表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/67

第55話:夏休み最後の明日に備えて

 僕ら男3人で作ったオムそばは、ちょっと焦げたりしたけど、それでも、すっごく美味しかった。


 だって、5人で作ったオムそばだから!


 ホットプレートに野菜を広げて、みんなでわいわい焼いた。

 薄焼き玉子だけはフライパンで作ったけど、ホットプレートの焼きそばはちょっとソースが焦げて、それが懐かしい味で。


 なんで懐かしいのかと記憶の中を探してみたら、父方の祖母が作ってくれたお昼ご飯だ。

 夏休みに泊まりに行った日のお昼ご飯は、かならずホットプレートで作るソース焼きそばだった。

 柔らかい祖母の手がキャベツをどっさりと入れて、嫌いなピーマンは少しだけ、玉ねぎとかエビなんかも入ってて。

 全くそっくりで、やっぱり父もこの味で育ったんだなって思えて、懐かしくて嬉しかった。


「これ、おばあちゃんの味だね」


 僕がいうと、父ははにかみながら、それでも嬉しそうに「そうか?」と笑ってくれた。


 明日の予定をそれぞれ報告したあとは自由時間だ。

 夜の時間をそれぞれで過ごすけれど、僕は部屋に戻ってからしたことは、宿題の確認。

 心配性な自分が嫌になるけど、これでやっていないよりはマシだと思うから。


「……よし、全部終わってる……と。ちょっと読書しちゃおうかなぁ……」


 僕がベランダに続く窓を開けると、みんな一斉に外へと出ていく。

 風はないけれど、昼間とは違ってすごく涼しく感じる。

 改めて、もう9月が目前なんだと、はっきり思う。


 ベランダのクッションに腰をしずめると、モップが僕の足に体をこすりつけてきた。


「モップ、明日楽しみ!」

「そうだね、みんなで遊べるもんね」


 そんな話しをしたとき、ここのベランダを解放しなくちゃと思いたった僕は立ち上がった。


「よし、兄ちゃんにここのベランダ、明日使うぞって報告に行こう」


 モップを抱え、うしろにハチコが続き、右肩にはカメさんが、左肩にはカンタが乗る。


 見ると、兄は窓を見るように机が置いてある。

 カーテンが開けっ放しなので中がよく見えて、その兄の手の動きが異常だ。


 数学の方程式なのか、幾何学模様にしか見えない文字を猛スピードで書き記している────


「うわぁ」


 ドン引く僕を無視し、カンタが窓をつついた。


 兄は向かない。


 もう一度突く。


 やっぱり向かない。


 今度は、相当激しく突く。……ちょっと傷ついたかも。


 ようやく見られている雰囲気に気づいたのか、兄がイヤホンを外し、おもむろにこちらを見た。



 が、窓越しにもわかるほどの叫び声がこだました。




「ったく、普通に来いよ、普通にっ!」


 ブチ切れる兄に謝りながら、どれほどの絵面だったのか写メってもらうと、ブレーメンもびっくりの出来栄えだ。

 外が暗いせいでぼんやりと僕らは浮かび上がり、べったりと窓のそばにくっついていたので、キメラの亡霊のように見える。


「……これは、ひどい。ほんと、ごめん。今度からはラインいれてから来るよ。で、さっきの話だけど」

「ベランダだろ? 別に使っていいぞ。俺は明日は塾のやつらと勉強会だし。親父は朝から釣りに行くって言ってたよな。ま、みんなで使えばいいよ」

「あ……兄さん、あの、」

「なんだよ、歯切れ悪い」


 僕は言おうか言わないか迷う。

 明日までしか、みんなとおしゃべりできないことを言うべきかどうか……。


「……兄さん、もしさ、もしだけど、もう、みんなと話せなくなったら、どうする?」

「ん? ああ、んー……」


 兄は何かを察しながらも、すぐに答えを出した。


「元に戻るだけ、だろ。別に変わんねぇよ」

「そか。……そうだよね」

「こんなもん、始まったら終わるんだよ、なんでもいつでも。おれ、明日までにまとめなきゃいけない問題あるから、お前らも適当にして寝ろよ」


 ハチコとモップを兄は抱き上げ、激しく頬ずりすると、カンタにマヨネーズを、クマチビ隊長たちへの魚肉ソーセージを僕に渡してくる。


「あとは、よろしくな」


 ぴしゃんと窓が閉められた。

 なんとも兄らしい。


「さ、ちょっとベランダを整理したら、僕らも寝よう。明日は早いしね!」


 返事をしてくれるみんなの声を聞きながら、準備に取り掛かる。

 明日は、最後の日。


 嘘みたいだけど、たぶん本当の、最後の日だ────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