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第5話:ハチコとモップと、初めてのお出かけ!

 朝食を食べ終えた僕らは早速出かける準備を整えていく。


 ハチコとモップにはリュックを見せて、2匹で入れるかどうかの確認をしてもらうことにした。

 僕はその間、着替えや顔を洗うなどを済ませて、再び部屋へと戻る。

 だが2匹の姿が見えない。

 慌てる僕に呆れたようにカメさんが言う。


「カケルさん、ハチコさんとモップさんなら、リュックの中ですよ……」


 いきなり2匹でポンッと顔を出した。

 前脚をかけて顔を出す姿に僕は悶えた……


「か、かわいすぎるぅぅぅ!!!!!」


 僕は悶えながらスマホを取り出し、写真を撮る!

 撮る!

 撮る!!!


「ちょっと動画も撮っちゃお……」


 僕がスマホを構えると、2匹は不機嫌そうな表情をする。


「あたち、外に行きたい!」

「モップ、準備できたの」


 僕はスマホごしに返事をしながら、


「うんうん、準備できたね!……よし、行こうかっ」


 動画のストップボタンを押し、記録を確認する。

 そして次に思ったことは、もっと動画を撮っておこうという気持ちだった。

 2匹との思い出。それもとても大事な……

 僕は動画のバックアップのことを考えながらリュックに財布を入れ、大事に抱えあげると部屋の扉を開けた。


「待ってください!」


 床から声が聞こえる。


「なに、カメさん?」


「私の食事を忘れないでください!!!」


「わかってるって」




 僕はリュックを背負い、外へと出るが、今日も暑い。

 自転車のカゴにリュックは入れられなかったので、手前に背負った。

 ファスナーを下げて、少し顔を出させると、2匹で「うわぁぁ」と声を上げる。


「これから外へ出るから、小声で喋ること。僕以外の人間とは話してはいけないこと。あと体を出しすぎないこと。落ちたら大変だからね」


「あたち、わかったの」

「モップ、できるよ」


 2匹の声を聞いて、僕はペダルに足をかけた。

 そしてゆっくり漕ぎ出していく。

 徐々に速度があがる自転車は風をきりだした。

 時折びゅんと当たる生ぬるい風に、2匹は歓声を上げる。


「……しっ」


 僕が言うと、2匹で口をつぐんでみたようだ。

 でもどれもこれも新鮮な匂い、景色ばかりで、戸惑っているのがわかる。

 だけど、とても楽しそうだ。

 その雰囲気だけで僕の気持ちも踊ってしまう。


「ハチコ、モップ、外はどう?」

「カケル、すごいの。とってもはやいの!」

「あたちもそう思う! カケル、やっぱりすごい!」


 自転車に乗れることなど人間の世界ではごくごく当たり前のことが、猫の世界では当たり前ではない。

 こんな些細なことでも褒めてくれる2匹に、僕は自信がつきそうだ。


 軽快な速度に乗って走っていると、前から、お婆ちゃんと真っ白なシーズーが歩いてくる。

 この炎天下の中、散歩とは強者だ。

 僕が横切ろうとしたとき、いきなり吠えられた。


「てめぇ、ガン飛ばしてんじゃねーぞ、ごらぁっ!!!!」


 あまりの言葉の衝撃に、自転車のブレーキをかけ止まってしまった。

 すると、おばあさんがシーズーの頭をゴツンと叩く。


「シロちゃん、言葉遣い直さないと、お外に捨てるわよっ!」


「だって婆さん、あいつら危ないから……」


「人様に迷惑かけるんじゃない! あんたみたいのがいるから、しゃべれる子が困るんでしょっ」


 このお婆さんはしゃべれる現実を受け入れ、さらに、飼い犬を矯正しようとしているようだ。

 しかし、シーズーに似合わない野太い声……


「ぼく、ごめんなさいね、うちの犬が迷惑かけちゃって」


「え、いえ、全然大丈夫、です、はい」


「カケル、あの犬、おっかない……」

 薄く開いたリュックの隙間からモップの声がする。

 よほど怖かったのか、がたがたとリュックが揺れるほどだ。


「あらあら、本当にごめんなさいね……猫ちゃん、怖がっちゃって。でもあなたのところもしゃべれるの?」


「ええ、まぁ」


 僕が返事をすると、ハチコの顔が飛び出した。


「あたち、ハチコ! よろちくなの!」


「あら、ご挨拶できるのね。シロちゃんご挨拶は?」


「こんなチビに挨拶できるか、ごらぁ!!!!」


 再び拳骨が落とされる。


「もう夕方の散歩はなしです」


「ええ!! なんでだよ、婆さんっ! 俺、夕方の散歩、めっちゃ好きなの知ってんじゃん」


「うるさい。全く……。本当にごめんなさいね。どうかこの時間、楽しみましょうね」


 ごきげんよう。おばあさんはそう言って再び散歩へと戻って行った。


「みんな、すごいなぁ……」


 ひとり関心しながらおばあさんの背を見送っていると、モップが恐る恐る顔を出した。


「あの犬、いなくなった……?」


 きょろきょろと見回しながら、当たりの匂いをかいでいる。


「いないよ。大丈夫だよ、モップ。よし、気を取り直して行こうかっ」


 僕は再びペダルを踏み込んだ。

 今から向かおうと思っているのは、ホームセンターだ。そこなら動物の餌も何もかも手に入る。

 もちろん、亀の餌も。


「もうすぐ、秋がくるね」

 ハチコが空気の匂いを嗅ぎなら、そう言った。


「ごはん、おいしいね!」

 モップは食べ物しか思い浮かばないらしい。



 そう、夏休みが終わればゆっくりと秋が来る。

 僕たちは暦で季節を判断しているけど、猫や動物は香りとか、温度とか、目に見えないもので感じているのかも。


 僕も目一杯空気を吸い込んでみた。

 だけど、ハチコが言う、秋の香りはわからなかった───


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