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皇太子夫妻の歪んだ結婚   作者: 夕鈴
おまけ

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皇太子夫妻の日常9

ラディルの遊び場は学び舎と鍛冶師の工房。

週に1日、宮殿の外で自由に過ごしていい日に訪ねる場所は決まっていた。


ラディルは友達と一緒に鍛冶師ナタルの工房の扉を元気に開ける。

リーンと一緒に鍛冶師の工房を訪ねてからは一人で来るようになった。


「ナタル、稽古して!!」

「稽古してくれる奴はたくさんいるだろう」

「ナタルがいい!!お願い。怪我しても先生が治してくれるから大丈夫!!」


ラディルの自由な日の護衛はラセルが任されている。リーンはお忍びはよくわからないので、兄とお忍びをしていたラセルを指名した。

ラセルは新米鍛冶師のナタルがリーンに預けられた理由もよくわかっていた。

ナタルは鍛冶師の腕は一流だが性格に問題がある。

大国民なのに王族への敬意とは無縁な人間。工房で本人が許してもリーンを敬称無しに呼ぶのはナタルだけ。デジロには及ばないが、空気が読めない。ナタルは鍛冶の腕を極めるために手段を選ばない人間であり、工房に訪れるのがリーンではなく他の姫なら斬られていたかもしれない男だった。姫に取り引きを持ちかける鍛冶師見習いをラセルはナタル以外は知らなかった。


ラディルはナタルに銀貨を3枚見せる。


「これで、お願い」

「俺はこんなに安いのか?」

「ラディルとナタルの手合わせはすぐ終わるから時間として丁度いいよ。お金は大事に使わないと」

「ラセル、大丈夫なのか?」

「顔に傷はやめてほしい」

「ラセル、やめて。いいの。治るから」

「ラディル様、父君が嘆かれますよ」

「お父様は今日は帰らないから大丈夫!!」

「一戦だけだ。友達も見てやるよ。怪我していいなら」

「ありがとう。ラセル、見てて!!」


ナタルの投げる木剣をラディル達が嬉しそうに受け取る。庭に出て、ラディル達は一斉にナタルにかかっていくと、あっという間に弾き飛ばされていた。皇子を躊躇なく、弾き飛ばせる騎士はいない。

小国の騎士は大国の騎士よりも弱い。ラディルは基礎固めは終わっているので多くの者と手合わせし腕を磨き勘を鍛える段階である。常に命を狙われる危機感を持つ大国出身のリーンと命の危険のない嗜み程度の武術ができればいいと教えられたルオでは求めるものが違った。ラディルの教育はリーンに一任されているため、リーンはラディルが望むなら容赦なく鍛え上げるように命じていた。

子供が真剣に剣を持ち訓練する姿を知らないルオはラディルが怪我をするたびに慌て荒れることもあるので、その時はリーンが呼ばれて宥めている。リーンはルオが暴走するせいでお飾りの妃計画が崩れて悲しんでいた。

気絶したラディル達を残し、ナタルは木剣を回収して工房に戻っていく。


「ナタル、夜に俺とも一戦」

「嫌だよ。俺は自分の身を守るために鍛えただけだ。剣の試しには付き合うけどそれ以上は引き受けない」

「金貨1枚」

「仕方ないから付き合ってやるよ」


ラセルが金で動くナタルに苦笑した。鍛えた剣の試しに騎士は手合わせを希望するため、その相手をするのも鍛冶師の役目だった。剣を扱えない者が大国では鍛冶師にはなれない。

