表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇太子夫妻の歪んだ結婚   作者: 夕鈴
おまけ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/33

皇太子夫妻の日常7 後編 

島国ではお祝いムードで賑わっていた。

無事に出産をおえたルーラのもとには、報せを聞いた貴族達が祝いに足を運んでいた。ただルーラの会いたい人はいない。ルーラは心細くなり、2番に会いたい友人を思い浮かべる。


「デジロ様、リーンはどうして来てくれないの」

「姫様は出産後2日意識を失ったそうです。呼ばないと来ません」

「リーンは大丈夫だったの?」

「はい。頼りになる方が側にいたので」


デジロの落ち着いた声を聞きルーラはリーンが羨ましくなった。


「姫様が一番頼りにする兄君がいれば」

「旦那様じゃないの!?」

「姫様の夫は全く頼りになりません。姫様に迷惑をかけてばかりなので、家臣達が殺気立ってますよ。いつかイナに暗殺されても俺は知りません。よく生きてると感心します」


ルオはデジロにとって非常識で横暴な皇太子。一度、リーンに頼まれて診察したが健康で異常はなく、特に見てほしいと言われた頭も。リーンも今のルオは大国貴族にも劣ると気づいていたので、デジロの異常はなく無能なだけと伝えられた言葉に反論できずに静かに頷いていた。

ルーラはリーンの家族の話は兄がいることしか知らなかった。


「リーンを呼んでくれる?」

「今日は眠ってください。」

「デジロ様、少しだけ付き合って。リーンの夫はどんな人?」

「無能です。非常識で横暴で」


ルーラはデジロの話にリーンも苦労していることがわかり、悩んでいるのが自分だけでないことにほっとした。リーンになら話せるかもしれない。怖くて言えなかった。でもどうしても誰かに聞いてほしかった。

ルーラは話の途中で差し出される薬湯を飲んで目を閉じる。体を楽にしてくれたリーンが魔法使いという医務官の指示にルーラは大人しく従った。デジロの不敬を咎める護衛騎士の咎める視線は二人共気付かない。


***


デジロのおかげで二日酔いが治まったリーンは島国にいる商人に手紙を書き、護衛騎士に使いと買い物を頼んだ。

デジロに呼ばれたリーンはルーラの部屋を訪ねた。

ルーラは乳母に赤子を預けて人払いした。子供が産まれたのに表情の暗いルーラにリーンは祝いの言葉を飲み込み笑みを浮かべ短剣の鞘と小物入れをルーラに差し出した。


「お疲れ様。はい」


ルーラは返ってきた宝物を見て、我慢できずに涙を流した。贈り物をもらった時は嬉しく幸せだった。

リーンは突然のルーラの涙に驚きながら優しい笑みを浮かべる。


「長剣は私の部屋に置いてあるから後で誰かに取りに来させて。ルーラの好きに使って」

「リーン、私、どうしたらいいかわからない。私が悪いの・・・?」


ルーラは怖くて口に出せなかったことをゆっくりと言葉にした。

リーンはルーラのオルとの生活を優しい顔を浮かべて聞いた。何度かオルを殴りたくなったがルーラのために顔に出さなかった。

リーンもオルの外面に騙された一人だった。王族の務めを果たさずに、ルーラへの贈り物を勝手に売るのは最低である。話を聞けば聞くほど言葉を失い投げ飛ばしただけのルーラは優しいと思った。

ルーラが平民なら違った。オルに寄り添いルーラの望む穏やかで幸せな生活を送れたかもしれない。島国民の愛する物に不服を表すなんて島国の王族として致命的だった。


「王族としての務めが優先。私がルーラの立場だったら斬首するわ。王族として相応しくない者に仕える民が可哀想。相応しくない者を排除するのも王族の務めよ。迷いなく新しい婿を迎える。ルーラが見限るなら新しい婿を紹介するし手回しもするよ。」


ルーラはリーンの冷たい声に驚いた。それでもほっとして力が抜けた。自分が正しいと肯定してくれた。オルとの幸せな時間よりも王族として相応しくなってもらうことを選んだルーラを。ルーラは間違ってない。オルとの時間も好きで、いないのは寂しかった。また穏やかな笑顔を見せて欲しかった。

