見ていた目が、友兼に向けられる。

 だが、それも数瞬、興味を失ったように視線を女性に戻す。そして、友兼を見定めることも無く、握ったメイスを払うような無造作な動きで彼の顔に叩き込もうとする。


(あ、痛そう……)


 ボーリングの玉くらいありそうな重さの塊。それに所々突起が出て金平糖のような形になっている。それが、高速で顔に迫る。

 反射的に、手を上げる。


(素手で、受け止められないわな)


 1秒もない時間。

 なのに、なぜか、友兼にはゆっくりとした時間に感じられた。


(それより、身を引いて避ける方がいい)


 身体が思考に従い、スウェーさせながら身を引く。右手は、女の子の頭をかばう様に添える。

 目の前をメイスが通り過ぎた。


「あれ?」


 空を切ったせいで、遠心力により男の身体が引きずられ、友兼の方に向く。男の目が驚きに丸くなっている。

 その目が、友兼を油断ならない相手と認識した。

 男は、メイスを力ずくで引き寄せると、間髪入れず、友兼の頭にたたき下ろそうとする。一瞬の出来事。


(……?)


 そのはずなのに、ゆっくりとした動きに感じられる。周囲がスロモーションの動きの中で、友兼の身体だけが普通に動いているよう。

 空いた手で、メイスを握った男の腕をつかむ。


「あれ?」


(これは、なんか)


 行けそうな気がする、との考えがよぎる。

 右手でメイスを握った男の手を捻りながら、身体は回転させつつ男の身の内に飛び込み、足を絡めるように跳ね上げる。

 男の身体かふわっと浮いた。


「あれ?」


 友兼の口から、3度目の疑問の声が出る。同時に、男の身体が、頭から地面に叩きつけられた。


(ボク、天才か!?)


 格闘技など習ったことは無い。ただ、最近は、すこぶる身体能力が向上していたが、これほどの事ができると思えず、思わず右手をまじまじと見つめてしまう。


「すごい!」


 尻もちをついたままの女性の驚愕の声に、呆けている場合でないことを思い出す。


「うっ、う……」


 頭から落ちた男が、うめきながら体を起こそうとしている。


「走るよ!」


 女性の手を取り、軽く力を入れて起き上がらせる。そして、その手を取ったまま橋へ向けて友兼は走り出した。


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