高齢の鍛冶師は手合わせに弟子を使っていたが、もともとは大国でも優秀な剣の腕を持つ者ばかりである。


「リーンに材料が足りないって伝えて」

「わかったよ」


ラセルはしばらくして起き上がったラディル達を連れて帰った。


「ラセル、どうすればいい?」


ラセルは真剣な顔で自分を見るラディル達にヒントを与える。ヒントを聞いて真剣に話し合う様子を見ながらラセルはいずれルオを倒す日も遠くないかと思いながら足を進めた。


***


残念ながらラディルの目論見は外れていた。

ルオは視察から帰り体中が汚れている愛息子を見て、目を見張りラディルに駆け寄り真剣な顔で肩を掴んだ。


「ラディル、誰にやられた!?攫われたのか!?」


父が自分の笑顔に弱いことに知っているラディルはにっこり笑う。


「違うよ。稽古してたの」

「デジロをすぐに呼べ。相手は誰だ!?」

「お父様、剣の鍛え方と同じだよ。強くなるために必要なの。邪魔しないで」


ルオはラディルの言葉に表情が抜け落ちる。ラディルは崩れ落ちたルオの手は気にせず離宮に向かっていく。


「リーン、ラディルが反抗期に!!」


リーンは明日の昼に帰る予定のルオが執務室に駆け込んできたの書類から顔を上げた。


「お帰りなさい。ラディルもお年頃ね」

「俺、邪魔って」


リーンは狼狽えているルオの動揺に弟を思い出し笑う。


「そのうち収まるわ。危険なことは騎士が止める。好きにさせよう」

「なんで、そんなに落ち着いて!!」

「血筋よ」


「お母様、ただいま!!」

「お帰りなさい。楽しかった?」

「うん。また負けた。次は銀貨4枚を目指す」


リーンには笑顔で抱きつく息子が反抗期には見えなかった。ナタルはお金を出せば時間を売ってくれるので、きちんとお金の計算ができている息子の頭を優しく撫でた。


「頑張って。ルオ、反抗期?」

「俺、邪魔って」

「ラディル、お父様と喧嘩したの?」

「ううん。お父様がラディルが強くなるの邪魔する」


ラディルの反抗期の理由がわかりリーンは苦笑する。夫は息子を溺愛するため指導が甘くリーンはラディルの教育を任せられない。オルのように育つのは絶対に避けたいリーンは夫に従うとわかっていても絶対に譲るつもりはなかった。


「せっかくだからお父様と稽古したら?」

「ううん。手の内は見せたらいけない。ラディルはお父様に勝つ!!そして剣を捧げてもらうの」


ナタルは一人前と認めた者しか本気の剣を鍛えない。本気でなくても、今は小国一の鍛冶師であることには変わらない。

腕は優秀でも拘りが強いため、大国では名を挙げられなかっただろう。ナタルが送られたのはリーンではなく、ナタルのためだと気づいたがどんな理由でもありがたい。ナタルの変人ぶりは変わり者の王族に慣れたリーンにとっては許容範囲内である。

リーンにはラディルが認めてもらうまでに手に入れないといけないものがあった。


「認めてもらうまで長い道のりね。材料を手に入れないと」

「材料?」

「うん。名匠が鍛えたものは材料を選ばず名剣になるわ。でも相応しい材料を使うなら神具にも劣らぬ剣になるわ」



大国鍛冶師の階級は3段階。

名匠:王家が認め、王国に忠誠を誓った鍛冶師

一流鍛冶師:名匠に認められた鍛冶師

鍛冶師:それ以外の鍛冶師


大国の剣には階級がある。

SS:名匠が王家の素材で個人の素質に合わせて鍛えあげたもの。

S:名匠が王家の素材で鍛えあげたもの。

A:名匠が個人のために鍛えたもの。

B:一流鍛治師が鍛えたもの。名匠が大衆向けに鍛えたもの。

C:その他の鍛冶師が鍛えたもの。


Sランク以上の剣を持てるのは王族に認められた者のみである。

王家が管理しているため他国へ渡ることはほとんどない。また長剣のAランク以上の国外取引は禁止されている。

Bランク以上はほとんどが王家の鍛冶師のため国外に取引されるのはCランクの長剣ばかりである。個人に合せて作ったものより大衆向けに作ったものは価値が落ちるため、国外に出回ることもあるが稀である。リーンが他国の王子に贈った守り刀はBランクである。ルーラとルオの為の剣は装飾剣なのでAランクでも取引が許された。

ルオに用意した剣はBランクの扱いになるため、法には触れていない。ルオが第一王子からもらった剣はSランクだったのも早く送り返したかった理由である。大国の剣はCランクでも小国の剣とは比べ物にならない。

