第62話:最悪の目覚め
今日のまぶたはすごく重い。
「……最悪」
昨日の夜中から、僕の体調はダダ崩れ。
それもこれも、全部雨のせい。
今日のリンちゃんの約束は無理そうだ。
楽しみにしてたのに……。
「んー……まず連絡……」
スマホを取り上げ見ると、まだ6時すぎだ。
それでも早い方がいいだろうと、ぼやけた頭でぽちぽちと打っていると、スマホが震える。
リンちゃんだ!
「……な……こんな早く……?」
僕は戸惑いながらも通話ボタンを押すが、なんだか騒がしい。
「……もしも」
『あ、カッケ、ちょっと!」
「あ、リンちゃん、ごめ……今日、」
『映画なんてどうでもいい! 今から行くねっ!』
「……ちょ……」
今から来るってどういうこと……?
しかも思いっきり叫ばれて、頭に響く……。
働かない頭で天井を眺めてると、兄の部屋が騒がしい。
絶叫が聞こえる……。
「ゴキブリぐらいで……うるさいなぁ……」
頭痛と発熱で、僕の体はもう限界。
なのに、絶叫のあとドタバタと床を蹴る音が聞こえ、すぐにベランダの窓がパシンと開いた。
もう、その音すら頭に突き刺ささって辛い。
おもむろにカーテンが開かれ、眩しさに眼を細めるも、朝の寒さが身に沁みる。
ひどく焦った形相の兄を見ながら、僕は布団にもぐりに直し、布団の隙間から兄を睨んだ。
「……兄さ」
「ちょ、やっべぇぞ、駆! ……あ、お前、大丈夫か?」
叫ぶ兄の両腕には、ハチコとモップが抱えられていた。
2匹はどちらも目をらんらんにして僕を見つめている。
なにかを期待するようなそんな顔にも見えるけど、今の僕は休みたい。
「……みんなおはよ………やばいから寝かせて……」
もぞもぞと布団を引っ張ると、布団越しに声が聞こえる。
「タモツ、カケルがカゼなの。ハチコ知ってる」
「モップも! モップも!」
ついに幻聴まで……?
いや、兄が腹話術で僕を誘おうとしてるんだ。
こんな具合の悪いときにしないでよ……全く!
幼稚なやり方だな、もうっ!
不機嫌ながらも、一応リアクションはするべきかと布団から顔を出すと、もたもたと腕をすり抜けたモップが僕のベッドに乗ってきた。
「ね、カケル、あったかくする?」
「いや、モップ、あったかくしなくていい……寒気はすごいけど……」
「モップ、しんぱい」
「ありがと、モップ……」
頭をゆっくりとなでてやる。
嬉しそうに目を細めて、この下からのアングルもたまらなく可愛い。
可愛い……。
可愛い……?
いや、……ちょっと……待って……!?
「あたち、タモツ呼んだの! えらい?」
僕は思わず体を起こして、お腹に乗ってきたハチコを持ち上げた。
「おはようなの、カケル。また、おはなちできるね!」
僕はこの現実についていけない──!!!
 