リーンは小物入れを見つめているルーラがオルのことを想っているのがわかった。ルーラにも知る権利があり、恋心は醒めるかもしれない。リーンはルーラが全てを知った上での決断を応援すると決めた。今は弱っていてもルーラは女王になるべき育てられた強い女性と信じて。

もしも全てを知ってもオルと一緒にいたいと願うなら手を回す。

オルとルオが悪いからリーンに罪悪感はいらないとリーンのもう一人の兄が言うなら、被害者として話すことにした。


「ルーラには知る権利がある。小国の最大の秘密を。怒りに狂う気持ちはわかる。ただこの話はルーラ夫婦の胸に留めて欲しい。大国に知られれば戦争になる。」


ルーラは見たことのないほど嫌そうな顔で話すリーンに目を丸くする。ルーラはリーンを信じる。リーンの大事にする小国が困ることは絶対にしない。手を伸ばすと優しく握ってくれたリーンを見てルーラは頷いた。


「約束する」


リーンはルーラの耳に小国の採れたての果実を食べたいためにオルがルオを眠らせ入れ替わり島国に婿入りしたことを囁き、ルーラは目を丸くした。そこまで自国の果実を愛してくれたことに感動したが騙したことは許されない。オルは幸せそうに果実を食べる顔がルーラは好きだった。

嫌そうな顔で話すリーンも曲がったことが嫌いなことを思い出した。


「リーンは騙されたと知ってどうしたの?」

「初夜の夜に気付いて、離縁して帰国しようとした。ただ私の婚姻にはいくつか制約があったの。大国を騙した小国を国王陛下は許さない。戦争は避けたかったから1年だけ務めを果たしたら穏便に離縁して帰国するつもりだったわ。あの頃は顔を見るだけで不愉快でたまらなかった。公式でエスコートされるのが嫌で・・・。ずっとイナの部屋に泊まって、執務以外で顔を合せなかったわ」

「やっぱり怒ったんだ」

「うん。私は婚約者候補の中で一番誠実だと思ったからオル様を選んだ。ルオも大事な友人だった。二人に裏切られて心が荒れ狂ったわ。生涯、あの怒りをこえるものはないと願いたい」

「どうして許したの?」

「ルオは毎日手紙と1輪の花を贈ってくれた。婚姻して1年もたたない頃にオル様の事情を聞いた。ルオに誠意を感じたからもう一度だけ信じることにした。オル様に怒っても被害者のルオへの怒りはなくなった。二人の入れ替わりを元に戻すのはルオが拒んだから動かなかった。あの時は自分のことでいっぱいでルーラのことまで考えられなかった」

「リーンはルオ様じゃなくてオル様のことは」

「大嫌い。顔も見たくない。ずっと双子の見分けがつかないように振舞ってルオに嫌なことを押し付けていたことは生涯許さない。ルーラが元気なら体術を教えて欲しかったのに。オル様を自分の手で殴りたい。」


リーンがオルのことが好きなのか気にしていたルーラはほっとした。


「オル様は優しい。また前みたいに過ごせるのかな・・。」


リーンはルーラを見て怒りを沈める。オルは最低で大嫌いでも相手が好きでたまらなくて離れたくない気持ちはよく知っている。それに離縁しないですむなら、国のためにも現状維持が一番である。

ルーラのために不本意だけどオルの可能性にかけることにした。一つだけオルの認めざるおえないことも思い出した。

冷たい空気を出していたリーンは綺麗な笑みを浮かべた。


「ルーラに忠誠を捧げて、王家の教えを理解している侍女と護衛騎士を私に預けて。私が躾けた護衛騎士はオル様付きにして始終教育させる。主を諫めるのは臣下の務めよ。相応しい王配の育成も。侍女は小国に送らせて私の腹心に教育させる。騎士はここで教育する」


