第6話:猫といっしょの、ホームセンター!
夏休みの平日は、祝日まではいなくても意外と混んでいる……
自転車にチェーンを巻きつけながら、駐車場の混み具合を確認しての結果だ。
というのも、『虫取りがー』『キャンプがー』『花火がー』と、週末に向けて入用なものがたくさんあるものだ。
特に夏休みも終盤、子供達の自由研究もそうだし、思い出づくりにと焦る親御さんも多そう。
汗ばむ額を手で拭って、僕は冷房が効いたホームセンターに踏み込んだ。
僕は大きめのカートを選び、リュックを胸前で担ぎ直す。
ファスナーを大きめに開き、冷房の空気が入るようにパカパカと揺らしてみる。
「ふぁ……すずしいね」
モップは長毛種だからか、暑さが堪えたようだ。
ハチコは涼しい顔で店の中を見回している。
「水、いる?」
僕が小声で話しかけると、「モップへいき」「あたちもだいじょうぶ」小さな返事が聞こえる。
とは言ってるけど、帰りに冷たい水を飲ましてあげよう。
僕は水を買うのも頭に入れながら店内を進み始めた。
2匹はこっそりとリュックの中からあたりを見つめている。
「ここがホームセンター。ハチコとモップのご飯とか買えるんだよ」
「すごい、広いとこなの」
「モップ、どきどきする」
目を大きく開いて見回す様子が可愛くて、思わず写真を撮りたくなるが、ここは我慢。
「先に、カメさんの物を揃えてから、ハチコのおもちゃとモップのご飯を見に行こう」
「「はーい」」
このホームセンターはペットショップと併設していることもあり、犬連れの買い物客も多い。
その所々で犬と会話する声も聞こえてくる。
その風景を見て、喋れる動物が意外と多いことを知る。
僕はそのことにウキウキしながら見渡していると、ひとつ、新発見があった。
2匹の飼い犬がいる。だけど、1匹が喋り、もう1匹はワンと鳴くという、ニュータイプわんことオールドタイプわんこの組み合わせだ。
飼い主さんはニュータイプわんこに、オールドタイプわんこの通訳を頼んだが、
「私はこの子の言葉、わからないの」
首を振りながら答えている。
犬同士だけど、意思疎通ができない……
いや、話せればハチコとモップのようにやり取りができているから、鳴き声が違うから理解できないってことだろうか……
「わかんないな。どういう基準なんだろ。……帰ったらカメさんに聞いてみるかな……」
飼い主さんは残念そうな顔をしながらも、それはそれで楽しそうに買い物をしている。
みんな、意思の疎通、したかったんだな……
そう思うと、僕はこみ上げる笑いを隠せず、にやりと笑った顔のまま買い物を続けてしまう。
………でも、側から見てみると、ちょっと異様な光景ではある。
だって犬が喋ってるんだもんな……
これは冷静に見るとちょっと引くレベル、なのかも。
きっと飼い主だから受け止められる現実なのかもしれない。
「僕も気をつけよ……」
なんとなくリュックに手を突っ込み、僕は2匹を手探りで撫でてみた。
すぐにハチコがペロリと指を舐めてきて、思わず笑ってしまった。
爬虫類コーナーにたどり着くと、僕はカメさんの住まいを探していく。
メモはしてきているものの、実物を見ると迷ってしまう。
「どの大きさがいいんだろ……子亀ってわけでもないし……でも手に持って帰れるぐらいの大きさがいいなぁ……虫かごぐらいでいいかな……」
そうはならないのがこのホームセンターの怖いところ。
亀飼育セットなるものが売っているではないか!!!!!
水槽にぐるりと巻きついた売り文句を読むと、餌、水質管理、甲羅干し場など、亀に必要なものがしっかり揃っている。
少し大きいが、荷台積みのある自転車だ。そこにくくりつければどうにかなるだろう。
餌は試供品程度しかないので、改めて水に浮くペレット餌を見つけたのでそれを買っていくことにしよう。
他に足りないものはないか確認しながら、カートの中に亀飼育セットを入れ、餌を転がした。
次はお目当の犬猫コーナーだ。
「先におもちゃ見てみようか」
リュックに声をかけると、ハチコがピンクの鼻を覗かせた。
「あたち、もじゃもじゃしたおもちゃほちい」
「あー、棒になんかついてるやつ?」
「ううん、モップと追いかけっこするから、丸いのがいい」
「モップ、ハチコと追いかけっこする」
茶色の顔がぼすっと出てきた。
僕はそれを押し込み、
「はいはい……毛玉のおもちゃ、あるといいねぇ」
答えながら彼らが求めるおもちゃを求めてさまよっていると、いきなり腕を掴まれた。
「ちょ、松岡くんっ!」
名前を呼ばれ、水槽が並ぶ奥へと引きずられる。
僕は怯えながらも腕を振りはらうと、そこにいたのは………
────同じクラスの井上さん……!!??
