木登り
今週の平日(2020年5月18日(月)~22日(金))は、1日2話投稿予定ですが、基本文字数少なめです。なので、2話目投稿時に一度に読んでもらってもいいかと思います。
2話目は、18~20時くらいに投稿予定です。
平日なので、スマフォで読みやすいように短め、という事でよろしくお願いします。
「政治を志したきっかけは、そう、中学校の頃に見たドキュメンタリーでした。国民年金だけで暮らしいてるおばあさんの生活を追うものでした。狭い文化住宅で暮らし、旦那さんを先に無くし、子供もいない。楽しみは、月に一度だけスーパーで安くなったお刺身を買って食べること。
それを見たとき、この国は、なんて人に優しくない世界なのだろうと悲しくなりました。
年金を40年間払ってもらえる金額は、65,000円。そこから、介護保険料、税金などが引かれます。生活保護よりも少ない金額でどうやって生活しろというのか。この国を支えてきた人たちへの老後の仕打ちか、と涙が出ました」
初めて街頭演説をした時の言葉が頭の中で流れる。
(年金か……将来心配だな。)
国会議員、市議会議員関わらず、年金は、国民年金だ。将来に対する不安は大きい。
(ま、それまで生きてられるかな……)
傷が痛み、意識がはっきりしてくる。
友兼が目を開くと、木々の隙間、その下をちらほらと人影が横切るのが見える。鎧をまとい、槍や剣を携えた兵士。馬に乗った騎士が走りまわっている。
(まだ生きてる……)
トラックで兵士たちの中に突っ込み、槍で肩をえぐられ、弓矢が身体に刺さったが、それでも、車を走らせた。
人に乗り上げ、何度も車体が飛び跳ねた。剣や槍でぼこぼこに殴られた。タイヤも途中でバーストした。それでも、前も見ずに走らせ続けた結果、車は、大きくジャンプして堀に飛び込んだ。友兼の身体も、そのショックで車内から投げ出され、堀にたたえられた水の中に放り込まれた。
力を振り絞り、潜水した。堀に浮かぶ水草に隠れ、逃げた。
兵たちは、遅れて堀に駆け付けたが、そのころには、友兼は、かなり離れたところの石垣を上っていた。そこは、桜ではなく、大きな木が林立するエリアになっていた。友兼は、その一本にのぼると、木のうろに身を隠した。
(木登りとか初めてだな)
登ったことは無かったが、体にオーラを循環させられるようになった今では、簡単に数メートルを登ってこれた。
木登り自体よりも、傷による痛みの方が邪魔をした。
肩は深くえぐれ、本来なら左腕は動かせなかっただろう。胸と腹に、3本の矢が突き立っているが、軽く矢じりが刺さっている程度。
(やっぱり防御の魔法が使えてる)
前々世での魔法使いの術の一つ。体の表面に魔素をまとわせ、物理的な防御力を高める魔法。当時は、意識しなくても発動していた防御魔法。
加えて、体内のオーラと取り入れた魔素を循環させているために、体自身の防御力が高まっている。おかげで、動かないはずの左腕も動かすことができている。
(治癒系の魔法もじわじわ効いてるな)
矢を抜いた後は、痕も残さず塞がっている。肩の方は、傷が大きかっただけに、血が止まっている程度で鋭い痛みは残っている。だが、このまま魔素を吸収し、魔法の効果を待てば治るだろう。それまでは、どうせ兵たちが歩き回っている状態では動けない。
その間に、『迷彩をまとう』魔法でも試してみる。
効果が出ているかわからないが、今までのところ、兵士たちには見つかっていない。
そうして、しばらく、木の上で休んでいた。
上空からは、ヘリのローター音が聞こえだした。マスコミのヘリだろうか。
木の下からは、時折、話し声が聞こえる。
休憩したり、さぼっていたりする兵士の声だろう。この近くに、戦っている部隊とは別の集団が集まっているようだ。
最初は、意味不明な外国語だった。
それをまどろみの中で聞いていた。
『……まだ待機かよ~』
『予定外が起こってるみたいだな』
『ヤダヤダ。化け物どもでバーッと片付けてくれよな』
『全く、そうなればいいな。さて、出撃だぞ』
その声は離れていった。
しばらくして、半覚醒の耳に、また別の声が聞こえてくる。
『まったくよう、ここ本当に王国か?』
『なしてだ?』
『見ろよ。あの高い建物。あんな形、聞いたことねぇぞ』
『そうなのか? 変な形だども、異国風なんじゃねえのけ?』
『おれぁ、商家の出だから、王国の話も聞いたことあんだけど、あんなのじゃなかったはずなんだ』
『へえ~』
『あんなピンクの木も見たことねぇし。葉っぱがピンクって、どんなだよ!』
『あれは不思議だんな~』
『絶対、変だ』
『ま、けど、どうでもいいんべさ』
『……確かにやるこたぁ、変わらねぇか~』
『王国の王都だ。とっとっとお宝探しに行くべ』
『おお、お前らこんなとこに居たか。移動するぞ。』
『りょーかい』
『おら、しゃっきりしろ。勇者様と聖女様が来るらしいから、下手なとこ見せんなよ!』
『お~、勇者さまに聖女さま~、しかもバサラ将軍の指揮だろ? 勝ったな』
『ああ……って、もともと王国に勝ち目なんかねぇべさ』
『だべってないで、さっさと来い。この辺りに、バサラ将軍が布陣する』
『『へーい』』
(……あれ? 誰の話し声だ?)
下を見やれば、ちょうど3人の兵士の後ろ姿が見える。
(あれ、なんで? 夢か?)
(あ……あれか? 異言語理解?)
魔法使いの術のひとつ。パッシブ発動なので、術を意識して使う必要がない術だったと記憶している。
(やった。これで、英語もフランス語もペラペラだ!)
(でも……できれば、学生時代に欲しかった)
英語が苦手だっただけに、切実な思いが心の声になってしまう。
(よーし、無事に生きて帰れたら、ロシアに金髪美人探しに行こっと。
……でも、恐ロシアか。女の子が苦手なの加速しそう)