ほうれんそう(報・連・相)
『現在、大阪市中央区を中心に、所属不明の集団により、大規模な暴動事件が発生しております。政府はこの擾乱をテロ行為と認定し、警察法第71条において、区域、期間を定めて「緊急事態の布告」を発することを決定いたしました。
大阪市民、府民の皆様には、政府並びに自治体の指示に従い屋内での待機、避難所への退避をお願いいたします……』
テレビから官房長官による記者会見の映像が流れている。
重大テロ対策本部の準備が行われていると報告を受け、吉田太郎副総裁は、自由党本部で情報収集を行っていた。
彼の携帯電話が鳴る。
仕事用の携帯なら留守電にしてある。プライベートの方、しかもSNSの通話機能だと気づく。
その表示に、しかめていた眉が少し和らぐ。
「おう、おめぇーさん、無事だったか?」
「はい、何とか命だけは」
スピーカーから聞こえる友兼の声に、吉田は、一瞬相好を崩しかける。
「なあーに、命がありゃ、それだけでめっけもんだ」
「まあ、確かに。
……敵陣の真っただ中ですが」
「うん?
……敵陣だと?
おめぇーさん、今、どこに居るんでい?」
大阪の選挙区の議員の多くが、今日行われる警察の何とか大会に多くが出席していたと聞いている。その多くと連絡がとれていないとも。
大阪城公園を中心、大規模テロが発生。テロリストたちは、中世ヨーロッパ風の騎士、兵士、またゾンビや骨の仮装(無理がねぇーか?)をし、市民を無差別に殺戮。その数は、時間を追うごとに増えているとの事だが、一体、そんな数がどこから現れてくるのかは不明。その目的も不明。所属も不明。
先ほどの6大臣会合では、自衛隊の出動を要請する意見が多数を占めたが、状況不明の現状では決断に至らず、との事だった。結果、知事からの要請を今しばらく待つことになった。最低限、重大テロ対策本部で情報分析を見るまでは、近隣府県の警察、機動隊の集結を急ぐ。他の地域からの動員も、順次、出発するだろう。
「敵勢力の将軍の一人とコンタクトをとりました」
「……な!?」
「その将軍が、情報の提供と日本政府への協力を打診しています」
「なんだと? おめぇさん、いったい何で……何してやがる?」
副総裁の声は、驚きというより、呆れたような声に聞こえる。
(なんででしょうね? 自分でも不思議ですよ)
友兼も、スマフォを握りながら、同感というようにうなずく。
「敵は異世界の軍隊です。第一陣の規模は、20万以上。そのうち半数がアンデッドだそうです」
「にじゅ……、異世界? アンデッド?
おめぇーさん、頭どうかしちまったか?」
「いや、そう言われるとは思ってましたけどね!」
「ほう、承知の上なら幾らかましか」
「頭おかしいついでに言いますと、それに続く第二陣が、魔王の率いる帝国っていう軍隊で、やっぱりこちらも20万以上、たぶん30万くらいだそうです」
「……」
「……」
「……」
「なんか言ってください」
「……お前、よっぽどひでぇ目にあったんだな」
「まあ、否定はしません……」
(槍で突かれ、矢を射かけられ、剣で追い掛け回されたり……)
「信じられないとは思いますが」
「まあ、仕方あるめぇ。現状が信じられん異常事態だ。で、魔王の軍隊とかがなんだって?」
特徴的なべらんめぇ調が、今はやけっぱちな声に聞こえてくる。
「魔王の軍、帝国軍は、まだ進軍中らしいです。
今、姿を見せているのは、聖王国軍というそうです。で、そのうち、8000の兵士を率いてる将軍が、日本への情報の提供と協力ができると言っています。その代わり、条件があります」
「条件? どんな?」
「軍事同盟」
「軍事同盟だとぉ、そんなもの無理に決まってんだろう!」
「ええ、無理だと伝えてます。なので、それは将来的に考えてほしいと、彼も自国のトップの了解を得ているわけではないので、との事です。
第二案としては、彼と彼の実家への安全の保障。この内容には、軍事面、金銭面が含まれます。それに、日本との人的交流と貿易の許可だそうです」
「安全の保障で、軍事面は攻めてくんなってとこだろうが、金銭面てのは?」
「情報に対する金銭は不要。代わりに交易の許可は欲しいそうです。でも、メインは、この侵略を日本が撃退した場合、国家間で賠償の問題に発展するだろう。その際、彼と彼の実家は、それから除外されるように願いたい、との事です。」
「なるほどね。相手さんも一枚岩じゃないわけだ」
「ええ、一枚岩じゃないところは、もっとありますよ」
「詳しく聞きたいところだねぇ」
「まだ交渉が成立してませんので、言えません」
「おめぇーさん、どっちの味方だ?」
「この交渉に関しては中立です。相手が信用して話してくれたことなので。
……まあ、交渉が決裂した場合は、聞いた内容はこっそり話しますけど。それが全部とは限りませんけど、聞いた範囲はね。
……でも、その時、ボク、生きてるかわかりませんけどね~」
「のんきなこったな」
普段と変わらないのんびりとした友兼の声に、つい吉田副総裁の頬が緩む。
「まあ、どちらにしろ、総理の判断を仰がなきゃなるめぇ。
そのためには、相手が異世界の軍隊だってことを証明しねぇと始まんねぇぞ」
「ええ、魔法でも見せましょうか?」
「手妻じゃねぇのか?」
「手妻? ああ、手品ね。う~ん、難しいところですね。信じてもらえるように頑張るしか無いですかね」
「で、お前さん、話は戻るが、今どこに居るんでぇい?」
「場所的には、大阪城公園の中ですね」
「そうか、そっからだと、府庁の機能は咲洲庁舎に移っちっまてるし、府警本部だな。府警本部まで来れるか?」
「なんでですか?」
「府警本部なら、官邸の対策本部と回線がつながってるんでな。直接、魔法を総理に見せるられる。おめぇさんが、直に説明……説得できるぜ」
(どうでぇ、やってみるかい?)
とでも言いたそうに、楽し気に口を歪ませている吉田の顔が、友兼の脳裏に浮かんできた。
「まあ、頑張ってみます……」
説得は、そちらでやって欲しかったんだけどな……と思いつつ、友兼は、渋々うなずいた。
べらんめえ調、懐の広いイメージということで、麻生さんがモデルでしたが、途中から勝海舟に変わっていってる気がします。
ステレオタイプですが、ぺーぺーの新人と気楽に話してくれる派閥の領袖って、麻生さんくらいしか思いつかない。