「リーン?」


不思議そうにリーンを見るルーラと繋ぐ手に力を込めて、見つめ合った。


「義姉様に任せて。私は優秀よ。そして私の家臣は私の欲しい物は絶対に捧げてくれる」


ルーラは頷き、ルーラは自分の腹心を呼びリーンに預けた。

リーンはイナとルオ宛に手紙を持たせて侍女に護衛をつけさせ小国に、騎士は自分の護衛騎士に預ける。リーンの願いを快く了承した臣下達による大国式の厳しい教育が始まった。この家臣が育てばオルは苦行の生活を送ることになり、リーンの心を煩わせるオルへの仕返しには手を抜かない家臣達は熱心に指導した。ラセルだけがやる気に満ちた同僚に呆れる視線を送りながら、主の期待に添えるように同僚の暴走を止めながら調整していた。


***

ルオはリーンからの手紙を預かった島国民を歓迎した。イナとラディルにも手紙を渡し、島国民を待たせて手紙を読んだ。

島国の侍女をイナに教育させたいので離宮で過ごす許可の申請と受け入れにあたる必要な書類が同封されていた。ルオへの言葉は一言もない。愛息子と共に過ごしても3週間もリーンに会えないのは拷問だった。リーンの手紙を読んだイナが島国の侍女と護衛騎士を連れて行く。リーンのために急ぎで教育を始めた。オルの行動を諫め、王族として相応しくあるよう導ける家臣が増えるとオルが嫌がるのが目に見えていた。

リーンの家臣達による厳しい教育が始まった。ただ島国の民は愛国心が強い。主と国のためならどんなことも耐えられた。主を思う心はイナ達と同種だったので、気が合いすぐに打ち解けた。

ルオは未だに逃げるオルの説得に成功していなかった。


***


リーンは商人から買った小国のドレスを身に纏い髪を結い上げた。

王族の誕生を祝した祝賀会に招待された。オルが傍にいないことに不審に思う者もいた。異国の皇子をすべての民が肯定的に受け入れているわけではなかった。

リーンは小国の皇太子妃として祝い、オルへの不満を抑えるために動いた。

島国の貴族は金髪の大国の姫を覚えていた。リーンは島国にいた頃もたくさんの貴族に会い親交を深めていた。貴族達と談笑し、思ってもいないオルへの賛辞を言いながら御子の誕生を祝っていた。

オルは商談が長引き帰国できないためリーンが訪問したことにした。貿易は儲かると気づいた貴族は外交を好意的に受け入れていた。

リーンのおかげで貴族や民達は王族として島国のために動いているオルを好意的に受け止めた。リーンは穏やかな顔で微笑んでいた。全く帰国しないオルに呆れてそれを許す皇族達への不満も一切顔に出さずに。ルーラの騎士の育成は終わった頃にルーラの体調も落ち着いた。

リーンにとっては体術を教われなかったのが残念だが、デジロの許可が出ないので諦めた。

ルーラの幸せのために島国でできる女王や貴族達への手回しも全て終えた。

リーンは顔の晴れないルーラににっこり笑って抱きしめて別れの挨拶をした。祝賀会の3日後にリーンは島国を旅立った。ルーラに付いていたかったがこれ以上は小国を離れるのはまずかった。リーンはルオの即位に向けて準備を進めなければいけない。それにあと一つルーラのためにやるべきことがあった。小国を旅立った日にルオに送り返してほしいと頼んだオルがまだ帰国していなかった。


***

リーンは海路を使い急いで小国に帰国をした。

島国の執務はできるだけ終わらせたが毎日増えていくものである。体の弱いルーラの執務を手伝う人物は必要である。なにより安心させてあげたかった。民達の前では見せないが二人になると顔を曇らせていた。

宮殿に帰り皇帝への挨拶は後にして、オルを探しているとリーンの帰国を聞いたルオが駆け寄り笑顔で抱きしめた。


「リーン、おかえり」

「ルー様、殿下はどこですか?」


ルオは腕の中のリーンの空気に寒気がした。


「出かけてる」

「わかりました」


リーンはルオの腕を解いてオルを探すために、踵を返す。


「リーン、俺も行く。行先は心当たりがある」


ルオはいらなかったが時間が惜しく、邪魔されないために念のため確認した。


「ルー様、私が何をしても許していただけますか?」

「俺の傍を離れないなら」

「ありがとうございます。邪魔だけはしないでください」


必要ないが念の為釘を刺し許可は取ったのでオルを探すだけだった。リーンはルオの返答は聞かずに、馬屋を目指した。慌てて追いかけてきたルオに案内された市にオルはいた。リーンは護衛騎士に視線を送り、護衛騎士はオルの腕を掴み、騒ぐ暇を与えず人目のない路地に連れ出す。

