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皇太子夫妻の歪んだ結婚   作者: 夕鈴
おまけ

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17/33

皇太子夫妻の日常3 

皇太子夫婦に御子が産まれてしばらくは寝室が執務室となっていた。

過保護なルオと家臣の許しが出ずリーンはベッド上で安静だった。リーンの執務はルオが引き受けたので、リーンは隣に座って確認するだけだった。

ルオの家臣達は寝室を執務室化した主に呆れていたが、効率の良さに気付いてからは何も言わなくなった。リーンはルオが寝室で皇太子妃の執務をしていると思い込んでいたため、ルオの仕事にも口を出して確認していた。まさか夫が視察と会議以外の執務は全部寝室に持ち込んでいるとは思わなかった。

ルオよりリーンのほうが優秀だった。ルオが書類を読んでる間にリーンは答えを出して呟いていた。

ベッドの上に設置された簡易の机でルオはリーンの言葉を書き込みサインをするだけだった。そしてルオよりもリーンの指示が的確で無駄がないため臣下にはありがたかった。通常の執務を2人で行っているのに、かかる時間は通常の半分だった。ルオの家臣達は、皇太子夫妻の執務室を一緒にしたいというルオの戯言も悪くないと思い直しはじめていた。



皇帝はルオに抱かれたラディルには面会していた。

リーンの体調が回復したことを知り、息子夫婦を晩餐に招待した。

皇帝が孫の誕生祝いを聞くとルオに執務を引き受けてほしい、リーンにはいつまでもお元気でいてくださいと言われた。皇帝はできた義娘に感動したが、リーンの言葉の裏には皇后陛下の相手をしっかりしてほしいという願いがこもっていることに気付かなかった。

この晩餐にラディルを連れて行ったことでリーンの悩みが増えた。皇帝にも皇后にもルオにさえも悟られずリーンは胃が痛くなる晩餐をおえ、上機嫌でラディルを抱いているルオと一緒に離宮に帰った。


リーンはラディルが可愛いかった。一つだけ困ったことがあった。

ラディルはリーンが苦手にしている者に抱かれると泣いてしまった。宰相に抱かれてもご機嫌なのに皇后が抱くと大泣きをした。皇帝もしばらくするとぐずってしまう。

ラディルと離れたくないと言うルオを視察に送り出し、スサナに抱かれた我が子を見ながら悩んだ。リーンの隠している本音を気付かれるわけにはいかなかった。口に出せば、杞憂と言われただろう。ただリーンはこの悩みを誰にも打ち明けなかった。


実際はリーンの心配は不要だった。ルオはラディルを溺愛した。リーン以外に抱かせる気はなかった。両親にラディルの顔を見せにいくだけで離さないことも知らなかった。知ればまた別の意味で頭を抱えただろう。

