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密談

(……と、それはいいとして)


 これで、コミュニケーション手段は獲得できたことになる。

 左肩に触れてみると、ほぼ痛みは消えている。

 太陽は真上に上がり、お昼を過ぎているのが分かる。


(戦況はどうなっているかな? みんな無事かな?)


 スマホを取り出す。着信履歴が色々なところから入っているが、10時を過ぎるころから途絶えている。電話回線がパンクして、通話できなくなっているのだろう。けれど、通話は置いておいて、まずはネットでニュースを見る。

 まだ下には兵士の気配があるどころか、先ほどよりも密度が増している。声は出さない方がいいだろう。


【大阪で大規模テロ!?】


【無差別テロか!】


【大阪城周辺で、剣や槍で武装した集団が大規模な戦闘行為。市民にも被害多数】


【知事行方不明! 自衛隊へ治安出動の要請出来ず! 府庁大混乱】


【ゾンビの群れ出現!? 世界の終わりか?】


【私は、このことを3年前に予言した!】


【首相官邸は情報確認中。13時より官房長官会見】


 ニュースサイトでは、散発的な情報しか出ていない。


(治安出動まだかよ! 自衛隊出せよ! 知事は、剣道・薙刀選手権の開会式に参加していたはずだ。であれば、大阪城ホールから脱出出来なかったんだろうか?)


 治安出動は、警察だけでは治安の維持を果たせないような事態が緊迫した場合に自衛隊に対して発せられる。命令権者は首相だが、災害派遣と同様に知事の要請無しに首相が決断できるだろうか。その後の問題を考えれば、躊躇するのが日本の普通の首相だろう。


(桂首相……普通よりは強いけど決断出来るかな……)


 木々の隙間から見渡せば、兵士は先ほど以上に集まってきている。

 けれど、広場で見た時の兵士とは違い、鎧の色が赤で統一されている。


(そういえば、なんとかって将軍が、この辺りに布陣するって言ってたな)


 まどろみの中で聞いた兵士たちの会話を思い出す。


(……にしても、ここに居座られると、逃げ出せないんだけど)


 赤い兵士たちは、大阪城の方向から続々と現れる。数千人規模だと見える。

 仕方なく、友兼は、スマホで情報を確認しつつ、様子をうかがうことにする。




 そんな時に、また木の下から声が聞こえてくる。


『さあて、ここでいいかしら? 人のいないところがいいって言ってたけど、お話ってなあに?』


『伯爵、ここは王国じゃありません!』


 女性的な口調の声と、青年の切迫した声。


『どういうことかしら?』


『ここは、うちらの生まれた国です』


 返事は、若い女の子の声だ。


『あなたたちの国? ああ、日本とか言ってたわね……ここが?』


『はい、間違いありません! あれは大阪城です!』


『大阪城? 確かに、建築様式が王国とは思えないわね』


『それに、私たちの世界には、魔法がありませんでした。今ならわかります! この世界には魔素が無かったんです!』


『あたしも感じていたわ。ここは、魔素がほぼ無い。隧道から流れてくる魔素の方が濃いくらい。

 なるほど、あなた達の国なのね』


『はい!』


『良かったわね、帰ってこれたのね』


『え、ええ……はい、確かに……』


『まあ、帰ってこれたのは嬉しいけど、困った事態ではあるわね』


『いったい、何が起こったんでしょう?』


『うちら、王国に向かっていたはずやんね?』


『そう……王国にしてやられた(・・・・・・・・・)、ってとこね』


 気になる話の内容に、友兼は、隠れているのも忘れ、声のする方向へ首を伸ばす。

 背を向ける赤い鎧のすらりとした長身の後ろ姿がまず目に入る。ブロンドの長い髪が風にそよいでいる。

 その前に、金色に輝く鎧をまとう少年と白金の胸甲と虹色に輝く白いローブの少女。二人とも、黒髪に、日本人らしき顔立ちをしている。高校生くらいだろうか。二人とも気品をまとい、整った顔をしている。


(異世界転生でも果たしたわけか、戻ってきたら、本でも出して一生安泰だね。それか、勇者とかだと、警察や特殊部隊、外国からもスカウト来そう。

 ……あ、でも、聖女って、死体蘇生とかできたら……やばいな。

 奪い合いで戦争起こりそう)


 と、どうでもいいことを考えていたせいだろうか、少女の顔が不意に友兼に向けられる。目が合う。


『誰!』


 少女が凛とした声を発した瞬間、少年が剣を抜き、赤い鎧も剣を片手に振り返る。一瞬にして戦闘態勢に入る。


『出てきなさい。出てこなければ、焼くわよ』


 剣を構えながら、赤い鎧は左の手に炎を燃え上がらせる。


『あら、ちっさ。魔素少なすぎ……』


 その炎の様子に不満げな、小さなつぶやきが聞こえる。


(今の会話からすると、危ないことにはならないよね……)


「待って! 今、降りるから!」


 日本語で呼びかけ、友兼は、木を降りた。


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