誰もいない路地裏についた途端にリーンの護衛騎士がオルの首に剣を突きつけた。オルの護衛騎士は剣を弾かれ気絶させられていた。


「どういうことだ?」


睨むオルをリーンは冷たく見つめた。


「ここで死ぬか帰国するかお選びください」

「自分のしていることがわかっているのか?」


リーンにとってオルにだけは言われたくない言葉である。


「婿入りした島国に帰らず、ずっと小国で遊んでいる者など不要です。」

「ルーラが言ったのか・・・」


呆然と呟くオルにリーンは失笑した。


「ルーラは貴方を待ってますよ。友人の趣味の悪さに頭が痛いです。ルーラのために帰国しても角が立たないように手は回しました。ただ王族として務めを放棄し、ルーラのもとに帰らないなら事故で亡くなっていただきます」

「ルオ、」


ルオはリーン達に驚いていたが邪魔しないと約束した。なにより今のリーンに逆らうのは恐ろしく助けを求める兄よりも愛する妻が優先だった。


「帰国しなよ。いい加減に嫌なことから逃げるのやめなよ」

「ルーラから貴方の話を聞いて私なら首を落とさせました。背負い投げですませたルーラに感謝すべきです。芋が嫌いでも公的な場では美味しそうに食べるフリをしてください。島国のものを愛するフリなんて貴方なら簡単でしょう?私を騙したんだから」

「ルーラは変わった」

「変わってません。穏やかな時間が好きだって。穏やかな笑う貴方の顔も。愛しなさいとは言いませんが婿入りしたなら務めを果たしてください。ルーラはルオではなく貴方がいいって。本物のルオはいらないって」

「リーン!?」

「どうします?」


リーンはルオをやはり置いてくるべきだったと後悔した。場合によっては武力行使も考慮し今はルオの放置を決める。

睨み合う二人を見て、ルオは自分に飛び火しないか不安に襲われる。ルオに全く視線を向けないリーンにいらないと言われ動揺していたが兄を帰国させないと本気でまずい気がした。リーンは決めたらやる。自分も父もリーンには敵わないとわかっていた。

ルオはオルの立場で必死に考える。出て行ったのに全く気にされない。リーンで想像したら自分も同じ状況になりそうだった。旅立ったリーンはルオのことは全く気にしていない。寂しく、落ち込みそうになるのをリーンの冷気を感じて踏みとどまった。今はルオは兄のことを考えないといけなかった。

オルは芋とルーラへの不満も言っていた。オルは自分が中心の人間だ。自分の欲望のためなら周囲の害は考えない。ルーラから手紙がないと言っていたのを思い出した。

まさか気を引きたくて出て行った・・?

