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第50話:我が家の現実

 明日も朝はやくからとなるようで、まだ受け取り人が来ない猫や犬たちは、一時避難として、風間家へと移動となる。

 全部で80匹ほどいた犬や猫たちは、現在37匹。

 うち、受け取り拒否が11匹いる。

 残りの26匹が無事に家へ帰れるとも思えない。連絡すらよこさない飼い主もいるだろう。


「やっぱ、僕の飼い主は迎えにこなさそ」


 そういうのは、ゴールデンレトリバーのケンジくんだ。

 少し寂しそうな目をしながらも、落ち着いた声で言う。


「僕の飼い主はね、僕がどんどん体が大きくなるのに困ってたんだ。ご飯の量も増えるし、散歩もいっぱいしなきゃいけないから。だから僕がしゃべりだして、あの研究室が解放されたとき、渡りに船だったみたい。ごめんねっていう顔が笑顔だったから」


 もうすっかり夜になった空を見上げて、呟いた。


「でも、タイチが大人になるのは見届けたかったな。僕の弟なんだ。今、7歳でさ、学校から帰ってきた話とか、すごく楽しそうだったから」


「ケンジくんは大人だね」


 僕が言うと、金色の毛をなびかせた。


「ううん。色々諦めたんだ。希望は損するだけ。だから、僕は諦めるんだ」


「諦めるのか」


 シロが繰り返す。


「諦めるのは勝手だが、うちに来る限り、婆さんの甘やかしは止まんねぇから覚悟しろよ」


 シロが向いた先には風間さんがいる。


「ほら、シロちゃんに、ケンジくん、帰るわよ!」


 風間さんはシロちゃんを抱き上げ、ケンジくんをぎゅっと抱きしめる。


「こんな大きな子初めてだから、私、あなたと暮らせるの楽しみなの!」


 その行為に、その言葉に、ケンジくんは何かを諦めたのか、風間さんにそっと頬を摺り寄せて、大きな尻尾を振り続けていた────



 明日の時間を確認した僕は、ハチコとモップをリュックに詰め、カメさんも入れると、自転車へとまたがる。

 隣には兄だ。


「駆、今日はまじ疲れたな」

「そうだね、兄さん」


 話しながら自転車を漕ぐ僕らだけど、こんな風に横に並んで帰るのなんて、何年ぶりだろう?


 小さなライトが路面を照らす。

 もちろん街灯もあるから十分明るいけれど、僕たちの道は僕たちで照らして走る。

 でもそれが僕たちらしくて。

 僕らは常に隣にいたのに、それぞれで走ってきたような、そんな不思議な感覚だ。


 頭の上にいたカンタだが、僕の頭が居心地わるかったようで、兄の自転車の上に立っている。

 それがハンドルの中央を陣取っているため、剥製を取り付けた怪しい自転車に見えてとても面白い。


「兄さん、カンタのおかげで、すごく厨二っぽい」

「は?」

「あー、なんか魔よけみたいになってますね」


 カメさんがつけたし言ってくれた。

 兄とカンタはお互いに顔を見合わせるが、


「「そんなことねぇよ」」


 息がぴったりだ。

 それに笑ったけれど、家に近づくほど不安なことがある。


「あのババア、家にいるんだよな」


 兄からその言葉を聞くことになるとは思っていなかったが、ババア=母だ。


「いるんじゃないかな」

「やばくね?」

「でも、僕ら行くとこないし」

「どうにかしたくてもな、これはおれたちにはどうにもできないしな……」

「僕ら、まだ子供だからね」


 茶の間の電気を見て、ため息をつく。


「家に帰ってきてこんな気持ちになるの、初めて」

「おれだってそうよ。……でも、匂い、しねぇな」


 兄の言っている意味がわかる。

 食べ物の匂いがしない。

 料理をしていない、ってこと。


「ちょっと、兄ちゃんから家入ってよ」

「なんでおれなんだよ!」

「こういうときの兄ちゃんでしょ!」


 カンタは2階のベランダで待ってるとのことで、僕らは玄関を開けた。


「「ただいまー」」


 とは言うものの、速攻2階へ向かおうとしたとき、居間を仕切るドアが開いた。


「お、帰ってきたな」


 笑顔で迎えてくれたのは、父だ。


「今日は料理めんどうだから、焼肉な。ホットプレートの」


 僕らは目を丸くしながらも、居間へと入っていく。


「母さん、実家に帰ってもらった。お前たちの帰りが遅くて助かったよ」


 ……とは言うが、なんだこの部屋───


「オヤジ、これ……」


 兄が声を上げるのも無理はない。

 家の中がぐちゃぐちゃなのだ。

 辛うじて窓は割れてないけど、割られた食器に料理がぶちまけられたあとがわかる。


「いやぁ、母さん、暴れてさ。ハハ」


 ハハじゃないし……


「父さん、怪我とかない?」


 思わず近づいてみるが、大きな怪我は見当たらない。

 胸をなでおろしていると、父がポツリポツリと話し始めた。


「母さんさ、ハチコとモップ連れてったって、意気揚々と言ったんだよ……ひどくないか? 大切な家族だったのに……」


 寂しそうな父の顔に、僕は驚いた。

 思えば父の膝でよくハチコは寝ていたっけ。

 モップだって父のそばで眠ることもよくあった。


「……なのに維のためとは言ったって、やっていい事と悪い事があるだろ……確かにしゃべってたら渡さなきゃいけないけど、それでもさ…家族なんだから……ホントに…ハチコとモップが可哀想で……」


 押し込めておいたハチコとモップが、ズボッと顔を出してしまった。

 慌てて引っ込めようとするも、間に合わない。


「あたち、帰ってきたの!」

「モップも! モップも!」


 2匹の声に、父の顔が固まっている。


「……その、連れて帰って来たよ、父さん」


 僕がリュックからにょろりと2匹を抱き上げると、父は嬉しそうに微笑んだ。

 でもそれに僕は驚いた。兄を見ると、兄ものようだ。


 だって、ここまでハチコとモップのことを思っているとは思ってなかったから───

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