僕は固まった……
やっぱり…可愛すぎる………!!!!!
バイト用のエプロンをつけているものの、学年トップクラスの可愛さは全く衰えていないっ!!!
いつも耳にかけている髪は一本に縛られて、より小さな顔がはっきり見えて、色白の透き通る肌がよく見える。
意外と小柄だったんだ。
制服が夏服でもやぼったいからか、もう少し体が大きく……
違う、背が大きく見えていたけど、すぐそばで見ると、僕の肩ぐらいだろうか。
僕の背はもうすぐ170に届くぐらいだから、井上さんは150㎝ぐらい……?
再び腕が掴まれる。
「……え、い、!?」
「しっ!!!」
水槽へと腕を掴んで僕に水槽を見させると、井上さんは魚の説明を勝手にしはじめた。
「この熱帯魚は温度の管理が難しいんですけど、大きくもならず観賞用に向いてるんです。水草もあると、もっと奥行きのある水槽になって楽しいので……あ、こちらなんですけどぉ……」
言いつつ引っ張られた先はもっと奥まった場所だ。
再び、口に指を当て、喋るなと言われる。
それだけで勝手にドキドキする僕を許してほしい。
「ねぇ、なにがあるの?」
喋るハチコを僕がリュックへ押し込んだとき、いきなり悲鳴が上がった。
水槽越しのため、うまく見えないが、なにかもめている。
よくみると、黒服の、覆面集団がいる。20名ぐらいだろうか。
それらは、動物を連れて歩いている人から、動物を奪っているようだ。
しかも、しゃべる動物を、だ───
「ちょ……あれ、なに……」
僕が飛び出そうとすると、井上さんが肩を掴み首を振る。
ガラスごしに見えるのは、犬を返せと騒ぐ飼い主と、黒い覆面集団の主犯格だろう男だ。
その男が声を張り上げた。
「今、動物にほだされ、いいなりになっていたら、人間は簡単に支配されてしまうぞっ!!!」
その声に、小さく手を叩く客もいる。
一体なんだ……
飼い主から離された小型犬がバタバタと足を揺らし、
「ママー! 助けてっ!!」
何度も何度もわめいている。
だが飼い主は女性なのもあって、上手く動けない。
助けに行こうと前のめりになるだけで、井上さんの手が肩にかけられ、その手がぐっと力がこもる。
さらに男が声を張り上げた。
「動物がしゃべるからといって、それは同等になったわけではない。
人間が確立してきたコミュニティを喋る動物が壊しにくるのは明白だ。
今、これを許すのは絶対に間違いである!!
今ここを正しておかなければ、人間は動物に支配される側になるぞっ!!!!」
得体の知れない男の声だが、説得力のある声量と言い回しのせいで、この平穏な異常を、奇妙な異常であると知らしめてくる。
なあなあにしていた『動物が喋る』事実が、非常に特異なことだと、妙に納得させられるのだ。
男の声のせいで、「助けて」という犬の言葉が、恐ろしい怪物から発せられる言葉に聞こえてくる────
僕は歯を食いしばった。
あの人数じゃ、勝てない。
あの異様な雰囲気、圧倒される男の声……
みんながしゃべる動物に味方であったと思っていたのに、一気にひっくり返っている。
ここで出て行けば、ハチコとモップを生贄に晒すようなもの。
それに、男の言葉は理解できる………
だからこそ、納得したくない!!!
喋るから人間の世界を脅かす。
そんな想像をするなんて、なんて寂しいのだろう。
……だけど、狡猾なカラスは人の喋りを真似て、食べ物を奪うなどしている。
悪さが1つでも見つかれば、それが伝播して大きく広がり、最大悪となるのは明白だ……
「こちらの犬は、ちゃんと後世の役に立つように研究しますので、ご安心ください。検体をいただけたこと、感謝いたします」
他にも何匹か連れているようで、一瞬の静けさのあと、そのグループは竜巻のように去っていった────
不穏な空気ではありますが、ちゃんと夏休みも楽しみますので、お楽しみに!