兄とのやりとりをよく思い出しオルの顔を見て、ルオは気付いた。


「兄上、拗ねてるの?ルーラ様に相手にされなくなって、手紙も来ない。迎えにきてほしかったんじゃないの?」


図星に固まったオルに、リーンは蔑む視線を向けた。


「バカですか?ルーラは島国から出れない。貴方が出て行ったことも誰にも話せなかったのに。ありえない。王族というものの勉強してください」

「兄上、謝ればいいんだよ。必死に謝れば許してくれるよ。俺はリーンが許してくれるまでずっと謝った。情けないくらいに。もう人の物を勝手に売るなよ」

「買い戻したのでご心配なく。物の価値も勉強してください。金貨50枚でも安いのに銀貨で売るなんてバカなんですか?王族として学んでください」

「金貨!?」


驚いているオルにルーラのためにリーンは教えた。


「大国のものは世界で一番高価です。特に大国屈指の鍛冶師が仕上げた剣は物好きな貴族に売れば金貨100枚でも安い。あれを売れば当分島国は安泰です。常識ですよ」

「説明が足らない」


外交を全くしていないルーラが知らないのはわかっていたのでリーンは正しい使い方を教えた。


「ルーラには売り方は説明してましたよ」

「俺には一言も」

「まさかここまで物の価値がわからないとは。正しい売り方さえも知らないなんて・・・。私はオル様の無能さを知らなかったんです。暇ではないので早く決めてください」

「今までの物も」

「安く買い叩かれても金貨5〜20枚くらいですかね。売ったのはオル様達だけですけど」

「気付いてたのか?」


リーンにはどうでもいいことだったが一応教えることにした。


「買い取った友人に同じ物を売って欲しいと相談されました。懇意の貴族商人に売ってると思ってましたよ。おかげで私は儲けさせていただきました。気付いてからはお礼として売りやすく高価なものを贈ってましたが無駄でしたね。ルオの個人資産が凄いので上手に売ったのかと勘違いしてました。ルー様、次は物を渡してくだされば適正価格でやりとりするので声をかけてください」

「リーン、違う、売ったの兄上、俺は何も知らなくて、お礼も言えなくて」

「個人の贈り物は受け取り手の自由なので興味ありません。私に言いにくいならテト達に売ってください。どうします?貴方が死ぬなら責任もって新しい婿を紹介します。」


ルオはリーンの無感情な声に傷ついたが今は兄の帰国が最優先だった。意地っ張りな兄はこの状況は認めない気がした。


「リーン、剣をおろさせて。帰るよ。待っててくれる妻と子がいるんだから。ここにいるなら無事に生まれたんだろう?」

「さぁ?私は島国の情報は話しません。でも島国の方々は情熱的です。必死に口説かないとルーラの心が離れるかもしれません。女性は切り替えが早いですから」


オルはリーンの言葉の意味がわからず、ルオは嫌な予感に襲われる。


「は?」

「知りませんの?オル様の前なら口説きませんかね。島国は社交辞令でも思わず赤面するような口説き文句が飛び交いますわ。エスコートのない女性には特に」


リーンの人気を知り子供が産まれても減らない恋敵に苦労しているルオが思わずリーンに手を伸ばす。


「リーン、まさか、なんで俺を置いて行ったんだよ」


リーンは自分の肩を掴んで、ありえないことを不満な顔で言うルオに呆れ、冷たい視線を向ける。


「ルー様を信じてましたが、残念です。いつも私の願いを叶えてくださると言ったのは嘘だったんですね」

「え?」

「私、送り返してくれると信じてました」


ルオはようやく冷笑を浮かべるリーンが自分にも怒っていることに気付き、慌てて兄に向き直る。


「兄上、帰国して。武力行使するよ」


リーンはルオに一切期待していない。小国の家族の情はリーンにとっては愚かで害悪と思いさえしていた。


「もういいです。私、無能は嫌いって島国で気づきました。兄弟が仲良いことは素晴らしいですね。私は家臣にも兄弟にも恵まれて幸せです。オル様、どうします?ルーラと過ごしたいですか?」


オルは何も答えずリーンがため息をついた。ルーラのために穏便に帰国させるために話すことにしたが時間の無駄だったと。


「やりなさい」


リーンの護衛騎士がオルを縛りあげ、口に丸薬を放り込み顎を押さえて無理矢理嚥下させると意識を失う。

リーンは静かに様子を眺め、しばらくして一人の騎士に視線を向ける。


「指示どおりに帰国なさい。ルーラが投げ飛ばす前に貴方が動きなさい。主の手を煩わせるのは家臣の恥」

「はい。ありがとうございました」

「第一声に謝罪がなければ?」

「お任せください」


リーンは自慢の騎士達が鍛え上げた島国の騎士とのやり取りに笑みを浮かべる。

島国の女王にリーンは義姉としてオルが王族として相応しくなるために教育を任せてほしいとを頼んだ。リーン達の訪問でルーラの体調が良くなり、女王にとってはオルよりもリーンが積み上げた信頼と実績の方が大きく悩むまでもなくリーンの味方についた。優秀なリーンが物足りないと言うなら好きにしなさいと。