リーンの家臣達はSSランクの武器を与えられているので小国の剣なら簡単に折れいつでも小国を制圧できた。

大国では貿易用の武器は自国の騎士が使う物より質が悪い物を取引させる。また他国の王族や騎士との手合わせにはSSランクの剣は使わないので、Bランクの剣が大国の技術だと思わせていた。

名匠に託される秘伝の素材の生成は王と宰相と製作者しか知らない。製作者は部外者に漏らせば一族もろとも斬首か研究所送りの重罪である。



「ナタルがこの国の素材は質が悪いから、良質なものがほしいって。ナタルに自分で探してきてもらおうかな・・・」

「ラディルも行く!!」


冒険もナタルも好きな目を輝かせる息子にリーンは首を横に振る。


「即位式があるから駄目よ。お父様の晴れ舞台をちゃんと見ないと」

「冒険・・・」


反抗期の息子の心を掴みたいルオはしょんぼりしているラディルを抱き上げる。


「落ち着いたら初代の洞窟に連れてくよ」

「友達も?」


ルオが頷く前にリーンが口を挟む。


「遠いからお友達は駄目。大人になったら一緒に行ってらっしゃい」

「お母様、どうして貴族じゃないと入れない場所があるの?」


ラディルが言うのはお金があれば入れる洞窟ではなく宝物庫のことだった。


「何かあった時に責任をとれないからよ」


ラディルは宝物庫に友人を案内したかったが許されなかった。ナタルの工房か学び舎以外の友人と行く遊ぶ場しかなく。友人が普段遊ぶ場所にはラディルは連れて行ってもらえない。

ラディルの友人は年上で分別もあり、皇子を連れていける場所は学び舎の教師に教わっており、気を遣える人間だった。

ルオはラディルを見ながら考える。宝の価値がわからないルオはラディルが望むなら宝物庫に招いて良いと思っていた。リーンさえ反対しなければ。

ルオはラディルを窘めるリーンを見ながら珍しく閃いた。うまくいけばリーンもラディルも喜ぶが今は忙しくて手を出せない。リーンの手も必要な案件の為これ以上リーンの仕事を増やすわけにはいかなかった。最近はリーンは即位の準備と商人達との打ち合わせで多忙を極めていた。


「ラディル、いずれ作るよ。身分に関係なく遊べる場所を。ラディルもどんな所がいいか思いついたら教えて」

「本当?」

「ああ。今は忙しいからもう少しだけ待ってて」

「うん。わかった」


リーンは落ち込んでいたルオとラディルが楽しそうに話す姿を眺めながら思考を巡らす。

ナタルは鍛冶関係には貪欲で兄王子に負けない異常な情熱があり、強いので護衛はいらない。資金援助を約束して納得のいく素材をナタルに探しに行かせることにした。

まだナタルの工房は本格的に始動していなかったため工房を整え、肩慣らしに剣を打つ気ままな日々。ナタルはリーンから給金が出るので顧客を探す必要はない。リーンの家臣やラディルと時々手合わせしながら過ごしていたので暇だったので素材探しに目をギラギラさせて頷いた。

リーンは侍従からナタルに交渉役の文官と騎士をつけるように進言されたため同行させた。最初は嫌がっていたナタルは特別料金を払うと快諾し、お金に目がないナタルに苦笑しながらラディルと一緒にリーンは見送る。