リーンはラディルは分別がつくまではできるだけ離宮から出さないことを決めた。悩みの解決策は見つけたのでラディルはスサナに任せて執務を進めることにした。


***

大国では乳母が子供を育てた。小国は決まりがなく両親が育てることも許されていた。ルオは自分で育てる気満々だった。リーンにそっくりな我が子が可愛くてたまらなかった。

ルオは執務室にラディルを世話するための準備をしていた。リーンはルオの冗談が本気だとは全く気付いていなかった。

寝室で執務を進めているとイナが期待の籠った眼差しをリーンに向けた。


「姫様、ラディル様を執務室でお育てしてもいいですか?来客時は出て行きます」


リーンにとってイナが非常識なことを言うのは初めてだった。


「この子に聞かせたくない話ばかりよ。連れてくるのは構わないけど、ずっとは駄目。用があるときはベルで呼ぶからラディルの傍にいていいわ」

「イナは姫様の侍女です。ラディル様が可愛くても姫様が一番です」


相変わらずのイナの様子にリーンは笑った。リーンもラディルと一緒にいたかった。


「お茶と食事の時間はラディルも一緒ね。」

「はい。イナがお連れします」


嬉しそうに笑うイナが乳母の仕事を全て奪ってしまう気がした。


「スサナ、ごめんなさい」

「私はリーン様達のお役にたてれば構いません。それにイナ様の気持ちはよくわかります」

「ありがとう。助かるわ」


スサナはリーンの言葉に幸せそうに笑った。リーンはスサナの変化に驚いたが気にしなかった。自分に忠義を尽くしてくれるなら相応しい主になるために努めるだけだった。


***

翌月リーンの体調も回復し、離宮を自由に歩けるようになった。ようやくルオの許しが出た。

執務中はラディルはスサナに任せた。

ルオの承認をもらうため執務室を訪ねたリーンは目を疑った。

一月振りのルオの執務室の雰囲気が変わっていた。

扉を開けて固まっているリーンにルオが近づいた。ルオの家臣はリーンの戸惑いがわかった。皇太子の執務室が子育て道具で埋まっていれば驚くだろう。


「リーン、どうした?」


リーンは、戸惑いを隠してまずは仕事をすることにした。


「ルー様、承認のサインをお願いします」


ルオは書類を受け取り、サインをした。リーンは何度か瞬きをして室内を見渡し見間違いでないことはわかった。頬をつねると痛かったので現実だった。リーンの様子にルオを慌てて駆け寄った。


「具合悪いのか!?休む!?」


心配そうな顔でリーンを抱き上げようとする手をそっと解いた。


「ルー様、どうして模様替えを?」

「リーンの執務がもとに戻ったからラディルの世話をしようかと。もしリーンも引っ越してくるなら大歓迎なんだけど。家族3人で」


おかしなことを言い出したルオの額に手を当てても残念ながら熱はなかった。リーンは大国から優秀な医務官を派遣してもらうべきか本気で悩みはじめた。

崩れた顔で夢の執務室を語るルオとそれを見て悩んでいるリーンの異様な光景が広がっていた。


「姫様、商談の時間が。このままだと遅れます」


戻らないリーンを侍従が迎えにきた。

リーンはテト達と面会予定だった。医務官の手配は後にすることにした。


「ルー様の様子がおかしいから、執務は私に回して下さい。私は失礼します」


ルオの家臣にリーンは声を掛けて退室した。妄想の世界にいるルオは侍従に頭を叩かれ現実に引き戻された。ラディルが可愛いのはわかるがルオの親馬鹿に呆れていた。


***

久々にテト達に会い、リーンの願いを聞いてくれたお礼を言った。打ち合わせが終わる頃にイナがラディルを連れてきた。

民への披露は雪が解けてからの予定だった。


テトとサタはラディルを見て笑った。


「これは殿下は大喜びね。肖像画を描いたら飛ぶように売れるわ。まず殿下が買い占めるかしら」


「女のようだな。これは分かれるな」


「そうね。大国の容姿よね。」


ルオは濃紺の髪に紫の瞳を持ちはっきりした顔立ちをしている。ラディルはルオより色白で輝かしい金髪にくりっとした大きい瞳を持ち、瞳の色以外は明らかに大国民の風貌をしていた。大国なら歓迎されたが、小国では受け入れられるかわからない。皇后は小国出身だった。過去に大国から妃を迎えたことはない。見目麗しい御子が歓迎されるか、嫌厭されるかは民次第だった。


「いざとなったらルオ似の子が生まれるまで頑張るわ。ラディルは臣下として育ててもいいわ。優秀な者が皇位を継ぐべきだもの。」


複雑な顔をしているテオとリーンの間に陽気な声が響いた。


「私は殿下に似るよりもリーンに似た方が民に好かれると思う。主の顔が良いにこしたことはないわ。絶対にこの子のファンが増えるわ。肖像画を売っていい?」


お金の匂いに目を輝かせるサタに首を横に振った。


「駄目。お披露目がまだだもの。それに肖像画が広まって暗殺されたら困るわ」

「残念。売り出すなら声を掛けてね。」


ラディルはテト達が抱いても泣かなかった。リーンは自分の心配が当たっていることに確信した。談笑をかわして、テト達と別れて執務室に戻り、ラディルはスサナに預けた。

リーンは侍従と二人っきりになり護衛騎士に誰もいれるなと命じた。


「ルー様の頭がおかしいかもしれない。大国から優秀な医務官を引き抜きたいから手回しを頼める?義兄様達に不審に思われるかな・・・」


大国は小国の状況を調べているだろう。ただ皇太子の頭がおかしいことは知られるわけにはいかない。頼りになる兄は旅立った。できれば誰にも知られたくない。極秘で口が固く優秀な医務官が必要だった。