島国の騎士は眠るオルを抱えあげ帰路についていた。


リーンはいくつか命じて根回ししていた。

リーンはデジロにオルのために体の力が抜ける薬を調合してもらい、道中飲ませるように渡し逃亡を防ぐ。

情に厚く島国を愛する騎士はオルが相応しくない行動をすれば鉄拳制裁を教え込まれた。ルーラは邸ではイナに任せた侍女と一緒に騎士も側におき生活するように説得されていた。

帰国してルーラに謝罪がなければ痛い思いをするのはオル。

リーンはルーラに迷惑がかからないようにオルへの嫌がらせを再開する。年下の妻に苦労をかける無能な男に報復を。リーンは島国に滞在したおかげでオルの嗜好がよくわかり、オルの嫌がる島国の名産品を増やすために動いていた。

島国は大国から安価な紙を輸入しているが普段は木や葉を紙の代わりに使っている。

デジロが島国で紙の材料になる木を見つけたので、リーンは紙作り職人の引き抜きをオルの手柄として送っていた。島国の貴族にはオルが新しい紙作りのために動いていると盛大に宣伝したので、後に引けない状況も用意した。

責任者のオルは率先して動かなくてはいけないという常識も噴き込んだ。腕が確かで島国民に馴染みやすい性格でも明らかにオルとの相性が悪い職人に振り回され、オルの嫌いな力仕事を強制させられ苦労する姿を思い浮かべリーンは笑う。

リーンはルオが好きでも、オルの滞在を許していたことに皇族としてもルーラの友人としても怒っていた。度重なる疲労の蓄積で冷静さを保てていないリーンはルオと別居生活を選んだ。母との約束を果たし役目を終えたラディルもルオの側から離れ、母にべったりと甘えていた。哀愁漂うルオを見てもリーンの家臣が執り成すことは決してない。そしてルオの家臣もリーンには近づけさせないので終わりの見えない別居生活にルオの心は荒んでいった。


***


オルが目を覚ますと島国に向かう船の中だった。

体は拘束され、状況を整理しながら物騒な性格のリーンの隣に生涯いるだろう女の趣味の悪い弟に同情していた。オルが考え込んでいると、騎士に革袋を被せられ抱えあげられたが体に力が入らないため放せと騒げない。リーンは騎士にオルだけルーラの前に連れて行けと命じていたためオルの護衛騎士は小国に放置されていた。


ルーラはリーンからの小国に不要なものを送るので、いらなければ処分してほしいと珍しくわかりにくい内容の手紙を読んでいた。

オルへの分厚い手紙が同封されていたが気になっても、目を通さない。

リーンが帰国してからルーラの生活は変化した。

ルーラは旅立つリーンに義妹としてお説教を受けた。

執務に家事に育児は一人でこなせないから、できることは家臣に任せるように。そしてルーラの自由な時間を持つようにと。

ルーラの常識と違っていても、普段は家事を全くせず、着替えも侍女に手伝ってもらうと笑い、体が弱いなら体力温存が一番と力説するリーンにルーラの心は揺れた。闘病生活はルーラに負けないと胸を張り、人の手を借りてばかり生きていると言うリーンは公式では誰よりも王族として相応しい振舞いをしていた。取引をする大国の商人は世界が認める優秀さを持つ王族の姫の中でもリーンは人気が高く優秀で、大国民にとっては憧れと至宝に等しい姫という評価も聞いていた。

常に堂々とする頼もしく自立した女王を目指していたルーラはリーンの言葉に従い、リーンのマネをして人の手を借りながらも女王として相応しくなるように頑張りたいと伝えると綺麗な笑顔で微笑む顔を思い出し笑みを浮かべた。

ルーラはノックの音に我に返り、入出許可を伝える。

騎士はルーラに礼をして執務室に入り、肩に抱えた大きい袋を床に置く。袋を開けて、中身を取り出し床に転がすとルーラは目を丸くする。眠っているオル、リーンのいらない物にルーラは立ち上がり駆け寄り、手を伸ばす。


