お出かけ
警察本部へ行かないといけない事を相談したとき、バサラは、即座に自分の配下に紛れさせて連れていくことを提案した。また、交渉条件について成否に関わらず、情報は伝えていい。友兼も、将軍のもとに戻ってくる必要はないとの許可を出した。
破格の条件といえる。
つい本音が聞いてみたくなるのも当然だろう。
正直な質問に、化粧をした青年はほがらかに笑って答えた。
『あなたとあなたたち、この日本国の信頼が欲しいの。今回の戦争で、聖王国も帝国にも、大きな嵐が襲うことになるわ。せっかく、平和への道筋が開けたばかりだったから、より大きな揺り戻しね。そんな中で頼れるのは、あなた達と判断したの』
ほんの少しの情報で、よくそんな判断が出来るものだと友兼は内心舌を巻いて聞いてた。
「よくそんな、大きな賭けが出来ますね」
『あたし、博打って大好きなの。それに、賭けるのは、あたしの命だけだしね。下手したら、家族にも被害出るかもしれないけど、あの人たちなら乗り切るわ』
「大胆な作戦で有名な将軍なんですよ」
訳しながら、勇者・真宮寺も、バサラの大胆さを肯定していた。
『あなたも、あたしと一緒でしょ。仲間のために、簡単に命をかけて。”とらっく”とか言うので、無謀な突撃したんでしょう? そんな人、好きなの』
にこやかに唇が触れんばかりの距離に顔を寄せて、バサラは、友兼の瞳を覗き込んだ。
(キスされるかと思った……)
その後、鎧を着せてもらい、出発の準備が整った天幕の中。
イチャイチャする将軍と副官の様子を見ている間に、回想していた友兼だったが、衣装の方は、近習の手により細身の剣を腰に下げられ、短マントを肩にかけられ、あとは兜を被るのみとなる。
「あ、真宮寺君、これを渡しておく」
脱いだスーツの中から、スマホとは別にガラケーを取り出す。
「2台持ちなんですね?」
「うん、こっちのほうが充電持つしね。使い方わかるよね?」
公衆電話が使えない子供もいると聞いているので、ジェネレーションギャップが心配になる。
「あ……たぶん? 使ったことないですけど」
(あ、時代だね……)
「じゃあ、スマホを渡しとくね」
改めて、スマホを取り出し、誠に渡す。
「ありがとうございます」
「おっけ。何かあったら、連絡して。ボクも、交渉の結果わかったら連絡するから」
「はい!」
スーツから財布も取りだした友兼は、近習に動作で鎧の隠し(ポケット)を教えられ、その中にガラケーと共に収めた。
準備が整うとバサラと真宮寺に見送られながら、天幕を出た。
スーツから軽装鎧に着替えさせられた友兼は、聖王国軍の軍中を徒歩で進む。周りには、バサラ将軍の副官に率いられた親衛の兵。隣を歩くのは、聖女の葵雛菊。彼女は、ローブを純白の聖女の装束から、魔道士のローブに着替えている。
揃いの真紅の鎧を着た集団に気づくと、聖王国の兵たちは慌てて道を譲る。
(無人の野を行くが如し?)
兵たちの道の譲り方が、人垣が割れるような様子に、そんなことを思う。
しばらく公園内を進むと、周囲を埋める兵が人間からゾンビの集団に代わってゆく。けれど、アンデッドたちも、意思があるかのように、友兼たちの一団が近づくと道を作るように避けてくれる。ただし、ゆっくりとだが。
『軍中を進むのは、容易だろう。問題は、前線に近づき、第一軍の騎兵や歩兵たち戦いの場をどうすり抜けて敵陣、日本警察の陣地に入るかの一点だ』
との話だった。
独断専行。縦横無尽。傲岸不遜と呼ばれるのが真紅の軍団。バサラの直轄兵。だが、結果を出しているゆえに、彼らの行動に嘴を入れる者は少ない。一般の指揮官ではありえないし、将軍クラスでも、後々の面倒を考え放置されるだろう、との言葉通りだった。
なので、最初は緊張していた友兼も、自然と緊張は薄れていた。
だから、あまり気にしなかった。ゾンビからスケルトンたちの集団に代わり、しばらく進むと、そのスケルトンたちの雰囲気が変わってきたときから、前を行く副官と親衛たちに緊張が生じてきたことも。最初は、見慣れてても、アンデッドに忌避感あるのかな、と思っていた。
けれど、そのアンデッドたちの様子が違う。
腕が4本になり、頑丈そうな体つきであったり。骸骨が、人間では無く爬虫類の形状であったり。白ではなく、黒い骨。ただ窪んでいた眼窩に青い光を宿していたり、と、それまでのスケルトンとは様子が違ってきている。
更に遠くに、明らかに今までと異なる集団が見える。体長2メートルを優に超える黒い鎧の群れ。漆黒の両手剣を片手に握り、空いた手には体長に近い大きさの鉄の楯。骨に皮膚だけを張り付けたような顔もまたマットなブラック。異なる色は、赤く人魂のように光る瞳のみ。
『まずい。なぜ、あのお方が……』
ギリギリと歯噛みする音が聞こえてきそうなミシェルの呟きが耳に届く。
(はい、フラグ頂きました!)
悪い予感に、友兼は、心の中で頭を抱える。