「姫様、我が子が生まれて興奮しているだけでしょう。いずれ平静を取り戻されますよ。そこまで深刻になる必要はありません」

「でも優秀な医務官が欲しい。お産の時に医務官が気絶した時は血の気が引いたわ。お兄様のおかげで…」


侍従はリーンのお産に立ち合わなかったので事情を知らなかった。話を聞くと医務官の手配は必要だった。ルオを引き離せばすむが、それでもすぐに気絶する医務官に大事な主の体は任せられない。

二人の導き出した答えは一つだった。

リーンは兄に手紙を書いて、優秀な医務官を紹介してもらうことにした。各国を飛び回り、義兄達に張り合う優秀さを持つ兄なら大国に悟られずに、信頼でき、口の堅い医務官を紹介してくれるはずである。兄の足取りを調べて極秘で手紙を渡すように命じた。

侍従の言葉を信じて夫のことはしばらく様子を見ることにした。


***

リーンが執務に復帰し多忙な頃、ルオはラディルを執務室に連れてきていた。

我が子を抱きながら書類を見ていた。ラディルはルオの腕の中ならほとんど泣かなかった。スサナは執務室から追い出され隣室で待機していた。スサナとルオの相性は悪かった。

ルオの家臣達はリーンが現状を知れば嘆くのを知っていた。ただラディルが傍にいないとルオは頻繁に会いに行った。度々抜け出されるよりもラディルを抱いたまま執務をするほうが効率がいいのでルオに協力することにした。リーンがラディルと過ごす時間は決まっていた。その時間をルオの休憩にあてるように調整した。ルオは内務の時間は愛しい妻や我が子とずっと一緒にいられて幸せだった。

***

時間があえば昼食はルオとラディルと食べることにしていたためリーンはルオの執務室にラディルがいることに気付いていなかった。リーンよりもルオのほうがラディルと過ごす時間が長かった。

ほぼ離宮にいるリーンはルオが宮殿での会議にラディルを抱いていることを知らなかった。家臣達は皇太子が皇子を溺愛していることを知っていた。皇太子の腕で静かにしている皇子が邪魔することはなく会議が終わり、時々笑う皇子が可愛いかったので、ルオの非常識は見逃すことにした。家臣達はルオではなくリーンに似て育ってほしいと願った。


***


リーンが書類を持ってルオの執務室を訪ねるとラディルが抱かれていた。ラディルは激しく泣きリーンかルオが抱かないと泣きやまないことがある。赤子は泣くものだが離宮ではラディルはあまり泣かなかった。いつも誰かに抱かれてご機嫌だった。そのためラディルが泣き止まないとスサナやイナが慌てて執務室に駆けこんできた。病弱だったリーンは大泣きすると命に関わった。リーンはイナが昔の自分と重ねていると思い込み、二人の行動を咎めることはなかった。


「ルー様、申しわけありません。スサナはルー様のほうに行ったんですね。」

「俺は構わないよ。もう少し大きくなったらもう一つ机を入れて勉強させるのもいいな」

「この子には聞かせられない話がたくさんあります。でも教師を探さないといけませんね」

「せっかくだからリーンが俺の執務室で授業してよ。俺も執務しながら聞いてる。リーンとの差は埋めたい。せめてラディルよりは優秀でありたい」


ラディルを抱きながら気まずそうな顔で言うルオにリーンは笑ってしまった。リーンはルオが自己評価が低いと思っていたが、ルオの評価は正当だった。子供時代に必死に勉強していたリーンと勉強をサボり遊んでばかりいたルオの差は明らかだった。