***


ルオはオルからの手紙を見て頭を抱えていた。

最近、島国では紙作りが始まっていた。島国の分厚い書類を読んだルオはリーンが最初だけ整えオルに紙職人と共に紙作りをさせていることを知っていた。

島国を二月近く留守にしたオルが穏便に帰国できるように用意した功績である。

嫌いでも、きめ細かい気配りをするリーンにルオは惚れ直していた。

ルオは側近達に手紙を渡した。

即位の準備や引継ぎで多忙な時期に手紙を送る兄がこちらの都合を考えてないこともわかる。

紙作りの指揮と流通を指揮できる者を紹介してほしいと書かれリーンに手紙が来ないだけマシだろうかと迷っていた。


「断って納得すると思うか?」


ルオの側近は苦笑、困惑、呆れと様々な表情を浮かべていた。


「適任者はいますが・・・」

「リーン達だろう?」

「リーン様達なら適任者を知っていると思いますが、どうなるかは・・・」

「兄上の所為で、リーンに捨てられたら斬る」


幼い頃から双子を知ってる侍従が笑う。


「殿下にはできませんよ。結局、殴ってないですし」

「兄上を前にすると力が抜けるんだよ。全てがどうでもよくなる」

「殿下が動かないと皇后陛下に文を送られるかもしれません」

「兄上の文は全部俺に届けさせるか・・・。あの二人が絡むと昔から碌なことにならない・・。リーンも母上には従うし。リーン、俺の妃になりたいって言ったのにためらいなく捨てようとするし・・」

「殿下がいなくてもリーン様がラディル様を立派に育ててくださいますので、リーン様だけは残してください」

「離れるならリーンと心中したい・・・・。いっそ閉じ込めてリーンとラディルと3人だけの生活も・・。金ならあるし」

「殿下、落ち着いてください」


虚ろな目のルオに侍従が慌てた。昔のルオはそこまで危ない思考の持ち主ではなかった。


「やっぱり兄上、斬るかな・・・」

「それしたら、殿下が島国行きですよ」

「どうすれば・・」


リーンは執務室に戻ると頭を抱えているルオに首を傾げる。


「ルー様?」

「リーン!?」


ルオは慌ててオルからの手紙を隠す。リーンはすでに覚悟は決めていたので動揺するルオに微笑む。


「怒りませんよ。すでに覚悟は決めました」


ルオはリーンがオル関係で純粋な笑みを浮かべることがないと思っていた。


「なんの話?」

「恋文を見たりはしません。どのご令嬢を迎えるかにより準備があるので、事前に教えてください」


リーンの勘違いにルオは固まり、侍従に肩を叩かれ声を張り上げた。


「恋文!?違うから。誤解。俺はリーンしか娶らない。生涯妃はリーンだけ」

「道理を通していただければ構いません」


リーンにとって君主は側室や妾を持つのは普通であり、新たに迎えても何も問題はなかった。リーンが皇后になり後継者がリーンの子なら大国も異論は言わない。側室や妾を迎えてもルオはリーンに不誠実なことをしないと信じていた。

笑顔の妻の可愛いさに見惚れて、しばらくするとルオの顔は真っ青になった。


「俺はリーンしか選ばない。」

「必要でしたら遠慮なく」

「これのどこが恋文だよ。俺は女からの手紙は受け取らないと公言している」


勢いよく見せられた手紙を見てリーンは冷笑を浮かべた。リーンにとっては恋文のほうがマシだった。


「オル様、お暇なんですね」

「リーン?」

「ルー様はどうされたいんですか?」

「リーンの好きにしていいよ。私事だし。島国には行かないで」

「せっかくなので、貿易商を紹介しましょう。きっと島国に利益が出ます。急いで量産しないと大変ですね」

「ありがとう。助かるよ」


ルオは冷気を出すリーンが怖かったが自分に飛び火さえしなければ良かった。

楽になりたくて手紙を送ったのに、あえて忙しくなるように手配され兄が困るよりもリーンに捨てられないかが大事だった。自分の保身と欲求が優先なところは兄にそっくりになった弟だった。


***


ルオが寝室に行くといつもリーンは先に眠っている。

ラディルはイナの部屋で眠っていたのでルオはリーンを抱き寄せると抱きついてくる仕草が堪らなく愛しいのに、どうすればリーンが自分と一緒にいてくれるのかわからなかった。久しぶりに腕の中の温もりを感じながらゆっくりと目を閉じた。