「旦那様、旦那様、」


ルーラが肩を揺さぶるとオルはゆっくり目を開け自分を心配そうに見ているルーラを見上げる。

ルーラは目を開けたオルにほっとして笑いオルはルーラの笑みに釣られて笑う。ルーラは見たくてたまらなかった顔を見て、泣きたくなった。オルは初めて見るルーラの泣きそうな弱った顔に、泣きそうなリーンを抱きしめていた弟を思い出し、そっと抱きしめる。護衛騎士は部屋を出て行き当分は誰も執務室にいれないように手を回す。空気の読める護衛騎士を育てたのはラセルの成果である。

ルーラはオルに抱きしめられて、堪えきれずに瞳から涙を流した。


「ずっと、待ってた」


零された言葉にオルは笑い、泣いているルーラの背中を不器用な手つきで撫でる。


「ただいま」


ルーラは帰ってきてくれたことがわかり嬉しくてたまらなかった。オルの胸から顔をあげると、昔の穏やかな顔をしていた。


「お帰りなさい」


オルはリーンよりも腕の中で笑っているルーラがいいと思った。


「体は平気か?」

「はい。」


オルは穏やかな妻に戻ったルーラにほっとし、涙のあとを不器用に指で拭うと笑う姿に胸が熱くなる。

ルーラは涙が止まり、我が子を呼ぶように命じる。

乳母に抱かれている我が子を初めて見たオルはあまりの小ささに抱いたら壊れそうで、抱けなかった。狼狽える夫にルーラが笑って、乳母から受け取る。オルは恐る恐る手に触れると指を握った赤子に驚き眠っていた瞳が開き、自分と同じ瞳で笑う姿に胸がくすぐったくなる。

ルーラは優しい顔で我が子を見るオルが嬉しくてたまらなかった。

リーンにルーラが望むならルオを返すと言われていた。ただ即位したら、入れ替わりはできなくなるから早めに決めて欲しいと言われても断った。

ルーラが側にいてほしいのは誠実なルオではなくオル。リーンには申し訳ないけど、デジロに無能と言われるルオより優秀なオルのほうが国としてもありがたかった。騙されたことは許せない。でも、ルーラは魅力のあるリーンよりも島国の果物を選んだオルを怒れなかった。島国のものを愛して、色んなものを捨てたオルに少しだけ嬉しく思ってしまったのはリーンには言えなかった。


オルとルーラは穏やかな夫婦に戻り、島国ではルーラがオルを投げ飛ばすことはなくなった。オルはルーラがおかしくなったのは妊娠の所為かと思い直していた。

ルーラが手を出す前に、オルを諌め、鉄拳制裁をする者達がいたので必要がなかっただけである。

「小国では家臣から主への愛情です」と愛らしい笑顔で小国の流儀を語った小国の皇太子妃の言葉を疑う者はいなかったためオルに手を出す家臣に戸惑う者はいない。リーンはしっかり手回ししていた。またオルが嫌がるのは照れてるだけで本当は喜んでいると伝えたため、遠慮なくオルに手をあげる者が増えていた。

ただオル以外の高貴な方や他国の者に手をあげると、首が飛ぶので気をつけなさいとも忠告した。

子供は小国流ではなく、島国流で育ててくださいと言うので、島国で家臣に鉄拳制裁を受けるのはオルだけであり、オルの護衛騎士もオルが悪いので止めない。リーンに無能と言われ、リーンの騎士にもプライドを折られ、リーンの指導を受けた騎士に教えを乞いはじめたこともありオルの味方はルーラしかいなかった。時々家臣を諌めて、優しく手当してくれるルーラに良い妻をもらったと満足するようになった。

それでもリーンがオルのために用意した面倒な事業を任され嫌気がさして逃亡を図ると、騎士に追いかけられ、お忍びさえも一人で行けなくなる。オルは痛いことが嫌いなため、鉄拳制裁を受けないように立ち回る。ルーラは徐々に王族としての自覚を持っていくオルに感動したが、リーンと約束したのでオルの希望で護衛騎士の変更を認めることは決してしなかった。島国ではオルは一部の者を除けば立派な王族と見られていた。仲睦まじいルーラとオルにより異国の民や貴族との婚姻が積極的に受け入れられるようになったおかげで島国の民はどんどん増え、島国の血が歴史から姿を消すことはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