勇者と聖女と将軍
急遽、張られた天幕に友兼は案内された。
お茶が用意されるまでの間に、友兼は少年と少女に声をかける。
「君たちは、日本人?」
「はい! ようやく帰って来れました!」
「あ~、日本語懐かしいわぁ。泣きそう」
少女が嬉しそうに笑いながらも、目尻に涙をにじませている。
「君たちはどうして、ここに? こんな人たち……えー、兵隊さんたちと一緒に?」
「うちら、勇者召喚とかいうのに巻き込まれてもうてん」
少女は、ため息とともに首を振る。
「トラックに轢かれて?」
「いえ。高校の帰り道で、いきなりでした。で、僕は勇者。雛菊は、聖女として、魔王と戦うために召喚されたって告げられたんです」
(おおう、異世界召喚きた!)
こんな状況にもかかわらず、ちょっとワクワクしてしまう。
「それでモンスターと戦ったり、モンスターと戦ったり、モンスターと戦ったりしててんけど。ちょっと平和になったな~としばらく思てたら。
この前、何かそっちのバサラと一緒に王国討伐じゃー、行けー、いうて来させられてん。
そしたら、びっくり、日本に戻ってきてたし」
少女のいちいち大げさな動きに、つい笑みがこぼれる。
「あ、自己紹介してなかったね。ボクは、友兼純平。衆議院議員です」
「僕は、真宮寺誠。勇者してます」
「うち、葵雛菊って言いますぅ。恥ずかしいけど、聖女って呼ばれてます」
勇者は背筋を伸ばしてはっきりと、聖女はおっとりとした口調で自己紹介をする。
(真宮寺誠に、葵雛菊って、名前からして主人公っぽい!)
『あたしは、セルジュ・バサラ・フランク伯爵。この遠征軍の第4位の将軍よ。訳してあげて』
日本語で会話に内容はわからないが、自己紹介と気づいたのだろう長身の化粧をした青年が口をはさむ。
友兼は、相手の言葉が理解できることは黙っている。こちらが、相手の言葉をわからないと思っていれば、彼らの言葉で打ち合わせをする中で、何か訳さない部分も出てくるかもしれない。こちらから、手札を見せる必要はない。
(それに理由の説明ができないもんね。高校生の子たちに、前々世が魔法使いだと言って、可哀そうな目で見られたくない)
(まあ、魔法のある世界だから、信じてもらえるかもしれないけど)
『さてと、まずは、現状を確認しようかしら?』
運ばれてきた紅茶っぽいものを、友兼や勇者、聖女に進めながら、バサラという将軍は話を切り出す。
『では確認ね。ここは王国ではなく、あなたたちの故郷、日本なのね?』
『はい!』
『以前、あなた達から聞いた話によると、科学力の発展が、あたし達の国とは比べものにならない。全く違う発展を遂げているという話だったわね。前に聞いた話からすると、、いくら聖王国と帝国の連合軍、史上稀にみる大軍だといえど壊滅してもおかしくない、との認識かしら?』
『自衛隊には、たぶん、帝国が魔法を使えて、万全だったとしても勝てないと思います』
『そう』
少年の答えに、頬に笑みをたたえたまま、青年はうなずく。
『彼を通じて、日本の政府と交渉はできるのかしら?』
『交渉? どんな?』
『まず第一に、この軍隊は日本への侵略が目的ではないことを伝えること。
第二に、この軍隊の情報を教えた場合、相応の対価を得られるか。
第三に、あたしたちの兵力が、日本国に味方した場合、その後の協力・援助を得られるか』
『和平の交渉やないん?』
女の子が首をかしげる。
『和平交渉は無理ね~。帝国はもちろん、あのローベルトも……』
バサラは、少し気取った風に自分には無いひげをいじる仕草をして見せ、声音を変える。
『……「それならついでに占領してしまえばいいだけのことだろう!」とか言い出す奴らよ。残念ながらね。
脳筋なのよ。
クラスト様なら、交渉も可能だったのにね、残念だわ』
後半は呆れたような口調ながら、青年は、全然、残念そうな雰囲気を醸していない。
『訳して、伝えて』
促され、少年と少女が、友兼に先ほどした会話を日本語で話す。
「そうですね……
わかりました。伝えることは可能ですし、情報に対して対価を用意することも可能だと思います。対価が何かにもよりますが。
3つ目の、協力・援助の具体的な内容を教えて頂けますか?」
『そうね~。じゃあ、その前に、あたし達の事を説明しておいた方がいいかしら?』
バサラは、頬に人差し指を当て、小首をかしげた姿勢で考え、向こうの世界の事を語りだした。
……バサラさん、そんなに勿体つけんでも。
……前回も、お茶にしよ、とか言って話またいだ気が?
※前書きと後書きで書くつもりだった文章を、活動報告に書いておきます。
小説の内容には関係ございません。
ヒマを持て余す方のみ、ご覧いただければ幸いです。 2020/05/19 18:50