翌朝リーンは目を開けるとルオの腕の中にいた。

忙しい夫は起こさずに腕から抜けだそうとするもできない。寝ているのに腕が微塵も解けないのでリーンは諦めて、ルオの胸に体を預けて目を閉じた。

ルオは目を開けるとリーンは目を閉じていた。ルオはリーンの髪を梳きリーンに教えてもらった祝福のおまじないを思い出し額に口づけを落とす。ルオの幸せはリーンと共にあるのに、リーンの幸せは自分と共にあるのかわからなかった。


「リーンは俺と離れて平気なの?」


リーンは力のない声に目を開けると、情けない顔の夫に笑った。


「起きて!?」

「寂しい」

「俺をすぐ捨てようとするのに」


オルとの会話でルオが声を荒げたことを思い出し、リーンは曖昧に笑う。


「さんざん悩んだ。でもルーラにも幸せになってほしかった。女王には理解して支えてくれる伴侶がいるわ。それに初めての他国からの婿と離縁して新しい婿を迎えるのは反発を生む。私よりも背負うものは多いのよ。まさかルオよりもオル様を選ぶとは思わなかったけど」

「俺は絶対に島国に行かなかったよ。強制的に連れていかれても何があってもリーンの傍に戻ってきた。リーンのいない人生はいらないんだよ」

「大げさ」

「俺は皇族に生まれたくなかった。でもリーンと婚姻して初めて皇族で良かったって。色のない俺の世界を豊かにしてくれるのはリーンだけなんだよ。俺はずっと欠落した人間だと思ってた。情熱もないし、」


それはオルがルオを利用していた所為だとリーンは思っている。ルオは人に流されやすい。オルは印象操作が得意で人を操ることも長けた人間だと評価していた。リーンの中では立派な詐欺師である。リーンも似たようなことをしているけど、私情で騙したりはしないのでオルとは違うと言い訳していた。


「気付いてないだけで違う。ルオは自分のことに鈍いのよ。私以外にも好きな人いるでしょ?好きだから振り回されるんでしょ?理由もなく振り回されたりしない」


ルオはリーン以上に心を動かされるものを知らない。会えば話す友人もいるがわざわざ用もなく会いたいとも思わない。ずっと流されるまま生きるものだと思っていた。与えられる役割をこなしてただ時間の流れに身を任せる。話さずに通じる兄と一緒にいるのは気楽だった。


「よくわからない」

「どんな教育を受けたのよ・・・。最大の被害者のルーラが望まないなら離れる理由はない。貴方が望む限り傍にいたい。それはきっと一生変わらない」

「初勅はリーンは俺から離れないにしていい?」

「初勅は民のためにあるべきよ。もし離れたらどうなるの?」

「ずっと腕の中から離さない」

「斬首じゃないのね」

「するなら俺の部屋に監禁がいい。リーンを斬首なんてありえない」

「私はルオのものなんだから好きにすればいいわ」

「いいの?」

「うん。私が身も心も捧げるのはルオだけよ」


リーンの綺麗な笑顔につられてルオは笑う。リーンが自分のものか・・。

ルオは腕から離れようとするリーンを離さなかった。


「ルオ、起きないと」

「体調不良で午前は休み。リーンは俺の物なんだろう?」


幸せそうに笑うルオの顔が近づき、リーンは一言だけ忠告して目を閉じた。


「ほどほどで」

「さぁな。俺のものなら俺の事だけ考えて」


子供のようなルオにリーンは笑いを堪えて口づけを受け入れる。これから皇帝となり孤独な為政者の椅子に座るルオ。重い責任を背負って国のために全て捧げる。リーンは代われない。だからルオに寄り添い、傍にいたいと願う。


「うん。私はルオのためだけに。どんな道を選択してもリーンはルオの傍にいます」


大国の姫としては駄目である。ただ今だけは全てを忘れて心のままに答える。

一緒にいられることが幸せで、ルオと一緒にいるためならどんなことも頑張れる気がした。

リーンの言葉に不安の消えたルオは触れるだけの口づけを深いものに変え、互いの熱を求め合う。互いに想いを確かめ合い、久しぶりにリーンとの夫婦の一時を堪能したルオの不安が解消されたおかげで視察の無理な強行はなくなり、リーンはルオに付き纏われることもなくなった。


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