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【番外編】リンの素顔

書籍版に寄せた番外編です

リンちゃん視点です

 明日は『気になる人作戦』決行の日───!


 暖色系でまとめられたこの部屋は、リンの部屋だ。

 小さめのクッションが床にいくつも転がり、ベッドのカバーもオレンジ色で、リンの性格を物語っているよう。

 勉強机がある壁には友だちとの写真が所狭しと貼り付けてある。

 今年の夏休みは確かにバイト三昧ではあったが、夏休みの始めのうちに友だちと一緒に行った海水浴写真が、机の前に並ぶ。

 沢山の写真が壁を彩るが、どれも彼氏の姿がないのが、リンにとって、ちょっぴり残念なことでもある。



 時計が日付を変える前に、カケルとの打ち合わせが終わった。

 もう家族も寝静まっている。

 ただ、向かいの部屋にいる弟はまだ起きているかもしれない。

 デスクチェアの軋む音が時折聞こえているので、起きていそうだ。


 リンは打ち合わせを終え、床に置いておいたぬるくなった野菜ジュースを一気に飲み干した。

 そして、改めて化粧水のパックを始めだす。


「リン、張り切ってるの?」


 そう言うのは、先にベッドに寝転ぶハチミツだ。

 リンは顔に貼りつけたフェイスマスクを落とさないようにしながら、ハチミツのお腹を撫でる。


「なんでそう思うの、ハッチ?」

「え? お肌の手入れもそうだし、ちょっとウキウキしてるじゃないのよ」

「そうかなぁ?」


 リンはカバンの中身を整えながら呟くが、どこか白々しい言い方だ。

 カバンを整え終えれば、明日のファッションチェックが始まった。

 もう夜中なのに、彼女の準備は終わらない。

 いくつか定番の組み合わせを並べ、明日の気分で選ぶようだ。

 ハチミツはそれをちらりと見るが、興味がないのか、ごろりと寝返りをうつ。

 リンはハチミツのことはそっちのけで、服の組み合わせを決めると、ひとり大きくうなずいた。


「……よし!」


 リンはぺらりとマスクを剥がし、化粧水を叩き込んでいく。保湿クリームを塗り込み、髪の毛にも塗るトリートメントを施したところで、ハチミツが頭をもたげた。


「リン、まだ寝ないの? あたいは眠いわぁ……はふっ」


 全ての準備が終わったのか、丸まり直したハチミツにリンは優しく抱きついた。


「ねぇ、ハッチ、今日のカケルくん、かっこよくなかった?」

「どこがよ」

「黒い集団から守ってくれたとき」

「来るの遅かったじゃない」

「でも、助けてくれたじゃん。ハッチ、採点が厳しいですなぁ」


 ハチミツを抱えてぐるぐるとベッドを転がり、床へと離す。

 温くなったタオルケットをめくり、リンはエアコンにタイマーをかけ、電気を消した。

 ハチミツはベッドの脇にある犬用の階段で再びリンのベッドに上ると、リンの顔の近くで丸まりだす。


「そういえば、リンってカケルのこと、前から気になってたわね」


 耳元のハチミツの声に、リンはがばりと体を起こした。


「んなことないし!」


 思わず出た大声に対して、ドア越しに『ねーちゃんうるせー』と返ってきた。

 弟も就寝時間に入ったようだ。

 ゲームをしているときはヘッドホンをしているから、この程度の声で反撃がくることはない。


 リンは改めて唇を結び、ハチミツに小声で言い返した。


「……そんなことない」

「……そんなことあるわよ。あたい、しってる」

「なにしってんのよ」

「あたい、クラスメイトの男子の名前で『カケル』って聞いたことあったもの」


 リンは改めてそんな話をしただろうかと首を傾げた。

 カケルとの接点はそれほど多くない。

 女子と仲のいい男子グループにはいないし、特に会話らしい会話もない……


 …………いや、あった!


 5月の頃だ。

 帰り道、たまたま足をつまずかせたとき、腕を掴んでくれたのがカケルだった。

 その動作がどこまでもスマートで、すぐに手を離して会釈程度で去っていったのが、リンにとってはスマートに見えてしまった。

 他の男子はあわよくば近づこうとする雰囲気があるのに、カケルからはなかったからだ。


「松岡、いいとこ取りすぎー。俺なら抱きしめてあげたのに。ね、リン」


 言い寄ってきたチャラい男子の手を払い、女子でカラオケに行くことにした日でもあったけど、思えばその日にハチミツに報告をした記憶がある───


「ハッチ、覚えてるの? 犬って記憶力ないんでしょ?」

「なにげに悪口言わないでよ。犬でも覚えていることはたくさんあるの」

「そっか。ごめん、ハッチ」


 リンはハチミツを抱きしめながら、迂闊なことは喋っちゃダメだ。と思う反面、ハチミツとたくさんの思い出を共有してきたのだと思うと、胸が熱くなる。


「これからもたくさん思い出作ろうね、ハッチ」

「そうね! 作ってあげるわ!」

「よし、復習に犬の鳴き方しようか」

「寝るんじゃないの? あたいは眠いわ」

「明日、どんなことがあるかわかんないし。1回だけ」

「わかったわ…………せーの、わんっ!!!」

「……デカ……うるさ……」

「リンが言ったんじゃないのよ」


『ねーちゃん、ハッチ、うるせー!!』


 ドア越しの弟の声に、


「早く寝なさいっ!!!!」


 怒鳴り返すのは、姉弟だからだろう。

 この一面を知っているのも、ハチミツだけだ。

いかがてしたか?

書籍版をご覧になってない方は、ぜひ、ご覧下さい

スマートに15万字がギュッ!!!と縮められております

こちらを読むより、スルルルンとご覧いただけるかと


amazonさんなど各種サイトで販売中です(´ΦωΦ)

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