ルオの家臣も賛成だった。リーンとの会話は難しく理解に苦しむこともあった。基礎から教えを乞うなら自分達も混ぜてもらいたかった。


「リーン様、邪魔ではありません。是非大国の教育を」

「それならラディルを連れて、市井に降りて授業しに行こうかな。」

「危険だから駄目だ。リーンだけでも危ないのにラディルも一緒だと」


ルオの緩んでいた顔が真顔になった。ルオは冗談ばかりなのにリーンの冗談が通じないことが多いとリーンは楽しそうに笑った。


「冗談です。でも時々ならいいかな。ルー様、ラディルは私が。ありがとうございました」

「リーン、送るよ」

「ルー様は執務をお願いします。」


リーンが抱くと、ラディルが笑った。つられてリーンも優しく笑ったためルオは見惚れていた。可愛い我が子と愛しい妻が微笑み合う姿は何度見ても感動し見惚れる光景だった。


「絵師を」

「え?」

「この光景は記録に残さないと」

「リーン様、どうぞ、お気になさらず。書類はあとで確認してお持ちします。執務にお戻りください」


リーンは戸惑ったがルオの家臣が動揺していないので聞き間違いと思い退室した。

主の暴走に聡明で麗しい妃殿下を巻き込むわけにはいかなかった。リーンの家臣からルオが頭がおかしくなったのかリーンが心配していることを聞いたルオの腹心達はできるだけ、目に入れないようにさせることにした。またここにイナが加わるとさらに悪化するので、ルオの暴走時はリーンを追い出すことが暗黙の了解だった。リーンの家臣も主の憂いを取り除くためなら快く協力した。

イナはルオが執務室にラディルを連れ込んでいるのを知っていた。ただ自分もリーンもラディルと過ごせない時間だったので見逃していた。またルオと共にリーンとラディルのための貢ぎ物を考えるのは楽しかった。ルオの個人資産のためイナは使いたい放題だった。リーンは個人資産は自分のためにはほとんど使わないので、我が子のために散財することはなかった。必要なものは贈られたり献上されていたので、使う必要もなかった。ただ大国よりラディルの教育のため必要な本等は取り寄せる手配をした。リーンは大国に戻るつもりはなかったので自室の本を送ってほしいと母に手紙を送った。

母からの知らせを聞いた父から大量の本が贈られ、目を丸くするのは先の話である。


***


ラディルはすくすくと育っていった。

リーンの執務室にラディルを抱いたイナが入室してきた。


「姫様、ラディル様が」


リーンは書類を置いて、ラディルを抱いた。泣いていなかった。


「かーま。」


イナ達の興奮の理由がわかり我が子を見て笑った。お母様と呼ぶようにイナ達が教えてくれていたとは知らなかった。


「ラディルは賢いわね。」

「かーま」

「うん。上手ね」


「姫様、凄いんです。ちゃんと皆の名前を覚えているんです」


首が座ったばかりの我が子がそこまでわかるとは思わなかった。


「ラディル様、私はわかりますか?」

「うー」


乳母を見てにっこっと笑い名前を呼んだ。

イナのことは「いー」と呼んだ。

リーンの腹心の名前は認識しているラディルにリーンは笑っていた。視察からルオが帰れば喜ぶ姿を想像したらさらに笑いが止まらなかった。執務をする空気ではなくなったので休憩することにした。



翌日視察から帰ったルオは寝室でリーンの話を聞いて目を丸くした。絶対に見逃したくない光景だった。映像を記録するものを作れないか本気で悩んだ。まず公務に視察があることを恨むべきかと不毛なことを思い始めた。ラディルはぐっすりと眠っていた。ルオの悩みなど気付かないリーンは拗ねているのかと勘違いして慰めるためにルオに抱きつき、にっこり笑った。


「ルー様、ラディルが可愛いのはわかります。たまには私も構ってくださいませ」


甘えるリーンにルオの機嫌は直った。頭の中に浮かんだことは一瞬で吹き飛んだ。ぐっすり眠る我が子は起きる様子はない。せっかくなので甘える妻を堪能することにした。

翌朝、自分の腕の中で胸に耳をあてている妻の髪を梳きながら静かに聞いた。


「執務室一緒にしてもいい?」

「公私混同はいけません。」

「ラディルのために離宮の隣に宮を建てようと思う。俺とリーンと子供の共同の執務室を。何人増えてもいいように大きい部屋を。客室と個人の部屋と大きい書庫に・・。ラディルには離宮以外の遊び場があってもいいと思うんだ。今まで通り離宮で生活するけど、子供には狭いと思う。」

「ルオが皇帝に即位したら宮殿に引っ越しよ。いらないと思うけど」

「そしたらいずれ産まれる孫に譲ればいいよ。それにこれから忙しくなるとますます一緒の時間が少ない。俺はリーンの目に触れられて困るものはなにもない。駄目かな?ラディルの授業も執務室ですればいい。」



