表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/52

戦況と焦燥

 木を降り、友兼は両手を挙げる。


「武器は持ってません! 話をしたい!」


 とりあえず、そう告げてみる。

 少女は、同胞と知り、安堵と久しぶりの出会いに嬉しさが込み上げてくる。けれど、少年の方は剣を降ろさず、長身の赤い鎧の様子をうかがう。

 白皙のおもてに映える紅唇。紫のアイシャドーは濃いが、それ以外は薄っすらとした化粧。腰まで届く豪奢な金色の髪を風になびかせる。年のころは、30前だろうか、キレイな顔だちに妖しい微笑みを浮かべている。

 青年。


(男だった!)


 赤い鎧を着た長身の青年将校。友兼より、頭一つ分背が高い。他の兵士とは違い、明らかに高級そうな鎧に、背には孔雀の羽を後光のように広げている。


(声は少し低いとは思ったけど、口調から女性と思うやん)


『彼、なんて?』


『話がしたいと』


『へ~え』


 お姉系の青年は、値踏みするように友兼を見る。


「国会議員です! 政府との交渉を仲介できます!」


『え!?』


 高校生くらいの少年には、国会議員だという人物はそれだけで驚きに値するようだ。


『なあに? 驚いたみたいだけど?』


『彼は、議員……政治を行う人、えーと……』


『ああ、前に言ってたわね。古代帝政の評議員ね』


『ええ、はい。それです』


『そう……それは使えそう、ね』


 青年が目を細め、唇を意味ありげに舐める。


『色々と検討・・が必要ね。彼を連れてきて、天幕を張らせるわ』


 青年は、背を向けると三人について来るように促す。


『お茶にしましょう』




「盾を掲げろ! 盾の無い奴は、車の陰から出るな!」


 中条は、バリケードを築いているワンボックスの中から叫ぶ。

 広場からは、すでに撤退し、橋の北側に改めて橋頭保を築いている。

 広場では優勢な展開で騎馬武者を駆逐していたが、歩兵が、燃えるさかる車のバリケードからではなく、大阪城ホールから姿を現したときに情勢は逆転した。ホールの南側の入り口から、歩兵たちが強行突破したらしい。ホールが強襲され、突破されたのだ。

 それに少し遅れ、機動隊が駆けつけてきた。


(もう少し早ければ!)


 唇を噛んだが、広場からの撤退を決断し、命令した。大阪城ホールには、まだ多くの観客や来賓たちが居たと思われるが、断腸の思いで諦めることを決めた。

 広場の市民はおおかた退避させることができたことだけが救いだ。


「これ以上は好きにさせん!」


 決意を固め、矢が降り注ぐ中、大声で、また無線で、中条警務部長は警官たちの指揮を執る。




 大阪府警本部の指令センターには、本部長をはじめ三役が、モニターに映し出される地図、状況分析を注視しながら指示を下す。

 テロの発生した直後の時点では、全く状況を把握できず、混乱を極めた。

 それが、現場の報告から徐々に事態を把握し、中条警務部長からの状況報告と『いち早く銃器使用の許可をすべし』との強固な要請から、発砲の許可、SATを初め銃器部隊の出撃を決断できたことにより、大阪城西側から南側にかけては、防衛線を築くことができ、逆にテロリストを押し返すことが出来ていた。


「ゾンビや骸骨だと!?」


 にわかには信じられないような報告にも、機動隊が到着したことにより、混乱はあるものの均衡は保たれている。


「ヘリからの映像は?」


「回線戻りました。モニターに出します」


 電波が途切れていた、大阪城上空を飛ぶ警察ヘリから映像がモニターに表示される。


「む……」


 天守閣を中心に、群衆の姿が見られる。

 数万という数の鎧姿の人の群れと白い影。白い影は、骸骨だろうと想像できる。


「他県への救援要請への回答は?」


「奈良県警、兵庫県警より、既に進発の連絡が来ています。京都府警、和歌山県警からも順次部隊編成が整い次第、との事です」


「急いでもらえるように伝えろ。警視庁は?」


「近畿圏含め、機動隊を中心に応援に駆け付ける。一部部隊は早ければ、3時間以内に到着予定、との事です」


「自衛隊は?」


「準備は整えているとの連絡は入っています! ただし、知事からの要請、総理大臣からの命令が無く、動けない。防衛大臣の指示を受けるまで、支えてくれるよう。武運を祈る、との申し伝えがありました」


「うむ」


 本部長は、机に両肘を立てた、その口元を両手で覆う姿勢で状況報告を聞いている。


「その、知事は?」


「全国警察対抗剣道・薙刀選手権の開会式に出席予定で、大阪城ホールで待機されていたそうですが、テロリストがホールへ突入直後から携帯電話がつながらなくなったとの事です。……おそらくは、無事ではないかと」


「で、副知事では、自衛隊の出動要請は出せないわけか。

 ……これだから官僚は! ここに至っても責任回避か!」


「首相の決断を待つしかありませんね」


 総務部長が、ため息とともに応じる。


「北西部分以外は抑えられていますが、これ以上増えると対応できませんね」


「そうだな……」


 深く深く本部長は嘆息する。


「しかし、やれるだけのことはせんとな。市民の避難を急いでくれ」


「はっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