小国に決まりはないとリーンは教えられていた。ルオの両親を見れば自由なことはわかる。


「皇帝陛下や互いの家臣の了承がとれれば。ただ」

「手配は俺がする。もちろん護衛も」


ルオが必死に説得する姿がリーンには可愛かった。

「旦那様にお任せします」


極上の笑みを浮かべたルオにきつく抱きしめられた。口づけされて徐々に夫の手の動きが怪しくなっているので、身の危険を感じた。イナが起こしに来る時間だった。


「ルオ、駄目。イナが来る」

「リーンが構ってほしいって。最近はラディルばっかりだったし。たまには二人で」

「執務」

「本当なら今日の昼に帰る予定だったから会議に出なくても問題ない。父上も帰っているとは思わないよ」


リーンはルオが睡眠時間を削って、帰ってきたことに気付いた。確かに昨日は自分を抱きしめてしばらくするとすぐに眠りについていた。ルオがリーンよりも先に眠るのは珍しい。リーンも急ぎの執務はないので夫を休ませることを優先することにした。

リーンはルオに口づけてにっこり笑った。


「今だけルオを独り占めしたいからラディルを預けてもいい?」


不意打ちに赤面したルオは頷いた。ベルを鳴らしてイナを呼びラディルを預けた。

リーンのルオを休ませたいという目論見は外れてしまった。熱に溺れたルオに愛されるのは好きだった。ただ久しぶりだったのでルオが止まらなくなることを忘れていた。


愛しい妻を堪能していると、昼過ぎにイナに呼ばれた。父親が自分を呼んでいるのがわかった。至福の時間の終わりにため息をこぼして、最後にリーンの額に口づけた。


「今日は休んで。ごめんな」


リーンは体力の限界と腰の痛みで動けなかった。ルオは久々に妻を抱き過ぎたことは反省していた。


「ルオに休んで欲しいのに」


拗ねてるリーンの可愛さに笑った。


「充分元気になったよ。たまには預けるのもいいな」

「そうね。ルオ、行ってらっしゃい。」


イナが呼びに来たのに自分を離さないルオをリーンは送り出すことにした。あっさり手を振るリーンに拗ねた顔をする夫の頬に口づけた。


「お仕事をすませて夜には帰ってきて。あんまり遅くなるなら違う湯たんぽを探すわ」


ルオはリーンの言葉に慌てて起き上がった。息子は可愛い。息子を抱いて眠る妻も可愛いだろう。ただリーンに温もりを与えて包み込む役割は譲りたくなかった。


「行ってくる」


ルオはリーンの頬を名残おしげに撫でて部屋を出て行った。リーンは手のかかる夫が出て行ったので惰眠を貪ることにした。

リーンが夢の世界にいる時にルオはラディルに「でーか」と呼ばれてショックを受けていることは知らなかった。ルオの執務室で過ごす時間が長かったラディルは殿下と覚えた。イナ達はリーンの呼び名は教えてもルオの呼び名は教えなかった。スサナは乳母だが指示を出すのはイナである。それにスサナにとって主はリーンとラディルだった。皇太子への礼儀は守るが最優先はリーンである。

ラディルは皇帝を「こーか」、皇后も「ごーか」、宰相を「あーお」と呼んでいた。皇后陛下にラディルにおばあ様と呼ばれたいと言われ詳しい話を聞いたリーンは初めてルオがラディルを会議に連れて行ったことを知った。赤子に聞かせる話ではなかった。まず家臣に示しがつかない。皇太子が皇子を抱いて会議に出席するなどありえない。怒ったリーンはラディルを連れてイナの部屋に引っ越した。ルオの面会は拒んだ。リーンとラディルに会えずに落ち込み執務でもミスが目立ったルオに家臣達が頭を抱えてリーンにルオを許して欲しいと頼んだ。会議に姿を見せなくなったラディルに皇帝や家臣達も寂しがっていた。宰相がリーンに自分も同席を許したことを弁明した。また会議ではラディルの教育に悪いことは話していないので時々同席させてほしいと頼んだ。リーンは宰相の頼みならラディルが嫌がらず家臣から苦情がでないなら同席を許した。ただし一人でも苦情が出たらすぐにやめさせるようにと命じた。宰相達のおかげでルオの別居生活は2週間で幕を閉じた。部屋に戻ると自分を抱きしめて動かない夫にリーンは苦笑した。

ただルオのおかげでリーンは大国の血が濃いラディルが小国に受け入れられていることがわかった。貴族達に受け入れられれば、民達も大丈夫と思うことにした。


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